本戦・見本2
一方その頃。
凍えるような吹雪の中、対峙する2つの影。
吹雪は、20m先の相手がやっと見えるくらいである。
片方は平然とした顔で吹雪をやり過ごしているが、片方は力が入っていない。
「見逃して、くれたっていいじゃん……!リルリルは勝ちたいの…!」
「悪いが、それはできない。予選の時は頼りになったが、本戦では別だ。有利な環境にいる間に潰しておかないと、優勝できなくなるからな。」
ジュンの言葉に、リルはぷうっと頬を膨らませた。
「ケチぃ!」
「べ、別にケチじゃないだろう!普通だろう!このイベントはそういう仕組みなんだから!」
リルは一か八か、震える足に鞭打ち、勢い良く踏み込んでジュンに双剣を斬りつけた。
「っと」
ジュンはそれをなんなく剣で流し、返しの突きをリルの腹に入れた。
「あ…う…」
リルは2,3歩下がり、霧をまき散らしつつポーションを飲んで、削られていくHPを回復した。
ジュンが着ているフィシゴン装備は、吹雪がふぶく様な環境下で最大の力を発揮する装備である。しかし、太陽に当たると逆に枷になる。
だから、ジュンは吹雪が吹き荒ぶ氷頬の街……フィシゴンでドリーマーを狩っているのだ。
大抵のドリーマーはフィシゴンでは、降り積もった雪に足を取られたり、その寒さで体がかじかんでしまったりして、動きづらくなるために、ここに最初に転移させられても、他の街にすぐ移動しようとする。
現実世界で思春期の少年らしく滝行などをしていたジュンにしても、寒くないわけではないため、短期決戦が鍵となる。
「悪いな。」
「…っ!」
ジュンが大地を蹴る。
雪が舞い、その白の中で銀色の剣先がリルの胸にまっすぐ向かってくる。
(ルイルイと、仲直り、するために、勝たなきゃ、なの!)
リルは、ジュンの剣先を双剣の広い面に当て、その剣先をそらし、右足に体重をかけて雪を踏みしめ、跳躍し、ジュンの上に舞い、最後の切り札を、今切る。
「スキルスイッチ[バタフライ・クロス]!」
リルはあえてスマホをスキルを発動した直後に投げ捨て、ジュンの気をそらし、双剣でジュンに切りかかった。
リルの背中に蝶の羽が出現し、リルは飛んだまま、ジュンに双剣を舞うようにふるう。
スキル[バタフライ・クロス]
効果…蝶の様に舞い、蜂の様に刺す!背中から蝶の様な羽が生え、斬撃を行う事ができる。効果時間は1分〜2分。
SP…100
取得条件…死んで、神からもらう。
ちょうちょのように空を飛びたいという願いを神が叶えたその結果。神スキル[バタフライ・クロス]。それを発動したリルは、まさしく蝶のようであった。
「!」
咄嗟にジュンは剣を上にあげ、一撃目を弾く。
二撃目、続いて剣で受ける。三撃、四撃、五撃、六、七、八、九,十,十一撃、十二撃!
十二撃目を弾き、後ろに下がる。
息をつく間もなく、十三撃目がくる。
一撃一撃は軽いが、数が多い。
一撃、許したら、残りの斬撃も当たってしまうだろう。
十四撃目。
そうすれば、HPポーションを飲む間もなくHPを枯らされて終了だ。
一五撃目。
(いったい、)
一六撃目。
(なんかい、)
十七撃目。
(どんだけ、)
一八撃目。
(続くんだよ!)
一九、二十、二十一、と、永遠に続くような斬撃の攻防。
(あれを使うのは、アリオールと戦う時まで避けたい。剣はランクが高いから壊れないだろうが、俺自身が……何度もあのノックバックに耐えられるとは思えないからな。)
マジックを手に入れ、使い続けたことで手に入れた、あのスキル…。
二二撃目。二三撃目。
(かと言って、このまま受け続けても体力が保たな、い!)
二四撃目。二五撃目。二六撃目。
(どうする?)
二七撃目。二八撃目。
(どうする?)
二九撃目。
(どうする?どうする?)
