イベントの前には略 2?
僕はルイに連れられて、ブルームの外縁部にある森に来ていた。
思えばこの森とも長い付き合いだ、うん。狼を探したりコカトリスに追われたり、僕のこの世界での初死にも……この話題はやめよう。
そよそよと揺れる木々は、まるで僕らを歓迎しているみたいだった。
「そういえば、ルイは武器って持ってないの?」
「武器〜?ん〜…ハープを持ってるよ〜」
ハープ。それは楽器じゃなかろうか?
確かに、ルイは腰に小さなハープをつけている。
そっかあー。楽器で攻撃なんてできたんだねえ。きっとあれだ、かの有名な女の子向けアニメみたいに、演奏したらその演奏した音色が形になって敵を倒す的な!?絶対かわいい!見てみたい!
「演奏するね〜」
「え、いいの!?聞くっ!」
「スキルスイッチ〜![眠りの調べ]」
(スキル「眠りの調べ」
効果…自分が倒したことのあるモンスターの一個下のランク以下のモンスターを眠らせる。
SP…10
取得条件…音を出すアイテムを使い、特定のメロディを引き当てること。)
ルイはいつの間にかスマホを取り出していて、スキルを発動した。ね、眠り!?僕眠っちゃうの!?僕って、モンスターなのかな。それとも、人間なのかな。たぬきであることは間違いないんだけども。
「スキルスイッチ〜[歌を乗せゆく風]〜!」
ルイのまわりの風が、柔らかく発光した。
(スキル[歌を乗せゆく風]
効果…音系スキルの効果範囲を拡大する。
SP…30
取得条件…音が出るアイテムを五つ集める。)
ルイはハープを奏でて歌い始めた。
「な〜ななな〜な〜な〜♪」
柔らかな色合いの風が、木々を揺らす。風は森の奥へ奥へと伝わっていっているようだった。
「ら〜ら〜 ら〜らら〜♪」
遠くの方で、ガサガサと何かが動いた気がした……
「る〜るるる〜るるる〜♪」
近くでガサガサと何かが動く音がした。
「あ〜あ〜あ~ あ~あ~あ~♪」
草むらから影が飛び出してきた。
「え、ちょ、ルイ!危ないよー!」
「う〜うう〜♪」
影は、ルイに飛びかかることもせずに、ルイの近くに座った。
「え。」
「なな〜 あ~あ~あ~♪」
それを皮切りに、次々とモンスターが飛び出てきて、ルイを取り囲むようにして座った。
ル、ルイ…大丈夫かなあ……。
「たぬ〜きさ〜ん ハン〜トを〜〜し〜て〜ね〜♪」
歌に乗せてそう言われたものだから、僕は驚いた。
ハ、ハント!?ハントって、え、何を!?
「な、何を?」
「も〜んす〜た〜を〜♪」
モンスターを!?まさか!?え!?え!?こんなに気持ちよさそうに音楽を聞いてる、目を細めてるやつを!?倒すの!?
僕が迷っていると、ルイは音楽を止めて言った。
「新しいスキルとか〜」
気持ちよさそうにしていたモンスターの頭が持ち上がり始める。ん?
「テクニックとかを〜手に〜」
モンスターが、僕とルイを見た。今度は違う雰囲気で取り囲まれてる……。
「入れるためには〜」
じりじり…近づいてくるよ……?
「この方法が〜一番なの〜」
モンスターが飛びかかって来たとき、ルイはハープでモンスターの頭を殴った。ひ、ひょえっっ!飛び散る霧。
そして、またそのハープを引き始めた。いい音色〜。
とろんとするモンスターたち。
これは。慈悲はいらない。かも。
……僕、何か持ってたっけ…攻撃できそうなやつ……。
試しに、モンスターを殴ってみた。うっ。やっぱり少しばかり良心が痛む。
「グル……( ˘ω˘)スヤァ」
えーー!?何この……顔文字?……ルイのスキルの効果かな。
僕はポカポカポカと茶色い体毛のモンスターを殴った。
何らかのダメージは、与えられてる、と、思うんだけ、ど。
ぜえはあぜえはあと眠るモンスターに数十発入れたところで僕の物理的な体力がなくなった。
地面に座り込む。
「がんば〜れ♪」
ルイはのんびりと歌っているように見えるが、一方でどことなく汗ばんでいるようにも見える。
うーん。この調子だと僕の体力もルイの体力も持たないんじゃ……あくまで、フィジカル的な方ね。
とりあえず、頑張るかあ……。
重い腰を持ち上げて、重い腕を振り回し、ぽかすかぽかすかと同じモンスターを殴る。
しばらく殴ったところで、モンスターが眠ったまま霧になって消えた。すやすやと幸せそうに寝ているところを攻撃するのは、やっぱり微妙な気持ちになる。
「ふぁっ……ああ…」
疲れたああ!やっと一匹……!?
