予選に飽きたたぬきが暴挙に出た?
「疲れた〜!」
僕は大声を上げた。ジュンと別れて三十分ほど。イベントはまだまだ続く。
サンクがどうにもこうにもジュンを許さなかった上に、ジュンはジュンで、約束しちまったしなあ……とアリオールのパーティーに戻ってったためだ。うん。空気悪かったし。それが良いよ。うん。
「らいうちゃん…さっきからそればかりじゃない。そんな大声出してたらモンスターが逃げちゃうわよ?それに、ドリーマーキラーにだって会うかもしれないし。」
う。いや、でも、うーん。
「だって、ずうっと歩き続けてるんだよ?ずっとだよずっと!ずっとに注目してねずっとだよ!?」
「まあまあたぬきさ〜ん。まだ集まったメダルは五枚だし~、まだまだ入賞には足りないから〜頑張ろうよ〜」
むうう……時刻はちょうどお昼。
おなかも減ってきたのに。
「お腹減ったあ〜!!」
「らいうちゃん、しっ。静かに。」
お腹が減ってきてもう歩けない僕は、サンクに頭を押さえつけられてなすすべもなくドテンと草むらに転がった。しょうがない、ゴロゴロしてウワーッと手を動かしてみる。もちろん、サンクに静かにと言われたから静かに、無言で。これぞ無言の圧力。
「ひっくり返ったダンゴムシみたいだね〜」
「む、虫は嫌だっ……」
ルイがそんな酷い事を言うもんだから、僕は静かに起き上がった。
お腹がグーグーなる中、そっとサンクの見てる先を覗いた。サンクと僕とルイは草むらに隠れていた。
サンクの視線の先では、銀髪のゴリラがウオオオオオオオッと言う声を上げている。
「手負いね。」
サンクが言った。
「ん〜あれ見たことあるよ〜魔法攻撃を一切通さない銀の毛と~一発当たったら~即K・Oなパンチがウリなんだって~中級モンスターのシルバーゴリラGだね~」
「ウリって……ルイちゃん、それ、どこで見たのよ?」
「ペットグッズショップ~」
まじで!?ペットになるの!?というかペット、グッズ?ショップがあるの!?ペット自体はどうするの!?
「ペットの本体はどうするの?」
「ティムするの~」
ティムとは、と聞こうとしたが、サンクに肩をたたかれた。
「早くしないと取られちゃうわよ?」
「怒れよ雷神!震えよ雷!……今その天罰を受けし宿命の銀髪の怪物を打ち抜き、我ここにありとたらしめよ!我詠唱者なり!栄光の……スキルスイッチ[サンダー]!」
凄まじそうな雷が降ってきて、銀髪のゴリラに一撃を与えた。ゴリラはバタリと倒れ、メダル二枚に変わった。あれは、サンクのサンダーとは、違うの?
「ねえサンク。」
「なあにらいうちゃん。」
「[サンダー]ってあんなにスキルの名前長かったっけ?」
「見なかったことにしてあげて。」
わかった。
「今の、僕よく見ませんでしたよー!全然見えなかったなー!あーあ見たかったなー!」
サンクが隣で顔を覆った。どうよこの僕の演技力!
「たぬきさ~ん……それじゃバレバレ~だよ~……。」
えっ!
僕はさっきまで震えよ雷……とか言ってた人を見た。
その人もこちらを見ていた。
「ふっ……そこにいる純真なる乙女共よ!そうだ!我こそが真の調停者!我こそが先人なり!森羅万象の魔術を手の上で踊らす……そう、エクセレント・パイオニア!」
「素晴らしい先駆者って意味よ。らいうちゃん。」
なるほど。
「そうか!じゃあねじゃあね、僕こそがえーっと、うわさのたぬき!あらゆる……たぬきを使いこなす最強……のかわいいたぬきになれると多分名高い、あーー、たぬーき・たぬたぬ!」
僕の名乗りに、サンクとルイが驚いた声を上げた。
「えっ!らいうちゃんの本名ってらいう(たぬ)じゃなかったの!?」
「えっ!たぬきさんの本名ってたぬきじゃないの~!?」
実はたぬーき・たぬたぬなのです。今適当に考えたけど。本名は木隠来羽です。たぶん。
まあいいや。
「おお!素晴らしいな!同士よ!そなたも選ばれたものであったか!」
ちらっ、ちらっ、と僕とエクセレントパイオニアさんはサンクとルイを見た。
「え。これみんなやる流れなのかしら?」
「わかった~。
ルイこそがお肉を求めて三千里~のルイだよ~好きな食べ物は~……ええっと、今は、特に言う必要がなくて〜嫌いな食べ物は基本ないよ~。普段はサポート役してま~す。攻撃もできちゃうよ~」
「ハープは鈍器だよ~」
僕はボソッとルイの後ろで言った。
