第80話 何を信じる?
しれっとガイド様ご登場です。
この牢屋で目覚めてからというもの、幾つ驚きがあっただろうか。僕の小さな脳ミソじゃ処理しきれないほどの新事実が立て続けに起こってパニック気味である。
目の前にいる女性は確かにガイド様だ。
ガイド様が僕の転生に立ち会い、導いてくれて、多くの人たちと出会わせてくれた。今回この国に来たのもガイド様が自分の元までくるよう神託を出したからだ。
ガイド様は転生神様の言葉を聞いて神託をルスト公爵やオーベロンへ伝えているはずだから、この場合は転生神様がこの国に呼んだことになるのだろうか。
どちらだとしても、今ガイド様が言ったことは覆らない事実である。
「ち、ちょっと待ってください!彼はまだ容疑者として扱われています。裁判を行わず刑の執行が決定するなど聞いたことがありません!」
「うるさいぞ!新人の分際で聖女様へ意見できると思うな、部を弁えよ!」
テルが必至に食い下がろうとするが、隊長に一蹴されてしまった。怒鳴られたテルは兜を付けているのにションボリしているのが分かる。…いや、もっと頑張れよ!
「一つだけ聞かせてください。神の啓示というのはどの神から受けているのですか?」
僕が質問すると一瞬だけガイド様の眉がピクリと動くのがわかった。
「あなたにも質問の権利などは与えられていない。黙って明日の三つの鐘が鳴るまで懺悔していると良い、犯罪者。
さぁ、ルナーリア様、お時間ですので参りましょう。」
隊長は冷たい眼を僕に向けながら見下すようにして吐き捨てる。その後、ガイド様を出口へ促していくが、数歩進んだガイド様は一度立ち止まり僕のほうは向かずに呟く。
「星の導きがあらんことを。」
そう言ってガイド様はこちらの反応も確かめずに牢屋を後にしていくのだった。
「シュウさん、すいませんでした。まさかこんなに早く結論が出るとは思いませんでした。
こうなれば仕方ありません、今すぐここから脱出しましょう。」
テルの焦りようがコチラにも伝わってくる。今は真冬なので日が落ちるのは早い。だが、月の明るさを見るに少なくとも五つの鐘は鳴り終わっているだろう。
明日の正午まではまだ時間はあるが、行動するのなら夜のうちであった。
「星の、導き…。明日の、正午………。」
僕は一人考え込みながら今までのことを思い返していた。
教皇襲撃、聖騎士が持っていた書状、仮面の七人の行動、聖女がわざわざここまで来た理由。
「テル君、僕はガイド様のことを信じてみるよ。」
「…それは、どういった意味ですか?」
そうか、テルには彼女が僕のガイド代わりになっていることを知らないんだった。まぁ、説明するのも億劫なのでこのままにしておこう。
僕はガイド様が最後に伝えてくれたメッセージを早速試してみることにした。
「〈星の民に導きを〉」
僕が呪文を唱えると目の前にステータス画面に似たものが現れる。そこにはこの後に取るべき行動が書かれているはずであった。
ーーーーーーーーー
【星のお告げ】
留まることに吉兆あり。待ち人を信じて待て。
探し物は塔の頂上にあり。
助力を請うことで道は拓けるでしょう。
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「シュウさん、何を?」
テルが僕の行動を不思議がって見てくる。どうやらテルには僕の唱えた呪文の意味が分からないらしい。
「ちょっと占いをしてみただけだよ。占いはここにいたほうが良いことが起こるって書いてある。だから僕は、このままここにいるよ。」
「な!?占いって…本気で言ってるんですか!?明日の正午には死刑執行なんですよ?昼日中に暴れでもすればそれこそシュウさんは犯罪者です。
逃げるなら今しかありません!それが分かってて言ってるんですか!?」
「テル君、僕は本気だよ。君が仲間を信じているように僕も信じているものがあるんだ。」
僕の真剣な眼差しを見つめていたテルは、暫くして軽く頷いてみせる。
「分かりました。シュウさんがそう言うのでしたら、そうしましょう。いざとなれば逃げられるように仲間へも連絡しておきます。リッチー。」
「おう!話は聞いてたぜ!」
テルの声かけでリスのリッチーさんが鉄格子のハマった窓から現れる。
「そんじゃあロージたちには俺から伝えておく。シュウ、お前さんの仲間もそこにいるはずだが、何か伝えておくことはあるか?」
「リッチーさん、それにテル君。シルたちへの伝言の前に僕からお願いがあるんだ。僕の占星術はこれまで何度も僕を救ってくれた。だから疑う気持ちも分かるけど僕の言うことを信じて聞いてほしいんだ。」
僕は占星術で出た内容を伝えてリッチーさんに伝言を託すのだった。
◇◇◇
「『探し物は塔の頂上にあり』ねぇ…。さて、どこまで信じたもんか。」
ロージは迷っていた。
リッチーが齎した情報は想定外の動きである。シュウを嵌めた人間は国の上層部に当たる人間なので、組織的に判断しなければならない彼らがここまで早く動けるとは思っていなかったのだ。
そこにシュウの占星術で得た情報。この世界にも占いはあるが、せいぜいが精神を落ち着かせるための気休め程度のもので正確な情報を得るために使用されることはない。それを信じて動けと言われてもどうして良いか判断に困っていたのである。
「リッチー先生、これはテルも同意しているのか?」
