第七話:神を狩る者、神を「自認しない」少年
凛の「お掃除」によって、一晩にして地獄から楽園へと変貌した獣人の集落。その噂は、悪い風に乗るように瞬く間に広まりました。
「ほう……泥水が万病を治す聖水に変わり、砂漠に黄金の果実が実っただと?」
隣国の軍事国家『グラド帝国』の野心家、バルトス将軍は、ギラつく瞳で集落を見下ろしていました。彼の背後には、数千の精鋭兵と、巨大な対竜用魔導砲を装備した軍勢が控えています。
「その『神』とやらを捕らえよ。我が国が独占すれば、世界は帝国の軍靴に屈することになる」
凛の「おもてなし」勘違い
一方、集落の入り口では、凛が慌てふためいていました。
「紅! 大変だよ、あんなにたくさんの人が来ちゃった。きっと、僕が井戸を壊しちゃったから、修理しに来てくれたのかな?」
凛の目には、殺気立つ軍勢が「親切な土木作業員の一団」に見えていました(超ポジティブな勘違い)。
「あるじ……あれは掃除すべき『塵』です。紅がひと焼きにして、その魂を冥府へ送り届けてまいりましょうか?」
「ダメだよ紅! 挨拶に行かなきゃ。……えーっと、すいませーん! 遠くからわざわざありがとうございます!」
凛はトコトコと軍勢の真っ正面へと走っていきました。
バルトス将軍は、目の前に現れた「中性的で可憐な少年」を見て、鼻で笑いました。
「貴様が噂の神か? 存外、弱そうなガキだな。……全軍、構え! その小僧を捕らえ、抵抗するようなら手足を落とせ!」
「放てッ!!」
将軍の合図とともに、数百の矢と、魔導師たちによる爆裂魔法が一斉に凛へと放たれました。
史上最も静かな「無双」
ドドドドドドドドォォォォォン!!
爆炎と土煙が凛を包み込みます。獣人たちが悲鳴を上げ、紅がその瞳を凍てつくような冷徹さへと変えた、その時。
「……ふわぁ。あ、あの! 砂埃がすごくて、ちょっと目に入っちゃいました……」
煙の中から現れたのは、服の裾すら焦げていない凛でした。
数百の魔法と矢は、凛の**『全属性無効』と『物理攻撃完全反射』**という、本人も知らないパッシブスキルの前では、ただの「心地よいマッサージ」ですらありませんでした。
「な、……なんだと!? 魔法が消えた……だと!?」
驚愕する将軍をよそに、凛は「お返しの挨拶」をしようと考えました。
(そうだ、遠くから来てくれたんだし、何かプレゼントを……。でも、何も持ってないから、精一杯の握手だけでも!)
凛は、馬に乗ったバルトス将軍の元へ一瞬で肉薄しました。
レベル無限の脚力による移動は、周囲からは「瞬間移動」にしか見えません。
「よろしくお願いします!」
凛が将軍の手を、ほんの少し「ギュッ」と握りました。
バキバキバキィィィッ!!!
「ぎ、ぎゃああああああああああああああ!!!」
将軍の重厚な魔導アーマーが、凛の「普通の握手」に耐えきれず、まるでアルミホイルのようにひしゃげました。将軍はそのまま、握られた衝撃の余波だけで、数百メートル後方の岩山まで吹き飛んでいきました。
「……あれ? 将軍さん、急に飛んでいっちゃった。……あ、もしかして、僕が弱すぎて、握手するのも失礼だったのかな……?」
凛はショックでガックリと肩を落としました。
それを見た兵士たちは――。
「しょ、将軍が……一撃で……」
「あの少年、笑いながら(※凛は困っているだけです)将軍を消し飛ばしたぞ……!!」
「化け物だ! 神じゃない、あれは『破壊神』だぁぁぁ!!」
数千の軍勢は、武器を捨て、我先にと逃げ出していきました。
女神の独り言
「……凛。今のあなたの握手、威力だけなら隕石の衝突に匹敵していましたよ。相手が即死しなかったのは、あなたの無意識の優しさが、死なない程度に加減(レベル:無限)したからですね。……もう、平和主義者の皮を被った天災ですよ、あなたは」
「紅……みんな帰っちゃった。僕、嫌われちゃったのかな……」
「いいえ、あるじ。彼らはあるじの『覇気』に耐えきれず、修行へと戻ったのでしょう。……ふふ、流石はあるじです」
凛の勘違いは、ついに一国の軍隊を壊滅(撤退)させるレベルにまで到達してしまいました。




