10月-2
長い夢を、見ていた気がした。
長くて長くて……体がふらふらした。
足がガクガクした。
普段はもやしが主食だけど、今日は無理だ。
冷蔵庫の横の段ボールを漁る。
あった。ご飯パック。
電子レンジで温める。
この60秒がまるで永遠の時のように感じられる。この隙にお箸とお茶碗を用意する。
救いの音が鳴る。
扉を開けて、ご飯をお茶碗にあける。
何もかけずにひたすらかっこむ!
ちょっと喉につまりかけて、我にかえった。
今、何時だ……?
スマホを手に取り、電源を入れる。
朝の六時……むむ。健康的。休日だからぐっすり寝ようと思ったのに。
……今画面の表示おかしくなかった?
もう一度スマホの電源を付ける。
「……にちようび……」
え、寝たのって……
土曜日の記憶がない。
嘘……。
その時、スマホにメッセージがたくさん入っていることに気がついた。
『らうっちー明日の集合時間だけど、午後の10時でどうー?』
(首を傾げるスタンプ)
『らうっちー寝てるのー?』
(バシバシ叩き起こすスタンプ)
『明日さー、どこ集合にするー?』
『夕飯どうするー?』
(ねーねーと引っ張るスタンプ)
(構ってよーと泣き崩れるスタンプ)
(ちらちらこっちを見るスタンプ)
……ふむ…。
私はメッセージを打とうとした。
ピーンポーン。
……良かった。恵だ。
「らうっちーーー!?あ!!!いる!!!」
右耳と左耳がくっつきそうな大声だ。もう少し抑えてほしい。近所迷惑というものが……。
いや、今回は私が悪いな。
玄関のドアを開け……ようとしたら、途中で、恵がひったくるようにドアを勢い良く開けた。
とりあえず、返事を、簡潔に返さなければ。
「……寝て、た。10時で良い。小学、校前。夕、飯は家、で食べてく。」
「心配したんだよーーー!?」
うっ。
「ごめん。」
「よろしい!」
久しぶりに、恵とこんなに長く顔を突き合わせた気がする。
恵はすっかり、あの人間達と絡まなくなってしまった。
……私は何もしていない。ただ、恵は鈍い人間ではない。鈍い人間ではない、から……何かに気づいてしまったのかもしれない。
恵も人間をやめたらどうだろう。
……すぐに、その考えが馬鹿げていると思った。
大抵の人間は自らが人間である事を早々簡単にやめられないのだから。
「?らうっち、どうしたの?」
「別、に。」
私は視線を誤魔化すかのように、カーテンを開けて外を見た。
久しぶりの太陽光だ。
「らうっちって意外と太陽平気だよね。」
私の事をドグダミだと思ってる?
もしも……もしも、あのまま永遠に目覚めなかったら、もっと、寝る時間が長かったら……私はどうなっちゃってたんだろう?
やつれて静かに眠る姿を思い浮かべた。
ぶるっと体が震える。
「寒いの?らうっち。」
「さむ、くない。」
うーん、と恵は少しばかり考えた後、私に布団を被せてきた。
「!?」
「とりゃあ!らうっちのす巻き寿司〜」
なかなか渋いの知ってるな、普通の女子高校生の人間にしては。
手足が動かせない。かと言って眠くもない。
だが……秋先の、エアコンが必要なくなった寒さの季節に必要な、ぬくもりを感じた。
その後私は支度を終わらせて、家を出る夜9時半まで昨日やるはずだった宿題をやった。
恵は不満そうだったが。どうせ早く来たから一緒に出かけたかったらしい。体力が無くなっちゃうじゃないか。
恵はぶつくさ言いながら一旦家に帰った。弟を迎えに行かなければいけないらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
夜の10時5分、小学校の前に到着した。
「あっ!来たー!」
恵が勢い良く手を振って私を迎えた。
「姉さん。恥ずかしいからやめて。もっと普通らしくしてよ。」
やっぱり、私こいつ嫌い。
横で心底面白くなさそうな顔をした小学生が、スマホをいじりながら姉を見ずに言った。
恵が軽く弟を小突く。
「え〜っ?そんなことないってー!みんなこんな感じだよ〜?」
「そんなわけ無いでしょ。ま、姉さん馬鹿だから分かんないだろうけど。おれは他人のふりしてるから話しかけないで。」
恵はそーんなあ〜っと弟の肩をつかんでガクガクゆらした。まず一人称から気に食わない。なんだよおれって。背伸びしやがって。
「恵、夜だ、から。早、く、行こう。」
「オッケー!よっし、行こう!」
恵は指で丸を作り元気よく言った。よくそんな元気あるな……。
私達はそっと夜の小学校へ忍び込んだ。
恵の弟の学校は機械警備らしい。
ただ、すべての扉と窓にセンサーをつけるわけには金銭的にいかないらしい。
それでも、校舎の近くに行くだけで一苦労だと思うけど……。
