三人よれば?
もうすぐブルームだ!
という時、ほんとのほんとに一歩手前で僕の変身がとけた。ちょっと気が緩んだみたいだ。ふわふわのベッドを想像したのが原因かもしれない。気が緩んでも変身、解けちゃうのか……。
「きゅ〜」
ルイの顔色が悪い。
《スキル[蹂躙]を獲得しました。》
蹂躙。なんか強そう!…でも、使えないんだよなあ。スキル。
ジャイアントたぬきの状態の一歩は、普通の僕の一歩の30歩程、くらい。だと思ってる。測ったことは無い。
でもその30歩の距離なんてどうでも良かった。
僕とルイは、揃って目を回していた。いや、僕は頑張れば、頑張れば動けますけど!?ちょっと力が出なくて〜。
「らいうちゃん!?また肥ったの!?」
どこからかそんな声が聞こえた。ルイじゃない。
というか、ふ、ふとっ……太ったのかなあ……。
「また大きくなったんでしょ」
あう。
「だってだって」
「らいうちゃんSPポーション持ってるの?」
「持ってない。」
「ルイちゃんは?」
「知らない。」
聞いてないから……。ルイは今目を回しているし。
「……大きなたぬきになる事について、ルイちゃんに、ちゃんと了解取った?」
「え、してない。」
倒れている僕の視界に入ったのは、綺麗なパステルパープルの髪色をした、顔の整った女性だった。
「サンクう…へるぷみい。」
「じゃあ口開けて。」
僕はぐわあっと口を開けた。そこに流れ込んでくる液体。
「っっっっばあばばばあば」
「らいうちゃん、我慢して。まだHPポーションも残ってるのよ。」
「ぼふえっくぐえくぐぼふ」
僕はサンクにSPポーションとHPポーションを上から口の中へ注ぎ込まれたあと、立ち上がって背伸びをした。あんなことされて溺れかかったのに、体は妙に快活だ。
SPポーションとHPポーションは、美味しかった。どっちも少しシュワシュワしていて、炭酸が苦手な人には苦行かもしれないと思った。僕は炭酸が好きなので、普通に美味しかった。上から注ぐもんでもないと思うけど。
サンクは次に目を回して転がっているルイのところへ行き、優しく助け起こした。
「大丈夫?」
「ふええええ〜……」
「僕と対応が違うっ!寂しい!」
僕の叫びは無視された。
「とりあえず、私が今取っている宿に運びましょうか。」
サンクは疲れたように微笑して言った。
日がもうすぐ落ちそうだ。
サンクが止まっている宿は、ベッドとシャワー付きの一室だった。素朴な感じ。
オレンジ色の光が、ベッドのフチの木の部分を優しく包み込んでいる。
そのベッドに、サンクはルイを横たわらせた。
「ところでらいうちゃん。」
「ん?」
「スマホの通知って、来た?」
え。ん?
確かに……なんか、イベントの通知は来てた。
予選が2日間。本戦がトーナメント戦。予選の戦い方は未公表。武器、防具、アイテムの制限なし。……って書いてあった。
あくまでもPVP戦だから、予選のほうが厳しい戦いになるかもね〜ってルイが言っていた。
それのこと?
「うーん。イベントの、通知は来たよ?」
「あ、えーっと。私の伝え方が悪かったわ……。」
サンクは少しばかり困った顔をして言った。
そして、言い直した。
「ミファスムを、倒したとき、の話をしたかったのよ。」
あーー。ミファスムか。
なんだっけ、とはさすがの僕も言わない。あれは結構印象に残る案件だったからだ。
「あの、倒してないけどアイテムもらえたやつだよね?」
「その、もしかして、私が倒されちゃった後も……しばらくそこにらいうちゃん、いたりした?」
確かにいた。それで、アリオール集団に見つかって、いや見つかりかけて、
「どうしてか分からないのだけれど、ブルームにきてしばらくしたとき、アリオールの……取り巻き達に戦闘を挑まれたの。ろくに戦っていない人も報酬を貰うのはおかしい、受け取ったミファスムの報酬を全て寄越せって……。それで、なんかイベントで?戦うことになって……決勝まで来たら許すとかなんとか……?」
えっ。
「ふええ〜〜?」
声がした方を見てみると、ルイが起きていた。
「ルイちゃん。起きたのね。大丈夫?」
「え、あ、たしか〜サンクさん〜」
ルイは珍しく目をかっぴらいていた。そんなに驚く…あ、そっか。起きたら場所が変わってるんだもんね。
「それ〜どういうことか〜詳しく〜聞かせて〜……」
ルイの勢いがなくなってきた。と同時に、部屋が暗くなってきた。眠い……。
サンクがルイの隣に座り、毛布を被った。この状態の僕が入る隙間は……多分あの狭いベッドにはないだろう。
「……マジックオープン……[たぬき変身]……」
二人を、起こさない様に、小声でそっと僕は言った。ねむう……。
視界が低くなり、体が身軽になる。そっとサンクとルイの間の毛布に、僕は潜り込んだ。
ここはブルーム。春らしい昼の陽気と夜の少しばかりの寒さ。毛布のあったかさが僕を眠りへと引き込んだ……。
春眠暁を覚えずとはよく言ったもので、ブルームは寝付きやすい気候です。現実は7月、寝付くのにちょっと暑いけど夜中は寒いという…夢の中が羨ましい。




