第90話 ガイド様と僕
仕事がバタつき妄想する時間が足りていない筆者です…。
もっと面白い妄想に耽りたい…。
港での騒動の後、僕たちはガイド様の執務室に向かうことになった。
教皇からは後ほど改めて謝罪と和解をしたいので後ほど食事をしようと誘われている。そこには仮面の七人も含まれていたのだが、素性を知られたく彼らに取っては仮面を外して国のトップと会うなどリスクでしかないのでロージが丁重に断っていた。
特にアリアナはこの国に知り合いもいるので、目立つようなことは避けている。
そんな彼らであるが、ガイド様の執務室に着いたら一斉に仮面を外し始めた。
「あれ?外しちゃっていいの?」
「あぁ、問題ねぇ。ルナーリア様は俺たち全員の素性を知りながら雇ってくれてるからな。」
「傭兵団『仮面の七人』には最近この国に蔓延している『怠惰病』の調査をお願いしていたのです。」
「たいだびょう?」
「『従属の腕輪』の劣化品みたいなもんさ。尤も、こっちは指輪だがな。
填めれば悩みもストレスも全部忘れてハッピーな気分になれるって触れ込みで闇取引されてる錬金道具だ。確かに全部忘れるみてぇなんだが気力や生活も忘れちまうようでな、填めて三日もすれば何もやる気が無くなってただボーッと天井を眺めるようになっちまうんだ。」
「それで怠惰病か…。何だか薬物みたいだな。」
「えぇ、実際に効力は似ていると思います。『怠惰の指輪』は幸福感を与える効果のせいで使用者が指輪に依存してしまうのです。
依存してしまった使用者を治すため、大聖堂に専門の病棟を作り、カウンセリングを受けたり世間から隔離する施策が取られているほど怠惰病はこの国では深刻な問題となっています。」
「そんなわけで指輪の出処を追った俺たちが辿り着いたのがリード男爵だった。リード男爵に取り入れば製造工場まで案内して貰える打算して潜入したはいいが、人攫いもやってるって知ったときには焦ったね。
どうやって逃そうか悩んでたところに現れたのがお二人さんだったってわけだ。あのときは邪魔されたくなかったんで戦っちまったが、結果的にシュウさんたちが来てくれて助かったぜ。まさかここまでデカい組織だとは思わなかったからな。」
「シュウさん、シルフィードさん。あのときはすいませんでした。」
テルが僕たちに向かって頭を下げて謝ってくる。
「テル君、頭を上げて。確かに初対面こそ最悪ではあったけど、僕もシルも今回のことは助けられたんだ。だから恨んじゃいないよ。」
「シュウさん、ありがとうございます。」
テルが満面の笑顔を向けてくる。この少年は将来イケメンになることを約束されたような顔立ちをしているので、こういった自然体がやけに映えてみえる。
前の世界でならアイドルをやっていても可笑しくない。
「あ、そういえば気になっていたんだけど、リッチーさんが牢屋で一番の歳上は自分だって言ってたあれってどういう意味なの?」
「どうってそのまんまの意味だ。俺っちはテルのガイド役をするために魂をシマリスに入れ替えられた。
ガイド役には知識が必要だ。だから人だった頃の記憶を残してシマリスになった俺っちは人生三周目に入ってんのさ。」
僕の疑問に答えたのはリッチーさんである。しかし、疑問を解決するどころかさらに疑問が増えてしまった。
「人生三周目って?」
「シュウさん、僕は一度しか使えないギフトを転生神から受け取ったんです。その名も『テイルズ・オブ・フェニックス』。発動者が死ぬと自動的に蘇生する能力です。
ただ、僕は寿命で死んだせいか、この能力が発動すると前世の記憶を残しつつ魂が別の身体に宿って蘇りました。そしてギフトを無くした僕の翼は片翼になっていました。
リッチーは僕がこの世界にきたときからガイド役をやってくれているので、前世の記憶も合わせると三百歳に近い年齢になるんです。まぁ、そう言う僕も転生前から数えると百歳を超えてるんですけどね。」
テルが『ハハハ』と笑って答えるが、途方もない話である。
百歳を超えて生きるというのはどれだけ長い年月に感じるんだろうか。仲の良かった者は死んでいき、自分だけ取り残されるということもあるだろう。