結論から言うと、難なく成功した。
少しばかり古い学校だったので、ある一つの窓の立て付けが悪く、鍵がうまくかかっていなかった。
そこに恵の弟が目ざとく目をつけていて、そこから中に入ったのだ。
なんか閉まったらセンサーが、とか言ってた。詳しくは知らん。
今時相当珍しい木造校舎だ。ぼろっぼろ。
一回焼けた事があるらしい。そのせいだそうだ。改装まであと……2年。
それで、怪談とかが掃いて捨てるほど、ある。
階段の数が変わるという定番中の定番から、今の学校にはほとんど無い焼却炉にまつわる怪談。焼却炉の近くに立つ女の人。噂だけで、誰も見たことは、ない。
そんなもんだから、肝試しの定番らしい。
なぜこんなに知ってるかというと、私は昔こんな話をこの小学校で延々と聞かされ続けていたからだ。小学生はこういう話が大好きなんだ。
廊下を歩くとギシギシ音が立つ。他に人間がいたらバレてしまうだろう。バレたら怒られるだろうな……。
一番前を恵、その後ろを弟、私。
教室の窓ガラスはヒビが入っていて、ガムテープで補強してある。いいのか?こんなんで。
「まずはここ!理科室!」
「姉さんうるさい。誰かに見つかっちゃう。姉さん馬鹿だからそんなことも考えられないんだね。」
恵はよくこんなのを弟として扱ってるな……。
恵はははははと軽く笑顔でその言葉を流した。
いつか弟の口にセメントを流し込んでやれ。
それで?理科室には何がいるんだ?
「理科、室、何、がい、るの?」
「ここにはー、なんと!バク転する人体模型と骨格標本があります!」
うそだ。
私にも出来ないんだぞ。
その後も、音楽室だとか、校長室だとか……私達は一つずつ教室を回っていった。
元々お化け退治が目的だったのだが、退治しようにもおばけが出てこない。
「んー。全然いないねー。次の部屋が最後なのに。」
「だからただの噂だって言ったじゃん。話聞いてなかったの?」
「噂だからといって、いないってわけじゃないでしょーー!」
「だからいないもんはいないの。そんなん信じてるの?」
弟の言葉に恵がため息をついた。
「ねえ、恵。」
私は恵に話しかけた。普段ニコニコの恵の表情が崩れていたせいか、私の声は震えていた。もしくは、何かを感じ取ったのか。
「恵は、幽霊とか、妖怪とかって、信じてるの?」
恵がにっこり笑い直して言った。
「もちろん。見えるもん。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
私達が最後に入ったのは、普通の教室だった。
6−2。六年二組という意味だ。
ここは……知っている。
「ここには、プリンの怨念がいっぱいに詰まった、怪物プリンリンが出るんだって!」
……は?
「プリン、リン?」
「一番馬鹿な噂だよ。ありえない。ネーミングセンスもないし。怪物なんて居るわけ無い。」
「でも怪物プリンリンと一緒にでる女の子の幽霊が、一番この学校の小学生を震え上がらせているんでしょ?」
「その中におれは入ってないよね?入ってたら姉さんの恥ずかしいエピソードをインターネットに垂れ流すからね。」
プリン……。
……ああ、頭が痛い。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「むーー…結局なんにも居なかったねー……」
恵がしょんぼりとして言った。
「居て、欲しかっ、た?」
「うん……うん!居てほしかった、かな!悪さをしないお化けならお友達になれるもん!」
「姉さんがガキみたいにぎゃーぎゃーわーわー煩く叫んでるから出てこないんだよ。もっと大人の落ち着きを持ったほうが良いよ。」
私達は小学校を離れる事にした。
時刻は夜の12時。真っ暗だ。
校門に差し掛かったとき、不意に私は視線を感じて校舎を振り返った。
「どうしたの?」
私の後ろにいた恵とばっちり目があい、気まずくなって、すっと目を逸らしてから思い立った。あ、校舎の方を見ようとしてたんだっけ。
「校、舎、の方に何、か。」
もう一度校舎の方を見ても何も居なかった。視線も感じなかった。
「何か見つけた!?」
「何、急に。またおれには見えない何かとコンタクトを取ろうとしてるの? いるわけ無いでしょ。」
そう、いる訳がないのだ。いる訳が……。
少しブルっとして、その日はまっすぐ家に帰った。
きっと、秋口の寒さのせいだ。
お化けよりも生身の人間の方がよっぽど怖いってよく言いますよね。
皆さんはどちらの方が怖いですか?
私はどっちも怖いですが、
怖いって言ってると言霊効果で怖いのが本当に顕現するかもなので、
怖くない、可愛くて素敵な感じだといいなと思ってます。((( °ω° ;)))