エクセレント・パイオニアさんが満足げに頷いた。
「えっと、私は、ええ。うん。えーっと。……サンクよ。」
いつも堂々としているサンクが、すごく空気に溶けそうになっていた。
「さて、そなたたちは我と戦おうと?」
エクセレント・パイオニアさんは、警戒の色を強めて僕達を見た。
もちろん戦うつもりなんてない。僕には。
「ううん。なんか調停者ってつよそーだから戦わないよ。」
エクセレント・パイオニアさんはそこに座り込んだ。サンクもルイも、襲いかかるつもりはないみたい。
「そうであるか。ホッとした……コホン。ならば純真なる乙女達よ、我に聞きたいことはあるか?同士のよしみで教えてやろうぞ!」
「じゃ、じゃあ……詠唱が長いのは……どうして、かしら?」
「ルイは~どうしてシルバーゴリラGに魔法攻撃が効いたのかが気になるな~」
サンクが恐る恐る聞いた。ついで、という感じでルイが聞いた。
えいしょー。きっとさっきの震えよ雷……のことだろう。あんなかっこいい文章なのだから、きっとすごいパワーを秘めてるに違いない。
「ふっ。詠唱をする事に意味が必要であるか!?詠唱は浪漫である!」
エクセレントパイオニアさんは続けて言った。
「シルバーゴリラGなど我の手にかかれば赤子同然!まず毛を刈るところからであるな!」
「それ~普通に武器で攻撃しても~たおせたんじゃ~?」
エクセレント・パイオニアさんは額のゴーグルをクイッとしながら答えた。その位置のゴーグル……意味あるのかな……もしくはどっかのタイミングでつけるのかも……?
「分かってないのである!繰り返す、詠唱は浪漫!詠唱は夢!詠唱があればだれでも強くなれるのである!……教えてほしいか、教えてほしいだろう、純真なる乙女達!」
「まじで!?どうすればいいの!?」
強くなれる……つまり、攻撃の威力が上がるってこと!?
たぬきがでかい敵を蹂躙していくその様……絶対見たい!お涙頂戴もんだもん!
僕の脳内たぬきたちが感動で震えている。
「なにか詠唱したいスキルはあるか!?」
「全部!」
エクセレント・パイオニアさんの言葉に感銘を受けた僕は、元気よく答えた。
ふふふふと、と肩を震わせエクセレントパイオニアさんが笑い始めた。
「はーっはっはっは!意欲があって大変よろしいのである!じゃあ我が直々にコツを教えてあげるのである!」
「お願いします!」
「え、ちょ、らいうちゃん、メダル集めは!?」
「たぬきさんは~ちょっと預けておいて~、そのうちに~二人で回る~?」
それもそうね、とえらくあっさりとサンクがうなずいた。
僕は気づかなかった!
そのままエクセレント・パイオニア…エパ師匠!の教えを受けた。
いわく、古代っぽい言葉を使うといい。
いわく、偉そうなのがいい。
いわく、漢字が多いといい。
いわく、アルファベットが多いといい。
「語感もいいと尚かっこいいのである!いいものができるのを楽しみにしているのである!」
そういって、教えることはすべて教えたと、エクセレント・パイオニア師匠は、身を翻して去っていった。水色の髪が風にたなびく。ザッ……って音が似合いそうだ。さすがししょー。
「ししょー!ありがとー!」
手をすっと上げるその姿は、夕日に照らされてすこぶるかっこよく……あ。
やばい。
「サンクー!ルイー!どこおおおお!」
ごめんなさいごめんなさいおこってるかなあああ!?
こうなったら……想定外の働きをして、許されるしかない!
「巨人の咆哮とともに、えっと、その身、たぬ身?たぬ子?を解き放て!スキルスイッチ[巨大化]からのマジックオープン![たぬき変身]!」
どかーんと僕は大きくなった。
大きさは特に変わらないけど……。効果時間が伸びてたりして!10分から…えーっと、20分くらいに!
「たあああぬううううぬううう!」
ズシーン!ズシーン!
そういえば、僕、怪獣映画が映画ジャンルの中で一番好きだったなあ。
あんな感じで!
「たぬらたぬらたぬたぬたぬたぬら♪」
ズシーン!ズシズシーン!
そこで僕は重大な事実に気が付いた。
巨大たぬき、メダル取れないじゃん……。
僕は変身が解けてぱたりと横たわるのであった。
ちょうどお日様も沈んだのであった。
あそんでてごめんしゃい。
詠唱をしたからと言って、効果は強くなりません。
「詠唱があれば誰でも(ハートが、この胸にある魂ってやつが、)強くなれるのである!」