そう言えばテヒト首長はテルの部下って言ってたっけ。あの人も前世のテルを知っている貴重な人材何だろう。
「さて、そろそろ話を戻しましょう。
今回、シュウ様たちが関わってくださったことで敵の拠点にも目星が付きました。ナインフォセア王国も動き出してくれているので生産工場の在処も時期にはっきりするでしょう。
なので、『仮面の七人』には引き続き指輪の調査と敵拠点の洗い出しをお願いします。」
「僕は何をすればいい?」
何となく話の流れで聞いてしまったが、これはアヅィール聖法国の問題なので僕が首を突っ込む必要はない。
だが、ガイド様がこうやって指示しているのを見ると手伝ってあげたいと思ってしまうのは少しお人好し過ぎるだろうか。
「シュウ様、私はあなたのガイドであり聖女です。
本来この件はあなたを導くために必要なものではありません。危険はあっても実りがないこともあるでしょう。それでも聖女としての私を手伝っていただけますか。」
ガイド様が僕のほうを向いて話しかけてくる。その顔は無表情なようでどこか助けを求めているように僕には感じた。
「もちろんだよ。ガイド様っていえば相棒みたいなもんだしね。それに身近な人が困っていれば助けたいっていうのもあるし。
僕にできることがあれば遠慮せず頼ってくれていいよ。」
「ふふ、相変わらずのお人好しですね。それではその時がきたら頼らせていただきます。
改めて…私の名前はルナーリア。あなたを正しい道へと導く者です。どうぞ、よろしくお願いします。」
「あぁ、よろしく。ルナーリア。」
僕とルナーリアが笑顔で握手を交わす。
そこで後ろから気配を感じて振り向くとシルとジル、それにシーちゃんまでもが跪いていた。
「神の使い様、お申し付け通りシュウをあなたの元まで送り届けて参りました。」
「シル、ありがとうございます。それにジルベスターとケーシーも良くシルを助け導いてくれました。
私はあなたたちを誇りに思います。」
ルナーリアの言葉に三人はホッとした顔をする。思っていたよりも道中で様々な事件に遭ったためプレッシャーとなっていたのかもしれない。
「勿体ないお言葉です。それで、今後のことでございますが…。」
シルはそこで言葉を止める。元々彼女たちが里を出たのはルナーリアの代わりに僕をサポートしてくれるためである。
ルナーリアの元に辿り着いた今、彼らが僕と一緒に行動する必要はなかった。
「シル、それにジルベスター、ケーシー。あなたたちは私の求めに見事応えてくれました。私からこれ以上を頼るわけには参りません。
あなたたちはそれぞれに赴くがまま行動しても構わないのですよ。」
ルナーリアが答えるとシルが顔を上げてルナーリアの顔を覗き込む。その視線は真剣そのものであった。
「でしたら…私はこのままシュウと旅を続けたいと考えています。
シュウは強い。そして逆行を跳ね返す胆力もあります。
それでも一人で抱えきれないものを背負っているのはこれまでの旅を通して見て取れました。ですから、私は少しでもシュウの重荷を軽くしたいのです。
これは私の我儘であると十分に承知しておりますが、お許しを頂けないでしょうか。」
ルナーリアは目を瞑って少し考えてから三人を見る。
「ジルベスター、ケーシー。あなたたちはどうなのですか。」
先に答えたのはジルであった。
「私もシル様と想いは一緒でございます。できることなら私の力をシュウの使命に役立たせたいのです。」
「私は巫女として里での仕事もあるので常に傍にいるわけではありませんが、姉さまたちのために私の能力を使いたいと考えております。」
シルはいつも僕のことを一番に考えてくれる。だから里に帰らず残ってくれるような気はしていた。ジルもシーちゃんも、シルと完全に同じ気持ちとはいかないまでも残ると言ってくれたことが嬉しかった。
「三人の気持ちはよく分かりました。シュウ様、三人の力は今後の旅に必ず役立つでしょう。いかがですか。」
「僕には勿体ない自慢の友達だよ。皆、これからもお願いしていいかな?」
僕の問いに代表して答えたのはシルだった。
