もしも未来が見えたなら。
「スライス家の長男、ジャック……様と私は婚約していたの。」
「スライス……先程ジュンさんが言っていた通り、貿易会社から銀行まで幅広くやっている、あのスライスのことですか?」
ははあん。婚約。
……こんやくう!?
いやいや待って。こんにゃくの聞き間違いかもしれない。そうだ。きっとそうだ。
ジャック・サマ?サマー?とサンクがこんにゃくをしていた……こんにゃくごっこかなあ?腸をきれいにする遊び……?
「でも、ある事があって……婚約を破棄することになったのだけれど」
こんにゃくを破棄……もったいない!賞味期限切れか!?
「お父様とジャック……様は許してくれなくて……その時の私は幼かったから、お母様と一緒に逃げたわ。逃げることしか、できなかった。」
こんにゃく、好きだったんだね…ジャック・サマーとお父さんは……。
「でも、きっと、もう逃げられないの。逃げられないなら立ち向かうしかないじゃない。いつまでも流されてばっかりじゃだめなのよ!今は[プレデクテッド・アイ]だってスキルだってテクニックだって……十分に立ち向かう術を持ってる。なら、きっと私、今の私は……」
サンクはぐっと拳を握った。なんだっけ、プレ……って。
あー……思い出した。サンクのマジックだ。未来見れるやつ。
「だが……なあサンク、……スライス家というものが、ここにもあるのか分からんぞ?パリだって、現実とは違うじゃねえか。」
ジュンが、最後に「まあ俺は行った事ねえが。」と付け足しつつ言った。
げん…じつ…?
いやいやここが現実じゃないの?
「ジュンさん。では、追いかけてきた人達はどういうことなのか説明してください。さんはい。」
フューがスマホを操作しながら言った。僕の疑問はあっという間にはるか彼方へ飛んでった。そうだよ僕ら追いかけられてたんだった!
「あのなあ……じゃあ、百歩譲って居るとしよう。だが、たとえ居たとしても、相手だって強くなっているはずだろ?それに……」
ジュンは何かを考えるかの様に、サンクから視線を外して、続けた。
「それに、この世界で何かをしたって現実で何かが変わるのか?」
ジュンがなんかおかしい。
「ジュンー?」
「なんだよ?」
ジュンは落ちていた木の枝を手の中でこねくり回しながら僕の方を見た。
「なんか、うまく言葉にできないんだけど…ジュンがそんなんなのは何で?」
「そんなんって、どんなんだよ。」
そんなんはそんなんだよん。
「なんというか……質問攻め、みたいな?否定的、的な?心配でもさあ、色々と思い悩むより、当たってぶつかってばあんって砕けた方がいいんじゃないのー?」
「砕けたら駄目でしょう……。」
そう言うフューの声にかぶさるように、ジュンがはあっとため息をつき、目をうろうろとさせて、すっと閉じて、言った。
「今は、言えない……が。」
ジュンはうつむいて、紺色の目を薄っすらと開けた。
「この世では、な、圧力ってやつをはねのけたり、今の状況を変えようと思うと、どうしても……犠牲が出るんだ。俺はそういうのは良くないと思うし、俺がそういうものに巻き込まれるのも、もう、嫌なんだ。」
僕にはそういう複雑なことはよくわからない。変わることはいいことだと思うけど……。
分かんないけど、でも、サンクもジュンも切ない顔をしているのは嫌だなあと思う。二人が笑えるようなハッピーエンドは……。
あっ!
ものすごーく普通の、ナチュラルなのを思いついた!ふふふ、さすがは頭脳明晰なたぬきだ!
「じゃあさ〜僕が」
「では、こちらに参加するのはどうでしょうか?」
あ、え!?あの、フュー、さん?それは……?
「なんだ、そのしわくちゃな紙は。」
「水からあがったジュンさんに貼り付いていたものですよ。」
フューはスマホでずっと、この紙に書いてあるものが存在するのか、などについて調べていました。
ジュンはまだ具体的には言いたくないそうです。追い詰められなきゃ彼は言わんでしょう。どの口がサンクに促してるのでしょうか。




