回復魔法って何ですか?
僕は立ち上がった。
そして逃げた。
でも、足をひかれた。
「痛い!」
ボキッて音したよ!?折れた!?
ガタガタガタ……と馬車は遠ざかっていった……と、思ったら、いきなり止まった。
馬車からメガネをかけたアホ毛の少年が降りてきて、僕らを見て一言、言った。
「貴方達は、貧乏ドリーマーですか。」
で、馬車に帰って行った。
「おい待て待て待て待て!」
「はい。何でしょう?」
「何でしょう、じゃないだろ!納得いかねえ!俺は貧乏じゃないし、ただのドリーマーでもない!未来の勇者だ!」
そこか。そこかあ。
「しかし、こんな道の真ん中で寝っ転がっているのは慰謝料を請求するためではないのですか。……はっ!」
アホ毛の少年は何かに気づいたように手を叩いた。アホ毛がふわっと揺れた。
「もしかして……貴方達は……」
馬鹿ドリーマーですか。と、アホ毛の少年は真顔で言った。
「いや、待て待て!こいつはともかく俺は馬鹿じゃない!あと未来の勇者だって言ってるだろう!」
あれ?僕馬鹿って言われた?馬と鹿か……あれ?頭良いんじゃなかったっけ……馬と鹿。
「ま。頭の中がお花畑なら仕方がないですね。少々手当をしてあげましょう。直々に。自分が。」
「何だか、とっても上から目線な声が聞こえるんだけれど……」
サンクがよろよろと草むらから出てきた。
アホ毛の少年が止まった。
顔が赤くなった。
アホ毛がピンっと天をさした。
「す…スキルスイッチ![SPヒール]!」
(スキル[SPヒール]
効果…半径三m以内のドリーマーのSPを回復する。
SP…15
取得条件…回復関連のマジックを持っていて、SPの草をお腹いっぱい食べること)
僕に向かって、何だかこう……あったかい光みたいなのが降り注いだ。あ。あれだ。雨の後、雲から太陽の光が降ってくるイメージ。
途端に力が湧いてきて、今なら50メートルを10秒で走れる気がしてきた!いつもは15秒。
まあ、まだ足は痛むけども。
う〜!でも燃えてきたああ!
「よ〜し!もう一回僕の上に乗って、砂漠の街に行こう!」
「回復魔法か。」
「ふふん。もっと崇めても良いのですよ?特にそこのSP回復をかけてあげた貴方!SPが10以下で放置しとくなんて…よほどお金がないのか。」
えっ。
「お金があったらSPが減らないの?」
「普通のドリーマーは、SPポーションを持っているに決まってるでしょう。一般的に、SPが10未満で、ガリガリと……自分のHPが十秒に一回、減っていくわけですから、体がうまく動けなくなりますし。まあ自分は」
「別に崇めてないし。将来の勇者はそれくらいじゃ驚いたりしない。」
話を遮られたアホ毛の少年がジュンを微妙な目で見た時、ヘロヘロサンクが言った。
「元気になる何か、私にもかけられる……?」
「へ、へえ!おおおおお安い御用です!」
二人とも僕を無視して、そのアホ毛の少年を取り囲んでいる。
「ふー……スキ、スキルスイッチ、[フィル・エネルギー]!」
(スキル[フィル・エネルギー]
効果…ドリーマー一人の気力を回復する。
SP…5
取得条件…二日酔いの人間を介抱すること。)
先程と同じように?少年が唱えると、サンクの顔色が良くなった。
アホ毛の少年は、サンクに答えるときはとても声が裏返っている。まあ、サンク美人だもんな〜。
男の子ならきっとそう、誰でもそうなる。
……あれ?ジュンは別にサンクを前にしても声裏返ってないよな……。なんでー?
……実は女?
僕の中でジュンの髪が伸びて、ジュンが女装した形になった。
うわー。似合うか似合わないか微妙なライン〜喋らなければギリギリ……?ううーん、あと笑った方が……いやなんかやだな。
「おい、らいう。馬車に乗っていくことになったぞ。……不毛だけどな!」
お。やったー!
馬車に乗り、アホ毛の少年からオレンジジュースをもらった。さっきの街に止まっていた馬車よりも良さそうな馬車だ!
僕らが馬車に乗り込むと、馬車はゴトゴトと音を立て走りはじめた。
「ねえねえ。」
「なんだ。」
「ジュンって本当は女?」
ジュンが飲んでいたコーヒーを吹いた。
「あー。絨毯にシミがつくじゃないですか。スキルスイッチ。[クリーン]。」
(スキル「クリーン」
効果……汚れを浄化する
SP……5
取得条件…汚れを綺麗にする)
途端に、絨毯についたコーヒーが消えた。ええっ!?
