地縛竜 デスヘル
なぜかは分からないが、アリオールの行く先行く先、ドリーマーが一人も見当たらない。
なんでだろう?
とか思ってる間に、ちょっと大きめの建物の前についた。あ、あれか、こやつ、また豪華なホテルにでも泊まってるのか!?今度は高級旅館か!?金持ちめええ!
……いや、違う?
ここって……遠くから見てた、あの城じゃん!
「さ。デスヘルの神殿に着いたよ。」
え!?
「ボクも丁度倒す予定でね。キミ自身の目標は知らないけど。下等生物みたいに死なない様に、頑張ってね?」
ん?うん。頑張るぞーー!えいえいおおおー!
「まあ別に頑張らなくて良いんだけど。キミが手を下すまでもなくボクが一人で倒すから。どうせ知らないと思うけど、一ダメージくらいは与えないと報酬でないから。それだけやっといて。」
いやあの、僕の目当てはスキルなんですけどー……。
「たぬー……」
僕は人に戻るためにアリオールの腕の中から出ようとしたが、なかなか放してくれない。
「あー。人に戻りたいの?はい。」
首根っこをつままれて吊るされた。
いや、たしかに腕の外からは出てるけど!
今はぬいぐるみ系たぬきだからいいとして!
そこ人間に戻ったら千切れるんですけど!ど!
うなじもってかれて死ぬんですけど!ど!
「ぬうううーーーーぬううううーーーー!」
「どうしたの?とっとと人間に戻りなよ。」
わ、分かってて言ってる!分かってて言ってやがるこいつ!
「たぬうううううううう!」
「うるさいなあ……たぬき鍋にするよ?」
「ぬ゛…ぬ?」
たぬき、鍋?
鍋…?鍋ええええええ!?
「たぎゃうううううううううううううううううううう!」
「うっわ分かったから!別に、冗談だよ!」
僕はボテッと床に落とされた。
落としやがったああああ!
「たぬーたぬーたぬー!」
「相変わらずなんて面倒くさい……」
面倒くさいって、面倒くさいって言ったよね今ああああ!?
百八匹のたぬきたち!聞いた!?聞いたよね!?
僕の中のたぬき達が一斉に頷く。
ほらああああ!
「たぬるるるるるる…」
「とりあえずとっとと人間に戻りなよ。」
あ、それもそうだね。
ぽふんと。
僕が人間に戻ると、アリオールはお城……神殿の扉をあけて、僕の背中を足で蹴って神殿の中に入れ、自分も入って扉を閉めた。良かった、今の一蹴りで死ななくて。うっかりすると死ぬとこだった。なんなんだいったい。
真っ暗な中で転んだ僕は最初何がなんだか分からなかったが、段々と火が神殿の中に灯ってきて、内装を見ることができるようになった。
床が土。
そして、いくつか傷だらけの柱が建っている。
「くるよ。」
「?」
突然二十メートルくらい先の土が盛り上がり、大きなハサミが出てきた。
土の色のはさみだ。
蟹、というよりかはクラブのハサミだ。
挟まれたら、死ぬな、あれ。あれだ、真っ二つたぬきだ……。
「ほら、一ダメージで良いから与えて。それくらいならできるでしょ?そうすれば装備も加護も手に入るから。」
勘違いしているアリオールの言葉に、ふるふると僕は首を振った。
「僕は別に装備がほしいんじゃなくて、スキルが欲しいの。」
「スキル…?武器スキルのことかな?」
武器スキルが何かはわからないけど、僕が欲しいのは
「炎系のスキルが欲しい。」
アリオールが目を見開いて、そしてクックックと腹を抱え、口を抑えて笑い始めた。
「残念だったね。ドラゴンからそういうスキルは落ちないよ?」
えっ!?いや、でも、無鉄砲はブルームに攻撃したときに……。
「なら帰るー」
「わざわざここまで来て帰るのかい?帰るなら殺すよ。」
物騒!
「こ、ここここ、こここ」
「鶏になったのか。うん。鳥頭のキミにはピッタリじゃないかな?」
こけこっこー!!?たぬきになるくらいだから鶏になることもあるかもだけど!
「殺すって殺、殺って!」
「転げそう?そういうイベントなんだから別にボクがそれをするのはおかしなことじゃない……そうでしょ?」
そうかもしれない……反論できない……。
……隙を見て逃げよう。とりあえず今は
「じゃあ帰らないでおく。」
「それが良いよ。」
アリオールはカニのハサミ…デスヘルに向き合った。あれはデスヘルの一部分なのか…それともデスヘルにはカニのハサミ部分しかないのか僕にはわからない。それは可食部が少なくて、良くないと思う。
僕は足に力を入れた。
アリオールが腕を組んで僕を見ている。
僕は土を蹴った!乾燥して粉状になった土が少しばかり舞い上がる。
だんだん加速する。
スピードが限界に達したところで変わるのだ!たぬきに!
