第十八話:故郷への凱旋、そして「お掃除」
凛の胸には、一つの忘れられない記憶がありました。
かつて、魔力が「0」だと蔑まれ、冷たい雨の日に国を追われた幼い自分。空腹と絶望で倒れそうになった時、名前も告げず、ただ一枚の温かいパンを差し出し「生きろ」と頭を撫でてくれた、一人の名もなき老兵の姿。
「紅……僕、あの人に会いに行きたいんだ。あの時の恩返し、まだできてないから」
「あるじの恩人は、紅にとっても恩人。……そして、あるじを傷つけた愚か者共は、紅にとっての『塵』ですわ」
大人の女性へと成長し、魔力を完璧に制御した紅は、凛の腕に優しく寄り添いながら、その瞳に静かな(しかし苛烈な)決意を宿しました。
亡国の危機? 凛の「里帰り」
凛がかつて住んでいたヒューマンの国『エルドランド』。
そこは今、近隣諸国の侵攻と重税に喘ぎ、どんよりとした暗雲に包まれていました。
「ひえぇぇ!? な、なんだあの巨大な……光り輝く物体は!?」
国境の守備兵たちが腰を抜かしました。
空から降りてきたのは、ダイヤモンドでできた宮殿の一部を(凛が壊してしまったので)改築した、空飛ぶ黄金の船。
そこから降り立ったのは、神々しい後光を背負った美少年・凛と、彼に寄り添う、この世のものとは思えない美貌の女性・紅でした。
「あ……懐かしいな。あそこの門、僕がいた頃はもっと綺麗だったのに、ボロボロだ」
凛は悲しくなり、門にそっと手を触れました。
(綺麗になーれ、昔みたいに……!)
ゴォォォォォォォォォン!!!
凛が触れた瞬間、錆びついた鉄門は一瞬でオリハルコン製の聖門へと作り変えられ、城壁全体が呪いを跳ね返す「絶対障壁」を纏いました。
「……門が、門が生きている!? 傷が塞がっていくぞ! 奇跡だ、奇跡が起きたぁぁ!!」
「無自覚な復讐」の始まり
城下町へ進むと、そこには凛を追い出した当時の貴族たちが、今や没落し、民から略奪を繰り返して私腹を肥やしている光景がありました。
「おい、そこの小僧! その連れている女を差し出せ! 我ら貴族の命に背くか!」
かつて凛に「無能」の烙印を押した、肥満体の元公爵が怒鳴り散らしました。
「……あ、公爵さん。お久しぶりです。僕、掃除が得意になったんですよ」
凛はニコリと微笑みました。彼にとっての復讐とは、相手を倒すことではありません。**「不浄を消し去る」**ことなのです。
「皆さんの心、なんだか真っ黒でドロドロしていますね。……僕が、**『お掃除』**してあげます!」
凛がパチンと指を鳴らしました。
(レベル:無限×無限の浄化魔法)
シュパァァァン!!!
「ぎ、ぎゃあああああああ!? な、なんだ、この光はぁぁぁ!!」
公爵たちの体から、これまで積み上げてきた「強欲」「傲慢」「悪意」が、物理的な黒い煙となって排出されました。
光が収まると、そこには――。
「……私は、なんて酷いことを……。ああ、申し訳ない! 今日から全財産を民に返し、私は畑を耕して生きていきます!」
悪徳貴族たちが全員、涙を流しながら「聖人君子」へと浄化(強制改心)されてしまったのです。
それは、死ぬよりも過酷な「良心の呵責」という名の復讐。凛は「みんな、いい人になってよかったぁ」と純粋に喜んでいます。
ヒーローとの再会
そして凛は、場末の兵舎で、一人静かに余生を過ごしていたあの老兵を見つけました。
「……あんた、あの時の……?」
老兵は、あまりに神々しく成長した凛を見て、驚きに目を見開きました。
凛は老兵の前に跪き、そのカサカサに乾いた手を、大粒の涙をこぼしながら握りしめました。
「おじいさん……。あの時のパン、本当に美味しかったです。僕、今度は僕が、おじいさんをお腹いっぱいにします!」
凛が願った瞬間、老兵の古傷だらけの体は二十歳も若返り、彼の住む長屋の庭には、世界一美味しい果実と、黄金の麦が永遠に実り続ける「神の菜園」が誕生しました。
女神の独り言
「凛……。あなたが『お掃除』したせいで、この国の犯罪率は0%になり、平均寿命は150歳を超えましたよ。かつてあなたを捨てた国は、今や『地上で最も天国に近い国』と呼ばれています。復讐のつもりが、歴史上最も慈悲深い救済をしてしまうなんて……。本当に、あなたという人は」
「凛様。……これで、少しはスッキリしましたか?」
「うん! 紅、ありがとう。……さあ、おじいさんも一緒に、みんなでジャガイモパーティーをしよう!」
故郷を最高の「楽園」へと作り変えてしまった凛。
彼の伝説は、ついに神話の最終章へと差し掛かろうとしていました。




