表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

18/24

番外編:聖なる夜の、無自覚な約束


それは、魔界がイチゴの香る楽園へと変わり、異世界の勇者ハルトを見送った後の、静かな夜のことでした。

ダイヤモンドの宮殿のテラス。

凛は一人、夜空に浮かぶ二つの月を見上げていました。

「ふぅ……。今日もたくさん『お掃除』したなぁ。みんな、喜んでくれたかな」

そこへ、静かに歩み寄る人影がありました。

燃えるような紅い髪を夜風になびかせ、凛に着せられた聖なる衣を纏った少女――紅です。

「あるじ……こんなところで、何を?」

「あ、紅! 見て、今夜は月がとっても綺麗だよ」

凛が屈託のない笑顔で振り返ると、紅の胸の奥が、ドラゴンの逆鱗に触れた時よりも熱く、激しく疼きました。

彼女にとって、凛は命の恩人であり、育ての親(自称・母)であり、そして……。

「あるじ。紅は……幸せです。あの日、暗い穴の中で、あるじに拾われ、名前をいただいた。……紅の全ては、あるじのものです」

「何言ってるの、紅。僕の方こそ、紅がいてくれるから毎日が楽しいんだよ」

凛は、紅の少し熱い頬に、そっと手を添えました。

彼にとっては「家族」としての親愛の情。しかし、凛から溢れ出す『無限』の魔力が、紅の理性という名の防壁をいとも簡単に溶かしてしまいます。

「あるじ……。紅は、もっと……あるじと『一つ』になりたいのです」

「一つに? ……ああ、もっと仲良くなりたいってことだね! もちろん、僕だって――」

凛が言いかけたその時。

紅が、凛の言葉を塞ぐように、その紅い唇を重ねました。

――ちゅっ。

「……ん、……えっ?」

一瞬、世界から音が消えました。

凛の『全状態異常無効』のスキルも、この「甘い衝撃」だけは防げませんでした。

紅の唇から、彼女の命の源である『竜の魔力』が、凛の『無限の魔力』と混ざり合います。

二人の周囲で、空間が黄金の火花を散らし、枯れていた庭の花々が一斉に、月の光を浴びて青白く発光し始めました。

「……あ、あ、紅……!? 今のは、えーっと……」

顔を真っ赤にして固まる凛。

紅は、少しだけ潤んだ瞳で凛を見つめ、いたずらっぽく、それでいて深い愛を込めて微笑みました。

「これは、ドラゴンの『契約』ですわ。あるじ……これで、貴方の魂の半分は、永遠に紅のものです」

「け、契約……!? そんな大事なこと、先に言ってよぅ!」

「ふふ、あるじが『仲良くね』と仰ったではありませんか。……紅は、あるじの言うことを聞いたまでですわ」

紅は、戸惑う凛の腕に、幸せそうにしがみつきました。

その頃、壁の向こうでは……

「……ギギギギギッ……!!」

柱の影から、聖典をミシミシと握りつぶす聖女クラリスの姿がありました。

「……契約ですって? 竜のまじないなど、私の『神聖結婚ヒエロス・ガモス』の秘蹟で上書きして差し上げますわ……!! 凛様、覚悟なさいませ!」

「(……師匠、南無三。俺、もう止める気力もねぇよ……)」

勇者レオンは、遠くで爆発した「リア充」の魔圧に当てられ、ただ夜空を仰ぐしかありませんでした。

女神の独り言

「凛……。ついにドラゴンの娘と『魂の契約(口づけ)』を交わしましたね。これであなたの『人間離れ』に拍車がかかりましたが……まあ、あんなに幸せそうな顔をされたら、女神としても文句は言えません。……さて、明日の朝、聖女様がどんな『奇襲』を仕掛けるか、今から楽しみですね」


「紅、なんだか体がポカポカするよ……」

「それは愛の熱量ですわ、あるじ。……さあ、今夜はもっと、紅の温もりを感じてくださいな」

凛の無自覚な愛の旅路は、こうしてさらに深い絆(と、さらなる修羅場)へと続いていくのでした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