「マジックオープン![たぬき変身]!」
たぬきになると、一気に十倍のスピードに。
ぐんぐんハサミが近づいてくる。
今だ!
「たぬうううううううう!」
大ジャンプ!そして黒曜石のようなこの素晴らしい爪による三連続ひっかき攻撃!
「たっ」一連続!
「ぬっ」二連続!
「ぬううう!」三連…続?
すかっといった。
デスヘルはもうすでに地中に潜っていて……そして、空中に浮かぶ僕の後ろから、その大きなハサミが迫っていた。
「たぬっ…!」
その大きなハサミに体を両断される寸前、
「スキルくらい使いなよ。」
という声が聞こえた。
いつの間にか僕はアリオールに持たれていた。抱えられてとかじゃない。持たれてる。
アリオールは右手で神殿の中に生えていた蔦に掴まって、左手で……
え、やめて。そこ持たないで!重力に負けて体が真っ二つに裂けちゃうから!綿が出るから!頼むから右足だけを持たないでえええ!
それに、ほら、その持ち方だと少しばかりデスヘルの餌にしようとしてる感半端ないから!
「スキルくらい使えないの?」
無理!
「まあキミ、そういえば馬鹿だったし。しょうがないか。」
アリオールがそう言って笑った。
この状況でよく笑えるなあ。アリオールは本当によく笑う。
「少し、我慢してね?」
アリオールが僕を目線の高さまで持ち上げて言った。
く、食われる!?
嫌だあああ!中身は綿だよ!まずいよ!綿菓子は美味しいけどね!
「よっと。」
「たなあああああ!…ぬっ!?」
食われる、と思ったが、アリオールは僕を投げただけだった。
……だけって!違う!大問題だよ!!
僕は眼下のデスヘルらしきはさみを見た。
アリオールが叫ぶ。なんというか、すごく……楽しそうだ。
「スキルスイッチ![台風の目]!」
(スキル[台風の目]
効果…一点に風を集中させ、同心円状に広がらせることで、水、砂などを一時的になくすことができる。
SP…35
取得条件…海を割る。もしくは、台風を切る。もしくは大入道を倒す。)
アリオールの額の赤い宝石が光を放つ。
蔦から手を離し落ち行くアリオールが左手をかざすと、デスヘルの周りの土が砂になり、いっぺんに円状にデスヘルから離れた。
そうして、デスヘルの全体像が明らかになった。
カニのハサミのような頭。
カブトガニのように薄っぺらい体。
尻尾はない。いや、殆ど無いと言っていいほど短い。
僕をアリオールが見た。
スキル……僕が今ここで使うべきスキルは……!
僕は変身を解いた。
そして、スマホを構え、叫んだ。
「スキルスイッチ![君臨!たぬきんぐ!]」
僕が内側から爆発する!
神殿上部が壊れ、瓦礫が降る。瓦礫の一部は神殿の外にも降ったっぽい。瓦の瓦礫だ。
もくもくとした白い煙があたりに立ち込め、煙が晴れた。
おそらく、たぬきんぐになったのだろう。手はぬいぐるみたぬきであったし、ひらひらと赤いマントも見えている。頭に手をやると……やれない、頭頂部には手が届かない。耳の下をちょっと触れるくらいの手の長さしかなかった。あー。そこら辺はノーマルモードのたぬきと一緒なんだな…ノーマルモードのたぬきとは、普通に僕が変身したときのたぬきね。
まあたぶん、頭の上には王冠が乗ってるに違いない。たぬきんぐだし。
「たぬーーーー!たぬたぬーーー!た、ぬう?」
僕の声が響き渡る。
スキルスイッチ![建国!たぬきんぐだむ!]を発動しようとしたのに、いかがなものか。
だって、だって、[君臨!たぬきんぐ!]を発動してるのが条件って書いてあったじゃん!?
やっぱスマホがないと無理なのかあああ!
ずしいいいん!
僕はデスヘルの上にのしかかった。
ひいっ!ハサミぶん回してくる!怖い!いや、ハサミじゃなくて頭だ!頭だったあ!
「たたたぬぬぬぬうう!」
僕は強烈なみぎふっくをかました。みぎふっくが何か、僕は知らない。
でもでも、こー……右でパンチしながらみぎふっくうって叫ぶと、強そう。
今殴ってるのは左手と右手、交互だけどね!