三十撃目。
ジュンは右足を蹴り上げた。
剣を持つ体勢が歪むので、その行動は無謀すぎた。
だから、リルは虚を突かれた。
「!?」
リルは巻き上げられた雪煙をふわっと避け、連撃の手を一旦止めた…止めてしまった。
「スキルスイッチ[アイスフォール]!」
ジュンがスキルを発動した。
リルはその降ってきた氷の刃を正確に砕く。または、避ける。
[バタフライ・クロス]を発動したリルにとって、それは難しいことではなかった。
降ってくる氷の刃が……人が歩いてくる程度の速度に見えるのだから。
ただし、避けて雪に落ちた氷の刃で、地面が雪煙に包まれてしまったこと、そして、それこそがジュンの狙いであったことまでは、読めなかった。
「はあああああっ!」
ジュンが下から剣で突き上げてきた。
「しまっ‥…!」
リルにはそれが反応できる速度に見えるのに、上に向けた双剣を下に構えるにはジュンの剣のスピードは速すぎて、防ぎ切れない、確実に突かれる、そしてこの勝負は終わる。
そのはずだった。
「スキルスイッチ。[テレポート]」
静かに、しかし凛と、はっきりと、少年の声が響いた。
リルは、貫かれなかった。
キイイインッと、ジュンの銀の刃と、どこからともなく現れた金の刃が交差した。
ジュンはそのまま叩き落とされ、同時に、リルの羽根が砕けた…スキルの効果時間が終わったのだ。
金の刃……剣、いやソードを持ったその人だけは、ふわりと雪の上に着地した。
「……アリオール!」
ジュンが目を見開き、戸惑いながら、会いたくなかったとでも言うかの様に嫌な顔をしながら吐き捨てる。
「やあ。少しばかり、お邪魔させてもらうよ?」
「なんでだよ!?」
ジュンがアリオールを睨む。
「んー…気まぐれかな?」
「リルリルを助けに来てくれたんじゃないの!?」
削られていくHP。SPポーションを探すが、今まではルイがいた為にわざわざ買っていなかったことを思い出す。自分の用意の無さを嘆きつつ、頭をフル回転しながら街までの距離を思い出す。
結果、リルはここでジュンか、もしくはアリオールからSPポーションを奪わなければ生き残れないことを察した。
「あは、そんなわけ無いじゃん」
と、いつもの薄ら笑いのまま言うアリオール。
ジュンは気づいた。今はどうでも良いことに、だが。
白をベースにした服に、金色の留具に、赤と青の装飾やガーネットやサファイアがついた服を着ているアリオール。その髪は金髪で、目は赤と青のオッドアイだ。
先程から、太陽、というイメージがカラーリング的にはしっくりくるのに、なぜこの銀世界にこんなにも溶け込んでいるのか不思議だった。
なぜだか、今やっとジュンは理解した。
目が、笑っていないのだ。
目が冷たいままなのだ。
だから妙に銀世界に溶け込んでいるのだ。
……冬の、太陽みたいだ。
「何?」
「いや……」
「何か言いたいことがあるならはっきり言いなよ。めんどくさい。」
ジュンは言おうかどうか迷ったが、やめておいた。
何かに触れてしまったらまずい、と思ったからだ。
「……別に、この本戦は一対一の戦いと決まってるわけじゃない。気まぐれで敵対し、気まぐれに味方する、ただそれだけの」
ゲームだよ、とアリオールは言った。
正直言って、ジュンは降参しようかと思った。降参して、この場を逃げて、できるだけ順位を上げようかと思った。
一回戦って、剣技も、スキル量もテクニック量も…何もかもが、まだ、敵わないと悟ったからだ。
まだ彼は勇者の器では無かった。
ただ、考えている時間はジュンには存在しなかった。
「スキルスイッチ。[ホーリードリル]」
アリオールの周りに、金色のドリルが6つほど出現し、一つずつジュンにまっすぐ向かってきた。
「!」
ジュンは一撃目を避けたが、避けたはずのその一撃目は、ジュンの背後からジュンに衝突し、HPを半分持ってかれた。
(この環境下…この装備じゃなかったら全部持ってかれてた、か……?)
HPを半分ほど失った事を、ジュンは感覚で悟った。
しかし、ドリルは合計六発ある。
残り五発。
(追尾式かよ…よけきれるわけが、無い!)
痛みで体がきしむ。ポーションをこのイベントで初めて使い、回復する。
(避けられないなら…!)
