その甘いニオイはもう嫌だ?
メイドさんは大砲を両手持ちに切り替えた!
僕はよく柔軟をして……クラウチングスタートを……!
「何をしていらっしゃるのですか。まだ仕事は終わっていません。」
「たぬーたぬー!?」
仕事!?これ仕事なの!?金!?金もらえる!?
「作戦をアウトプットいたします。少々お待ちください……。」
あう……?なんだって?
その時、僕の頭に地図のような画像が浮かんだ。え!?え!?
メイドさんの位置とー……僕の位置……あと恋愛竜フラウの位置……?
「まず、マスターはマジックの使用後、フラウの裏側に回ってください。フラウの注意がマスターに向きましたなら、こちらからフラウの足元を狙い、横転させます。そしてフラウが転倒しましたら、頭部を撃ち抜きます。」
頭を。
目を射抜かれたミファスムを思い出すなあ……痛そうだったなあ……。
少しばかり作戦が簡単すぎる気がするけど……、ちゃんとできるのかなあ……?
……とりあえず、僕は言われた通りに走る!!
「たぬぬぬぬぬ!!!」
「キュイイイイイイイイ!」
ううううるさい!
フラウからリボンのようなものが伸びて僕を追う。は、はやい!!
「てぬっ!」
これ、え、いつもの巨大化とかたぬきんぐだむとか使えないパターンじゃん?
やばいやばいやばい!
「とぬっ!?」
だって大っきくなったらおっきくなってるうちにこのリボンに捕まるって!
「たぬうううう〜!!」
そ、そうだ、こういうときこそ、僕の秘められた射撃の才を開放するときでは!?
「たぬきたぬっち![たぬっぬー]!」
(スキルスイッチ![無鉄砲]!)
おおおおおぬいぐるみの手の先が光ってええええ!!!リボンを狙ってええええ!
「どたゃぬ!」
一気にフラウから距離をとった!
リボンには……あたらず……無鉄砲の弾は……遥か彼方へ……。きらーん。
ほーーむらーーん!
ふむう。僕自身に射撃の才能は無かったようだ。
「たぬ!?」
無鉄砲の行く先を見守っていたらいつの間にか、フラウが近くに来てて、僕をリボンでからめとってる!?
食われる!?
「たぬううううううううううう!?」
「―――目標確保。充填完了。発射」
どおんっという大きな音がしてフラウの体がよろめいた。僕は素早く右斜め上に逃げ出した!そしてそのままフラウの後頭部めがけてーーー!たぬどりるー!
「たぬううううう!」
「は」
たぬきとメイドさんのダブルキックがフラウの後頭部に炸裂!いええええ!思い知ったか!香水プンプンドラゴン!
む。僕の攻撃がほとんど効いてないとか言うなよ?確かに蹴りは僕のはちょんっでメイドさんのがどがああっんだったけど。そこは囮役の最大限だと思ってほしい。だって僕たぬきだしー。
メイドさんが僕を左の小脇に抱えた。
フラウが最後のあがきとばかりにリボンをあやつって僕らを捕捉しようとしてくる。
つ、捕まっちゃうー!!
メイドさんはそのリボンをかいくぐり、大砲を右手だけで持ち、リボンの上を走りながら
「距離計測。高度計測。目標確保。充填完了。」
もう僕は覚えた。この次の言葉は……!
「発射」「たぬっ!」
フラウの頭に大砲から出たエネルギーがぶつかり、爆発した。
雷がフラウに落ちた。
《恋愛竜 フラウ 討伐完了
報酬10000スター
ドロップアイテム
恋愛竜のかけら×1
恋愛竜の鱗×10
恋愛竜の牙×2
恋愛竜の翼の皮×1
フラウブーメラン×1
フラウクリスタボール×1
フラウの加護×1》
お……お……!?
おおおおお!こんな、こんな、あっさり!
「たぬうたぬうたぬう!」
「マスターの情報アップデート。アップデート完了。では行きましょう。」
てぬ?
え、感動してる最中なのに!?
どこに行くんだメイドさん!
僕は人間に戻ってメイドさんの手を掴んだ。
「え、え、どこ行くの!?どこ行くの!?」
「バランスです。気軽に触らないでください。」
お、おう。
僕はぱっと手を離した。メイドさんはスタスタと歩きはじめた。
バランス??
「バランスって?バランスゲームやりに行くの?それとも平均台?三半規管鍛えに行くのー?」
「否。バランスは都市名です。裁決竜が治める街で、モンスターをティムし、ペットにする行動が盛んに行われています。他に、バランス図書館も人気の観光スポットです。」
採血!?
「血、血を取られるの!?」
「裁判の裁に決済の決です。」
はーん……。
モンスターを……なんだっけ……。
「トムって誰?」
「テイムです。英語で、飼いならされた、手懐けられたという意味です。自分の意のままに強大な力を持ったものを操りたい、そんな高慢なドリーマーの願いが形になった街です。」
淡々とメイドさんはそう述べた。
ん……怒ってるのか、それともただ単に事実なのか……空気読み歴11年の僕には分からぬ。
……11年?いや、いやいや、僕は高校生、だから、えっと、15年だよ、ね。
じゃあ言われるがままにバランスに……あっ!
「だめだめだめだめ!サンクがスライス・ジャックと戦うって、言ってたし!僕はサンク応援しないと!」
仲間だし!と言おうとしたところで、僕の中で再度、ある疑問が首をもたげた。
僕が一緒にいて、彼らのためになるんだろうか?
むむむ……うー……ここでしゃりしゃり戻ってくるのもなんか……なんかー…。
「でもうでもう……ここで行かなかったらー……少しばかりー薄情みたいだしい……。」
「応援は必要不可欠でないので問題ありません。マスターが強くなって彼らの元に戻った方が、より彼らのためになります。」
うっ。正論な気がする……。
「えうーあうー……でもこうさ……なんとなく心の奥がこー……モヤっとするというか…」
「感情よりも理論で動くべきです。」
二度目のうっ。
うっうーー……だめだ!今の僕にはこの完璧なメイドさんを論破するだけの技量がないっっ!!
しょうがない……メイドさんと一緒にバランスに行くかあ……。
「マスター。あと5分ほどで眠りにつくお時間です。」
えっ。
「スキルスイッチ![野宿]!」
僕の姿が変わった。今日は……うーん。草むらかー……。
ごめんね。メイドさん……ん!?
あ、あれ!?メイドさん!?
いない!?
なぜ!?
ん……まあ、出てきたときも突然だったし……。
そういうことも、あるんだろう。
あるある……あるある……あるある……たぶん…………
帰るべきだと思います。




