ジュンの回想
アリオールに負けたことは、それなりにジュンに精神的なダメージを与えた。
自分は最強の勇者に違いなくて、絶対に負けないと思っていた節があった。
アリオールは、ただただ財力か顔の良さにものを言わせた装備だけを整えた奴だろうと。自分なら実力で勝てると。
そう思っていた。
主人公なら、こういう見てくれだけのやつを特別な力でぶった切るのだ。
「実力自体は俺の方が確実に上だったのにな……。」
絶対的な装備差を味わった瞬間だった。
……実力すらも負けている事には目を背けて。
神様、とやらに会ったあと、ジュンはブルームの一角でため息をついた。
本当はバーにでも行きたい所だったが、まあそんな洒落たものはブルームにはない。
カフェでテイクアウトのコーヒーを頼み、ちびちびベンチに体育座りをして飲んでいた。あれには絶対に勝てない、と。
ジュンは分かっていた。
それを繰り返していたある日のこと。
「ねえ、今どんな気分?」
いつの間にか隣にアリオールが座っていた。
キラキラしたオーラが眩しい。
「な!?なんで!?ここに、ここにお前がいるんだ!?」
「そんなのキミに言う必要がある?ないよね?」
ジュンは言い返す気力もなかった。
「キミに、すっごく良い話があるんだけど。多分キミの村人Dっぷりじゃ永遠に来ないチャンスかもね?」
「なんだよ村人Dって!せめて村人Aにしろよ!……で、なんだよ?」
心底怒り狂いながらジュンはアリオールに聞き返した。
「キミに、ボクのパーティでイベントを攻略する権利を与えてあげよう。」
沈黙があった。
「イベント……あー…あれか。」
「うん。年に一回のバトルイベント。まあ、そこら辺のモンスターよりはキミは使えそうだからね。少なくとも今街を歩いている奴らよりはマシ。だからキミは、ボクのパーティに入ってイベントを攻略するんだ。」
ジュンは考え込んだ。
何か裏があるような気がしたのだ。
しかし、それを見つけるには余りにも情報が少なすぎた。
ジュンは諦めてこう言った。
「悪いが、その話は受けられない。」
「どうして?こういうイベントで勝てたことのないキミにとって、相当良い話だと思うけど?」
アリオールが顔をしかめて言った。よく知ってるなとジュンは思った。……こいつストーカーなんじゃね?もしそうだとしたら十分赤髪と同レベルで変態だと思った。
「俺は今回このイベントに参加しないからだ。」
「前回参加して予選落ちだったから?」
ぐっとジュンは切りかかりたい気持ちを抑えた。そして、静かに言った。
「……違う。」
「じゃあどうして?」
文面では純粋そうだが、実施に書き起こしてみれば、じゃああどおうしてえええ?ププププッだ。少なくともジュンにはそう聞こえた。しかも人差し指を唇に当てて首をかしげるという煽りっぷり。
そう、明らかな煽りである。ジュンは剣でアリオールを切りたい衝動にかられた。
「どうせ、装備も整ってないんだ。勝てるわけないだろう。」
前回参加して、とかではなく、この前戦って、だ。とは言わない。ジュンにもプライドはあった。プライドなんてかなぐり捨てて、味方を守るためにがむしゃらに突っ込んでいく英雄……そういうものにジュンはなりたいと願ってはいたが。
それとこれとは別、と自分を正当化した。
「じゃあ、今のキミじゃ手が届かないような装備が整ったなら?」
「そりゃ、強い装備さえ手に入れば、物は試しに参加するさ。」
アリオールはにこおと笑った。
「ならもう話は決まったね。キミはイベントに参加しなければならない。ボクの命令に従ってね。」
「はあ!?」
キレるジュンの前にアリオールがスマホからアイテムを取り出した。
「はい。労働の対価。流石にいくら身なりが奴隷ぽくっても、奴隷のように扱ったらボクが幻滅されちゃうからね。」