「スキルスイッチっ![アイスフォール]!」
一か八か、スキルを撃つ。
二発目は、空中で金と銀がぶつかり、両者とも砕けた。
「スキル[アイスシールド]を獲得しました。」
(SP、残り70…アイスフォールはあと四回、相手のドリルもあと四弾。ただし、あいつがどのくらいのSPが残っているか…スキルアプリを閉じてカメラを構えている間に殺られる!)
ドリルが二発同時に来て、ジュンは右から来たものと左から来たものを衝突させ、免れる。
(新しいスキルが手に入ったみたいだが…シールドというなら守りか?しかしSPがいくつ使うか分からない。何発防げるか分からない。…くっそ!らいうなら一回使えば分かるってのに!)
あと三発。
今、一発、また、放たれた。
(こうなったら…!)
「らいうがクソ羨ましいな!」
ジュンはスマホを片手にアリオールの懐へ。ドリルがジュンのすぐ上を通過する。しばらくして、また後ろに戻ってくる。
それよりも早く、ジュンはアリオールの腰に剣を……
同時に、周りのドリルが落っこちた。
「スキル、スイッチ。[刹那の黄昏]」
ジュンの剣は届かなかった。
金色の一閃がジュン、そしてアリオールの後ろで、虎視眈々とチャンスを狙っていた、リルの体を引き裂いた。
「が……!」
「いやああああああ!」
ジュンは霧になって消えた。
アリオールは先程とはうって変わって、ただただ冷たい顔で、ニヤニヤ笑うことさえなしに、そこに立っていた。
何かが、彼の導火線に触れたんでしょうね。あーあ。
「う…あ…」
リルの声が聞こえ、アリオールは息をふっと吐いて、またもや、いつものひっついたような笑みを浮かべた。
「ああ、生きてたの。」
「たす、けて…リルリル、リルリル、ルイルイとルイルイと…なか、なおり、する、ために、入賞……しなきゃ…なの……」
「そんなに長く喋れるんだったら大丈夫じゃない?」
リルの体は消えかかっていた。HPは残り2くらいだ。アリオールに斬られた事でHPが5まで減っていたのが、SPが0であったがためにここまでさらに減っていた。
アリオールは笑って言った。
「ホントバカだよね。キミたちは。見てて本当に虫酸が走るよ。今すぐ殺してあげてもイイけど……SP0の君じゃ、あとちょっとで死んじゃうね。ドンマイ。」
「そんな…だって…助けて、くれるって……ルイルイと仲直り、ために、入賞、どうかって…言ったのは…」
「ボクは提案しただけだし。別に良い案だなんて一回も言ってないよ?」
「リルリルは、ルイルイと、仲直り…」
「キミたちはどうしてそう意味がわからない事を言うのかなあ?仲直りなんて会えれさえすれば単純すぎるのに。会おうとすればできるのにそれをしない、なんて、なんとも怠慢すぎるよ。」
その言葉と同時か、早いくらいか。金色の剣がリルの頭に突き立てられた。
「くっあっ……!」
リルのHPが0になり、リルが消えた。
表情一つ変えずに、アリオールは、地面に刺さった剣を抜き、軽く振る。
そしてお腹を抱えて、笑い始めた。
「……まったく、神は何をやってるんだろうね?」
そう言って、そのまま曇り空を見上げる。その整いすぎた顔に雪がつく。白い雪はしばらく、溶けなかった。目が笑っていないのは相変わらずで、だから"私"はこの後の仕打ちに恐怖する。
「まだボクはこの世界を」
吹雪が声を呑む。
「随分と、長い事、待たせてしまう。」
言い聞かせる様に、言いながら、アリオールはすっと雪の中に膝をつく。祈る様に。いいや、自分を暖めるように。
「……まったくもって……キミも、怠惰だなあ……」
「愛しい愛しいボクの」
その口は、その人の名を紡いだ。
その声は、また、吹雪によってかき消された。
雪煙が、アリオールの姿すら、かき消した。
215位 リル
217位 ジュン
これで、サンクとエパ、リル、ジュンを含め、468人中257人が脱落し、残り211人となったのだった。
戦いはまだまだ続く……!
これは、らいうの知らない物語。でも、神様は知ってる物語。
リルがかわいそう…




