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十年先も、また君と  作者: 深/深木
君と過ごした日々
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18/28

新しい日々の始まり

 この物語は親友のブラキオ王子の視点で書かれている、もう一つの【十年先も、また君と】です。

 大まかな話の流れや結末は変わりませんが、ブラキオ王子の視点で語られていくので【十年先も、また君と】に出てこない人物やエピソードも出てきます。

 また、こちらの物語は【十年先も、また君と】をもとに書かれているので、分からない単語や設定が出てくるかもしれません。それらのことをご承知の上、こちらの物語も楽しんで読んで頂けたら嬉しく思います。

 

 色鮮やかなドレスに身を包んだ貴婦人方に、それをエスコートする紳士達。テーブルには豪華な食事と酒が敷き詰められ、周囲は踊り疲れた者や談笑する者達で溢れている。世界各国の王侯貴族達が、ヴァッサー国の王城で華やかな宴を繰り広げていた。どの者達もその顔は笑顔で彩られ、大広間には幸せそうなふわふわした空気が漂っている。

 窓から城下を見下ろせば、いつもならすでに灯りが消え始める時刻にもかかわらず、今宵は未だに町中に灯りが焚かれ人々が道に集まっているのが見える。きっと煌々と焚かれているあの灯りの元で、民達もまた記念すべきこの日を喜び、祝っているのだろう。

 今日は国中、いや世界中が浮足立っているに違いない。何故なら、我々人間に課せられた幾千年と続く、贖罪の日々がついに終わりを迎えたのだから。つい数時間前に行われていた創国祭は神々に赦された日として永遠に語り継がれるだろう。

 思い返せば思い返すほど、夢だったのではないかと疑ってしまう。今日起こったことは幸せになることが決められているお伽噺のようで、当事者であるにも関わらず信じられない気持ちで一杯だ。しかし、今日の出来事は決して夢では無いのだと、何よりも己の体が証明している。

 そっと自分の胸元を寛げ、覗き見る。それは、先ほどから何度も行っている行為だった。通常の宴の席でこのような行為をすれば、あらぬ噂を呼ぶだろうが今宵に限っては似たような行動をしている者達が多くいるので許されるだろう。そう理由づけて人目も憚らず覗き込んだ己の胸元は傷一つ無い綺麗な肌色だ。今日の朝方には確かにあった紋様は綺麗に無くなっている。幼い頃より確かにこの心臓の上に刻まれていた呪いの証が無いと言う事実に、夢でも見ている気分だった。


「こんな所に居られたのですか、ブラキオ殿下。探しましたよ?」


 不意に声をかけられ、肩が跳ねる。慌てて胸元を整えて振り返れば、そこには見知った顔ぶれが並んでいた。


「! ああ。お前達か。……随分と豪華な面子で、一体何用だ?」

「先ほどたまたま会ってな! シュテルン殿に御礼を言いに行こうという話になったのだ」


 俺に声をかけてきたのがオープストのバオム王子、そして俺の問いに元気よく答えたのがグルートのロート王子。そして、その後ろにはシュピラーレのヴィント王子とエーアトボーデンのフォルゼン王子が居た。

 各国の王子で次期国王の立場を持つ俺達の間は、意外に気安い。と言うよりも次期国王と言う立場にいる俺に気安く声をかけられる身分の者は彼ら以外にそうそういない。そんな数少ない者達に部類される彼らとは、同じ運命を持つ故か、それなりにお互い心を開き合っているのだ。


「それで、シュテルン殿はどちらに行かれたのですか? 彼がこのような場であなたの側を離れるなど珍しいじゃないですか」


 ヴィント王子が言った言葉に他の王子達も同意し、頷く。確かにヴィント王子の言う通り、こういった公の場でシンが俺の側を離れるのは珍しい。俺達は大体一緒にいるし、騎士をつけずに俺が自由に過ごす為にシンは護衛もかねている。

 それに彼らは俺がシンにどれだけ依存しているのかも知っている。あんなことがあった今日は、それこそべったり側に居ると思ったのだろう。俺もそのつもりだった。しかし、今は彼の側に居ることは出来ないのだ。………………情けない俺を許してくれ、シン。


「シンなら、あそこだ」


 心の中で親友に手を合わせながら、体をずらして背後の一角を指差す。動いた指を目で追った王子達は、俺の後方に広がる光景を見て目を見開いていた。


「私っ! 心配で、心配で、仕方ありませんでしたのよ!? それなのにあなたときたら――――」

「心配は重々承知しております! その件に関しては、全面的に私に非があると思っていますから! 頼みますからこのような場で泣かないで下さい!」


 何故ならそこには、この喜びに満ち溢れた宴の席に相応しくない、悲しげな表情で涙を拭う可愛らしい女性と、それを必死に宥めるシンの姿があったからだ。


「なんだ、あれは?」


 痴話喧嘩にも見える、その異様な光景にいち早く突っ込んだのは意外にもフォルゼン王子だった。普段寡黙な彼がこのような突っ込みを入れるのは大変珍しい。あまり普段と表情は変わらないが、彼も彼なりに浮かれているのだろうか。そんな事を思いながら、彼らにこの状況を説明するべく俺は口を開いた。


