大会の終わり?
白い部屋……に行った、と思った。
すぐに、僕の目に飛び込んできたのは、
あの人混みだった。
「たぬちゃーーん!」
「あっ!サンク!」
人混みをかき分ける…というよりかは、自然に人が避けてくれる感じで、サンクは僕のところへ来た。
「見てたわよ!らいうちゃんの戦い!」
「ああ。まさかアリオールと共闘するとは思わなかった…いや、あれは利用されただけか?とにかく、最後の殴りは良かったと思うぞ。」
ジュンが後ろから来た。ジュンの場合は、人混みをかき分けなければいけなかった。かわいいって、得だ!……あれ?でも僕のたぬき姿もだいぶ かあいい!だと思うんだけど、なんでだーれもどいてくれるどころか踏みつぶす所存でいらっしゃるんだろう?
ジュンは割と序盤の方で死んでたね。…なんて、今は言わないでいいか〜。なんてったって褒めてくれたからね。
「偉そうに褒めてますけど、ジュンさん結構残り半分くらいで亡くなられてますけどね。割と序盤ですよね。そこら辺は。」
懐かしい嫌味口が聞こえた。アリオールとは違う…人を貶めすというよりかは現実をズバッと言っちゃう感じの……。
「あ゛あ゛?あれはアリオールが乱入してきて仕方がなかったんだn…よ!」
「今何を言いかけたのですか?」
「な、に、も、だよ!」
フーフーとこんな狭い空間で周りに人もいる中で、剣を構えるジュンを必死になだめるサンクと、だから短気勇者(自称笑)というあだ名がつくんですよと更に煽るフュー。
まじか。短気勇者(自称笑)とは!非常に良くジュンの事を言い当てて…
「おいらいう!お前も確かに〜、みたいな顔してんじゃねえよ!あんまり言うと泣くぞ!?」
ジュンってよくその脅し文句使うよね。
「泣くの?」
「泣くんですか?」
「え、ちょっと待ってちょうだい!カメラの準備をするわ!」
顔を見合わせ同時に質問する僕とフュー。そしてスマホをいそいそと準備するサンク。
「ええ、オッケーよ!3、2、1、キュー!」
「泣くかボケ!」
「つまり嘘だったと。涙は女の武器と言いますが……」
すっとジュンを上から下まで見るフュー。
「だめですね。全然だめです。性別を偽るにしても、幼子っぽさ、淑女っぽさのかけらもありません。」
「それでいいんだよ!俺は漢だからな!さんずいの方のやつだぞ!」
漢かあ。…うーん。
「あ、そんなことはさておき、フュー。」
「おくな!さておいとくな!」
「ジュンさんうるさいですよ。序盤で死んじゃうモブキャラ。」
「イベントに出てすらいなかったやつが言うセリフじゃねえ!」
「自分が出れなかったのには理由が……大体ですね、自分は去年1位間近まで登り詰めてるんですよ、エアサルさんさえ居なければ……」
エアサル?
「スキル[ステルス]で逃げ回ってただけのかわい子ちゃんが何を言ってるんじゃ。」
「ズルじゃねえか!」
「ズルじゃないです〜、戦略です〜!」
「もう。二人とも黙ってちょうだい。」
ガンと言う音。……なんか今一人増えてたような……人混みだしそういう事もあるよね!
「……ぅ」
「……つぅ…」
サンクがやっと二人の会話を終わらせてくれたので、僕はビアンカについてフューに聞いた。ちなみにサンクは足で二人を蹴った。足を。すねを。
「あの食い意地が張った少女なら…ドリーマーカルスの受付カウンターに置いてきましたよ。」
と涙目のフューが指差した先を見ると、ビアンカがぴょんとこぴょんとこはねてカウンターを乗り越えようとしている姿が見受けられた。
ビアンカの目線の先には…
「ああ!ドリーマーから納められたモンスターの肉を調理するドリーマーカルス備え付けの厨房が襲われています!」
おお、フューはいつも的確なタイミングで説明してくれるね。
「馬鹿!なんであんなところに一人でおいてきたんだよ!」
人混みで僕らは容易にビアンカの元へ追いつくことはできない。そう、普通ならね。
「ば、ばかと!自分を馬鹿とおっしゃいましたね!この中二病!」
「中二病じゃねえし!この……あーー、ロリコン?」
「ロ…!?呪い殺してやりましょうか!」
「幼子が泣いてたら許すんだろ!ロリコン、ロリコンだな!斬り殺してやる!」
やばい物騒!
「らいうちゃん…これ……どうしようかしら…?」
「よし!僕にまかせんしゃい!」
僕はたぬき変身をして、人の間を縫って、ビアンカの方へ向かった。
「そういうことじゃなくてー!」
というサンクの声を背に受けつつ、僕はビアンカを抑える名目……もとい、ために物騒なとこから逃げ…後にした。
「たぬうううううううー!」
「ご…」
ビアンカがモンスターの肉に手を伸ばす。
「はんー……!」
僕はビアンカに体当りして、ビアンカの気を引いた。
「あっ…たぬき…ナベ!」
ぎいいいいい!?
