6月
まぶしい。今の時刻は、6時。
窓から差し込む春の光が、僕を優しく包む。
……。
決して暑くないはずなのに、私は汗ばんでいる。なぜか動悸は早く、息は荒い。
久しぶりの気持ちよくない目覚めだ。
多分、体育祭が近いのが原因であろう。
私は支度をして、家を出た。
まだ家にいても間に合うんだけど、ああ、少し散歩をしたい気分だった。
足を動かしていると、少し気分が落ち着いてきた。
とても怖い夢を見ていたような気がする。
もしも、今ここに私がいるということが、この枯れかけの花ばかりが咲く桜並木が全て夢だったとしたら。
……そんなわけない。ほら。頬をつねったら頬が痛い。
第一、こんなリアルな夢があるか。
学校に着いた。
教室は誰もいなくて、しーんとしている。
あと10分もすれば、賑やかになるだろう。
静かな教室を楽しんでいると、中学校の頃の補習を思い出した。小学校だったか?
まあそんな事はどうでもいい、私は人よりはロジカルシンキング、ができる方だと思っているが、学校の勉強は決して得意とは言えなかったのだ。
それ故に、私は学校という場が苦手である。
また、クラスという狭い箱も嫌いである。
昔は、そっと耐えなければいけなかったが、高校はスマホを持ってきてよい。
ゲームっていうのは現実逃避にはぴったりだ。それをしている間は、それの事しか考えなくて良いのだから。人間の発明品の中で一番好きだ。
そう思いながら、私はスマホのオセロゲームアプリを開く。あの書斎にあるオセロを好んでいたが、学校に持って来てはいけないはずだし、第一対戦相手がいない。そうだったはずだ。
「……っ!」
息を呑むような声がした。
後ろを振り向くと、前髪が長く、上半分ほど顔が隠れている男の子……私の隣の席の人だ……がいた。確か名前は志伊。下の名は忘れた。どうせ呼ばないのだから覚えている必要がない。
一瞬目があった。目は片方は青色なのに、もう片方は赤色だ。どこかで、見たような、
嫌、気のせいだ。
すぐに私達は視線を逸して、椅子にささっと座り、朝の支度を始めた。
紙が擦れる音。ノートを落とす音。
「……」
私が志伊の机にノートを置くと、
「……あ。」
隣同士なので、微妙な時間が流れる。
何か話すか?いや、面倒だ。
「……え……あ……」
声を発しているのか分からない程の小声で志伊はお礼を、たぶんお礼を、言い、ため息をついて分厚い本を取り出して、ペラペラめくり始めた。
それでいい。話しかけられるのは大変に面倒だ。
それなのに、その手を一旦いきなり止めるものだから、非常に驚いた。
「もしかしたら……ううん。いいや。」
は、い?
言いかけたのなら…言えばいいのに……。
志伊はまたペラペラとページをめくり、ある一文を指差した。一番最後のページの一番最後の文だ。
−あなたと見る景色ならどんなのだって最高だよ。−
「……その、本は」
喉が渇く。なぜ言葉を発してしまったのだろうか。失敗した。最悪。片手でスマホの電源を切りつつ、
「なに?」
言い切った。言い切ったぞ!
喉はカラカラだ。汗がじんわりと出る。体が硬直する。やっぱり、人間は嫌いだ。
……恵?恵は……別かもしれない。
志伊はこちらを一睨みした。ああ。睨まれた。もう話さない。
ガタッと席を立つ音がした。席を立って、こちらを見下ろしてくる。
ひい。
すっと手が伸びてきた。
へ?へ?へ?
まさか…生意気だったから殴られる!?
「とと、とい、れ…」
私は椅子から転げ落ちつつ、壁に沿って、志伊から距離を取りつつ、言った。
志伊は私には見向きもせずに、机の上の私のスマホへと手を伸ばす。……電源を切っておいて良かった、いやよくない、何をする気だ、そのスマホは人からもらった大切な、
あれ、誰から貰ったんだっけ。
「……忘れ物?」
忘れ物…うん。まあ、うん。たしかに、私は一見、トイレに行きたくてしょうがない人に見えると思うけど。
「忘れ物じゃ……な」
「まあいいや。関わりたくないし。」
性格悪!本人を目の前に悪口をたたいた!
落ち着け。私。
世の中そういう人間ばかりじゃないか。人間なんてそんなものだ。
志伊は席に戻り、またあの本を捲り始めた。
五分ほどすると、教室が賑わってきて、ページの擦れる音はほとんど聞こえなくなった。
「おっはよ〜らうっち〜!」
という恵の声で私はやっと、自分の席に座った。
「……おはよ。」
ほぼ全員が出席。
家に帰った。今日も、宿題が出た。明日は、小テスト。
私は宿題をぱっぱと終わらせて、アパートから出た。
少し歩くと、実家が見えてきた。
鍵でドアを開け、真っ直ぐにお父さんの書斎に入った。
今日志伊が読んでいた本を見つけてやろうと思ったからだ。
しかし、少し情報が少なすぎた。それくらいの分厚さの本ならいくらでもあったからだ。
だんだんと眠くなってきた。そのために、私は、お風呂に入り、歯を磨き、ベッドに入った。
夕飯は食べていない。お腹が空いてないからだ。
あとは眠気に誘われるのを待つだけだ。
「おやすみ……」
誰に言うでもなく、私はそう言って眠りに落ちた。
時刻は…24時だ……。
私が十八時に眠ったのはそれから一週間後のことだった。
現実回。
見て下さりありがとうございます。




