4月
僕は目を覚ました。
見慣れた天井……。
む。今何時だ!?
"私"は枕元の目覚まし時計をひっつかんだ。
ああ……まだ6時か。なんだ。
もう少し寝よっと。
「ふ…」
思わず溢れる笑み。
二度寝は気持ちいいよね。
ぐー……?
寝れない……ちっとも眠くない。
どうして?
いつもなら午前6時なんて起きてられないのに……。
……しょーがない。こーなったら登校の支度をするしかないか……ああ最悪。
いやだ。学校。行きたくない、動きたくない。
しかしながら行かなければ生きていけない。
ただ、何も変わらない。朝。
歯を磨き、顔を洗い、服を着替え、いつもよりゆっくりと優雅に朝ご飯を食べる。今日の朝ごはんはもやし炒めだ。もやしはシャキシャキしててうまい。
「今日は晴れ模様です。まだ肌寒くなる時間帯もありますので、温度調整がしやすい服装が良いでしょう。」
テレビが言う。
制服に、温度調整も何も……。
私は鍵を閉めて、バックの中に入れた。
歩いて学校に行く。何年ぶりであろうか。
校門が見えてきた。
教室に恐る恐る入ると、みんなが一瞥して自分の作業に戻った。
なんだろう。私が入ってきてクラスメイトが私を見ることなんて一度もなかったのに。
どこか怯えているようにも見える。ドアの音に驚いたのか?
私は黒板の座席表を確認……しようとしたら、恵に手招きされた。
廊下側。一番ドアに近い席。すぐ帰れそうだ。
席に座ったら、恵のマシンガントークがはじまった。
「ねえ、らうっち!昨日、あの後、トイレの前水浸しにして帰ったんだって!?」
「ん。」
あー。そんなこともあったか、も。すっかり忘れていた。
私は大声の質問に対して、頷く。
教室の有象無象の声がうるさいので、休み時間は声を張り上げる必要がある。
もしくは、ジェスチャーで伝えるか。
前の席に座っているのが、恵なんて。幸運だ、な。
「ははは!らうっちらしいなあ!」
でも一番うるさいのは彼女かもしれない。
垣根 恵。
いつも友達に囲まれている。私にでさえ、人懐っこい性格のせいか、話しかける。大雑把な性格だから、私の失敗を大抵笑い飛ばす。……笑い飛ばしてくれる。家は寺。陰陽師のアニメが大好き。霊媒師とやらを自称し、幽霊が見えるとか言ってる。嘘だと思う。
恵がいたことで心に余裕ができた私は、教室内を見渡した。
隣の席の人はこちらを一瞥もしていない。顔を半分隠すかのような長い前髪。本に隠れるように本を読んでいる。そんなに面白いのかその本。
教卓の隣、少し空いたスペースでは外人サンのような見た目のお人形みたいな美少女が、柔らかな笑みを浮かべながら周りの人と話している。
あ、あの人たちかな?私がバケツの水をかけたのは。
あまり目を合わせないようにしておこう。
一時間目は学活だった。
先生の名前はすごく可憐な名前で、まるで女性みたいだ、と思ったけれど今日会ったら男性だった。
先生の自己紹介に続くようにして何人かが自己紹介をして、恵の番になった。
「出席番号四番の垣根 恵!お友達も彼氏も募集中!実はこの世ならざるものが見えま〜す!よろしく!」
教室がクスクスと笑いに包まれた。よくもまあ、そんな恥いっぱいの挨拶ができるな。中二病?って囁かれている。
そういう私は……目立たぬように、地味に自己紹介をしようと思う。目立つのは好きじゃない。恵の後ろだから出席番号は……5番だろう。この座席は座席順だ。
「5番の木隠 来羽で、す。よろしくお願いします。」
私は席に着いた。ふー……何も目立たずに終わった。珍しく成功。椅子を誰かにぶつけたりだとか、礼した時に筆箱落として誰かにぶつけたりだとか、あまり余って机に頭をぶつけ、その反動でシャーペンを誰かにぶつけたりだとか、靴紐が解けていて靴を誰かにぶつけたりだとかもしなかった。ちょっと噛んだくらいだ。みんな恵について話してるし。恵様様。
みんな、自己紹介で自分の言いたいことを言っている。ああ。意外だ。私より短い人もいる……。
「志伊 紅按」
……あ、終わり。終わりか。この自己紹介は私の隣の席の子の自己紹介だ。
しい くあん。私は初見じゃ読めなかったな。特に名前。くあんって。外国人っぽい?
