第79話 捕まる理由
仕事がバタつき更新が遅れました。
シルフィードはダグとコニーに案内されるがまま灯台から移動して行く。
人目につかないよう裏路地を使いながら入り組んだ道を進んで行き、まだ森林が残っている山肌へ入っていくとそこにはジルベスターが待っていた。
「シル様、ご無事でしたか!」
「あぁ、この者たちが助けてくれたので捕縛されずに済んだ。お前も変わりないようで安心したぞ。」
「そうですか、やはりシル様の元へも行っていたのですね。では、聖騎士団に喧嘩を売るような真似はしていないですよね?冤罪とはいえ、ここで暴れては疑いが晴れても暴行罪で捕縛されてしまいかねませんから。」
………。暫しの沈黙。
「…。シル様…?」
ジルベスターが生暖かい目を向けてくるのでシルフィードは思わずそそっと目を逸らす。
「シルさまぁ!?あなたという人は、どうしてそう喧嘩っ早いのですか!」
「い、いや、ジル、これには深い訳が…。」
「深いも浅いも言い訳は結構です!これによってあなたのお立場が悪くなったらどうするのですか!?」
「うっ…。だ、だが、手を出そうとして来たのは奴らのほうだ!正当防衛だ、これは!な、なぁ?」
シルフィードは一人でジルベスターの相手は務まらないと踏んでコニーとダグに助けを求める。しかし、タイミングの良いことに?、二人は後ろを向いて何か話して合っているところだった。尤もシルフィードの耳は常人よりも優れているため何を話しているかは丸分かりなわけだが。
「再会して早々に喧嘩とは仲のよろしいこって。」
八方塞がりと思われたシルフィードに助け舟を出したのは同じエルフのジャンであった。
「お二人さん、この国では帽子は要らねぇぜ。この国は差別を法律で禁止してるからな。思う所はあっても大ぴらに罵倒や下げずんだ目で見てくることはねぇよ。」
「そうか。だが、私はこのままでいい。………寒いからな。」
最後の一言は若干小声になりながらシルフィードが答える。シルフィードは寒がりだった。
「まぁ、この山間で雪も積もってるからな。好きにすりゃいい。」
「しかし、お前たちはどうしてここに?二人に聞いてもアリアナが説明するとしか教えてくれないのだが。」
ジャンがダグとコニーを睨むとタイミングの良いことに?二人と視線が合う。二人は急いで視線を逸らして吹けない口笛を吹き始めた。
「丸投げにもほどがあんだろう、まったく。仕方ねぇ、そんなわけでアリアナ、説明を頼んだ。」
「はぁ…。結局あなたも丸投げするんじゃないですか。
さて、どのように説明するば良いでしょう。そうですね…あなたたちは何故聖騎士団から教皇襲撃の疑いをかけられているかご存知ですか?」」
「何?そのような疑いをかけられていたのか?」
「え?シル様…。まさかとは思いますが、何故声をかけられたかも知らずに聖騎士団と揉めたわけではございませんよね…?」
ジルベスターの怒気が再燃していく。
「そうか、だからあの者たちは私を連行したがっていたのか。それで、そのことがお前たちのいる理由になるのか?」
シルフィードはジルベスターの追求から逃れるため、至って真面目な顔でアリアナに話を振る。
「あの…連れの人が怒りのあまり白目を剥いてるけど放っておいていいの…?
