其れは夢なのか
「クマロスは、こもれびの森にいる……としか書いてないな。」
「こもれびの森ってどこ?」
「ここ。」
そっか!じゃあ問題ないね!
僕はいそいそと近くの良さそうな木に寄りかかった。
「……何をしている。」
「クマロスさんは、ここに住んでるんでしょ?じゃ、ここで待ってたら会えるよね!」
少年は険しい顔をして言った。
「あのな、そんなことしてたら、いつか銅像になるぞ。」
「銅像にはならないよ?だって、銅像になった人を見たことないもん。」
「……」
少年は頭を抱えた。
……もしかして頭がいたい!?
「大丈夫ー?お薬でも飲む?」
「いや、平気だ。お前が馬鹿なことを言わなければ。」
「そっかー」
……あれ?
「あの、今の」
「行くぞ。探さなければ明日もお前の子守をしなきゃいけなくなる。」
「ふわーい、わかった〜。」
……あれー?
今のは…馬鹿にされ、た?
……。
…………。
……………。
ま、いっか。
僕は遠ざかる少年の背を追いかけた。
「なんかさー、探すよりも、こう……食べ物をしかけたらパーってこないかな?」
「そんなのくるわけないだろう。」
ん?そーなの?だって、狸を捕まえる時って、檻に肉入れてセットするんだよね?
魚だってそうだし……。
いくら考えてもわからなかったので、僕は少年に聞いた。
「なんで?」
「なんでと言われても。それで来たら、フィールドを歩く意味がないだろう。」
フィールド……。
フィールド?
フィールド。
フィールド……。
わざわざ英語でいう意味があるのだろうか……。
「ね、」
「しっ。」
僕は頭を押さえつけられた。
「痛いよー」
「居たぞ。」
あっ。獰猛そうな熊がいるー。
……なぜ獰猛そうかわかるかというと、目が怒ってる時のイラストの目で、頭に三日月があって、片方の目が潰れてて、背中に夜露四苦と書いてあるから。墨っぽいので。
僕はあの文字を見たことがある。友達が貸してくれたヤクザ漫画で出てきた。
夜露死苦なら夜露死苦だったと思うんだけど、なんで死が四なんだろう……?
「あれがクマロスかな!」
「しっ。馬鹿!声が大きい!」
「ちっちっち、そう言ってる少年。君の方が大きいよ?」
「何を言う。俺は由緒正しき静動流の後継者だぞ?」
静動流?
「何それ?」
「有名だぞ!」
「……頭の中の話ではないよね?」
「何を言っている!!」
げ。
少年は気づいてないが、後ろのクマロスさんがこちらをギンッとみた。
あわわわわ。あれだ、カツアゲされる……!
僕はゆっくりと後退した。
熊には背中を見せちゃいけないのだ!
「なんでお前、ゆっくりと離れていくんだ?」
「クマ、ロス……さんが……く、いらっしゃる……」
少年は、ふっと後ろを向いた。
茶色の腕が少年に襲いかかる。
僕は思わず目をつぶった。
そっと目を開けると、少年を切り裂く前に、その腕は止まっている。
よく見てみると、少年が剣で止めていた。
クマロスの腕には血がにじんでいる。
それでも一撃与えようとしている。当然クマロスさんの方が力が強いわけで。
ジリジリジリと少年に黒い爪が近づいて行っている。
どどど、どうしよう……なんとかしなきゃ……、なんとかして、クマロスの気をこちらにひきつけないと……。
ただ、石を投げるにも、周りに石がない。
……よし。
「わーーーーわーーーーーわーーーーー!!」
「!?」
「がんばれーーーー!ファイトーー!」
「……あいつ……」
「わーーーーわーーーーーわーーーーー!!」
「……なんかすげえムカつく……」
僕は少年を応援しながらクマロスの気を惹き付ける作戦に出た。
「がんばれっ!おーー!ファイトッ!おーーーーー!」
「スキル 応援 を獲得しました。」
「がんばー!えいえい……ん?すき、る?」
今何か……まあいいか。
いくばくかした後、クマロスがこちらを見た。
「おっ!?」
「グガアアアアアア!」
そしてこちらに猛突進してきた!