「シンの母君だ」

「あの可愛らしい女性が、ズィルバー侯爵夫人ですか?」


 俺の答えに驚いたようにバオム王子が聞き返す。その驚きは無理も無い。亜麻色の髪を緩やかに結い上げた侯爵夫人はシンの母親とは思えない程、可愛らしいというか幼い顔立ちをしている。二十四、五歳くらいに見えるがあれで、今年三十五歳になられたはずだ。


「ああ。かれこれ五年はその御姿にお変わりが見られない不思議なご婦人だ。――――先ほど、侯爵からのお説教が意外に早く終わったと思ったら、従者に連れられてきてな。それからずっとあの調子なのだ。侯爵もシンに夫人を任せるとそそくさと何処かに行ってしまわれてな。私にはどうしてやることも出来ないから、此処から見守っている」

「シュテルン殿も、母君には頭が上がらないのですね」


 しみじみと告げるバオム王子に俺も頷く。


「あの侯爵さえも夫人には頭が上がらないらしいからな。昔、『母上は叱るのではなく、悲しげに訴えてくるから性質が悪い。女性に泣きながら言い募られたら男は頷いて宥めるしかない』とシンが言っていた。その時はそんなものかと思ったが、あれは確かに辛い」

 

 最初はシンと一緒に宥めていたのだが、耐えられなくなって逃げてきてしまった。その際、シンがとても恨みがましい目をしていたのだが見なかったことにした。母君の心配が分からないでもないし、今回の件はシンの自業自得だろう。…………だから俺は悪く無いはずだ。


「それにしてもブラキオ殿下とシュテルン殿はいつも仲が良くて羨ましいな。私も、二人の様な関係になれる相手を見つけたい。――――――二人が出会った時はさぞ感動的な出会いだったのだろうな。一体どんな出会い方だったんだ?」


 未だ涙ぐむ母君に詰め寄られ、たじたじのシンを見ながら己の行動を正当化していると、ロート王子にきらきらした目でそんなことを尋ねられた。


「そう言えば、お二人が出会った時の話は伺ったことありませんでしたね? 私も今後の参考までに伺いたいです」

「私も」

「我も気になる」


 ロート王子の言葉にヴィント王子が乗ってきたかと思えば、バオム王子やフォルゼン王子まで乗ってきた。その言葉を聞き、どうしようか思案する。シンの様子を窺えばまだまだ時間がかかりそうだ。彼らは気にしないだろうが、何も無く他国の王子達を待たせておくのは些か外聞が悪い。思い出話でもして場を繋げておくか。そう結論づけ、俺は記憶を整理するようにゆっくりとシンとの思い出を思い返し始める。


「……そうだな。初めて会った時はお互い最悪な印象だったと思うぞ?」

「そうなのか!?」


 俺の言葉にロート王子が驚きの声を上げる。


「ああ。初めて会った日に私は本気で泣かされたからな」

「泣かされたんですか!?」


 更に続いた言葉に今度はヴィント王子が声を上げた。バオム王子やフォルゼン王子まで驚き、目を見張っている。そんな彼らに俺は更に追い打ちをかけるだろう言葉を告げる。


「シンは容赦ないからな、軍盤で手加減なんぞ一切無しで叩きのめされて、十九連敗させられたな」


 俺の言葉に王子達は声にこそ出さないが顔を引き攣らせている。その表情があまりに可笑しくて、つい笑みが零れる。癖のある王子達にこんな顔させられるなんて流石はシンだ。しかし彼らはこれからもっと驚くだろう。そう言い切れる位、シンとの思い出は衝撃的なものばかりだからな。これから彼らが見せてくれるだろう表情を想像しながら、俺はシンと過ごした日々を聞かせてやるべく過去を思い出していった。




 四年。シンと過ごしたその年月は思い返せば短く、しかしどんな思い出よりも濃い。

 初めて会ったあの日から、たったの四年間しか経っていない。にも拘らず、彼の存在は俺の中でこんなにも大きく、何よりも大切なものだ。

 各国の王族や外交官から目をつけられるほど優秀なシンは、あの日どういう訳か俺と一緒に居ることを選んだ。未だに何故俺と居ようと思ったのかは分からないが、その事が俺の人生を大きく変えたのは確かだと思う。

 そして、シンと出会ったあの日から俺の人生は大きく変わり、過ごした日々は全てかけがえのない宝物だ。


 次の話は、キオがシンと出会う前日のお話です。

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