……。おほん!私たちはあなたたちが狙われている情報を得て様子を見にきたんです。ただし、あなたたちを助けたのは成り行きだから気にしなくていいわ。」
アリアナは気持ちを切り替えて説明モードに入る。
「あなたも憶えているでしょう?リード男爵が子供たちを攫って人身売買をしていたことを。私たちはその輸送ルートについて調べていました。
そして、リード男爵の子飼いが使っていたと思われるルートを見つけてこの国まできたんです。」
「確か子供たちは商品に偽装した形で箱詰めされて輸送されていたのだったな。」
「えぇ。ルートはテルトーダ国境付近にあった地下通路からこの国の施設へ繋がっていました。その施設には中型船が停泊していて、船の中で箱詰めした子供たちを出して牢に入れていたみたいです。」
「私は港を見てきたが、そんな施設があるようには見えなかったが。」
シルフィードは自身が目にしてきた内容を思い出してみる。どこもまともな施設に見えたが何か見落としがあっただろうかと、考え込むと一つ見れていない場所があったことを思い出す。
「その施設は大型船を造る造船所の中にありました。あの場所も物資の輸送で船が出入りするから良い目眩ましになったようです。
私たちが調査してる最中に丁度良く入港してきた船があったから監視していたのですが、船乗りの風貌はしていても素行の悪さは中々隠せないものです。
船の中を調べたら子供服と子供たちを入れる檻がありました。」
「それでは、その船がどこから来たのかもわかったのですか?」
ジルベスターは漸く怒りを鎮め、いつものクールな表情を見せてアリアナに質問する。
「一応はわかりましたが、確たる証拠を得るには情報が足りませんでした。そこで私たちは大聖堂を調べることにしたのですが、教皇襲撃の騒動によって上手く潜入が出来ずにいたんです。
そんなとき、あなたたちが現れたので、シュウさんにご協力いただくことにしたんです。」
「待て、それでは教皇襲撃の冤罪を着せたのはお前たちということか?」
「あ、いえ。すいません、話す順番を間違えたようです。
あなたたちが教皇襲撃の首謀者であるという話が出たのは、聖女ルナーリアが神の啓示を受けたからとされています。どのように啓示を受けるのかは私たちも知りませんが、聖女は場合により枢機卿よりも強い発言力を有します。
聖女が神の啓示を受けたことで教皇が療養中の今、数人の枢機卿があなたたちの捕縛を唆したんです。枢機卿も聖騎士団を動かす権限を有しますが、直ぐに動かすことができるのは聖女から彼女らを護る近衛騎士隊に頼むのが一番手っ取り早いらしいので。」
「その聖女とやらは本当に神の啓示を受けられるのか?」
「それは分かりません。ですが、街では突然の嵐を言い当てたり、船舶同士の事故を予想したり、作物の不作を示唆したりと様々な事柄で声明を出しているそうです。そして、その全てが実際に起きているのだとか。」
シルフィードは思う。自分たちも神の使い様からご神託を受けることがあるが、そのような細かいご神託は一度として授かったことがない。神の啓示が真実だとして、自分たちが信仰する神と同じ神がそんなことをするだろうか、と。
「それで、シュウに協力を仰ぐというのはどういうことでしょうか。」
「それについては俺から説明しよう。」
森の中から現れたのはロージであった。
◇◇◇
「ん……。ん?ここは?」
「聖騎士団詰め所にある牢屋です、シュウさん。」
あぁ、そうか。確か広場で聖騎士団に絡まれて一騎討ちになって、負けたんだった。まだ四つの鐘が鳴った直後だったはずだが、牢屋に付いている申し訳程度の窓からは月あかりが微かに差し込んでいた。
「アイタタタ…。頭痛がする。」
「シュウさん、僕が治癒魔法をかけたんですよ?謝りますから嘘はやめてください。」
「あぁ、通りで瘤一つないはずだ。ありがとう、テル君。」
僕の前には聖騎士団の格好をしたテルがいる。このテルが僕と戦っていた少年という訳だ。
「お礼を言うのはコチラです。
気付いてくれなくて、本気になっちゃったらどうしようかと思いましたよ…。シュウさんが話を合わせてくれて本当に良かったです。」
「だけど、何でわざわざ僕を捕まえたの?別に離脱してから腰を据えて話してもよかったと思うんだけど。」
「それはこれから説明します。ただ、先に質問があるのですが、良いでしょうか。」
テルは兜のバイザーを上げて僕の眼を見つめる。その表情は真剣そのものだった。
「何でしょう。」
「シュウさん、あなたは転生者ですね?」
まぁ、そんな話だろうとは予想していた。
「そうだと言ったらどうする?」
「あなたが貰ったギフトの内容を教えてください。」
