警戒すべきは、誰?
「ジュンくん……!」
サンクが喉を震わせた。
「ジュンくーん!!」
サンクがジュンに走り寄ってぎゅっと抱きついた。
「サンク、久しぶりだな。」
……心なしか、ジュンの表情が落ち着いているように見える。それどころか……微笑んでない?
いつもはずうっと怒ってるのに。
僕の声が少しばかり震える。知ってる人が、知らない人になっちゃったみたいだ。
「やあジュン。
その装備どうしたの?」
「アリオールに負けて、ブルームに飛ばされた後で倒したモンスターから、手に入れたんだ。」
嘘つき。めっちゃ目そらすじゃん。でも、ああ。なのにやっぱり落ち着いている。
なんだろうこのへんな感じ……。
あ。
ジュンが、サンクに抱きつかれたままだ。
拒否ってない。今までなら、ここらへんで、いい加減離れろとか、言いそうな、ものだ。
んん……ジュンも改心した、ということか?
「ジュン」
「なんだ?」
「改心したの?」
ジュンは柔らかな微笑みをたたえて言った。
「改心って。どういう意味だよ。俺は元からこうだぞ?」
笑いまじりの、すごく感じの良い人だ。
違うっジュンはもいちょっと……もーちょっと社会で生きていくには大変そうな性格と、見た目をしていた、はずっ!
なんだろう……この嫌な感じ。
「あんないつも不機嫌そうだったジュンが……こんなにこやかな人に……?」
「ははは、いい加減怒るぞ?」
ジュンは笑顔を浮かべたままそう言った。
そしてその左手は腰に挿してある、これまた大きなガーネットみたいなのがついた立派な剣の柄に……。
ガーネット……。
頭が回転する。いつもよりも情報が頭に入ってきやすくなり、回路が組み上がって、結果に達する……頭が電卓みたいになった様な気がした。
「サンクっ!マジック!マジック使って!早く!」
「え……らいうちゃん、どうしたの?もうモンスターはいないのよ?私のマジックはその、使うのに制限がかかるから、あまり使いたくないのだけれど……」
「いいから早く!お願い!」
僕が懇願しても、サンクはマジックを使おうとしなかった。すごく迷ってる感じだ。早く!早くしないと!まずい!!頭が警告を鳴らしてる!
「サンク。聞かなくていいと思うぞ。」
「ジュンくん……?」
ジュンは、にこやかな笑みの裏にどこか見覚えのある嘲笑を混ぜて言った。
「あんな化けたぬきの言う事なんて。」
化けたぬき!
ひどい言われようだ!ほんとにひどい!全化けたぬきに謝れ!!
……少しばかり間違ってないけど。
……でも、ジュンはそんなこと言わない、たぶん。
「ああいうふうになんやかんや言っているのは、俺とお前の仲を嫉妬しているだけだ。マイプリンセス。」
「……ジュンくん…ッ…!?ヤダ…恥ずかしい」
うへええええええ!何と言う歯が浮く台詞だ!絶対ジュン言わないっ!
……でもこれで確信した。あんなこと言うのはたぶんワープゥしかいない!
あれはジュン……少なくとも僕が知っているジュンではない。じゃあ何か?ワープゥが中に入るにしても、絶対ジュンの姿は取らないはずだ。勘。たぬきの、勘。
……というか、はっきり言ってジュンよりもワープゥの方がイケメンだしな?
「僕には君がジュンの偽物のようにしか思えない。」
「そろそろ何言っても許されると思っているそのゆとり腐った頭に、灸をすえてやらないとな。」
ジュンが剣をスラリと鞘から抜いた。こういうセリフは…フュー…はここまで過激じゃないな。アリオールなら言いかねない、と思った。
僕がつけている武器といえばこのグローブだけだ。素手で……?
大丈夫。僕はなんだ?僕はたぬきだ。だから大丈夫だ。うん。大丈夫じゃない。
「!?」
速い!!ジュンが切りかかってくる!
避けるために、僕は息を吸い込んだ。すうー……
「……ねえたぬきさ〜ん。この人…誰〜?」
聞くタイミングを失っていたらしいルイが聞くタイミングを激しく間違えて僕に聞いてきた。僕は息のタイミングを間違えた。はっふはふへふ!
「ジュンだ。」
ジュンが律儀に立ち止まって言った。
「あ~!あの中二病の人か〜!」
ルイが納得したように言った。
ジュンの顔が固まり、どこか空虚だった目が、赤い光を宿していた様に見えた目が、元の紺色にわーって戻った気がした。
「誰が中二病だ!」
ジュンは勢い良くルイに切りかかった。
……いつものジュンとおんなじ声になった。
◇◇◇◇◇◇◇
「大体いつも俺が不機嫌なのはお前のせいだぞ!?」
五分後、広場のベンチに座りながらジュンは言った。ひりひりしているであろう頭を抑えている。少しばかり涙目だ。
切りかかろうとしたタイミングで僕が耳元で大声で叫び、ジュンが僕の方を向いたところでルイがハープで殴ったのだ。ハープで。
ハープ=鈍器。
それでジュンは気を失い、しばらく経ってやっと起きたとこだ。
広場には観戦モニターが設置してあり、大きい……多分強いモンスターと戦っている人たちを映し出している。
当然、僕らは映らない。
「そうだとしてもだよ?さっきのジュンはなんかおかしかったよ?」
「はあ?何か俺おかしなこと言ったか?」
サンクが少し顔を赤らめながら言った。
「別におかしくなんてないのだけれど……その……私は、嬉しかったし……やっとジュンくんの、本心が聞けて……」
「ジュンにしては き、の、き、く、セリフを恥ずかしげもなく放っただけだよー?」
僕がくねくねたぬきだんすを踊りながら言うと、ジュンが食いつくような勢いで僕の肩を掴んで僕を揺らした。ちょ、ちょ、ちょっとした、じょーだんなんですけどっ!そんなに怒らなくたって!そんなにこのダンスが嫌か!
「なっ!?俺何を言ったんだ!?教えろ!教えろこいつ!とっとと教えろ!」
「ばばばばばばばばばば」
「あのねえ〜マイプリンセスって言ってたよ〜」
ルイがにこやかに言った。
ジュンの顔が青くなり白くなり赤黒くなりもっかい白くなって、その場にジュンは崩れ落ちた。
「一応聞くが…誰に?」
「わ、私に……。」
カーッとサンクが顔を真っ赤にしながらそう言った。嬉しそうだ。ジュンは体育座りになってちっちゃくなった。
マイプリンセス……ププッ。ださい。特にジュンが言ってるというところに笑えるポイントがある。
「くぷっ…うひっ…ひひひ……ところでジュン。」
「……なんだ?」
「えふっ……ふふっ…いひっ…その装備はっ、ほんとはどーしたの?…けふっ…うひい…ひー…ひー…ふー…っ」
ああ、とジュンが普通の顔に戻って言った。どことなく不機嫌そうだった。
「アリオールがくれた。」
赤くなっていたサンクも、その場の光景をなんとも思わない顔で見ていたルイも、笑うのを必死にこらえていた僕も、目をまん丸くした。
「えっ!?アリオールが?」
僕がそういうと、ジュンはぽつりぽつりと話し始めた。
僕らはジュンの話を聞くことになったのだった……。
これが本だったら、楽しいとこに戻ってくるまで、何ページか飛ばすのに。
残念ながららいうは飛ばせない。読者の皆さんは飛ばせますね。




