もしもしたぬきよらいうさんよ?
「御池に一つ、なんとかかんとかかー。なんとかかんとかなんとかかかかのかー」
「やめろ気持ち悪い!なんでこの状況でその歌なんだよ!もっと楽しめよ!にゃはい!」
いやー。だってつまんないんだもの。
ジュンは小躍りしてるけども。
前に来たときと違って、噴水からはシャバシャバ水が出ているし、活気もみなぎっている。
白い地面に黄色い砂。太陽を反射してきらめく水!元気な街の人の声!
いやはや、最初は確かにおー!と思ったよ?
だけどさー、その活気につられるままひんやりとした地下に進んだならばさー?
右見ると防具!
左見ても防具!
前見ても防具!
後見ても防具!
あ、たまに武器!
こんにちはここはキングビースト!
どうかと思う!
「おいおいちょっと待てよ!これ、ある程度の量のダメージを無効にしてくれる防具テクニックが付いてるじゃねえか!」
「あ!こっちは火属性耐性!?」
「ま、麻痺無効……!?いや、でも……フィシゴンよりは防御力が落ちるんだよな……いやでも絶縁……」
「はっ!こ、これ!環境影響無効!?何だこっ、これ!今の装備と一緒に着けたら……無敵じゃないか!?あっ、でも金が足りねえ……」
「なっ!?素材を集めてっ、集めたら、格安で作って、くれる、に、だ、と!?」
……うーん、ジュンの興奮ぶりが気持ち悪い。
いやいや、言葉、言葉だけ聞けば、大したことないんだろうね?でも顔がなー。声の質がなー。
「ジュンくん気持ち悪い……。」
サンクから見てもそうらしい。ほらやっぱり。
「正気を失った顔をされていますね。げーへーへーというセリフがよく似合いそうです。」
うん。フューてきかくう。
ジュンの頬は紅潮し、目はまっすぐに装備に食らいつき、はあはあはあと口で荒い息をしている……。この顔を気持ち悪いと言わずになんと言おうか。しかも公衆の面前で。
「ないわー。」
「全部聞こえてるからな!この宝の山を見て興奮しないお前らがおかしい!」
ジュンは顔をきりっと戻して僕らをビシッと指差した。
そうかなあ。
確かに、ジュン以外にも、装備に目を輝かせている人はいる。
でもね。
「流石にそこまで気持ち悪いのは、なしよりのなしかなー。」
「はっ!お前らにはこの子達の浪漫が分からないだろう!」
ジュンがキラキラした目でサムズアップをした。
「この子達、とか言いはじめてしましたね。」
フューがもう救えないものですアレは、とでも言うかの様に腕を組んでため息をついた。
浪漫かあ。浪漫といえばししょーだな。エクセレント・パイオニア師匠。エパ師匠。
僕はジュンから目を離して街を見渡した。これ以上ジュンを見ていると、心が汚れる気がしたからだ。
ん?あそこにいるのは……?
「あの人、僕、見たことある。」
「あー……えっと……誰だったかしら……?」
「話しかけてみたらどうでしょう?ジュンさんはしばらく防具にまとわりついて離れなさそうですし。ああ。まるでなめくじを口の中に突っ込まれた気分です。」
僕は天を仰ぐフューの言うとおり、話しかけてみた。
「あの……」
「ああドリーマー様!」
やっぱり知り合いだった!?え、でも誰だろう?名前とか思い出せない……。
「えっと……」
「貴方様方のおかげで、街は活気を取り戻しました!」
誰ー!?まじでにだれーー!?
ちなみにまじでにとは、まじめにとまじでを組み合わせた僕的造語である!いつか流行るかもしれない……!
「えっとね……」
「ダイラタンシーザーを倒していただき、ありがとうございます!」
ダイラタンシーザー?
「で、誰だったの?」
サンクがこそこそっと近寄ってきて、こそこそっと話しかけてきた。うーーーん。
「わかんない。なんか、ダイラタンシーザーとかなんとか……」
こそこそっと僕も答える。
「ダイラタンシーザー?」
「あの砂漠の中の城にいた、白いモンスターのことですね。」
フューがモンスター図鑑的なアプリを開いて見せてくれた。フューも、ジュン観察には飽きたらしい。
あー。いたかも。そんなの。
「ああ!時間切れになって砂漠に捨てられたあのクエストね?」
サンクがポン、と手を叩いた。ほう。そんな過去もございましたっけ?
「本当にありがとうございました!」
そういうとおっさんは僕らとは違う方向を向いた。え?あれ?話終わり?
