首又竜 ミファスム
目が、覚めると、僕らはふわふわしたものの上に横たわっていた。
そして、リボンまみれだ。
ただ、ふわふわの中にゴロゴロした拳大の石があり、そこに背中を置くと痛い。
隣で寝ていたらしいサンクと目があった。
僕が起き上がろうとすると、サンクが小声で僕を押しとどめた。
「だめ。らいうちゃん。私達が起きていることを気取られちゃうのは危険よ。」
なんで危険?
その理由はすぐにわかった。巨大な咆哮があたりに響き渡ったからだ。
僕は体を動かさないように、目だけで咆哮の元を探した。
きっとあれだ。あの首が2つある……。
「きっとあれね。あのリボンがいっぱいついたドラゴン。あれが私達をさらったドラゴンよ。」
え?
首が二本ある、赤と緑のドラゴンじゃないの?もちろんそれには、リボンなんてついていない。尻尾の先に、赤い目の方は緑の珠を、緑の目の方は赤い珠をつけている。僕は目の前のサンクが見ている先を見た。どうやら、僕の後方側に、他のドラゴンがいるらしい……?
「ギャーーーースッ」
「キュイイイイイイイイイ!」
ギャースッという鳴き声が僕が見えているドラゴンから、キュイイイイッという鳴き声が僕の後ろから聞こえた。
どうして、どうしてドラゴンが2体もいるの!?
お互いに牽制しあってるみたいな声だ。
僕らをどちらが食べるか喧嘩してるの?それとも……縄張り争い、とか?
サンクも驚いた目をしている。
ドラゴンの声が反響して……
ひいっ!耳が痛くなりそう……!
僕が思わず耳を両手で隠し、仰向けになった時、しまった。僕の近くにいた竜…つまり、サンクが観測していた、リボンを多くつけたドラゴンが僕に向かって突進してきた。僕が動いたからだ!
「うわああああああっ」
僕は反射的にふわふわの中にあった拳大の石を投げつけた。
「スキルスイッチ![ファイアーボール]!」
僕が投げた石はかすりもせず、サンクのスキルがリボンいっぱいドラゴンに当たり、リボンいっぱいドラゴンが悶えた。そして、恨めしそうにそのままどこかへ飛んでいってしまった。
……さすが僕。バスケットボールが一度もゴールに入ったことがないだけはある。バスケットボールのゴールよりは的が大きいから当たると思ったのにー。
「グッギュア!」
サンクが動いたことで、どうやらもう一体の、2つ首を持つドラゴンも動くことにしたようだ。結局、どうしてここに2体もドラゴンがいたのかは僕にはさっぱりだけど……って、やばい!
二つ首のドラゴンは、真っ直ぐに、サンクに向かって追突していく。
ぎゃああーーー!サンク!絶体絶命!
僕はまた拳大の石を投げつけた。今度は二股のドラゴンの緑目の眉間に当たった。え、すごいっ!ストライクショット!
ところで……ドラゴンに眉間ってあるのかなあ。
サンクが後ろに杖を突き出した。
ドラゴンがそのままの勢いで突撃してきて、ぐさっとその杖が刺さる。ブルームの杖だ!
うっわ。……いたそー…。
「ギュウギュウウイイイイ!!」
突き刺さったのは、緑目の首の方だった。緑目の方に対するあまりの仕打ちに、赤目が、怒ったように一声、大きく鳴いた。
「すすすスキルスイッチ![餌]!」
僕は、あわてふためきながらスキルアプリを開き、スキル[餌]を発動した。いつの間にか僕の中では、自分が囮になることがあたりまえになっていたらしい。
《発動不可能です発動不可能です発動不可能です……》
うるさい甲高い警告音。なのに、僕にちらりと目を向けた赤と緑のドラゴンの、赤目の方は、そのままサンクに向かって炎を吐いた。
避ける間もない、というのはこのことを言うのかもしれない。
スマホを操作し次のスキルを出そうとしていたサンクは、スマホごと焼かれた。
「サンク!」
「……っ!」
サンクは、霧になって消えた。僕はそこから動けなかった。
サンクが霧になって消えるまでの間、僕は何かないかとスマホで探そうとしていた。結果的に、何もなかった。
何もなかったけど、悔しかった。
何もなかったから、悔しかった?
もう少し、スキルを発動できる時間が短ければ、どうにかなったかもしれなかった。サンクを助けられなかった。
ひゅっと、頭の芯が冷える。
心が冷えると、こうなるのだ。
後悔ってやつは、後から来るからいつも遅いのだ。
赤目が僕の方を見た。僕も同じように、赤色の炎で焼かれるに違いない。
熱いのは嫌……痛いのは嫌……!
赤目が口を開く。僕は目をつむった。もう、僕は焼肉にでもされるに違いない。
ザシュッ!と鈍い音がして、僕は焼かれなかったことだけが分かった。
恐る恐る目を開けると、赤目の首のところに鋭い傷ができていた。
赤目が攻撃してきた人間の方向を見て吠えた。痛みからの唸り声と、怒りからの吠え声が一緒くたになったような声だ。
……こわい!
僕はその吠え声でハッと我に帰った。そして、足腰に力が入った。
そうだった、サンクは死んでないんだった。ブルームにいるはずだ。ジュンもそうだ。だから、動揺する必要なんて、なかったんだ。
そうだよね?
