重石竜 ストーンモス
僕らは走っていた。この島から出るために。
30分前……
「ドラゴンです!ドラゴンが、こっちに、向かってきていま、す!」
そう言われた僕らは体が硬直した。
だけど僕はブルームのことを思い出した。あれだよね?ドラゴンって。ならそんなに鬼気迫る表情じゃなくても良さそう。だって、倒せてたし。まあ、あの時はサンクがいたけど……。
「まずいな。このパーティじゃ」
「え?どうして?」
ジュンが焦りを滲ませながら言った。
汗はかいてない。
「アタッカーが足りないんだ。お前は戦えないし、フューも戦えない。と、なると火力は俺頼りだ。ただ、俺の攻撃は属性縛りがある。その分その属性の火力は強いが、その属性があまり効かない敵に当たると……まずい」
全然何にもわかんないけど。ゾクセイ?カリョク?まあ、とりあえず、なんとなく、ジュンの様子から、このまま戦うのは……ヤバイ、っていうことが分かった。
ヤバイはヤバイだ。まずいとも言う。
「どうしましょう……」
「なんかないのか。お前は……アレだ、あの……だから、補助系スキルは沢山あるんじゃないのか?」
ジュンが言葉を濁す。よっぽど他人を褒めたくないのか?なら僕で褒める練習をしたら良い!ほれほれ。
「ま確かに自分は 天 才 ですけど。天才にも思考する時間というものが必要なのですよ。」
フューはそう言ってスマホを取り出し、スキルを見た。
いっぱい指でスクロールしているので、恐らくいっぱいスキルを持っているんだと思う。
いいなあ。僕今、囮のやつと、1ダメージ与えられるやつくらいしかないと思う。発動できるかわからないし……。
「……スキル[クイック]で水面を走って脱出するのはどうでしょう?」
「なるほど。……いや、お前馬鹿か!水面を走るなんてできるわけないだろう!海の上は地面じゃねえんだぞ!」
そうだね。海の上は地面じゃないね。ジュンが相当焦っているのが伝わってくる。
「じゃあ……」
フューがどうしろって言うんですか、と、だまりこくった。
ジュンも、うっと言葉に詰まる。
何か……方法……
「……ジュンのスキルで海を凍らせて、逃げる……とか?」
僕らの間に沈黙が漂った。
「ばかかおまえ。」
ジュンが口を開いてそう言った。
なんだよ人の事を片っ端からバカバカと。
「じゃあ、ジュンもなんかアイデア出してよ!」
「……この島だって、船着場くらいはあるはずだ。桟橋とか。そこで助けが来るまで待てばいい」
僕とフューは顔を見合わせて、同時に言った。
「何年かかると思ってんの?」
「非常に現実的ではないですね」
ばーか。
ジュンと、フューと、僕はため息をついた。こういうのを、八方塞がりって言うんじゃない?
「……ワタシに、いい考えがあるぞ!」
諦めムードの中、そう言ったのは、
ビアンカだった。
僕は走っていた。この島から生きて出るために。
ビアンカによると、船が一週間に一回、この島に来るらしい。先ほど、すぐにいなくなったドリーマー?たちはこの船に乗っていたと思われる。
そっか……あの人たちはあのギルドリーダーの美少年に気球で飛ばされたわけじゃなかったんだ……。
今日船が来たということは、次に船が来るのは一週間後だそうだ。一週間、生きることは何とかできそうだとジュンは言う。
モンスターがいるから、
フューがいればご飯の調達は可能だし、
料理もしてもらえるし、
植物もいっぱい生えているからだ、そうだ。
しかし、そこまでにドラゴンに会わない確率はすごく低い。
寝込みを襲われたら、一巻の終わり、だそうだ。そっか……。そりゃあ、困ったねえ。僕よくわからないけど。
そこで、ビアンカが提案したのは、
「来るなら来い!さくせんだぞ!」
くるならこい、らしい。つまり、ドラゴンをこの、四人、で倒すということ。そっか……、ビアンカを、サンクの代わりに……。なんせ、さっきジュンを吹っ飛ばしてたしね。これなら、いけるかも!
「あ、でもさ、ビアンカって、ドリーマーカルスに行った事、あるの?」
「ん?なにそれ?だけど、戦えるよっ!」
えっと……
「いいの?」
僕はフューに小声で尋ねた。
「スマホを持っていない方との戦闘は初めてですから、何とも言えません。あ、しかし、パーティでないと、報酬が三人分しかもらえない事は判明しています。あと、パーティでない人の攻撃はこちらに通りますし、あちら側にもこちらの攻撃が通ります。」
……。
こちらあちらこちあちらよく分かんないけど、ビアンカの攻撃は僕にも当たるし、僕の攻撃はビアンカにも当たるってことかな?
