第72話 天使の翼
「おいおい、参ったな、おい!こんなの相手にするなんて聞いてねぇぞ!」
その巨体はそれぞれの頭でこちらを見てくる。ゲームの世界では結構おどろおどろしい感じで描かれていることが多いけど、各パーツ自体は以外と可愛らしい。ドラゴンやらドラゴンやらドラゴンと戦ってきたことで僕の美的センスが狂ってるのかもしれない。
「小僧ども!戦闘に入ったときの注意点を説明するからよく聞け!
まず獅子のほうだが、咆哮が風魔法を帯びてやがる。ノーガードだと切り刻まれるから用心しろ。山羊のほうはあんな見た目で火を噴くぞ。ドラゴンのブレスほどじゃないが、範囲が広い。尻尾の蛇は毒を吐くうえに石化の魔法を使ってくる。間違っても目を合わせるなよ。
最後に、奴の爪はドラゴンクローと言って攻撃時に風魔法が帯びることがある。爪を避けた後に遅れて風魔法がやってくるなんてのは良くある話だ。奴は筋力自体も凄まじいもんがある。とにかく油断するな、以上だ!」
頭それぞれに違う役割があるというのは厄介だが、攻撃パターンはドラゴンとそこまで変わらないんだな。ちなみに、石化の魔法というのは実際に石に変わるわけじゃない。黒魔術の一種で脳に直接魔力を流し込んで体を硬直させるのだ。魔力を流し込む必要があるためメデューサのように目を見たら即石化、というわけではない。
「へぇへぇ、流石はリッチー先生。ありがたい情報、助かるぜ。おかげで絶望に落とされた気分だ。」
「ロージ、嘆いてる暇はないよ。」
「テルの言う通りだ。このままでは街道まで奴を連れていくことになる。そうなれば街道を行き来している商人たちに被害が出るぞ。」
「ダグの言うことはわかるけど、こんなの相手に戦いようがなくないですかぁ!?私、食べられるのも潰されるのも裂かれるのも燃やされるのも嫌だよー!?」
「それでも、私は何の罪もない人を巻き込みたくない。子供のことだって心が抉られる思いだったんです。」
「アリアナ、お前さんのそういうところは好きだが、現実的に考えれば何かに押し付けて逃げの一手を選ぶ方が賢い。テル、ロージ。俺は副リーダーとして撤退を指示する。」
普段は飄々とした印象のジャンが真面目なことを言っている。確かに普通に考えればこの場面は逃げるほうが得策である。
「……。シュウさん、あなたはどう思いますか?」
テルが僕のほうへ話を振る。
「あなた方の意見はさておき、僕の大事な人たちはこの街道の先にいます。だから、絶対に町には近づけさせない。」
僕のことをジッと見つめるテルだったが、意を決したようにロージへ告げる。
「ロージ、僕は僕の全力を出してこの魔物を倒す。」
「……。はぁ、分かったよ。ジャン、皆。リーダーの決断だ。いつもの決まり通り、付き合いきれねぇ奴は勝手に離脱すること。コイツで行くぞ。あんたらも同じだ、お二人さん。」
ロージは僕とシルの方を向く。シルの腕にはミラが抱えられたままだ。そのため、シルだけでも避難させてやりたいと思ったのだろう。しかし、シルの言葉はその思いに応えるものではなかった。
「シュウが何とかすると言っているのだ。私が逃げる必要もあるまい。それにミラを抱えて逃げたとして、この化け物に追いつかれればそれこそ致命的だ。シュウのそばにいること、これが最も安全で間違いのない手段だ。」
「…。信頼してんだな。よし、そんじゃあこのバケモンに一泡吹かせてやるか!!」
ロージの掛け声で全員が戦闘態勢に入るが、キマイラの足元から突如現れたものによって出鼻を挫かれる。
「ふっはっはっはっは!お前たちは実に短絡的で無知なのだな。本気でこの殺戮兵器と渡り合うつもりでいるのか。はっはっは!実に愉快、愉快!」
「てめぇ、クソ男爵!」
「身の程を弁えろ、この不敬ものどもが!…。くっくっく。まぁ、今の私は頗る機嫌が良い。知恵の足りていないものの無礼にも寛大になろうというものよ。なんせ、私を侮辱し面子を潰した貴様らは私のペットの餌になるのだからな!」