ビアンカが僕をむんずと捕まえ、左足をしゃぶる。
「たぬうううー!たぬうううー!」
「おやめ下さい、ビアンカ様。」
「あみゃー」
ビアンカがいきなりのびた。僕は床にのてっと落ちた。
ビアンカの近くには、メイド服を着た……僕がミファスムで会った、アリオールのギルドの人がいた。たしかこの人、ワープゥを金属バッドで殴ったりしてた…よーな気がする。
メイドさんの腰の後ろには、ワープゥを殴ったのと同じ様な金属バッドが横向きにくっついていた。……ん?違うかこれ、バッドじゃないな……。
「失礼いたしました。」
「たぬ?」
メイドさんは僕に、丁寧に頭を下げた。
「マスター……アリオール様からの伝言をお伝えいたします。ビアンカ様はフュー様とアリオール様がかわした契約により、アリオールギルドに編入されます。」
まじか、ビアンカが……豪勢な食事を食べさせてもらえるといいなあ。
僕はとりあえずたぬき変身を解除した。
「いきなり殴るなんて、ひどいぞ!?」
「殴られても文句を言えない行動をしていた、と判断いたしましたので。」
「そうだよー!ビアビアもよく人を殴るじゃーん!おあいこだよー!」
久しぶりの声が聞こえた。
まあ、僕にとっては大抵の人が久しぶりなんだけどね。
「リル!」
「たぬたぬーー!」
リルは僕をぎゅうっと抱きしめた。
「すごい!すごいよ!あんな最後まで残るなんて!穴の中に挟まってたあのたぬたぬが!」
「さらっと不名誉なことを大声で!?」
苦しいい〜。
「リルちゃん……」
僕の後ろからそんな悲しそうな声が聞こえてきて、リルは僕を手放した。
「ルイルイ…」
リルはつばを飲み、言った。
「ルイルイあのね!リルリルは」
「3位以内に入賞した方はこちらへ来て下さーい!」
ドリーマーカルス内にそんな声が響き、ルイはあっ、あっとこちらを振り返りながらも、そちらの方向へ歩き始めた。
え、えっと……。
「……」
リルが地面に視線を落とし、目をこする。
「あ、あのね、リル。ルイは…」
「分かってる!分かってるよ……
……ちょっと、リルリル疲れちゃった!外に行って休んでくるね!」
そう言って、リルはドリーマーカルスの外に出ていってしまった。無理やり笑っているように見えたのは気のせいじゃないと思う。
リルとルイは仲直り…できないのかなあ?
誰かと誰かの仲が悪くなることなんて…全部、夢なら…いいのにな。
しばらくして、ルイ、知らない人、アリオールが表彰台に立った。僕はあーいうのに立ったことが一度も…ない。いーないーな!
「では三位のドリーマーさん。お気持ちをどうぞ。」
「えっと〜……はやく〜貰った〜お肉を調理して〜リルちゃんに美味しいって言ってほしいです〜」
僕のさっきの願いが届いたかの様に。
ドリーマーカルスのドアが勢い良く開いた。
「ルイルイーー!」
「リルちゃん〜!」
リルが人混みを押しのけて、表彰台のルイに抱きついた。
「ふええええええん!」
「リルちゃん…」
リルはぼたぼたと大粒の涙を流していた。
「ルイルイー!ごめんねー!リル勘違いっひくっよく聞かずに勘違いをっ」
「ごめんね〜リルちゃん〜私、やっぱり変われない〜…もっとはっきり、言える性格になりたいよう〜」
ルイも目に涙を浮かべていた。
「いい!いいよそのっま、ままで!えええええん!ルイルイはそのままがいいー!」
リルもルイも仲直りできたようだ……。
いつか、僕にもこういう、仲直りできて良かったって泣くほど思える友達ができるのかな?
「まるで陳腐な御伽噺の様だね。」
暖かなざわめきとどこからともなく起こった拍手の中で、僕の耳元ではっきりと、そう、誰かが言った。侮蔑と……羨望が入り混じった声で。
フューを思わず見たが、フューはそこまで性格悪くない。むしろ今の声は……ううん、考えるのはやめよう。僕は……少しばかり、疲れてしまった。
夢物語だって、良いじゃないか。
だって、ここは夢の世界なんだから。
……僕は本当に疲れてる、みたいだ。ここが夢の世界だなんて、何言ってんだろう。
すっかりルイとリルにスポットライトを奪われてしまった二位のおじさんは、それでもやれやれという形で笑っていた。良い人そう。強そうな鎧だ。いつか話す機会もあるのかもしれない。
それでも、一位のアリオールにマイクが渡ると、ドリーマーカルス内は静まりかえった。
リルとルイの鼻をすする音がかすかに聞こえるだけだ。
「ボクにとっては四回目の優勝インタビュー…かな?四という数字は美しいよね。輝くこの一年に、素晴らしいことが起きるとボクは思う。この世界の生誕に祝杯を。」
結構適当なスピーチだと思うけど、お祭り気分のみんなにはかんけーなかったらしく、わああああっと歓声が起こった。当然、僕もつられて、わああああって言った。
毎年一度きりの大きなイベント。この世界の大きなお祭り。
それがだんだんと……終わろうとしていることを僕は感じ取った。
あれ。まだ僕、わたあめもチョコバナナもじゃがバターも焼き魚も食べてないんですけどー!
お祭りなのにーー!!
まだ、夢に浸ってていいはず。
お祭りは永遠に終わらなければいいのに。




