たぬきと完璧ロボの旅路と天秤?
「よくぞここまでたどり着いた。」
場所は……さっきと全く一緒だ。たぶん。家具がおいてある場所も全部、そっくりそのまま、二つ前の場所、一つ前の場所と何ら変わりない。
僕らを迎えたその人は、目つきは突き刺すように鋭く、ワシの鉤爪にそっくりなかぎ鼻を持った、ダンディなおじさまだった。
余計な肉を削ぎ落としたかのように鋭い顔は……確かに、まあ、竜と言われても納得できてしまうかもしれない。それほどまでにその目は強そうで、何もかもを見透かすようだった。まるで僕は蛇に睨まれたカエル、いや、竜に睨まれたたぬき。
「彼が、決断の竜、裁決竜バランスです。」
決断の竜……。
何を決断するんだろう……。
僕が疑問に思っていると、椅子に座ってるおじさまは、その長い足を組み替えながら、僕達に突然聞いてきた。
「少女たち、ここまで来るのは大変だったかい?」
「え」
思わずびっくりしちゃって声が出た。
今まで竜と話したことなどなかったからだ。
「えっと……僕は、特には。大変だったのはメイドさんの方で……。」
「あの程度の計算問題なら問題ありません。」
まじで!?じゃあじゃあ、えーっと……!
「円周率は!?どんくらいまで行ける?1億桁!?」
「わたくし単機ですと、12桁までになります。1億桁の円周率計算ですと、膨大な計算量になり、タイプ・プロトコルでも太刀打ちできなくなりますので、ご了承ください。」
すっげーー!
「そうか。なあに、聞いたからといってどうするというわけでもないがね。では、次の質問だ。ワタシ達の様な、ドラゴンと喋ったことはあるかい?」
ドラゴンと……?
喋る……?
「もしも順番通りにドラゴンを倒し続けているならば、ワタシと話すのが、ドラゴンと話す初めての機会だろう。君はここに来たとき、瞳孔が数センチ開いたから、人間の姿のドラゴンに会うのは初めてのはずだ。」
どーこーがすうせんち!目は口ほどに物を言うってこのことか……。うーん。まだまだポーカーたぬきには程遠いようだ。
「そだよー。はじめてだよー。喋ったこともないし、人型のを見たこともない!」
「マスター。それは」
「では、おしゃべりはここまでにして、はじめようか。いつものように、ワタシを倒してくれたまえ。」
メイドさんの言葉を遮るように、バランスは立ち上がって、言った。
その言葉が引き金になったかの様に、アンティークな色調の重い壁が、ドアが、本棚が、床が広がるように外側に倒れた。
部屋が全て床になった後で、周りに現れたのは、建てられてから随分と経ったような……大きなお城と、芝生だった。
遠目から見ても古い!とわかるほどに、そのお城はくすんでいたし、ヒビが入っていた。
「……えっと、ここで、戦うの?お城、崩れちゃーない?」
「この空間は仮想現実ですから問題ありません。」
かそー、げんじつう?
「問題に答えることで挑戦権を獲得し、質問に答えることでこの空間に脳波がアクセスします。」
じゃ、じゃあ、現実の僕は……いや、現実は……寝てるんだっけ。
あれ……なんで寝てるって思ったんだ?なんでだろう?
どうし
《全スキルロック。お使いのスキルを一つ選択してください。》
機械音声と共に、目の前にたくさんのスキルの絵が描かれたパネルが出現した。え、え!?なにこれなにこれ!?僕何すればいいの!?
「メイドさ、メイドさん!これって!?どうすればいいの!?」
「マスターが一番好ましいスキルを選んでください。」
一番好ましいスキル……?
そりゃあやっぱり……[巨大化]でしょ![君臨!たぬきんぐ!]とも迷うけど……1分よりは10分だよね!
僕が選ぼうとすると、メイドさんに手を掴まれた。
「マスター、すみません。訂正します。神スキル以外で、一番マスターが好ましいスキルをお選びください。」
えええええええーー!?
「なんでなんでどうしてー!?」
「バランス戦ではアイテムの使用が禁じられているからです。裁決竜を10分で倒すのは統計上、アリオール様以外不可能です。」
ほう?
じゃあ……[無鉄砲]かな〜!だって撃つときの見た目がかっこいいし!
「マスター。わたくしのおすすめでは」
ポチッとな!
「あっ。」
メイドさんの驚いた顔始めてみた!声は少しばかり無機質だけど、顔がポカーンとしてる!
あー!スマホ向けたら直っちゃった……残念……。
「メイドさん!もう一回その顔して!もう一回!」
「……嫌です。」
「ねええ〜おねがあああいいい〜写真撮りたいい〜!」
僕は寝転がって地面をバタバタ叩いた。
「これが……データにある、"おもちゃコーナーの前で駄々をこねる子供" ですか。」
その例えは……嫌だ!
僕はあくまで高潔なたぬきなのだ!僕はすくっと立ち、スカートのホコリをつまんで誇りあるたぬきになった。
「戦いを、始めてもいいかな?」
僕らの準備ができたとみなすがいなや、バランスはそう僕らに声をかけた。
僕は元気よく答えた。
「おっけー!」
裁決竜バランスとは、完全に平等な条件で戦うことになります。まるで水平に保った天秤みたいに。