リード男爵はキマイラの圧倒的ともいえる力に魅了されているようだった。両腕を広げて高笑いしている彼の目線は遥か遠くを捉えており、多少焦点が定まっていないように見えた。
「これは、あなたが生み出したのか。」
この質問をしたのはテルだ。人見知りと言われている彼の口から発せられる言葉は憤怒を何とか押し殺している感情が見て取れる。
「ん?あぁ、貴様は確か名ばかりのリーダーであったな。
そうだとも。これは私がさるお方から伝授された至高の技!そして、唯一無二の傑作である!」
「あんた、それが禁忌の魔法だってことくらいは知ってるよな?」
「あぁん!?それは古文書で語られている中途半端な出来損ないのことであろう?あんな紛い物と一緒にされては困る。このペットは生み出された瞬間から私を主と認め忠実に命令を熟す忠犬だ!文句ばかりを垂れる貴様らとはその価値が違うのだよ!」
「古文書にはそうして悪魔に騙されたとあったぜ?あんたも悪魔に騙されてんじゃねぇのか?」
「私が?このわ、た、し、がぁぁぁ!?お前のような腐れエルフと一緒にするな!貴様らエルフこそがその甘言の元凶ではないか!私はお前のような者の話を聞くほど馬鹿ではないわ!
あのお方も私の思慮深さをとても気に入って下さっていてな。貴様らを始末するためにこの秘術を特別に教えて下さったのだよ。この腕輪を見ろ!これこそがあの方の秘術、従属の腕輪だ!これによって古文書に記された欠陥は排除された!この生物兵器はあの方と私の手により完全となったのだよ!
さぁ、貴様らはあの方へ捧げる生贄として歓喜しながら死んでいくと良い!」
「うっわー…。イッちゃってるよ、キモ…。」
コニーの辛辣な物言いは普段ならドン引きするところだが、この場では至極真っ当な意見だ。この男は自分が力を手に入れたと勘違いをして悦に浸り、己が犯してる罪に全く気付いていない。
「もう、いい。つまりその腕輪がなきゃあんたは只の小物じゃないか。自分で何もできないのに、他人の力を自分のものと思い込み弱いものを虐げようとする。僕は、あんたのような人間が大っ嫌いだ!」
テルが激昂すると洞窟での戦いで見せた真っ白な片翼がテルの背中に顕現する。そして、僕の魔法すらも削ってみせたあの青白い闘気を身に纏っていた。
「この世界はあんたの思い通りにはさせない。この地上に生きている人たちを、僕の大事な皆を!絶対に傷つけさせなんかしない!」
テルはフードと仮面を外してリード男爵を睨みつける。その目は銀色に輝き、テル本来の黒髪さえも銀髪となりテルが白銀を全身に纏っているかのようだった。
「な!?ま、まさか、お前は…!?」
先ほどまで調子づいていたリード男爵が慄いている。恐らく、テルのこの格好で彼が転生者であるとわかったためだろう。あそこまで小物だと思い込んでいた相手である。まさか世界屈指の力を持っているとは思いもしなかったはずだ。
「よし、俺たちも続くぞ!」
テルが一気に踏み出すとキマイラへ突っ込んでいく。それはカーンやジキアスが竜人となって襲ってきたときのように片翼ながらも飛びながら進んでいるのである。
『グォォオオ!?』
テルは自身の剣を縦に一振りする。すると山羊の頭はそのまま落ちて灰になってしまった。
「行くよー!!〈ファイアーボール〉」
「〈ホーリーレイ〉」
コニーが魔法を唱えると火の玉が五つ山羊の頭があった個所へ向かっていき爆発を巻き起こす。それを追うようにアリアナの光の矢が複数飛び出しキマイラを襲う。この遠距離攻撃に乗じて近づいたロージとジャンは闘気を練りこみキマイラの前足を狙う。彼らの攻撃は前足を切断することは出来なかったものの、十分なダメージを負わせることに成功する。
「ぉぉぉぉおおおお!!」
いつの間にかキマイラの真上に飛び上がっていたダグは赤黒い闘気を右手に集めて急所となる部分目掛けて拳を振り抜く。激しい衝撃音とともに地面が凹みキマイラを喰い込ませる。そして、青白い闘気を剣に集中させていたテルが獅子の眉間目掛けて必殺の一撃を放つ。
