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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
アヅィール聖法国編

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第74話 テルトーダ首長国

 リード男爵が仕組んだ陰謀によって思わぬ寄り道となってしまったが、その後の旅は順調である。



 話は僕とシルが別れた後まで遡るが、ミラを連れて先に戻ったシルはすぐにジルたちと合流することができた。囚われていた子供たちはマシューさんが馬車を出してくれたので、スムーズに町まで送り届けることができたのだそうだ。

 子供たちは庁舎のほうで身元確認を行い出来る限り親元へ返す予定だと町長は言っていた。それまでの間、町に親がいない子供たちは月下聖教会に預けられることとなる。今回、盗賊団と治癒師の関係が明るみになったためイシュタル教教会に預けられなかったのである。


 イシュタル教はテルトーダ首長国の国教なので何となくテルトーダ首長国も疑いの目で見てしまうが、逆にアヅィール聖法国は月下聖教の聖地なので、月下聖教も完全に安全とはあまり思えなかった。それでも二十人ほどとなる子供たちを受け入れられるのは教会しかないため消去法で預ける他にない。


 さて話を戻すが、町長はと言うと『土竜の十爪』のアジトは部下に任せて、自分はリード男爵を牢に入れるため一旦町に戻ってきていた。

 僕が町に戻った時には庁舎にいたのでツィワン将軍に引き取りについて動いて貰うように頼んだと伝えたら、いたく喜んでいた。カルカス公国に被害が出ているものの、他国の男爵をいつまでも町の牢獄に閉じ込めるわけにもいかないので、その処遇に困っていたのだと言う。


「今回は大いに助けられた。カルカス公国へ帰る際もぜひ我が町へ寄ってくれ。国からも謝礼が出るだろうが私個人としても改めてお礼をさせて欲しい。」


 庁舎の去り際に町長からそんな話をされつつ宿屋へ戻ると、今度はマシュー親子が一家総出で頭を下げてきた。マシューさんの怪我を始め、ナッシュとミラを救い出してくれたことに対する感謝と案内役である自分たちが足を引っ張ってしまったことによる謝罪である。

 僕としては頼んだのはこちらなので、むしろ迷惑をかけてしまった認識なのだが、そのことを言ってもマシューさんが『この御恩は三代に渡りお返しいたします』と聞かないため放っておくことにした。


 僕たちは体調のことも考慮して一週間ほど滞在したのち、カルカス公国最後の町を立つことにした。見送りに来てくれた町長や子供たちは別れを惜しみつつ見えなくなるまで手を振ってくれていた。





 そんなわけで現在に至るのだが、そこからは野盗に襲われるということもなく街道を進んで行く。


 シルとジルは随分とマシュー親子と打ち解けたようだ。ミラは事あるごとにシルを頼るようになったし、ナッシュやマシューさんも二人がエルフだと分かった後も気さくに話しかけてくれる。そんな中、唯一変化があったのはアンナである。

 気のせいかジルと少し距離を置くようになっていた。療養の滞在期間中に妻子持ちだということをジル本人が明かしたと言っていたので恐らくそのショックが強かったためだろうと思っていたが話はそんなに簡単ではなかった。なんとアンナは『妾でも構いません!』と目を血走らせながらさらに詰めてきたのである。

 流石のジルもこれにはタジタジであったが、マシューさんに視線を送ってもそっぽを向かれてしまっていた。親としてそれでよいのか、マシューさん。


 結局、アンナにとって妻子持ちは障害にもならなかった訳だが、では何故距離を置くようになったかと言うとシーちゃんがこっそりと教えてくれた。


「アンナは私が宿ってるときにこう言っていたわ。

『私、ジルさんがエルフであることに悩んでいるの。愛はあってもこれだけは確認しなければならないわ。ねぇケーシー、エルフと人間の間には子供は産めるかしら?……。ふふ、猫のあなたじゃ分からないわよね。』って。

 ご飯を運んできたときに呟いていたから知らないでしょうけど、もうアンナはジルベスターのことしか頭にないわね。」


 ……。これはテルトーダ首長国に着いたときに一波乱ありそうな予感……。がんばれ、ジル。遠くから応援しておくよ。


 道中はそんな四方山話をしながら四日ほど進み、五日目の朝、ついにテルトーダ首長国の関所へと辿り着いた。


 関所は大きな門が一つとその門を挟むように小さい門が一つずつある。大きい門と小さい門の間には詰め所が設けられていて、そこにいる兵士たちが検問をしている。ルストやボールドンとあまり変わらないように見えるが、待機列が四つあり、小さい門のそれぞれ一列、大きな門に二列という形で並ばされていた。