あっ……そりゃあそうか!
「わーーーーわーーーーーわーーーーー!!?」
僕は叫びながら逃げた。
途中、誰かにぶつかったが今それどころじゃない!
わーごめんねー!
僕は必死に両足を動かして……
そして、下に地面が無くなった。
「え?あれ?」
僕は頭を強く打ち、視界がブラックアウトした……。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「はっ!はっ……はっ……はあ……」
僕は辺りを見回した。クマロスの姿はどこにもなく、少年もいなかった。
さらに言えば、ここは森ではなく、僕の部屋だった。
「なんだよー……夢かー……」
ま、そりゃそうだ。狸に変身なんてできるわけないし。さらに言えば、あんな獰猛な動物を自分で倒さなきゃいけないという世界観もどうかしてる。普通特許がいるだろう。
剣を常時持っている人が……武器というものだったかな?……が、そこら辺を歩いているのも変な話で。犯罪だよ犯罪。銃刀法違反。
そうだ、恵にこの話をしよう。
今何時だろう……。
「2、222、2時!?」
やばい、すごくやばいやばいやばいすごく!
午後2時なんて、もう午後の授業時間帯じゃんか!
すぐに着替えて学校行かないと!
私は起き上がり、歯を磨いて顔を洗い、家を出た。
なぜかはわからないけれど、制服を着たまま寝ていたようだ……。
暗っ。
街灯の明かりがついている。
午後2時ってこんなに暗いっけ?
妙にテンションが高い。ヤクはやってない。
私は壊れそうな階段を一歩づつ慎重に下りていった。
カン
……ずしん
カン
……ずしん!
カン
…ずしん!
カン
ずしん!
「なんだろ。地震?」
ただ、地震にしては揺れが断続的すぎる。まるで、何か大きなものが歩いているみたいな……。
私は辺りを見回した。
何かが見える。
ピンク……水色……黄色……緑……?
象だ。象が……たくさん、一列で、歩いてる。
ずしん!
でもおかしい。象は足音がしないはずだ。
……本当に象なのかなあ……?
その変な象達は私の部屋がある方へ歩いてくる。
つまり、私に近づいてくる。
怖くなった私は、急いで部屋に隠れて鍵を閉めた。
あれ?そういえば何かをなくしたような……。
でも、鍵はベッドの隣のサイドテーブルに置いてあるし……メガネだってちゃんとバッグの中に……。
でも、そんな場合じゃない。とりあえず、見つからないようにしなきゃいけない気が、する……。なんだか、危ないって感じが、する……。
まるで、あの象がモンスターのような……。
モンスター?
はっ。まだあの夢に影響されてる。
全く……。こんなんじゃまた怒られる。ぼーっとしてるんだ、まだ。授業中寝ちゃうよ。このままじゃ。
ずしん!
「ペウーーーーーーーーーーン!」
変な鳴き方!
外から聞こえてきたその声に、私はとても驚いた。
そっとカーテンの隙間を開けて、スマホを取り出して、その変な象を撮ろうとした。
「写らない……」
幽霊の類?それとも幻覚?
私が困惑している間にも、動かない街に動く象が歩いていく。近づいてくる。
その象の目は赤く、青く、見つかってはいけないと、なんだか心臓を掴まれたような気持ちになって、私は布団の中に潜り込んだ。人工的な光の午前二時。
なるほど。暗いわけだ。
私は布団の中で震えた。それは春先の寒さの所為なのか、それとも心からくるものなのかは分からない。
私の視界はだんだんと暗くなり、
やがて僕はいつの間にか眠っていた。
象は監視しています。ねないこだれだ。
あの絵本めっちゃ怖いです。おしいれのぼうけんと並ぶ怖さ。