「もちろんだ、シュウ!私がお前も神の使い様も護ってみせると誓おう!」
「ふふ、シル?これから一緒に旅をするのですから私のことはルナーリア、いえ、ルナと呼んでくださいね。」
「な!?そんな畏れ多い…いえ、分かりました、ルナ様。このシルフィード、必ずやご期待に応えてみせます。」
シルフィードは再び頭を下げる。まるで王女様の前で傅く騎士のようである。
「さて、それでは一旦この話は終わりにしましょう。『仮面の七人』の調査も時間を要するでしょうからシュウ様たちは一度ルストへ戻り、公爵やアッガスたちに今回の件を報告すると良いでしょう。」
「そうだね。ここに来る道中で色々と依頼を受けちゃったからその報告もしなきゃ。」
こうして僕たちは再び会うことを話して『仮面の七人』と別れたのだった。
◇◇◇
――――その夜。
教皇が開いた晩餐会には大聖堂にいる大司教以上の役に就いている者たちが一堂に介していた。
今回の騒動で街は荒れ、混乱も落ち着き切っていないのでこのような宴は慎むべきなのだが、教皇は自身の至らなさと巻き込んでしまった冒険者たちへの謝罪を大々的に見せるため敢えてこのような場を設けたらしい。
教皇から誠心誠意の謝罪と詫びの品、そして最後に受けた依頼の報酬を約束すると僕に謝罪を受け入れるか聞いてくる。
僕が二つ返事で答えるとそこからは食事会へと早々に様変わりしていくのだった。
教皇が言い含んだのだろうか、集まった皆は僕のほうに群がり様々な話題を振ってくる。
こういったことに慣れていない僕は初めのうちこそ一つ一つ丁寧に答えていたが、段々と面倒になり適当に答えてさっさとバルコニーへ退散することにした。
「うぅ…流石に寒いな。」
外は真冬の夜に相応しい風が吹いている。更に港町のため潮風が寒さに拍車をかけていた。
僕は腰を落ち着かせるためにベンチを探す。すると、ベンチの近くで一人佇む女性を見つけた。
その女性は月明かりに照らされて普段から真っ白な素肌がさらに輝いて見えていた。月を見上げる瞳はどこか潤んでいるようにも見えて、僕は初めて彼女と出会った時にも同じような気持ちになったことを思い出していた。
「どうしたの、ルナ?」
名前を呼ばれた彼女はハッとした表情を一瞬だけ見せてから、僕の方へ顔を向ける。その顔はすでにいつもの無表情に戻っていた。
「シュウ様。少し夜風に当たっておりました。シュウ様こそどうしてコチラへ?」
「僕は質問攻めがしんどくなって逃げてきただけ。
……月が綺麗だね。」
「えぇ、私はあの月を見ることが好きなのです。あの月は、私を包み込んでくれるような優しい光を私に浴びせてくれますから。」
「あぁ、何だか心が洗われていくような光だね。」
「……シュウ様。私はこの世界へあなたを送った張本人です。辛いこともあったでしょう。更には今後も激しい戦いをあなたに強いることになります。私を…私を恨んで頂いても良いのですよ。」
ルナの表情に変化はない。それでも僕には彼女が悲しんでいるように感じた。
「僕はこの世界に来てから色んな人と出会って色んな戦いをしてきた。悪魔とはいえ、人を殺したことも初めてだったし、戦争なんて前の世界じゃ考えられなかった。
そう言った意味じゃ確かに辛い思いはしているかもしれない。けどね、それをルナのせいする気にはなれないんだ。
ルナは転生の間で僕に選択肢をくれた。
ルナが帰着の里に導いてくれたことで生き残る術を身に着けられた。
ルナが道標を示してくれたからダラスやカルカスの皆が、大切な人たちが出来たんだ。
ルナに感謝することはあっても恨んでなんかやらないからね。」
僕は笑顔でルナを見る。
「ふふ、だからあなたはお人好しというのです。これでは…いえ、止しましょう。あなたが私から弱味を握れる千載一遇のチャンスを逃したことを後悔すると良いのです。」
「んな!?そんな風に考えるわけないだろ!?どんな小悪党だよ、僕は!」
「ふふ…うふふふ。ありがとうございます。本当にあなたが来てくれて良かった。」
そう言ってはにかんだ笑顔を見せた彼女は控え目に言って女神のようであった。




