たぬきと完璧ロボの旅路と記念撮影?
北西方向に一時間ほど、僕らは歩いた。
霧はすっかり晴れた。
残念だけど、僕がスキルを使って巨大化してまっすぐ、えーっと……バランスの神殿とやらに?行くのはメイドさんに却下された。
移動をしよう!ってなる度に提案してるんだけど、なんでずっと却下されてるのかは、心の底では……うん、分かる。
もう少しばかり、練習したほうがいいよね……あの巨体を器用に扱うのは、やっぱり骨が折れるもん。
ただ突進するとか、何かを支えるとか、そういう一方通行的な……直線的な動きならできるんだけど、あの体で針に糸を通すみたいな作業をするのは多分難しい。
つまり……建物の細い隙間を通って建物を壊さないように人を運ぶ様なこと、それは、すごく、すごく、難しい!!
あーあ。巨大たぬき用に街が整備されないかなあ……。
ブロロロローっと僕らの横を車が何台も通っていく。
あっ。赤い二段バス……さっきメイドさんに教えてもらったんだよね……えーっと、えー……うん。うん!
それが走る大通りの横を歩いていくと、人だかりが見えた。
「メイドさんメイドさん、あの赤い二段バスってなんて名前だっけ?」
「ダブルデッカーまたはルートマスターという言い方が一般的です。ダブルデッカーは二階建ての乗り物という意味、ルートマスターはイギリスの会社が製造したバスの車種名です。」
あー……そんなこと言ってたような……うん。多分これはまた後で忘れるんだろうな?
人だかりは、随分と長い列を作っていた。
「目的地に到着いたしました。お疲れ様でした。」
「おお〜!!」
レトロな雰囲気のおしゃれな建物だー!おしゃだおしゃ!映える!
「メイドさんカメラ無い!?カメラ!」
「承知いたしました。3、2、1、はい、チーズ。」
メイドさんが瞬きした。
僕のスマホがぽんっと鳴った。この通知音……たぬきの腹鼓みたいだ……。
おー!
「メイドさんすごい!」
僕のスマホのアルバムには、ノリノリでピースをする僕と、レトロおしゃれなレンガ造りの建物が一緒に写っている、しゃれおつな写真があった。
おーー……僕いっつも写真ブレるのに……!すごい……!
僕はメイドさんと一緒に、その列の一番うしろに並んだ。
「メイドさんカメラマンになれるよ!カメラマンメイド!かっこよくない?」
「カメラマン……メイド……とはなんですか。」
「カメラマン兼メイドだよー!」
「理解しました。つまり、カメラマンという職業につきながらメイドとして働いている人のことですね。」
そのとおり!!
「メイドさんカメラマンメイドになりなよ〜きっと売れっ子になるよ〜!」
「マスターがわたくしがカメラマン、メイドになることをお望みなのでしたら、わたくしはその通り行動いたします。」
そういうことじゃないんだよなあ……。
「えーっとね、うーん、上手く言えないんだけど……今のは冗談みたいなノリでさー?大切なのはメイドさんの気持ちなわけで……うーんと、なりなよと言ってもそう真面目に取られると困るっていうか……」
「申し訳ございません。うまく理解できませんでした。マスターを困らせてしまい、すみません。」
メイドさんの声は感情が読み取れなくて、よく分からない。
あうーーー……。メイドさん……気にしなくていいんだよ〜……。そうだ、こういう時は恵みたいに、こう言ってみよう!
「特に気にしてないから大丈夫ー。えっとね、つまり、何になりたいかはメイドさんが決めればいいって話だよ!」
「……ナニニナリタイカをわたくしが、決める?自ら、ですか?」
うーんっとメイドさんが考え込んでしまった。考えているというより……何か計算してる感じ?うーん。恵作戦は失敗か……あれ。メグミって誰だ?……きっと新幹線めぐみだな!つぎはー北海道〜北海道〜めぐみの大地〜北海道ーー!
「わたくしたちは」
人の列が数十歩?いや、数歩進んだところでメイドさんが口を開いた。長いなー……列……。
「DSIA0001、別名タイプ・プロトコルが元になった、所謂、模造品の存在です。」
待っている人たちのざわめきで失われてしまいそうなほど小さな声でメイドさんは言った。
「……ほう。」
「それ故に、独自ネットワークで繋がるわたくしたちは、ナニニナリタイカ、の検索結果である、将来の夢、を持っていません。タイプ・プロトコルですら、夢を持っていないのですから。」
「ですから、わたくしは、マスターのご要望に答えることができません。」
メイドさんが一礼した。
難しい話だったけど……要約すれば、将来の夢がないってことかな……まあ、僕も特にないしなー。
うーん。あ、いいこと思いついた!
「分かった、じゃあ今度一緒に本屋に行こう!本屋に行って、なりたいものを一緒に探しにいこう!」
「マスター、その時間はありません。マスターの借金返済と武器、装備等の新調費用に最低十回のバランス戦が必要です。一回で討伐は不可能です。現在のわたくしがバランスの行動を学習把握するのには、十回以上バランス戦を繰り広げる必要があります。」
「バラトバいっぱいか……」
「バラトバ、一致する検索結果がありません。」
「バラの鳥羽産の肉だよ。」
「すみません、よく分かりません。」
ほら、有名なあの戦いがあった場所だよ。ね?たぶん。そう、多分!
そうこうしているうちに、人の列がだいぶ短くなってきた。
あと数人で中に入れるな〜……。
「そーいや、この建物はビングーのおうちなの?」
この感想、どっか他んとこでも思った気がするぞ……どこだっけ……。
「"ビングーの家"検索しましたが、ペンギンのかまくらしかヒットしませんでした。」
えー……。あの中に入ると広くなる家のことだよー……?外は小さくて中がひろーい家のことだよー?
「あのね、いっぱい人が入ってるのに、どうにもこうにも出てくる人が少ないなーと思って。」
「バランスの神殿は、中が特別複雑な仕組みになっているのが特徴です。ドラゴンにたどり着くまでの所要時間が長いというデータが出ています。」
へー。
超巨大迷路とかだ!きっと!それだったら、今度こそ巨大化して突っ込んでやる!やっぱり細かい作業はできなくもいいや!こういう時に役に立つもんね!猪突猛進巨大たぬでゴーしたい!
遂に僕らの番が来た。
いざゆかん!バランスの神殿へ!!
バランスの討伐の略です。
ここに彼らがいたらこう言ったでしょう。
「何だよバラトバって。」
「バラトバ……バランスの討伐の略でしょうか。」
「フュー、よく分かったわね。」




