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第五話:無力な僕の「話し合い」


凛と紅(ローブをぐるぐる巻きにした状態)が辿り着いたのは、高い石壁に囲まれたヒューマンの村でした。しかし、活気があるはずの広場からは、怒号と鞭を打つ嫌な音が響いていました。

「動け、この薄汚い獣人め! 運搬が遅れた分、飯抜きだ!」

屈強な村の自警団たちが、重い石材を運ばされているボロボロの獣人の子供たちを痛めつけていたのです。

「……あんなの、あんまりだよ」

凛の胸が、ぎゅっと締め付けられました。

かつて自分がそうであったように、誰かに救われるのを待っている瞳。凛は、自分が「無力なヒューマン」であることを一瞬忘れ、足を踏み出していました。

「やめてください! そんなに叩いたら、死んじゃいます!」

「あぁん? なんだお前、中性的なガキだな……余計な口出しするんじゃねえ!」

自警団の一人が、威嚇のために鉄のメイスを凛の頭めがけて振り下ろしました。

ガィィィィィィィィン!!!

鈍い衝撃音が広場に響き渡りました。

村人たちは、少年が頭を砕かれる光景を想像して目を背けましたが……。

「……? 痛い、かな?」

凛は、頭の上にメイスを乗せたまま、少し首をかしげました。

一方の自警団は、まるで巨大な岩盤を全力で叩いたかのような衝撃が腕に走り、メイスの柄がひしゃげているのを見て、目玉が飛び出しそうになっています。

「な、なんだ……!? お前の頭、鉄でできてるのか!?」

「いえ、普通の人間ですよ? ちょっとたんこぶが出来たかもしれません……。それより、その子たちを離してあげてください」

凛は「弱い自分にできること」を必死に考えました。武力で戦うなんて、そんな恐ろしいこと自分にはできません(と、本人は思っています)。

「……そうだ。僕にできるのは、**『身代わり』**になることだけだ」

凛は決意に満ちた瞳で、自警団のリーダーを見上げました。

「僕が、その子たちの代わりに働きます! どんなに叩いても、どんなに重いものを持っても構いません。だから、その子たちを自由にしてください。……あ、あと、紅も僕の家族なので、いじめないでくださいね」

背後で、紅の瞳が「あるじを叩く……?」と冷酷に細まり、周囲の気温が急上昇しましたが、凛は気づきません。

「……ふん、面白い。なら、あの『聖騎士様でも持ち上がらなかった呪いの石柱』を一人で運んでみろ。できたら解放してやるよ!」

それは村の奥に転がる、数トンはあろうかという巨大な黒い石柱でした。

凛は「重そうだな……」と不安になりながらも、石柱に手をかけました。

「う、……うーん、しょ!!」

ズ、ズズズ……ドォォォォン!!

凛が少し気合を入れて持ち上げた瞬間、石柱はまるでおもちゃの風船のように軽々と持ち上がり、そのまま勢い余って村の広場の地面を陥没させました。

「あ、あれ……? 思ったより軽い……? もしかして、僕が死にすぎて感覚がおかしくなったのかな?」

実際には、レベル無限の筋力が働いただけなのですが、凛は「きっと、この石が中身スカスカだったんだ」と解釈しました。

さらには、石柱にかけられていた古代の呪いが、凛の「全状態異常無効」という体質に触れた瞬間、パリンと音を立てて砕け散りました。

「……じ、呪いまで解きやがった……」

腰を抜かして震える自警団たち。その姿を見て、凛は申し訳なさそうに言いました。

「すみません、地面壊しちゃって。……あの、約束、守ってくれますか?」

凛の背後では、紅が静かに指先から小さな火花(当たれば村が消える)を散らしながら、ニッコリと微笑んでいます。

自警団たちは、凛の「底知れない魔圧」と、横に立つ美女の「殺意」に同時にさらされ、泡を吹いて気絶しました。

「あ、あれ? 寝ちゃった。お疲れだったのかな……」

凛は、縛られていた獣人の子供たちの縄を、指先でぷちぷちと(鋼鉄の縄を糸のように)引きちぎっていきました。

女神の独り言

「凛……。あなたが『弱者の覚悟』で持ち上げたその石柱、かつて魔王が封印された呪いの遺物ですよ。それを『中身スカスカ』で片付けるのは、封印された魔王が泣きますよ……」

「よかったね、みんな! 紅、この子たちに僕のご飯を分けてあげよう」

「はい、あるじ。……でも、紅は少しだけ、あのごろつき達にお仕置きをしてもよろしいでしょうか?」

凛の無自覚な救済劇は、こうして一歩ずつ世界を変えていくのでした。

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