「ギフト…って、転生神様から貰えるっていう特別なスキルのこと?僕は何も貰ってないよ。」
「嘘はやめてくださいと言ったはずです。限度があるにせよ、望んだものを貰えて強力な能力を得ることができるのですよ。何も貰わないなんてあり得ません。」
「いや、本当だって。僕は転生するときに転生神様が留守にしてたから何も貰ってないんだ。転生者の傍にいるはずのガイドだって付いてないし、そのとき代理で対応してくれた人がこの国にいるって言うからここまで来たんだ。これが真実だけど、信じるかどうかは任せるよ。」
「転生神が……代理の、人……。」
テルはブツブツと呟きながら思考の沼に落ちていく。暫くして何かを確かめるように顔を上げると僕への質問を続けた。
「では、シュウさんは本当にギフトを持っていないんですね?」
「しつこいな!自分が持ってるからって自慢したいのか?どうでもいいでしょ、そんなこと!」
何回も同じ話をされてつい頭にきてしまった。怒鳴りつけたらテルはどこかションボリした顔をしていた。
「すいませんでした…。けど、これはとても大事なことなんです。
僕は訳あって転生者と関わりを持ちたくありません。だから僕は鑑定眼でどんな人物か調べるようにしています。
だけど、シュウさんのステータスを調べると街で歩いている人たちと変わらない数値が表示されます。なのに、あの高レベルな魔法を使いこなす。僕はギフトが関係していると思いましたが、どうやら別の何かが作用しているみたいですね。
その証拠に、シュウさん自身も何故ステータスが偽造されているか分からないんじゃありませんか?」
中々に鋭い。ステータスを確認する錬金道具は帰着の里にもある。オーベロンが僕のステータスを確認するために一度使ってみたことがあるが、僕が魔法で確認する数値と錬金道具で投影される僕の数値は全く違っていたのだ。
それ以来、数値に拘ることを止めた訳だけど、他の転生者が使う魔法さえも偽造してしまうとは新発見であった。
「僕からすれば、これが当たり前だと思っていたけど。それよりもこのタイミングでその確認をする理由は何かな?」
「もしギフト持ちの転生者であれば計画に組み込むことが出来ませんでした。僕の仲間たちを危険な目に合わせられませんから。」
「ギフトを持っていると危険?君自身が持っているのに?」
「シュウさん、ギフトを持つ転生者のほとんどはその力に魅了されてどこか頭のネジが弛くなる傾向にあるんです。
まともだと感じても、思わぬ所で思わぬ行動に出る転生者を僕はこれまで沢山見てきました。かく言う僕もギフトがあった頃は急に好戦的になるときがありました。そう言うときは決まってゲームで経験値を稼ぐような感覚だったのを憶えています。
偶然ではありましたが、僕のギフトは特殊で一度使用するとギフトが消える仕様になっていました。
そして、使用した後からはそう言った衝動が消えたことから、僕はギフトには魅了のような効力が隠されているのだと考えています。」
テルの言っていることを鵜呑みにすると、ギフトは好戦的にさせて悪魔と戦いやすくする役割があるのかもしれない。
魔王討伐を目指して旅をしてはいるけど悪魔にもそれぞれに考えがあることがわかった今、問答無用で殺し合うようなことはしたくなかった。
「なるほど、転生者に拘る理由はわかったよ。それで今度はどんな計画に巻き込むつもりなのかな?」
「シュウさんには少しの間、捕らわれたままでいてほしいんです。そうすることで聖女や枢機卿、上手くいけば教皇にも会うことができます。僕もシュウさんの近くにいるようにしますが、もしも危なくなったら逃げてください。僕か仲間が必ず手助けします。」
「そう言うということは、僕が枢機卿と会うのは裁判か刑を執行するタイミングってことだね?」
「えぇ、包み隠さずに言ってしまうとそういうことになります。ただし、逃げても結構なので聖女や枢機卿たちの中で今回の件に関わっていそうな人物がいないか確かめてほしいんです。シュウさんに捕まって貰った理由の一つはこれになります。」
「僕が『ルックアップ』で確認することは可能だけど、それで怪しい人物が特定できるとは限らない。何も分からないまま逃亡しなきゃいけなくなったら無駄に汚名を被ることになるわけだけど?」
「そこは僕たちの協力者と七人目の団員がどうにかします。」
「協力者と、七人目…。」
「えぇ、彼とはシュウさんも会っていますよ。」
僕が会っているというが、ここ最近の話だろうか。バーグ村から遡ってもそれらしい人物が思い浮かばない。
「『仮面の七人』最後の団員、それはテヒト二世です。」
「テヒト…。って、それってテヒト首長のこと!?」