装備を目の前にしたジュンは、目を見開いた。誰の目をアリオールが気にしているのか気にならないくらいに、その装備は魅力的だった。
「なっ……!」
「分かる?氷結竜フィシゴンの装備だよ。武器が目当てで狩りに行ったら、大量にダブってね。今回のイベントにボクのパーティで参加するなら、あげてもいい。」
なぜだ、とジュンは問い返した。レア装備の前で変な笑い声をあげないのは、これがアリオールの前だからだ。
「なぜって?」
「いや、なぜ、そんなことまでして俺を勧誘する?おまえのギルドにだって強いやつはいるだろう?」
「いないよ。」
即答だった。
「は?」
「いない。ボクレベルの人間も、ボク以上の人間も。ボク以外のギルドメンバー全員がボクにかかってきても、勝てる自信がある。」
アリオール曰く、自分のギルドが強いのは自分がいるからだ、と。
「えーっと、未来の勇者なんでしょ?」
「……!」
これはアレか、とジュンは思った。
俺が超えられない相手と戦って、その後、その相手が、"あいつは将来、強くなるよ"とか言って原石を見出しつつ辛く当たり続け、最期、その相手がとある強大な敵と全力で戦っても勝てずに、力尽きるとき、"信、じてる、よ……ガクッ"と隠してきた気持ちを顕にして、その思いを受けて俺の力が覚醒する成り上がりパターンか!?とジュンは思った。
その第一ステップとして、これを逃すわけにはいかない。
ジュンはサムズアップして答えた。
「ああ。俺は未来の勇者だ。勇者は人を助けるためにいるんだ。だからお前も助けてやる。」
「よかったよ。キミが単純で。じゃあ、この装備を着て、必ず、この剣を使ってね?」
ジュンがアリオールに渡されたのは、大きなガーネットがついた銀色の剣だった。
その銀の剣を見て、ジュンは目の色を変えた。
「……ああ、俺は、お前に付き従うよ、アリオール。」
それかららいう達と再会するまで、ジュンの記憶はない。
ジュンの妄想は、少し当たっていて半分以上間違っていた。
◇◇◇◇◇◇
「つまり、それがその剣ってことね?」
「ああ。これが、アリオールから渡された剣だ。」
私見たことあるわとサンクがジュンの剣についた赤い宝石を愛しそうに?撫でながらつづけた。
「……そのガーネットで洗脳できるの。……マジックだったかスキルだったか知らないけれど。」
やけに冷たい具合でサンクが言った。赤い宝石にヒビが入った。
「……サンク?」
「……ほんっとうに、覚えてないのね?私に言ったこと。照れ隠しとかじゃなく。」
ジュンがまた頭を抱えた。黒歴史化か…ププックスクス。
「ああ。ほんとになんにも覚えてないんだ。そう、お前に対して俺は全く、なんにも、思っていない。このフィシゴン装備を賭けたっていい。だから安心」
「顔をあげなさい。」
ジュンが顔をあげた。
サンクが……手をあげて……
パンッという音がした。撃たれたかと思った。
んん…うたれた、というのは間違いじゃないかも……思いっきり頬をサンクに平手打ちされてた。
はじめて見たよ…平手打ち……うっわ痛そ。ワープゥは勘定に入れないとしても。だってあの人喜んでるもん。
「え?は?え?なんで?」
しばらくその後、サンクはジュンに対して口を利かなかった……。
笑い事じゃ、なかった……。
サンクは傷つきました。
氷結竜 フィシゴン 装備
銀色をベースに、氷をくっつけたようなデザイン。
雪が降っている時、素早さと攻撃力と防御力が上がるが、太陽に当たると防御力が下がり、さらに装備が重くなるため素早さが下がる。
武器はドロップしますが
防具はドロップアイテムの鱗や牙を持ち込んで作ることができます。
そのため、アリオールはジュンに嘘をつきました。