「この検問では憲兵から全ての積み荷と同行者全員の身分の確認、武器を含めた所有物の提示を求められます。その全てを記載した覚書を二つ作成して、一つを通行許可証として受け取るのです。街に入る際も同様の検問を受けるので、そこで万が一リストにないものがあれば即刻捕らえられますのでご注意ください。」


「道中にもお聞きした内容ではありますが、改めて目の当たりにすると資源の流入出に対して徹底しているのが分かりますね。そうなると必然的に時間がかかってしまうと思うのですが、四列で賄えるものなのですか?」


「良いご質問ですね。これはテルトーダにとって課題の一つとなっている問題でして、自国の資源を守るための手段とはいえ検閲が厳しすぎるという意見があるのです。

 これだけの検問をしているわけですから時間がかかるのは仕方のないことですが、今後カルカスとの交易が増えればさらに商人たちの行き来は増えることでしょう。現在のやり方では一日あたりに入国できる人数が限られてしまいますから、このままでは古くからいるテルトーダの商人たちは苦しい経営となる可能性が高いのです。幸か不幸か現在は野盗騒ぎであまり入国待ちの方は居ませんが、普段でさえ詰め所に辿り着けずその場で一晩を明かすことも多いので。」


 僕たちが並んですでに二時間ほど経っているはずだが、列は一向に前進しているようには見えない。これが全盛期はさらに長蛇の列だったのだとすればそれは確かに問題であった。実はテルトーダ首長国側から出国する門は別にあり、数十メートル離れた位置にある。

 そちらでは整理券を配り、自分の番がくるまで宿屋か休憩所で待てるように工夫されているのである。カルカス公国側ではそういった商売を勝手にすることもできないので、整理券の配布も意味をなさずこうして列を作る外になかったのだろう。


 それからまた数時間が経ち、列は動くものの牛歩の如く回転が遅かった。三つの鐘と思われる音を聞いてすでに久しい。マシューさんは溜め息を吐きながら懐から何か取り出してみると呟く。


「二時か……。これは間に合うかどうか微妙なところだな。」


「マシューさん。もしかしてそれは懐中時計ですか?」


 思わず僕が聞くとマシューさんは少し自慢げに話してくれた。


「えぇ。私が行商人を始めてから初の大口注文を貰った時に記念で買ったのです。本当は妻へ贈った物なのですが、妻が亡くなってからは私が使うようにしています。」


「それは大切な思い出が詰まった品なんですね。実は僕もいつか欲しいと思っているのですよ。」


「ほう!流石と言ったところでしょうか、時計の見方も熟知されておられるとは。見方を覚えて慣れるにはそれなりに時間がかかるものですが、準男爵となられるお方であれば難なく使いこなせるのですな。」


 マシューさんは笑いながら言うが、現代人の僕が時計を見れないほうが問題である。まさか前世で習いました、とは言えないので笑って誤魔化しておいた。





 その後も徐々にではあるが先頭の馬車が動いていくと一歩前へ進む。そうして時間が経過するとともに前進していくこと数時間。もうすぐ五つの鐘が鳴る手前の所で漸く僕たちの番が回ってきた。


「積み荷を改める、全員馬車を降りよ。」


 関所を守る衛兵、元、憲兵によりマシューさんが元々積んでいた積み荷が改められる。その間に身分を証明するものを見せろと言われたので、マシューさんがルスト公爵直筆の書状を見せるとともにいつも使っている家族分の身分証を提示する。僕たちも冒険者登録証を見せると憲兵が僕の登録証を見て質問をしてくる。


「これはプラチナランクの冒険者殿でしたか。大変失礼ですが、プラチナであることを証明するものはお持ちでしょうか。」


 憲兵はいきなり敬語になる。テルトーダ首長国には独自の身分制度が存在する。そのため他国の定めた基準には当てはまらないのだが、これを理由に外交の捻じれがあっては困る。この憲兵たちはそのことをしっかりと教育しているのだろう。


 僕はアダムズ国王から貰った準男爵を示す勲章を見せてプラチナランクが偽りでないことを証明する。


「ありがとうございます。この国へはアヅィール聖法国へ入国されるためとありますが、お間違いありませんね。」


「はい、カルカス公国からアヅィール聖法国へ赴くとなるとテルトーダ首長国を通らざるを得ません。そのために貴国に立ち寄らせていただきたいのです。」


「わかりました。同行者の身分証も改めさせていただき、問題なければ早急にお通しいたします。」


 憲兵はそう言うと詰め所に僕たちの身分証が偽装でないか確認しに行く。暫くして戻ってきた憲兵は問題ないことを告げると僕たちを通してくれた。その頃には五つの鐘が鳴り僕たちが門を通るとともに閉まっていく。僕たちの後ろに並んでいた商人は悔しそうに憲兵へ交渉するが、規則だからという理由で突き放されてしまっていた。