「テルはシュウを巻き込んだことに後悔があるようだった。そのせいもあると思うが、シュウのことを信頼しているように見えたな。ダメ元でシュウの言う通りに行動してほしいと言っていたぜ。」
「ロージ、テルがそう言うんだったら結論は出てんじゃねぇか?」
「ジャン、確かに俺たちのルール的にはそうなんだが、情報源は占いだぞ?これを疑うなってほうが難しいだろ。」
「確かに結論を出すには些か不安を感じますね。
ですが、私は大聖堂で修行をしていた時に聖女ルナーリアと会っています。聡明な方で私に与えてくださる助言も間違いを言うことはありませんでした。
その彼女が暗号的にシュウさんへ伝えているのであれば、この情報も多少は信頼度が増すと思います。」
アリアナは白魔導師である。白魔法は使用できる人間が限られているため、同じ白魔法を使える人間から伝え聞く以外に習得する方法がない。アヅィール聖法国ではそう言った人間を入信させて白魔法の扱い方を大聖堂で教えていた。
扱いを覚えたあとはそのまま教徒としてアヅィールに残るのも、そのまま旅立つのも自由である。蒼天の牙のクリスもアリアナと同じように習得した後は国に留まらず親元へ帰っていた。
「だがな…。先生、あんたから見てその聖女さんがシュウさんへ伝言を残しているように感じたか?」
「そうさな…。あの短い話の中で何が伝言だったかは正直分からなかったが、シュウが呪文を唱えてから見えない何かを見つめていたのは分かったぜ。丁度テルがステータスを見てるときのようだった。
俺っちもテルもそんな魔法は知らないが、シュウが言うには占星術は転生者特有のものだと言っていたしその兆候も見えた。
シュウっていう人間がどこまで本気なのか掴めねぇが、テルが信じるってんならそっちの感覚を尊重してやってもいいんじゃねぇかと俺っちは思うぜ。」
リッチーの意見を聞いてもロージはまだ迷っていた。この判断は自分だけでなく、仲間全員が危険に晒されることになる。それを考えると二つ返事で了承することができなかったのだ。
「リッチーさん、シュウは我々に言伝を頼んだりしていませんでしたか?」
ここでジルベスターが話しかける。
「あぁ、あったぜ。『出来る限り仮面の七人を手伝ってほしい。ただし、危ういと感じたら全員で逃げてほしい。』これだけだ。」
シルフィードとジルベスターは互いの顔を見て頷き合う。
「そうか。シュウがそう言うのであれば私たちはお前たちと手を組もう。助けられた恩もあることだしな。潜入でも陽動でも何でも言うといい。」
シルフィードが胸を叩くような仕草をしつつ宣言する。
「え?お姉さん、潜入なんてできるの?」
「コニー、折角やる気を出してくれたんだ。心意気を折るものではないぞ。」
コニーとダグの会話からも分かる通り、シルフィードには潜入や囮捜査などの役目はあまり向いていない。シルフィードの横ではジルベスターが一人で目を閉じながら深く頷いていた。シルフィードはその光景を見ながら生暖かい視線を送るが、先ほどの怒りがぶり返さないように黙っておくことにした。
「とはいえ、ロージ。これは俺たちが決めたルールだ。この場の最終決定権はお前にある。どうするか決めろ。」
基本的に合議制を以て決断する傭兵団『仮面の七人』であるが、意見が分かれた際のルールを明確に決めていた。
決定権の第一位はリーダーのテル、第二位はロージとテヒトである。現場にいることの少ないテヒトに替わりロージが決断する場面が多いものの、テヒトとロージで意見が分かれた際に仲裁するのが副リーダーであるジャンの役目だった。
そのジャンから催促をされたロージは悩みながら周りの皆を見渡してみる。
シルフィードとジルベスターは完全にシュウのことを信頼している。もしここでシュウの提案を断ったら自分たちだけで乗り込むだろう。
一方、傭兵団の仲間たちは皆静かにロージを見つめていた。アリアナは自身の意見を言っているし、コニーとダグは最終決定に従うスタンスであることが多いので今回もそういうことだろう。ジャンは自分の意見をこれ以上挟むと決断を惑わすことになることを知っているため口を噤んでロージの言葉を待っていた。
責任感に押し潰されそうになりながら、最後にリッチーのほうを見ると件のシマリスは器用に親指を立てて笑っていた。
「ロージ、お前はテルの親友だ。いつもテルの意見を一番に尊重するお前の決断にテルがとやかく言うことはねぇはずだぜ。余計なことは考えず、自分の直感で決めればいい。」
ロージはそっと目を瞑る。皆の意見、リッチーの助言、そしてテルとシュウの間であった会話。その全てを何度も反芻して決断の糸口を探す。そして、ついに一つの糸口に辿り着く。
「よし、決めたぜ!シュウさんの言う通りにしよう。
理由はリード男爵が持っていた暗号文と今起こっている内容を照らし合わせたとき、聖女以上の上層部が真犯人の可能性が高い点、教皇襲撃から教皇の音沙汰が噂程度もない点、聖女ルナーリアがわざわざシュウさんのいる牢屋までやってきた点だ。
最後のはシュウさんの言う通り、俺たちに対策を立てさせるために来たとしか思えない。それに元々上層部が人身売買の首謀者と睨んでここまで来たんだ。この際、派手に暴れて骨の髄まで調べてやろうじゃねぇか!」
「そうと決まれば作戦会議といこうか。大先生は話し合った内容をテルとシュウさんに伝えてくれ。」
「おう!任せとけ、小僧ども!」
こうして一同はこの後の具体的な行動について意見を出し合い、次々と役割を決めていくのだった。