「さっきのスキルといい今のスキルといい、やっぱりあなたはヒーラー?……回復師なの?」
サンクが少年に聞いた。少年はかあっと赤くなり、メガネを押し上げて言った。
「そ、そうです!自分は、どのパーティもが羨み、欲しくなる、最強最高の回復師、除魔師!しかも博識な、大天才フューなのです!」
「性格に難ありだから一人だったのか。」
「何を言いますか厨二病。」
「ちゅ……!?誰がだ!」
「貴方が。」
うがーーー!とジュンが立ち上がったので、ジュンは手に持っていたコーヒーをフューにぶちまけかけた。どいつもこいつも〜!と叫んでいるので、僕はどうどうどうとなだめた。もちろん、僕じゃ無理で、コーヒーは宙を舞ってしまい、見事にフューにかかった。
フューは眉毛一つ動かさずに相変わらずの澄ました顔でいた。
やっとのことで落ち着いたジュンが、先程と同じスキルを使って自分自身をきれいにしたフューに聞いた。え。すごい便利ー。
「で、博識で天才なフューとやら。砂漠の街の情報はなんかないのか。」
「……そうですね。ならば、クイズを出すスフィンクスがいることはご存知ですか?」
「存じ上げないよー。」
僕は知らなかったのでジュンより早くそう答えた。
「えーっと……」
「ら…」
「たぬちゃんよ。私はサンク。彼はジュン。」
なるほどとフューは嬉しそうにしながら言った。
「ではたぬさん。」
「らいうです。」
「まず、敬語が間違っています。そんな貴方では、スフィンクスが出す問題は解けないでしょうね。」
えー……。
「じゃ、どんな問題なの?」
「そうですね……では、こういうのはどうですか。朝は4本、昼は2本、夜は3本足がある動物ってなんでしょうか。」
「え。なんだそれ。」
「ええっと……」
「人間だよね。」
ええ、ええ、分からないでしょうとフューふふふと笑った。
そして硬直した。
「え。」
「それ、すごく有名な問題だよね〜。」
学校で流行ってたもん。
そうなの?そうなのか……?とサンクとジュンは顔を見合わせた。
フューは微妙な顔をした。
そして、ぷうっと怒ったフグのような顔になり、言った。
「じゃあ、この問題はどうですか!
三人の人間がいて、そのうちの一人が正直者です!!
Aが言いました!
「私は正直者です!Cは嘘つきです!」
Bが言いました!
「Aは嘘つきです!俺が正直者!」
最後にCが言いました!
「Bは正直者です!」
さあ、誰が正直者でしょうか!」
ええっと……とサンクが考え始めた。
「Bが正直者だとすると……Aが嘘つきになるわね……」
「と、いうか、正直者って誰かが嘘つきとか言うか?Cだろ。
その問題おかしい。作ったやつ誰だ。アホか。」
すっかり考える気をなくしたジュンが吐きすてるように言った。いやいや、Cが嘘つき者だったらBは一体なんなのさー。
フューがムッとした。元の問題とちょっと違うからなー。きっと文章を考えたのはフューだろう。
うーん……。実はこの問題、僕解き方知ってるから答えわかるんだけど……。これも流行ってたし。
でも僕は空気の読める人、及びたぬき。
もうちょっと待ったほうがいいかなあ?
「ふふふん。たぬさん。分からないようですね。分からないでしょう!ふふふん!」
あーちょっとむかついたなー。僕むかついたー。らいうだって言ってるのに。
「正直者はAだよ。Aを正直者とすると、Bは嘘を言っていることになるし、Cも嘘つきになる。」
「な……」
「あら、らいうちゃんこれも知ってたの?」
「うん。」
ジュンがほっと息を吐いた。
「良かった。ひらめき力でらいうに負けたら立ち直れねえもんな。」
へっへへーん。僕の無駄知識量を甘く見るなよ〜!広おおく浅あく有るんだもんね!汚水のろ過の仕方とか!ま。忘れたけど。なんか布とか詰めたりとかする。
……あ、あれ?なんか、今僕バカにされた?問題を頭良さそうに答えたのに?
「ふう。まあ、ここまでは肩慣らし程度ですし?できてまあ、当然というかなんといいますか?」
「えっ…そうなの?私まずいかしら……?」
「あ。いえいえいえいえ!そういう意味ではなく、ポンコツの人間はできて当然という意味です!!」
ぽんぽんこつこつ。僕の頭の中で狸がダンス中。と、あれ?あ。僕のたぬきがやってきた!
……ふ、増えた!?え、え、なに今の。分裂したあ!?たぬきは無性生殖だったの!?