「いやぁ、運が良かった。門が閉まる時刻までに関所を通過することができました。ここからは一晩だけ野宿しますが、次の日の同じ時間帯にはテルトーダの首都へ到着するはずです。関所で貰った通行証を見せればさほど時間もかからず通れるでしょう。」


 マシューさんが言っていた通り、次の日の夕方に街へ着くと通行証を確認した憲兵が街へと通してくれた。


「今日はもう遅いですから屋台はやっていませんね。出国手続きに数日かかりますから屋台の楽しみは取っておくとして、今日は私が行きつけの食事処へ参りましょう。あそこの料理は絶品なので期待していてください。」


 ふくよかな見た目のマシューさんに言われるとその言葉も無条件に信用できる気がした。マシューさんは僕たちを宿屋へ案内すると馬車を商業ギルドへ預けに行く。僕たちはマシューさんたちが戻る前にチェックインを済ませると直ぐに合流してきたマシューさんに連れられて『食事処 酒と飯』に入る。


「テルトーダ首長国は地鶏が名産でしてね。ここは完全国産地鶏を使っている店なので味は保証しますよ。」


 そう言って適当にマシューさんが注文していく。そして、少ししてやってきた料理は僕が慣れ親しんだものばかりだった。


「さぁ、皆さん。こちらがテルトーダ名物の一つである『焼き鳥』です!今でこそカルカスでも肉串を出す屋台が増えましたが、元々はこの焼き鳥を真似ています。違いとしてはこの串!ここまで細く丈夫に作るには熟練の技が必要なので、牛肉や羊肉の肉串を出している店じゃ出せない代物なんです。地鶏自体も油が乗っていて旨味が出ているものばかり。遠慮せず存分にご堪能下さい。」


 僕は砂肝と思われる串を手にして食べてみると、前の世界で食べていた焼き鳥と寸分たがわぬ味わいだった。砂肝のコリコリ感に加えて良い塩梅の塩加減がさらに食欲をそそる。次々と出てくる品に吃驚しながらも僕やシル、ジルは手を止めることができない。


「え?これって唐揚げ?」


「流石シュウ様!博識でいらっしゃる。そう、これは初代首長を務められた国主が考案したレシピなのです。それだけではありません。現在の首長も負けず劣らずの美食家でして、現在テルトーダにある屋台の半数は現在の首長が考案されたと言われています。」


 テルトーダの首長、これは恐らく……。と考えはするが、美味しさに感覚のほとんどを奪われた僕は深く考えることを放棄した。今は美味しいものが目の前にある。それだけで十分だった。




 僕たちが美味しい料理に舌鼓を打っていると締めのスープが到着する。


「これもテルトーダの新しい名物となりえる料理、『クリームシチュー』です。満たされたお腹でも優しく入っていき、スープではあるものの主食にもなる不思議な食べ物です。こちらも現首長が考案された珠玉の一品なのですよ。」


 ……。美味しい。牛乳を温めて鶏肉や野菜の旨味を凝縮させたスープはお腹だけでなく僕の心まで満たしてくれていた。


 そうして、食事を終えた僕たちはマシューさんたちと別れて宿屋へと戻る。マシューさんたちは宿屋ではなく、郊外にある自宅へと戻るらしい。

 マシューさんは『最後まで見届けさせてほしい』と言い、明日の出国手続きを手伝ってくれることになった。さらに、出国許可が下りるまでの間、テルトーダを案内してくれると言う。


 正直、付き合っているこちらが不安になるほどのお人好しだが、折角のマシューさんの好意である。僕たちはマシューさんの好意に甘えることにした。


 ===================================


 ――――次の日。


 僕は少し遅めに起床する。同室のジルはもうすでに覚醒しており、食堂からケーシーのご飯を貰い受けてケーシーに与えていた。


 僕はその微笑ましい光景を見ながら伸びをすると部屋の外からノック音が聞こえる。扉を開けるとそこにいたのは宿屋の従業員ではない見知らぬ人であった。


「シュウ様ご一行ですね。首長が是非お会いしたいとお申し出です。ご同行願いますでしょうか。」


 これは何やら不穏な空気である。

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