「穿通!」
テルの突きは獅子の頭から胴を貫き林の奥まで達していた。テルの怒りの一撃が炸裂したのである。キマイラは叫び声を上げる暇もなくそのまま倒れ込む。これであっけなく終わりとなるかに思われた。
『シャー!!』
それは不意の攻撃。尻尾に位置する蛇の体が伸びたかと思えば、シル目掛けて襲ってきたのである。
「大丈夫だ、ミラ。約束しただろう、お前のことは私が護る、と。」
だが、この不意打ちに対応できないシルではない。ミラを抱えていたものの、器用にミラを自身の影に隠しつつ真正面から縦に真っ二つにしてみせた。ミラを庇ったことで被っていた帽子は飛ばされてしまったが、大きな音を立てて地面に倒れた蛇はそのまま灰になっていく。
「これで終わりです。あなたの言う『あの方』とは誰の事か、話してもらいます。」
テルがリード男爵へと迫っていく。
「な、なな!?そ、そんな馬鹿な!?」
先ほどまでとは打って変わってリード男爵の怯えようは異常だった。圧倒的と思われた優位性が目の前の少年のせいで潰えれば、リード男爵の顔が恐怖に歪むのも当然であった。
「おい、油断するな、小僧!!」
それはリッチーさんの声だ。小さな体から力の限り張り叫んだ声を聞いてテルが振り向くと、なんと山羊の頭を再生したキマイラが立ちあがったのである。
「マズい、テル!!」
ロージが叫ぶが、完全に不意を突かれたためアリアナの魔法も届かない。テルは動く間もなく山羊の炎に包まれることとなった。
「おかしいな。確かその腕輪を付けていたら忠実な僕になるのでしたよね?それにしてはあなたのことも狙っているようですが、男爵?」
「シュウさん!?」
気配察知で不穏な動きがあることが分かった僕は先回りをしてテルの前に立ち『ストームサークル』を唱える。すると炎は僕たち三人の周りを渦巻きながら真上にせり上がっていき、平原には大きな円を描いた焦げ跡だけが残る。
「ほっ…。よかった。」
「マジかよ、よく間に合った…というか防げたな。あの炎を真上に巻き上げるなんざ並大抵の技じゃないぞ。」
「さぁ、見せてください、その腕輪。とてもじゃないが、あなたの命令を聞いているとは思えません。死にたいのであれば止めませんが?」
僕が、命令ついでに脅すと男爵は震えながら自身の腕に付けた腕輪を見せる。そして、腕輪の効力はすぐに分かった。
「あなたは『あの方』とやらに騙されたようですね。」
「な、何!?そんなはず無かろう!私はあの方の右腕も同じ、そうあの方がおっしゃっていたのだ!その私を無碍に扱うはずがないだろうが!」
実におめでたい人である。そんな口八丁のリップサービスを真に受けて有頂天になっていたとは。僕が務めていた会社の先輩もよく素行の悪い取引会社から持ち上げられて喜んでいたのを思い出す。そのあとは決まって無理な取引を持ち掛けられて、『あなたにしか頼れない』などの殺し文句に惑わされ契約してしまっていた。
ただし、先輩は会社での信頼を失くすだけで死にはしない。だが、この男は騙された挙句に殺されようとしている。
「男爵、あなたは錬金術に明るくないようだ。その腕輪に刻まれている刻印は吸収、増幅の紋です。それ自体は他の錬金道具でも見られるので珍しくはありませんが、問題はその吸収した先です。その道具があなたの生命エネルギーを吸収し、魔石で増幅された魔力はあなたの精神に干渉するように構築されています。所謂、黒魔法の一種ですね。
大方、お金に目が眩んだあなたは、その腕輪を量産して方々へ売り飛ばそうとしていたのではありませんか?キマイラを従える腕輪なんて特権階級の方々は喉から手が出るほどに欲しいでしょうからね。
本来は思考を鈍らせ、言われてもいないことを都合よく解釈して術者の言う通りに行動するよう仕向ける道具だとも知らないで。」