「たぬたぬたぬたぬたぬ!」
「グ…ギャアアアアアア!」
デスヘルの咆哮があたりに響き渡る。
デスヘルの頭…ハサミを掴み、足で根元を押し、ハサミを折る。いや、引きちぎる?
「グガアアアアアアアア!」
デスヘルがもう一方の残っているハサミを使って、僕の腹を切り裂く。
赤いマントが舞い、綿が出る。血液が出ていくわけじゃないのに、ひどく熱く冷たく痛む。
「たぬああああああああ!」
デスヘルの首にかぶりつく。
「ギシャアアオオオオオオオ!」
デスヘルから霧が出る。その霧は暖かかった。
デスヘルが片方しかないハサミを滅茶苦茶に振り回す。肩や、上腕が…この体に上腕があるのかは知らないが、腕が裂かれる。
「スキルスイッチ![英雄の叡智]!」
(スキル[英雄の叡智]
効果…英雄の叡智によって、対象のHP、体力が回復する。
SP…40
取得条件…バランスの図書館へ行き、一番最初にイベントをクリアする。)
視界に文字が流れてくる。邪魔!今、視界を塞がれると困るんだけどな!
《スキル無効化されました。スキル無効化されました。》
機械音がどこかから鳴っているのを聞きながら、僕はさらに深く牙をデスヘルに食い込ませる。
「ガアアアアアアアア!」
爪を出す。
そうか、ひっかくんじゃなくて、刺すのだったらそんなに痛くはないのか。
デスヘルが三方向から勢い良く霧を出す。
勢い良く爪を抜き、また、肉の一部を食いちぎると、遂にデスヘルは大量の霧を出し、消えた。
《地縛竜 デスヘル 討伐完了
報酬5000スター
ドロップアイテム
地縛竜のかけら×1
地縛竜の鱗×10
地縛竜の牙×2
地縛竜の翼の皮×1
デスヘルブレイド×1
デスヘルシールド×1
デスヘルの守護×1》
スマホがなると同時に僕の変身が解けて、たぬきんぐの頭があった部分に放り出されて……そのまま、僕は地に落ちた。あ、痛い。
そのまま、大の字になって黒い空を見上げる。赤や黄色の雷がぱちぱちしている。
体を動かそうとしても一切動かない。
霧がずっと体から出続けている。ぼっろぼろだああ〜。
たぬきんぐの時はHPが減っている感じはしなかったが、今はだんだんHPが減っていく感じがする……。
「すごく……そうだね、乱暴な戦いだったよ。……美しかった、かも、しれないね。」
アリオールがそう言いながら近づいてきた。乱暴とは、なんだー。
若干アリオールも左腕を負傷している。結構えぐれていて、霧がぶしゅーっと出ている。
アリオールが僕の視線に気づいて、マントで隠して、……誰かを安心させるみたいに、笑みを浮かべた。
「この程度なら無料のポーションで治せるし…ボクは右手でも剣を振れる。つまり、いつでもキミを殺せるんだよ。」
僕の近くに落ちていた金の剣を拾い、右手で振って僕に言った。
……物騒!
「まあ、ボクがわざわざ殺さなくても、キミはもうすぐ死ぬだろうけど。」
僕に答える気力はない。ぽぺー……。
「それに、はじめの大爆発で大勢ギャラリーが来ているからね。じきに他のドリーマーに、殺されちゃうんじゃないかな、キミ。」
アリオールが僕に背を向けた。剣を器用に腰の右側についた鞘に右手で収める。
アリオールの白いマントが翻って、金の装飾が雷の光を受けて少しきらめいた。
「……殺してくれと言ってくれないの。」
アリオールは何かを言った後、右手で手を振って、どこかへ行った。
その後すぐに、バラバラとドリーマーが来た。
何十人もいるが、みんなヒソヒソ話していたりする。
その中から、何人かが出てきた。1…2…3…4…?くらい……?
色々な武器を持った人達が…走ってきて……まだ武器も振り上げていないのに…皆……上と、下の、半分に……なって……?そこで
僕の意識は、途絶えた。
《ドリーマー番号81−04−261番
ランキング10位
報酬
百位入賞報酬:特別な肉
五十位入賞報酬:スキルプレゼント
十位入賞報酬:第四回ドリーマーズワールド戦・十位以内入賞の守護》
失った意識の中で……意識は失われているはずなのに…機械的な声だけが聞こえた……。
怪獣大決戦だ!
アリオールは左利き。
追記:スキル[英雄の叡智]の獲得場所がバランスに変わりました。