「はい。テルトーダのトップがバックにいるので、逃亡先はテルトーダになります。そこでならシュウさんの身の安全は保障しますし、その間に僕たちが全力を持ってシュウさんの汚名を晴らします。どうです、少しは安心できましたか?」
まさか七人目の団員があのおじいさんだったとは。その話が本当なら確かにこれ以上の後援者はいない。何と言っても相手は国主なのだ。国のトップが亡命を許すならそれ以上の強硬手段はアヅィール聖法国には取れないはずである。その間に僕はカルカスへ戻ってしまえばよいのだ。
「なるほど。それで、まだ僕が捕まる理由があるみたいだったけど?」
「はい。もう一つの理由、それは僕たちが大聖堂内を探る時間がほしいんです。簡単に言うと、シュウさんが捕まることで少しでも警戒を緩めてくれることを期待しているんです。それに裁判が起これば枢機卿や大司教たちはそちらへ向かわなければなりません。そうすれば僕たちが動きやすくなります。
先ほども言いましたが、シュウさんの監視は僕たちの誰かが必ずしているので安心してください。」
「行き当たりばったりな計画のようにも感じるけど、現実問題として僕は捕まっている以上、君たちの成果に期待する外にない。何だか騙された気分で癪だけど、その計画に協力するよ。」
「ありがとうございます。絶対にシュウさんやお連れの方たちを悪いようにはしません。これはリーダーである僕が約束します。」
「今はその言葉を信じておくよ。それよりも一つ聞きたいんだけど。テルトーダ首長国の国主がメンバーにいるのに、何でテル君がリーダーをやってるの?テル君はあのメンバーの中で最年少だよね?」
テルは驚いた顔をした後にクスクスと笑いながら答える。
「シュウさん、実を言うと僕が仲間内で最年長なんですよ。テヒト二世は僕の名前を受け継いだ国を興した創設メンバーで僕の部下として宰相をやっていた人物です。」
「………。は?」
天地がひっくり返っても少年にしか見えない男の子に、初老過ぎのおじいさんが部下で一緒に国を作ったんです。なんて言われても信じられるはずがない。僕の頭の中は混乱を極めており、これ以上の情報を受け付けなくなっていた。
そんな中でこの牢屋に続く扉が開かれる音が聞こえる。テルは兜のバイザーを被り一兵士が罪人を監視している振舞いをし始めた。
「ティム、罪人に変わりはないか?」
やってきたのは僕を捕縛するためにやってきた女騎士、聖女の近衛騎士隊と呼ばれる部隊の隊長であった。
「はっ、喚きもせず大人しいものです。」
「そうか、観念したようだな。己の罪を悔いて死ぬといい。」
随分な物言いである。僕が冤罪であるのは変わらぬ事実なのに、どうしてこうまで強気になれるのか甚だ疑問だ。
「セシル、おやめなさい。」
暗がりからもう一人女性の声が聞こえる。どこかで聞いた記憶のある、やけに懐かしくなる声だ。
その人物はフードを被り顔全体は見せていないが、その肌荒れ一つない口元からは周囲の人間に見られることを意識した女性らしい気遣いが見て取れる。
その人物が僕の牢屋の前へと歩み寄る。月明りはいつの間にか牢屋全体を照らし檻の向こう側にも光を届けていた。女性は僕がいる牢屋の檻ギリギリまで近づくとフードを外す。
長い銀髪がフードを外したことでふわりと揺れて靡いていく。それは髪の毛一つ一つの動きに目を奪われるほどに滑らかであり、この人物に華があることを知らせてくれる。
目尻、鼻、耳、顎、素肌。その全てが透き通っているように見えて、眼球までもがガラスで作られたかのように煌めき揺れる。形や質感、バランスに至るまで完璧と言っても過言ではないその容姿に僕は心奪われるがまま目の前の女性を見つめていたが、視線が合った瞬間にハッと肝心なことを思い出す。
「あ、あなたは、まさか………。」
「貴様、誰が喋ってよいと言った!聖女ルナーリア様の御前である。身の程を弁えないか!」
聖女ルナーリア。彼女は僕と会ったことがある。それどころか何度も話をした。
こうして顔を合わせるのは二度目だが、この世界にきてから一番僕のことを気に掛けて入れた女性。
僕の目の前にいるのは確かにガイド様であった。
「冒険者シュウ、私の啓示が神からのものであると認定されました。よって明日の正午、あなたの絞首刑を決行いたします。」
「………。え?」
瑞々しい唇から発せられた言葉は、この世のものとも思えないほどに冷たい響きであった。
少し文章が荒れているエピソードが増えてきたので、時間があるときに見直そうと思います。
ここからは起承転結の『転』になります。若干の軌道修正をしつつ、話が盛り上がるように頑張ります。
モチベーションアップできるので、良ければリアクションや高評価いただけると嬉しいです。