「あのう……?」
「ああドリーマー様!」
「えっと、話終わり?」
「貴方様方のおかげで街は活気を取り戻しました!」
あれ?さっきも聞かなかったこのセリフ?
「NPCですからね?らいうさん。この人。」
えぬぴーしー。
「えぬぴーしー?」
「ダイラタンシーザーを倒していただき、ありがとうございます!」
「ノン・プレーヤー・キャラって意味よ。中身がないの。前もそうだったでしょ?」
サンクの声とおっさんの声が被る。
中身ないの!?
え……空洞ってこと!?……ちょっと見てみたい…‥かも。
「おい!」
声がする方を見ると、ジュンが仁王立ちして立っていた。ん?何だろう……?
「どしのー?」
「本当にありがとうございました!」
おっさんはまたどっか向いた。
「どしのー?じゃねえよ!なんだよその略し方!置きざりにしやがって!」
なるほど寂しかったのか。
「でもジュン君が悪いのよ?ずうっと装備の前に張り付いているんだもの。」
「そうだ!そうだ!」
僕もサンクの意見に完全同意!!
ジュンはすっと目を逸らした。
「いや……だって……」
フューが急に少しばかり焦った様にはいはいと手を挙げた。
「兎的思考の持ち主のジュンさんの主張は置いておいて、とりあえず早めにキングビーストを倒しに行きませんか?ここですることもありませんし、それに……ここに長居するのも少し、まずいかもしれません。」
フューが僕らとは違う方向を見て言った。
ん?
んー。
んんんー?
このフューの感じだと、アリオールギルドが来た感、半端ないよね。
「フュー、アリオールが来たのー?」
「いえ……でもあまり関わりたくない相手が来ました。」
そっかあ。じゃあ関わらない方がいいね!
「じゃあキングビースト退治に〜しゅ」
「らいうちゃん、らいうちゃん!これ見て!らいうちゃんにそっくり!」
かっこよく決めようと思ったのに……。僕のかっこいいポイントを邪魔するほどの価値はその指差した先にあるのか否か!
「なーにーサンク?」
「これ!これ見てよらいうちゃん!」
「うわ。らいうのたぬきの顔によく似てるな。」
「確かに。らいうさんの間抜け、へっぽこ顔によく似てますね。」
む。むむ。
そんな?そんな言われるほど?
……でも確かに……似てるかも……なんか、ノートに書いたのにそっくり……ん?ノート?
ノートって何?んー、ま、いいや!
「確かに似てる。」
「買っちゃいましょうよらいうちゃん!こんな掘り出し物めったにないかも!」
しかしながら借金が。はうえばー借金が。
うーうーと僕が唸っていると、サンクがにこっと笑って言った。
「じゃあ、フラウの街に行ったときに、私の買い物に付き合ってくれるなら、私がらいうちゃんにプレゼントするわ!」
え!?
そんな……いいの!?
「い、いいの!?サンク!?」
「な……!サンクさんにそんなもの払わせるわけにはいきません!じゃあ、自分もサンクさんに何かプレゼントします!あ!このネックレスなんてどうでしょう!」
フューがさっと手に取ったのは、猫の目のような飾りがついた、月モチーフのネックレス。
「きれい!……いいの?」
「はい!もちろんです!」
嬉しそうなフューの後ろで、ジュンが所在なさげにうろちょろしていた。
「なあ、フュー。」
「何でしょう?」
「これ……お前、似合うと思わないか?」
金と黒の落ち着いた雰囲気の万年筆。
「へ!?なんですかいきなり!?気持ち悪っ!?」
「なんか仲間はずれみたいで寂しかったんだよ!いるのかいらないのか!?ああ?」
「なんでそんな喧嘩腰なんですか!?恥ずかしいんですか!?分かりました、分かりましたよ!ほしいですよ!ほしいです!やっぱり貴方前世兎でしょう!」
え、ちょっと、ちょっと待って!この流れだと僕も!僕も何かジュンにプレゼント、しなきゃ!
でも店内に良さげなものは見つからない。
あわわわわわ!
「はい。らいうちゃん!」
「どうぞサンクさん!」
「ほらよフュー。」
サンクはたぬきのヘアゴムを僕の頭のポニーテールに付けた。
サンクはフューからもらったネックレスをつけた。飾りがキラリと輝いた。
フューは万年筆を内側の左胸ポケットにさした。
……何か良さそうなものがあったらジュンにあげよう……。
ダイラタンシーザーを倒していないドリーマーに対しても、同じセリフをこのNPCは言います。
1年経って、もう一回ダイラタンシーザーに街が襲われるまで……。




