タブー
重い話ですが、理解を深めていただくために書きました。
苦手な方は読み飛ばしても問題ありません。
【恥辱の歴史】
かつてアトラ帝国と魔導連邦国は領土争いが激化し、血を血で洗う戦いが繰り広げられていた。
それは昼夜を問わず留まることはなく、日によって国境線が変更となるほど激しいものであった。後の歴史学の論文で、この間の両陣営における被害は戦死者だけで大国の人口に達すると発表している。
それほどまでに両軍ともに疲弊していたにも関わらず戦争は継続されていく。やがて、アトラ帝国の軍事力に対して、錬金道具を次々と生み出し魔導兵器を駆使して抗う魔導連邦国の構図が出来上がる。魔導連邦国が生み出す魔導兵器はどれも強力なものであったが、扱える魔導師の数が圧倒的に不足していたためアトラ帝国がやや優勢に思われていた。魔導連邦国はこの局面を打開するために非人道的な作戦に打って出ることを決める。
それは魔物の生成。魔物は悪魔が生み出すものであり、人間の手では作り出せないものだと言われていた。しかし、魔導連邦国は常に最先端を行く技術力と叡智を求めて集まる魔導師を結集し、魔導の粋と呼ぶべき魔法陣を作り上げる。それが『生物混成陣』とよばれる魔法陣である。
生物混成陣は別々の生物を組み合わせて新たな生物を生み出す技術である。生物であれば種に関係なく混ぜ合わせることができるこの魔法陣は、当初動物たちを掛け合わせることを目的に作られた。それこそどんな動物でも躊躇わずに試し試験を繰り返していく。最終的には奴隷にも手を出したが、それでも成功には辿り着かなかった。混成できても兵器と呼べるまでの戦闘力がなかったのである。
動物同士の混成に見切りを付けた研究者たちは魔物を使って研究を再開する。そして、この判断は研究を新たな段階へと進めるきっかけとなった。
研究を重ねた結果、混成が可能な魔物の組み合わせは限定的ではあるが、特定の魔物を三種揃えれば新生物を作り出すことができるようになっていた。ただし、魔物であることが原因なのか、混成された新生物は獰猛さを増して人の言うことを聞かないという致命的な欠点が浮き彫りとなる。到底兵器として使用することが敵わない代物であったため、この発表を聞いた連邦政府からは神への冒涜であるなどと糾弾されることになるが、決して研究者たちは研究を止めなかった。
生物混成陣自体の術式は完成されたものであり、不備を疑う余地はない。しかし、魔物が人の言うことを聞くはずはなく、その気性の粗さと獰猛さが問題であった。そして、研究者たちは苦悩の果てに侵してはならない領域へ足を踏み入れてしまう。
研究者たちが新たに発表した『キマイラ』と呼ばれる新生物は学会に新旋風を巻き起こす。気性の粗さは残っていたものの三種の魔物の特徴を活かし強靭、且つ、強力な新生物となっていたのである。そして何よりも重要な点は、その獰猛な魔物が人の言うことを聞いたという点であった。この発表を受けた政府は新生物『キマイラ』の実践投入を決断する。
キマイラが投入された戦場は圧倒的であった。帝国兵を次々と薙ぎ払い殺して行く。これによって魔導連邦国の国土はルインルスアルテ大陸の三分の二まで膨れることになる。連邦政府は喜び勇んで研究者たちを称え特権を与え始める。研究者たちはいつからか『救世の七賢人』と呼ばれるようになっていた。
だが、この時はまだ連邦政府は知らなかった。研究者たちがキマイラ研究を成功させた要因の裏にいる存在を。
帝国領の全てを不毛の地へ変えるかの如く蹂躙していく魔導連邦国であったが、ある時からその快進撃に陰りを見せる。キマイラが次々と腐り始めたのである。
ここまでの攻勢を見せたのは一重にキマイラがいたためである。これに焦った政府は研究者たちに急ぎ原因の究明と改善を求めた。だが、研究者たちも途方に暮れてしまう。それもそのはず、キマイラが言うことを聞くまで完成させることができたのは、褐色肌のエルフのおかげだったのだから。
原因だけであればすぐにわかった。無理やり異なる魔物を混ぜ合わせた新生物は特殊な生命エネルギーを必要としており、この世界ではエネルギー源を補給することができなくなっていたのである。
この問題を改善する手段が研究者たちにはなかった。だが、『救世の七賢人』と持て囃されるまで昇りつめた地位を捨てることもまた出来なくなっていた。
研究者たちは褐色肌のエルフへと泣きつくと、そのエルフは優しく彼らを包み込みすぐに新作のキマイラを作ってみせる。このキマイラはある特定の生物を摂取することで問題であった生命エネルギーの蓄積を行えるようになったのだという。新たなキマイラを手に入れた研究者たちは大手を振って政府へと掛け合うと、政府はまたしても即座に実践投入を決める。
そして、またしても魔導連邦国の蹂躙が始まる。
快進撃の復活に喜ぶ連邦陣営であったが、ここで問題が起きた。突如キマイラが命令を聞かなくなり、味方を喰い始めたである。政府はキマイラが何故人を喰い始めたのはまったく分からなかった。それもそのはず。研究者たちは政府に生命エネルギーの補充に必要な生物が『人』であると伝えなかったのだ。
特権を与えられていた研究者たちは自分たちの研究棟を持っていた。そのため、キマイラのエネルギー補充は密かに研究棟へ奴隷を連れ込み行っていたのである。だが、快進撃が続くにつれてキマイラを戦場へ出す頻度が高くなってしまった。そうなるとキマイラが人を喰う様を見せるわけにもいかず、エネルギーが枯渇していってしまう。そして、餓えの限界を迎えたキマイラは魔物としての本能を取り戻し、人を襲い始め命令も聞かなくなったというのが事の顛末である。
敵味方構わずに暴れ回る戦場はまさに地獄絵図であった。
言うことの聞かないキマイラは自身の生命エネルギーを使い果たし腐り切るまで動くことを止めない。それはすなわち人類滅亡を意味している。さらに具合が悪いことに、キマイラはあろうことか研究者たちがいる国へ向かっていたのである。
連邦政府はまたしても『救世の七賢人』たる研究者たちを呼び立て改善策を迫ってくる。困り果てた研究者たちは三度褐色肌のエルフへ救いを求めに行くが、そのエルフは高笑いをするだけで何の改善策も示すことはなかった。
これに怒ったのは研究者たちである。政府関係者が居るにも拘らず、自分たちに不良品を渡したのかと言い始めたのだ。
だが、エルフは笑うことを止めないばかりか、笑いながら騒ぎ立てる研究者たちの首を刎ねていく。そして、背中からは漆黒の翼が顕現するのだった。
『あなた方は私と契約したではありませんか。この研究を成功させるためであればどんな犠牲も厭わない、と。ですからあなた方の望む通りにしてあげた、それだけのことですよ。悪魔と契約を交わしておいて報酬を踏み倒すことなどできるはずがないでしょう。』
この出来事が記された古文書が見つかると、魔導連邦国の一部地域のみで伝わっていた『エルフは悪魔である』という説が普及していくこととなる。
当の悪魔はというと、その後、現出した天使によってキマイラとともに退治されたと古文書には記されている。そして、魔導連邦国のみならず全世界で『生物混成陣』は禁忌の魔法として全面的に禁止されるのだった。
本日2:00amに次回【天使の翼】を投稿します。




