第八章プロローグ
とりあえず、ここを離れて、どこか別のところへ行こう。
椅子に座りながら、私は窓の外を見た。まだ雨がしとしと降っている。いつまで続くのだろう?
マップを見るためスマホを開いた。
今更だが、スマホの中身はだいぶ変わっている。
もともとあったオセロゲームなどのアプリ類は全部なくなり、親指くらいのサイズの、色とりどりの四角い表示が並んでいる。
・マップ
・スキル
・もちもの(残スターもここで確認できる。)
・メッセージ
・クエスト
・検索バー
・パーティ
・ストア
・カメラ
……特筆すべきはこれくらいだろうか?
どれも、長押ししても消すことができない。
……オセロで暇をつぶすことができないのが、私にとっては致命的だ。
ストアは……ああ、やっぱりアプリストアじゃないな。牛乳……卵……鶏肉……?
あ、なるほどネット通販か。
……コンビニ行かなくて良かったんじゃないか?
……いや、だめか。機能していない。それに、たとえ機能していたとしても割高だ。
……やはり、何か必要なものがあるなら現地調達しかなさそうだ。
……はあ。
「たぬう?」
(どしたのー?)
あ、やっと起きやがった。
たぬき娘は私の膝の上に乗ってきてふうっと言った。脳内でだ。
「何で、も、ない。移、動、す、るよ。」
「たっぬー!ぬぁ、たぬたぬたぬ?」
(りょっかっーい!あ、ジュンどーしよ?)
ああ……。
「引きずっていこう。」
「だぬっ!?」
たぬき娘は信じられないような顔をして、私を見た。
たぬき娘はふわふわで、暖かい。こう、抱きしめていると心がピッタリの椅子を見つけた様な気持ちに……なんて気持ちの悪い表現だ。……もしかして、たぬき娘とくっついているせいか?
そうだ、そうに決まっている。
「離、れて。たぬ、き、娘。」
「たぬっ!?たぬたぬたぬたぬたぬたぬ!?」
(ええっ!?たぬき臭がうつるとかそんな感じ!?)
私はたぬき娘を強制的に引き剥がした。
たぬき娘は、ベッドで倒れているジュン少年の顔の上に着地した。丁度、腹で顔が窒息するような具合だ。
「もご……ふがっ!んーーーー!」
ジュン少年はたぬき娘をぶん投げた。
嗚呼あはれ、たぬき娘。
たぬき娘は窓を突き破って、道路を歩いていた人間にぶつかった。
あっ。やべ。
慰謝料とか請求されるかも……いや、このたぬきは私とは無関係だってことを証明できれば……。……そもそもこの情勢、人間の司法とやらは生きているのか?おそらく死んでいるな?
「ら、らいうちゃん!?どうしたの!?どうして降ってきたの!?とりあえず、無事で良かったわーー!」
あれ。知り合いか……?
そっと私が窓から除くと、そこには見覚えのある顔がいた。
流石に、物覚えの悪い私でも覚えてる。あんなに珍しい人間、忘れるはずもない。
クラスの中心にいた、フランス人形人間だ。名前は……玲子、だったか?
私の目線に気がついたのか、玲子は目線を上に上げた。
私はさっと隠れた。
「誰?フュー?ジュンくん?それとも、らいうちゃんのお友達?」
……どれでもない……から返事はしなくてもいいかな。
「……サンク……か……?」
ジュン少年が起きた。
私のことは見向きもせずに、窓へ向かい、窓から下を見下ろした。
サンク? サンクは、夢の中の、たぬき娘の友人の名前だ。そういえば、声の質が、同じだ。見た目は変わっている、が。
「ジュンくん!ジュンくんじゃない!良かった、生きてて……。」
生死を争うような深刻な状態だったが。
私以外は……死んでも死なないかもしれないが……。あの時はそんなこと考えられなかった。パニック状態だったのだろう。
……返答の種類も、そっくりだ。だが、一瞬だけ見たあの見た目は、明らかに、私の、私の記憶の中にある、玲子・ラストベルトだ。
「今そっちに行くわ!」
げっ。
それはやばいな。
向こうは私の事など覚えていないだろう。視界にすら入ってないはずだ。だが、今の私の状態だと、ボロが出かねない。
たぬき娘と私の関係を説明するのは相当に面倒だろうし、その義理もないししたくない。
辺りを見回すと、クローゼットがあった。……よし。ここに隠れよう。
数刻して、玄関ベルの音と扉を開ける音、そしてすぐに、フランス人形人間……フランス人形玲子サンクの声が聞こえた。
「ジュンくん、あのね……フューがまだ見つからないの……一緒に探して!お願い!」
「フューが……か?分かった……今……痛っ」
今にも死にそうなジュンの声と、慌てるフランス人形玲子サンクの声がした。長いな、フランス人形玲子サンク。……サンクで良いか。たぬき娘もそう呼んでいた事だし。
「ジュンくん!?それ……どうして左腕が……」
「持ってかれたんだ。それに……おかしいのは俺だけじゃない。サンク。お前の見た目も……何があった?」
ああ、サンクと呼ばれていた少女は、ここまで見てきたたぬき娘の記憶だけに限れば……薄紫色の髪に、薄紫色のクールな目だったはずだ。
ところが、先程ちらっと見たサンクは、私の記憶の中の玲子と同じだ。
髪色と目の色こそ同じだが、ふわふわな髪質に、まつげはこれでもかというくらい多い。とてもじゃないけど、クールな目とは言えない。そして、陶器のように白くてすべすべな肌。
……方向性は違えど、どちらの姿も、すれ違った人が思わず振り返って立ち止まってしまうほど整っている、という点だけは変わらないな。
「えっと……その……これは……」
サンクの声は震えているような気がした。
ふう……。
サンクはしばらく喋りそうにもない。いや、喋れそうにもない、が正しいだろうか。
いいや。
待っている間、たぬき娘の記憶でも見よう。
たぬき娘の記憶の鮮明度は、すごく高い。きっと4Kとか、そういうんだろう。知らんけど。
最近は4K以上のもあるらしい。更に、最近は、第四次産業革命なんてのもあるらしい。産業革命ってすごい。カップラーメンとかもきっと全て、楽なことは産業革命から始まったんだ。きっと未来では、動かなくたって何でもロボットがやってくれるんだ。
《堕落するのは良いことですね。堕ちてくれれば、私も干渉しやすくなりますから!》
ん?
きっと、サンクか少年ジュンかたぬき娘がなんか言ったんだ。
そうに違いない。
この頭の痛みはきっと気のせいだ。
第八章がはじまります。
8000PV達成!!!
いつも見ていただきありがとうございます( ´ ˘ `)_ _)( ´ ˘ `)_ _)
現在進行中の現実世界ではサンクとジュン、来羽とらいうが合流した様です。
では夢の世界では?
終章まで、折り返し地点を過ぎました。世界の変革が起こります。
変革が起こるので、毎日更新になる予定です。
よろしければリアクションなど、よろしくお願いいたします。