「玲子・ラストベルトです。……あっ、日本の名前の順番だと、ラストベルト・玲子ですね。
日本人とフランス人のハーフです。よろしくお願いします。」
ふわっふわの髪の毛。さっき教卓の隣にいた子だ。骨格が整っているあの少女だ。
男子はみんなとろんとして、女子はみんなニコニコ笑ってるように見える。
人気があるんだね。……少し、羨ましいかな。いや、そんなことはない。人気と妬みは紙一重だから。ならば、誰にも見つからないほうがいい。
一時間目はそんな風にして終わった。
次は授業だ。ああ、帰りたい。
「授業楽しみー!エモいよねっ!?」
恵が笑いかけてきた。
残念ながらそこまで優等生じゃない。私は帰りたい。
お昼休み。
恵と一緒に昼食を食べていると、いつもご飯を食べるときだけは無口な恵が、いきなり口を開いた。
「そういえば、私、昨日変な夢見たんだよね。」
「夢?」
「イケメンに押し倒されて、注射されて、怪獣になって街を襲う夢ー。」
変、なのか?
「変?」
「うん…怪獣映画なんてぜんっぜん見てないし、もっと言えば、こんな破壊的な夢、見たの初めてだしー。こわ。」
ふーん。そういえば見たな私も。象が
「象が……」
その時、私の後ろを誰かが通って、私は危うく箸を落とすところだった。
「わ」
「大丈夫らうっち?」
「ん。」
「でさー、象って何!?何か、らうっちも見たの!?」
象……。
「見てない。」
「ははは……」
呆れたような恵の声を聞きながら、私は恵がくれた卵焼きを頬張った。うん。コゲてる。
だが美味しいのだ。とても感謝している。
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始業式から、いくばくかが経った。
家に帰った私は、ベッドに大の字で寝転んだ。
私は教科書を開いて、宿題を始めた。
ただ、すぐ飽きてノートの端に落書きをした。たぬきの落書き。なかなかうまいと思う。このたぬきのように、何も考えず世の中を渡れたらどんなに良かったことか。
宿題が終わった頃、隣の席の……誰だっけ?のセリフをふいに思い出した。
それは二時間目と三時間目の休み時間中、もうすでにグループができつつある教室の中で、一人本を読んでいる少年の脇を通った時のこと。
ボソッと何かを、その子がつぶやいた気がした。たしか名前は。なんだっけ。あー、おぼえてない。彼の名を入れるほど、私の脳に空き容量はない。ただ、聞いたことあるような声だったのが妙に気になった……でも、異性の声なんて大抵そんなもんだ。
私は時計を見た。
今は四時半。ああ。寝る支度をしなきゃなあ……。
お風呂に入って
パジャマに着替えて
夕飯を食べて
歯を磨いて
布団の中に潜った。
……
………
…………は?
なんだ今の思考なんで私こんな寝る支度して寝る体勢に。いつもはもっと……
「遅くに……ふにゃあ」
引き込まれる感覚。
まるで水の中を落ちているみたいな、
あがいても戻れない感覚。
多分、寝ないほうが良い。私にはやりたいことが、違う、やらなければいけないことが、あるから。
そんなことどうでも良いでしょう、と。
眠いのでしょう、と。
寝てしまいなさい、と。
誰かが頭の中で言っているような気がして……
私は眠りに落ちる。
現実のターン。4/10→4/30くらい。
日常は特に特筆すべき事柄が無いせいで、時間が飛びがち。