「な、そんな…。いや、しかし…。あの方は言ったんだ。これは私だけに授ける秘術で、この腕輪さえあれば思いのままだと。だから私は子供を奴隷商へ横流しして得た資金を腕輪の量産に…。いや、私は至高の存在だ…。だからこそ、この腕輪を、あの方が…。」
「あなた、自分で言っていたではありませんか。その腕輪は『従属の腕輪』だって。もしもこのタイミングで禁忌である『生物混成陣』をあの方とやらがあなたに教えたのだとすれば、それは体よく隠れ蓑にしていたあなたのことが邪魔になったのでしょう。
その証拠に今起き上がった僕の後ろにいる生物はあなたを狙っていますよ。嘘だと思うのなら僕とテル君は退いてあげましょうか?主従の仲睦まじい姿を見せてください。」
僕とテルは横に逸れると男爵の前に全ての部位を再生させたキマイラが牙を剥き出しの状態で現れる。その姿はとても命令を聞く態勢になっているようには見えない。
「お、おい…。私の言うことがわかる、よな?私ではなく、そこの者を狙うために来たのであろう?そうだ、きっとそうなんだ。たまたま私が見えなかっただけで狙いはコイツ等だったのだ。そうだ!そうに決まっている!」
だが、男爵の切実な願いは聞き届けられそうにない。キマイラも面倒な相手と認識したのだろう。僕とテルのことは横目で警戒しつつ男爵を睨みつける。それは虎が獲物に食らい付く際に見せるような、ハンターの目をしていた。
「おい…冗談だよな。な、なぁ…。あ、いや…。あぁああ!?」
男爵は弁明するかのように話しかけるが、相手は一向に理解を示そうとしない。思わず男爵が後退ったところでキマイラは男爵へと飛びつく。もちろん牙と爪を露わにして一撃で息の根を止めるために。
「〈インパクト〉」
僕の魔法で横殴りの衝撃を受けたキマイラは林の方へと転がっていく。
「お腹が空いているところ悪いですが、この男は今回の首謀者なので殺されるわけにはいかないんですよ。」
僕がキマイラと対峙するようにして立つと、キマイラもその体を起こし僕を睨みつけてくる。これでヘイトはこちらへ向いた。あとは、この哀れな生物を片づけるだけである。
「!!〈ピアッシングファイア〉」
僕は気配察知で山羊が再び炎を噴く動作をしたのを見逃さなかった。炎を出される前に山羊の眉間に極太の火針を突き刺すと口に溜め込んだ炎は消えていくが、山羊の頭自体は直ぐに傷を再生させて復活する。
「本当に厄介だな。こんなに再生が早いと一気に消すしかないか。」
「シュウさん、僕もお手伝いします。」
テルは僕に並ぶと片方しかない翼を羽ばたかせて力を練りこんでいく。それに合わせてテルの体に纏っている光も輝きを増していった。
「テル君、僕が足止めをします。あれを一瞬で消し炭にすることはできますか?」
「やってみます。」
僕はテルの顔を見てその真意を確かめる。言葉は謙虚であるが、その目は自信に満ち溢れていた。
僕たちは互いに頷き合い行動に移そうとする。
「〈緑樹に宿りし星の子よ。守り人たる我らが声を聞き届けたまえ〉」
後ろから声がしたかと思えば林の木々たちが動き出し、太い枝をキマイラへ絡ませていく。
僕はシルを見て笑いかけるとシルも微笑みを返してくれる。
「さぁ、このチャンスは逃せないよ、テル君!」
「はい!」
僕たちは一斉に駆けていくとキマイラも何とか迎撃の態勢を取る。足は木々に阻まれ爪を使うことは出来ないが、頭は無事である。
『ガォオオオ!』
獅子が吠えると突風とともに風の刃が襲ってくる。しかし、これは僕の障壁で簡単に防ぐことができる。僕が援護する形でテルはそのまま駆けていくと今度は尻尾の蛇が顔を覗かせて目から怪しい魔力を放出する。石化の魔法である。
だが、天使の翼を顕現させた転生者に精神を狂わせる黒魔術は聞かない。テルは何事もなかったかのように飛び上がると蛇の首を落としてそのまま天高く舞い上がる。
「〈アイシクルピラー〉」