「が〜ん〜ば〜♪」
え、ちょっと休憩させてええ〜
「まって〜たの〜むから〜休憩さ〜せ〜て〜♪」
歌にしないと伝わらないのかと思い、僕は歌を歌うように言った。ミュージカルたぬきモード!
「だ〜め〜ここで〜ね〜むりた〜くはな〜い♪」
眠る?いやこんなところで普通……そこで僕は思い出した。何回か、僕は強制的に眠りに引き込まれた事があったのを思い出したのだ。そういえば太陽が沈んだら…とか考えたことあったかも。
あとで詳しくルイに聞こうと思った。
とりあえず、僕は腕に力を入れて、振りかぶって今度は白くて丸いモンスターに一発食らわせた。ポカスカポカスカポカスカポカスカ。ちょっと肩たたきしてる気分。
《スキル[パンチ!パンチ!パンチ!]を手に入れました。》
ほ〜!
僕はスマホを開いて、スキルアプリを開いた。
「スキルスイッチ![パンチ!パンチ!パンチ!]」
《発動不可能です発動不可能です発動不可能です……》
うわーん!?
「なんでーーーー!?」
僕は言いながら三連続攻撃を仕掛けた。
モンスターに、1打!2打!3打!
モンスターが、渾身の三打で倒れた!え、ちょっと僕強くなったんじゃない!?ねえ!?
僕はスマホを開いてみた。もしかしたらテクニックだったのかも!
(スキル「パンチ!パンチ!パンチ!」
効果…三連続攻撃!
SP…30
上級…「クリティカルパンチ!」
取得…モンスターに合計三百回のパンチをする。)
ほお。スマホを僕は見たけど、使えない理由はわかんないまま。スキルだったし。
なんで使えないんだろう?
ふう。ま、わかんないからいいや!
多分、真面目にモンスターを倒さないとルイがちょっぴり怒る、かも、だし、頑張るしか、ない、だし。
しばらくたって、日が落ちてきたころ。黄昏時?
「ね〜え〜たぬきさ〜ん」
「え、なに?」
精根尽き果てるくらい僕頑張ったよ?
「はや〜くうごけ〜る?街に帰ろ~?」
お。僕の得意な領分!
「いけるよ!」
「音楽、止めるよ〜」
とルイが言ったときにはもうルイのハープは止まっていた。
「スキルスイッチ![巨大化]!
あんど、マジックオープン![たぬき変身]!」
こっちのスキルはきちんと発動した。
大きくなりながら固まったルイを抱え、背中に乗せる。
「たっぬぬぬー!たっぬっぬ!」
かっとばせー!らっいっう!
後ろ足が地面にめり込む。木々がざわめく。
僕は勢い良く地を蹴った。夕方頃になり、冷めてきた体が、一蹴りするたびにポカポカと温まってくる気がする。
風が強く吹き付けて、悲鳴のような音をあげている。ああ。生きている感じがする!
結局こんなに頑張っても、手に入れたのは[HP自動回復]ってテクニックと、[パンチ!パンチ!パンチ!]と、[透明人間]っていうスキルだけだったけど。
(テクニック[HP自動回復]
効果…Hpが10パーセント以下の時、Hpを三秒に1の割合で回復する。
取得条件…HPもSPも削らずに、疲れる。)
(スキル[透明人間]
効果…五秒間、透明になり誰からも見えなくなる。しかし、目だけは他からも見える。
SP…30
取得条件…10体以上、モンスターをモンスターに気づかれずに倒す。)
HP自動回復、のほうは、フューがいればいらないと思う。HPポーションとかも世の中にはあるし……。
透明人間は、かっこいい。
かっこよさ。それはろまんだ。
ロマン、じゃない。浪漫だ。
目だけは見えるってことは、空中に目だけ浮いてる感じ?んー……ちょっと怖いけど……使いどころはいっぱいありそうじゃない!?はやくつかってみたいなあ~。
ちなみに。
透明人間の目が透明になると、自分も周りが見れなくなる……というのはどこでも有名な話、らしい。
この透明人間のスキルが……あんまり役に立たなくね?すぐ見つかるし。しかもコスパわりい!というのを僕が後で冒険者掲示板で見るのにそう時間はかからなかった。しょっく。
ルイは「早く立ってね、日が沈む前に街へ帰ろう」という意味で言いました。まさか巨大化したたぬきの背に乗せられるとはつゆほども思わなかったはずです。