流れ弾に注意ってことか……。
僕は、ビアンカの攻撃を想像した。なんか、世界の果てまで吹っ飛ばされそう……。
ズシン、ズシンという足音が段々と近づいてきた。
僕らは目を合わせ、軽く作戦を立てた。
よし。
ジュンがスラリと剣を抜く。ブルームカラーの緑の剣だ。まるで、ふさふさと葉を広げていた木を無理やり剣の形に押し固めたような剣だ。
フューが杖を構えた。サンクの杖よりも大きく、フューの背丈よりも高い位置に黒い珠がある。柄は、金色だ。それもキラキラした金色ではなく、くすんだ金色だ。
ビアンカが手足を軽く回して、挑戦的な目を足音に向けた。
僕も用意をする。スマホを構え、足に力を入れる。
「いくよ」
僕は、怖さに若干震えながらも、声と勇気を振り絞って走り出した。
そう、だから僕は走っている。
この島から、皆で生きて出るために。
また草の上か。たまには砂を蹴って走るとかかっこいい言葉を使いたい。キングビーストはもうごめんだけどね……砂漠は辛い!
そして、スキルを使った。
「スキルスイッチ![餌]!、マジックオープン![たぬき変身]!」
《発動不可能です発動不可能です発動不可能です……》
おなじみの警告音。しかーし!それが狙いだよーー!
ガサガサと音が鳴り、ドラゴンはこっちに向かって速度を上げたようだ。こんな甲高い音、襲ってくださいと言わんばかりだもんね!
「グワアオオオオ!」
僕はこわごわ走りながらも、捕まらないように四肢に力を入れて地面を蹴っている。捕まったら死ぬっ!
とりあえずお願いだからはやく
「ぬしてええええええええ!」
「スキルスイッチ![アイスフォール]!」
氷の刃が、僕を追いかけてきた、ストーンモスに降りかかる!
そこでストーンモスが少しひるんだところで、僕らはやっと、その姿を目に収めることができた。
すごく、時代の流れを感じさせるドラゴンだ。全体的に苔むした四角い石でできていて、まるで神殿が歩いているかのようだ。
……これ、倒していいのかな。
「……たぬ、たぬたぬぬぬ」
しかし、僕の口から漏れ出るのは、たぬという言葉ばかり。
すぐに、ストーンモスのまるで心臓が震えるような咆哮を合図に、僕らの戦いは幕を開けた。
ビアンカが、隠れていた草むらから飛び出して、ストーンモスの顔、と思われる部分にパンチをかます。
目、と思われる緑色の光る二つのものが、チカッと点滅し、その攻撃で、ストーンモスは向きを変えざるを得なかった。まるで、首が取れそうになるくらい、首がありえない方向に曲がったのだ。す、すごい怪力……!
「よっし、もういっちょだぞー!」
「援護します!スキルスイッチ![ハイ☆パワー]!」
(スキル「ハイ☆パワー」
効果…このスキルをかけた者の力を二倍にする。
SP条件…12
上級…「スーパー☆ストロング」
取得条件……一撃で星二のモンスターを倒す者の補助をすること。)
「いっくぞー!とりゃあああっ!」
ビアンカが思いっきり飛び上がり、振りかぶってストーンモスを殴った。よっし!もう僕逃げなくても……?
「グアアアアアアアアア」
「びゃああああああ!?」
ビアンカのパンチは今度はストーンモスを5メートル?ほどぶっ飛ばした、けど、その反動で尻尾がビアンカの方にいったのだ。
尻尾はとても長く、石でできていた。
ビアンカは勢い良くストーンモスの重い尻尾ではたかれて、地面に落とされた。舞う土煙。あわわわわわ!
「ビ、ビアンカーーーー!」
たぬき変身を解除した僕が叫ぶと、ビアンカがよろよろと手を上げた。幸い、まだ霧にはなってないらしい。ほっ。
すぐにフューが駆け寄って、回復スキルをかけようとした。フューの回復スキルがあれば、骨が折れても元どおり…だよね?あれどうやってんだろ。
「ウヲオオオオオオ!」
ところが、ストーンモスがフューの前に立ちはだかった。
ストーンモスの大きくて、重い足がフューを襲った。あんなので潰されたら、フューペラペラになっちゃう!
「マジックオープン![たぬき変身]!」
間に合うかな!?!?
……間に合って、どうするの?
フューがスマホを出すのも間に合わないくらい早く、ストーンモスの足がフューを踏み潰そうと、モグラたたきのハンマーのように振り落とされる。
「マジックオープン![冷剣装着]、スキルスイッチ![アイスシャープ]!」
(スキル「アイスシャープ」
効果…自分の全身全霊を込めた強烈な一撃を放つ。ただし、そのあと30秒は動けない。また、星3以下の武器なら壊れる。そして、この攻撃の強さは武器の強さに依存しない。意思の強さに依存する。
SP…70
上級…「アイスソウル」
取得条件…星付きの敵を攻撃を受けずに一撃で倒す)
ジュンがストーンモスの後ろから襲いかかり、ストーンモスを激しく光るあのブルームの剣で突き刺した。
ストーンモスは突き刺された瞬間、体の石に刻まれてあった謎の文字が、先ほどのジュンの剣の光と同じように光り、爆発四散した!
そして、
動けないジュンも、
手負いのビアンカも、
ストーンモスの一番近くにいたフューも、
もちろん、たぬき姿になっていて一番軽かった僕も、全員吹き飛ばされた。
「たぬーーーー!?」
戦いはまだ終わりません。