「……でもしかし、この問題はどうでしょうか!」
長たらしい言葉を述べていたらしい。僕は全く聞いていなかった。ごめん。
「ある人間が言いました。
「私は嘘つきです。」
さあ、この人間は正直者でしょうか、嘘つき者でしょうか!」
「あら。それなら分かるわよ。嘘つきでしょう。嘘つきだって言ってるんだもの。」
サンクが面倒くさそうに言った。だいぶ適当だ。一秒も考えてない。
「サンクさん。残念ですが……違います。嘘つきだとすると、その言葉は嘘になり、本当は正直者ということになってしまいます。」
フューがすまなそうに言った。
「そうなの……。」
当てずっぽうながら当たらなかったことに少しばかり、がっかりするサンク。
「じゃあ正直者だろ。」
「ふっ、何をおっしゃっているんですか?あなたの頭の中は藁でいっぱいですか?そうなんですね?残った選択肢から選んだんですか?正直者は嘘つきだと言ったら嘘つきになるでしょう?それくらい分からないのですか?」
すごく煽るフュー。さっきの恨みだな……。阿呆だって言われたから……。んん、何というか、二人とも心小さい。
「じゃあ答え無えじゃねえか!」
ジュンがぷんすか怒っている。
馬鹿は馬と鹿だけど、阿呆はどこから来たんだろう?
「ええ。さすがに答えがない問題は答えられないでしょう?た、ぬ、さん?」
ジュンを無視してフューが煽ってきたので、僕は頑張って答えをひねり出した。……答えがない問題を出すって…大人気なくないか?
まあいいや。僕のこのすーぱーぶれいん?ぶれいぶ?まあいいや、で最適解を出してやろう!
「その人、人間だったんじゃない?」
「ふぁ?」
「人間だったんだよ。正直者だとか、嘘つきだとかじゃなく。歳とって、杖をつく、普通の人間。だから、嘘、もしくは本当のことを言ってみたかったんじゃないの?」
「らいう……あのな。問題には正直者と嘘つき者しかいないんだぞ?」
ん……。僕は少し詰まった。そして、良い答えを思いついた。
「それはきっとフューの嘘だよ!」
「はあ?」
「フューだって人間だもん。正直者、嘘つき者じゃなくって、人間だからたまには問題で嘘をつくこともあり得る……と、思う!」
僕がふふんと得意げな顔をすると、サンクが言った。
「……らいうちゃん……それは……」
「はあ。それじゃあクイズも問題も成り立たないではありませんか。興が冷めました。貴方と話すと頭がおかしくなりそうです。そろそろ砂漠の街ですので、自分はここら辺で。」
マシンガンのようにまくしたて、フューが降りる支度を始めた。良い答えだと思ったんだけどな〜。
「途中で降りるのか?馬車停に着くまで乗れば良いのに。」
「知らないんですか?まあ、どうせ馬車の走る道なんてチェックしてないでしょうからね。教えてあげましょう。この馬車は砂漠の街のメインゲートの反対にあるサブゲートの近くの馬車停に止まるんです。だから、馬車停で降りると色々と面倒なのですよ。」
それに、自分はギルドメンバーとの待ち合わせもありますし。とフューは言った。
ふーん……。フューが馬車の騎手さんに話しかけている後ろ姿を見て、僕は唐突に思い出した。そういえば、最初のあの白い部屋でマジック貰ってた人じゃん。
「ねえねえフュー。」
「なんですかぽんこつ。」
「フューはどんなマジック持ってるの?」
はあ?そんなん教えるわけないでしょうとフューは盛大なため息をついた。
そういうものなのか……迂闊に教えてはいけない……パスワードみたいなものなのかなあ?
「でも、私も気になるわね……。」
「いくらサンクさんでもそれだけは教えられません。すみません。」
馬車が停まった。
「じゃあ、サンクさん。また今度。
……もしよければ、アリオールさんのギルドに加わりませんか?」
フューが躊躇いがちに言った。
「アリオール?」
「ええ。おそらく今現在一番強いドリーマーです。一番大きなギルドのギルドリーダーですよ。」
ぎる……。ぎるる……?
「悪いけど、この二人、目を離すと迷子になったり変な行動したりするから目が離せないの。」
ふふん。迷子になったり変な行動したりするのはジュンだからなー。やーいやーい。
僕がジュンをちらっとみると、ジュンが僕を指差していた。
「ん?」
「迷子になったり変な行動をとるのはお前だよな。」
「はうい!?いやいやあからさまにジュンでしょっ!」
「安心して。二人ともよ。」
そっかあ。二人ともかあ。安心安心……。
………あれ?
「確かに、目を離すと星一モンスターに頭から食われそうですね。
分かりました。では気が向きましたら。」
フューは砂に足を取られながらも馬車から離れていった。と、同時に馬車は走り出した。
「アリオールか……」
「ギルドに入るつもりはないけれど、ギルドリーダーってことは相当強いんでしょうね。どんな人なのかしら。」
強い人か……。
やがて馬車は馬車停についた。
うっわ!すっごい砂嵐!
僕らは砂で黄色くなりながら、白い建物が連なる、砂漠の街とやらに入った。
……あれ。大して時間、経ってない……。もしかして、僕が走るよりも馬車に乗ったほうが速かったりして。いやいやまさか……そんなことあるまいよー?
阿呆っていうのは古代中国の王様だったらしいです。凄く良い人だったとか。なんとか。