でも僕は痛いのと怖いのは嫌だから、死んで無理やりブルームに戻ろうとは思わない。
さっき焼かれそうになった時、……凍死や餓死よりは…と思っちゃった、けど。まあ、そんなに悲観的になることもない、かな。
僕は多分ほんの五秒くらいで生まれ変わったような感情になった。自分が劣勢じゃなくなっただけでこんなに気持ちって変わるものなんだ。
そのおかげかどうかは分からないが、僕に辺りを見回す余裕ができた。
二股のドラゴンの少し右側に、黒いうごめく影が多数見えた。人だ!
そのうちの何人かが、キラキラ輝く弓矢を構えてドラゴンを撃っていた。もっとよく目を凝らすと、集団の中心付近にいるのがアリオールだ、ということが認識できた。
う……。これは、少しばかりまずいかもしれない。たぶん、良くはないだろう。
だって僕らは勝手に、彼らのとこから逃げ出して、こんなところにいるのだ。
……それが僕らの自由だといえばそうだし、逃げ出してはいけないなんてそんなことないはずなんだけど、でも一度捕まっているわけだし、もう一回見つかったら当然捕まるんじゃないかと、で、嫌な事をされるんじゃないかと、頭の中で警鐘がなってる。
僕はふっと息を吐いた。そして、そっと後退し始めた。
ドラゴンは、どんどん弱っているみたいだった。それでも、先程サンクに吹きかけた焰を、彼らに吹き付けたりしていた。戦っているのは赤目の方だけで、緑目の方は完全に気絶していた。……サンクのあの一撃が効いたんだろうな……。なんだか、サンクが報われない気がした。死んじゃったら、報酬はもらえないのかな……もらえてると、良いな……。
弓矢を構えた女性達が、まるで雨のように矢を発射する。あれもスキルなのかなあ。ただ、声が聞こえないせいか、使っているスキルを視ることは叶わなかった。
ドラゴンのあちこちが霧になって消えて、とうとう緑目のほうが起きて、赤と緑の4つの目が見開かれている。目が血走っている…どーでもいいけど、緑目のドラゴンの血液は緑色じゃなくて赤だ。目が血走って赤緑になってるから。
その目を狙うように、集団の中から一人、勢い良く飛び出して何か細長いもの…おそらく槍だろう…を突き刺した。もちろん、寸分違わず目を貫いた。い、痛いっ!
潰されたのは、赤目の左目だった。僕は、おもわず自分の左目を押さえた。
これは何だろう、共感、共感、共鳴?僕は、感受性が高い、のかな、足が震えて、お腹の下あたりが冷たくなって動けない。立ち上がれない。左目を抑える自分の手に力が入らず、震えている。
僕はその人影を捉えた。……笑っている。
なんだかそれは、狂っているようにしか見えなくて、僕は急いで逃げ出したくなった。後退が早まる。
「ス……チ……ッ…ア…ファ……!」
黄金の、キラキラキラキラ輝く弓矢を構えた人達が叫んだが、うまく聞き取れない。
ただ、何本かの黄金の矢が空中を斬って、やがて2つにまとまり、赤目と緑目の首を斬って落としたことがよくわかった。
スパーンといった。スパーンと。
あんなに…すっぱり切れるものなんだな…矢って……。
首を切られた二股のドラゴンは、体だけになって横に倒れた。
ドスンッと地面が揺れて、とたんに僕の体に体温が戻って来た。
「ふわ……」
息をするのも忘れていたらしい。僕の体内にあった二酸化炭素が空気中に放出され、酸素が肺の中に入ってきた。
ドラゴンは、霧になって消えた。
と、同時に、僕のスマホが大音量でなり始めた。
《首又竜 ミファスム 討伐完了
報酬 9000スター
ドロップアイテム
首又竜のかけら×1
首又竜の鱗×10
首又竜の牙×2
首又竜の翼の皮×1
ミファスムナイフ×1
ミファスムロッド×1
ミファスムの加護×1》
あわわわわわわわわっ!?
僕は急いでスマホを操作して電源を切った。
うそ……嘘……。やばいって…!
だって僕、全然戦ってないし、あのドラゴンに1ダメージも与えてな……あ。石ぶつけた、か。あれダメージ入ってたんだ……。
「……!!……!?」
アリオールたちの集団から、何やら怒ったような声や、何か叫ぶような声が聞こえてきた。主に、先程音が鳴った僕の方向を見て。
んー、少しばかりまずいっ!
そして、どやどやと、近づいて来る音がした。
うん、ものすごくまずい!
僕が隠れているふわふわに、アリオール達が近づいてきた。
アリオール達が僕を目視するのが先か、僕が逃げ出せるのが先か。
僕はそっと這いつくばり、後退しつつ勢い良く逃げ出した。
……後ろを見ていなかった。
そのまま山のてっぺんから落ちて……体のあちこちをぶつけながら…僕の意識は黒に飲み込まれた。
痛いのは、怖いのは、嫌だって言ったのに……
ここで後悔をして、何か変わろうとしなかった事が、いつか来羽にしっぺ返しを食らわせるかもしれませんね
7/18追記:恋愛竜フラウと、首又竜ミファスムが争っている事を明確にしました。




