たぬきと完璧ロボの旅路と意思?
緊張の時間が流れる。
城を右手に、僕とメイドさんが並ぶ。
城を左手に、バランスが僕らと背中合わせで立った。
《対戦ルールを説明します。
1、対戦は特殊フィールドで行います。この環境下では、重力が10分の1になります。また、マジック、スキル、テクニックを自由に使うことができません。戦闘開始の合図が鳴った後、マジックの使用が認められます。
2、挑戦者が使えるスキルは一人一つのみです。
3、挑戦者はアイテムを使えません。
4、裁決竜は挑戦者が保有中のスキルで戦います。尚、挑戦者が選んだスキルは使えません。
5、10からカウントが始まり、0でスタートします。その間、挑戦者と裁決竜は1カウント1歩ずつ離れていってください。
20秒後にカウントが始まります。準備してください。》
聞いたことあるなー……この明るい女の人の声。どこだったかな……えーっと……あ、多分ブルームのドリーマーカルスで聞いた声だ!あの人だ……えーーっと、そう、キングビーストが出たよーって知らせてた人……。
《ten》
全然何言ってるか理解できなかったなあ……。たぬき変身は普通に使えるのかな?
……ああ、今はできないのかあ……。戦闘中はどうなんだろう?
《nine》
メイドさんに服を引っ張られた。あ……えーっと、え?
「歩いてください、マスター。」
《eight》
僕は三歩歩いて、メイドさんの隣に立った。
「……これ歩く意味って何?」
いきなりドッカーン!ババーン!でも良くない?
「検索中です。少々お待ちください。検索結果」
《seven》
「イギリス式の決闘方法と酷似している部分があると発見。しかし、実際はこの半分ほどの距離だったそうです。」
へー。
《six》
あれ、で、歩く意味は?
……きっと、見つからなかったんだな。
《five》
「メイドさん、メイドさんはどう思う?」
「……どう思う……とは?」
「歩く意味!なんで歩くのかの理由!」
メイドさんはきょとん、として立ち止まった。
《four》
「わたくしが……考える……何故……?」
「僕はねー、かっこよかったからだと思う!」
てっててー!
メイドさんの服を少しばかり引っ張って、一歩進ませた。
《three》
「わたくしは……DSIA3470です。」
「……?そうだね?うん。知ってるよー!」
メイドさんは淡々と続けた。
「自分自身で考えるというプログラムは組み込まれていないのです。」
ぷろ……?ぷろぐらむ……?
う?ん?
「僕、なんかよくわかんないけど……」
メイドさんの服をもう少し引っ張って、もう一歩進ませた。
《two》
「メイドさんは意思が、ないってこと?」
「そのとおりです、マスター。」
ふうん?
メイドさんも僕も、立ち止まった。
「じゃあさじゃあさ、」
《one》
「メイドさんが僕に呆れたり、僕に怒ったり、僕に意地悪したりするのは、その……ぷろぐらむ、なの?」
それは本当に些細な変化だった。メイドさんの上まぶたが少しばかり、ほんの少しばかりだけ上がったのだ。
僕はメイドさんに意思がないなんて思えない。だって、あまりにもメイドさんの動きは……僕より人間じみているもの。僕はたぬきじみてるから……。
「……わたくしは、意思を持つことを……許可されておりません……。」
メイドさんがぽつっと言った。
僕はメイドさんの手を取った。
《zero》
僕は思いっきりジャンプした!
メイドさんもつられて、少しばかり跳ねた。
「じゃあさじゃあさ、お金が貯まったら、一緒に綺麗な景色を見に行こう!素敵な服を着て、美味しいものを食べよう!うぃんどう・しょっぴんぐをして、映画とか見に行こう!」
「いきなりどうしたのですか。マスター。」
うまく説明できないけど……僕は今まで、お祭りで美味しいものを食べたり、作ってもらったり、風の匂いとか、草露の冷たさとか、砂の当たる感覚とか、そういうのを感じた時に、僕しか知らない僕の感情を感じてた。
たぶん、意思?ってやつを感じてた。
意思っていうのが何なのか、僕はやっぱりうまく説明できないけど。きっとフューやメイドさんに聞いたら、端的に模範的で正確な答えを返してくれるだろうけど。でもでも、聞きたいのはきっと違う。
つまり、えっと、
「何かを考えたり思ったりする事が、悪いことな訳がないって思ったんだ。」
だから、許可っていうのもさっぱりだけど、そんな許可なんてもので縛れるものじゃないよね、きっと。
僕はメイドさんの良き隣人、いや良きたぬきとして、メイドさんの意思をメイドさんと探しに行きたいんだ。
全部誰かの言うとおりなんて、きっとつまらないから。
僕が頭の中で整理して、声に出そうとした時にはもう、戦闘は始まってた。
「……話すのは、あとにしましょう、マスター。」
メイドさんが僕をめいいっぱい押した。
全部伝わってたら良いのにな。
メイドさんはタイプ・プロトコルと同じで人の心が読めます。来羽がメイドさんの前でスキルを使用した時、メイドさんがそれを認知できるのはこのためでもあります。