逆さに突き出た氷柱に串刺しにされたキマイラはシルの精霊術と合わさり身動き一つ取れない。さらには枝を傷口に刺して蛇が復活しないようにしている徹底ぶりである。
僕は僕で〈ウィンドカッター〉で山羊の頭を二つに割っておくことにした。獅子の頭は首に氷柱が突き刺さり動かすことができない。これでお膳立ては完璧である。
空に留まって剣を掲げたテルは剣へ力を溜め込んでいく。溜め込むほどに光の強さが増し、光の奔流が剣に纏わり付いていくと神々しい光の塊がテルの頭上に出来上がる。これを見た昔の人が転生者を天使と間違えるのも無理はないと思った。
「ジャッジメント」
テルが剣を振り下ろすと光の柱がキマイラ目掛けて降り注ぎ、一帯に激しい突風が巻き起こる。
ジャッジメント。
悪しきものを振り払い浄化していく聖なる光だと伝えられているとオーベロンに教わったことがある。浄化の力かどうかは別として、確かに強力な一撃である。キマイラの体は灰一つ残らずに跡形もなく消し去っていた。
「あ、あぁ…。私の、私のキマイラが……。」
絶望に苛まれた声で途方に暮れる男爵を見てからシルのほうを見てみる。ミラはきょとん空にいるテルを見ていたが、何かシルへ囁くとシルが頷きながらミラの頭を撫でてやる。それが嬉しかったのか、ミラからは久しぶりの元気な笑顔が蘇っていた。
「シュウさん、ありがとうございました。」
テルが戻ってきて僕に頭を下げる。そして、僕の返事を待たずに仮面とフードを被り直す。
その理由は気配察知で分かっていた。テルも空から見えたのだろう。
町から守備隊がこちらへ向かってきたのである。その中には町長もいるようだ。
「こ、これは……。それに、そこにいるのはリード男爵。シュウ殿、何があったのだ?」
町長は現場を見て唖然とする。軽く地形が変わるほど抉られた地面やなぎ倒された木々をみれば無理もない。
「ここ周辺の人攫い、及び野盗襲撃の主犯者がリード男爵です。傭兵団『仮面の七人』がアジトを暴く手伝いをしてくれました。」
「なんと!だから大勢の子供たちが急に町へやってきたのだな。」
「これからアジトを抑えるほうが良いでしょう。町の近くの林に入口があります。リード領にある館は町長が動いては国際問題に成り兼ねないので僕の方で引き受けます。
ただし、町長はボールドンとツィワンへ手紙を送ってください。ツィワン将軍は僕も顔を合わせたことがあるので、僕の書面も加えればきっと動いて下さるでしょう。」
「わかった。プラチナ冒険者である準男爵閣下の言う通りにしよう。しかし、名のある傭兵団まで知り合いとは御見それした。流石は『飛竜狩り』の二つ名を持つ英雄だ。」
町長の言葉に仮面の集団からざわついた空気が漂ってくる。あれ?もしかして今まで知らずに戦ってたの?
「シュウ、私は早くマシューたちにミラの無事を伝えたいのだが良いか?」
「あぁ、もちろん。こっちのことはこの怪しい仮面の皆と僕に任せて。」
どこからか『げっ!?』という声が聞こえるが無視だ。そもそも話をややこしくしたのはあなたたちなので、拒否権はありません。
「しかし、まさかエルフだったとは。シュウ殿の友人も様々な方がいるものだな。」
町長はあからさまではないが、少し身を構えるような姿勢をみせる。エルフの人種差別は思いの外根深い問題のようだ。
「お姉ちゃん、大丈夫?」
ミラがシルのことを心配してシルの頭に手をやる。シルの表情に変わりはなかったはずだが、子供の本能とでもいうのか何となくシルの気持ちを察したのだろう。
「あぁ、大丈夫だ。ミラ、お前は本当に優しい子だな。」
シルが笑うとミラも笑顔でシルへと抱きつく。
差別というのは、いつの時代も絶やすことができなかった難しい問題だ。だが、まっさらな状態で付き合えばその人の心根がどんなものか色眼鏡無しに見ることができる。
だからこそ何も知らない世代こそが根絶させるきっかけになるのかもしれない。そんなことを考えながら僕は雲一つない空を見上げた。




