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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
アヅィール聖法国編

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第71話 館での攻防

「あのクソ男爵、中々いい立地に別荘建てるじゃねぇか。ここなら男爵自身が見回りでも命令しない限り見つけるのは容易じゃねぇな。」


 僕たちは敵のアジトとなる館付近で潜伏していた。

 館は鬱蒼とした林の中にあり、周囲を崖に囲われた場所にある。普通であればこんなところに館を建てるなど疚しいことを考えているとしか思えないが、領主自身が秘密裏に建てたとなれば噂にならないのも肯ける。


「ロージ、どうするんだ。陽動がいるんなら俺が館の前でひと暴れしてくるぞ。」


「ダグ、陽動は必要になるだろうがそれは今じゃない。俺たちの目的はあくまで裏を取り仕切る黒幕と男爵とを結びつける証拠を見つけることとお嬢さんの身の安全だ。いきなり暴れちゃ向こうも警戒してお嬢さんの奪取がしにくくなる。さらに言えば、最悪、証拠隠滅のために館ごと火を付けちまうかもしれないからな。ここは慎重に行きたい。」


「なるほどな、ならば二手に分かれるか?」


「あぁ、それがいいだろう。潜入は俺とテル、それにお二人さんだ。あんたらの実力なら問題ないと思うがどうかな?」


 ロージは僕たちに話を振る。まだ僕たちの中で傭兵団『仮面の七人』のことを信用することはできていない。だが、ここまでの道のりは正確であったしロージの指示も的を得たものだったので、ここで僕が拒否する理由が見当たらなかった。


「大丈夫です。ですが、これ以上ミラを巻き込みたくありません。僕たちが館へ潜入したら真っ直ぐにミラの元へ向かいます。」


「あぁ、それで構わない。だが、騒ぎは起こすな。俺たちの仕事がやりづらくなる。」


「わかりました。それでは潜入方法ですが、敵は……。」


「敵は館に十名ほどが常に見回りをしているな。さらに男爵の部屋に五名、男爵の身辺に十名が待機している。林の中にも二十名ほどが動き回ってる徹底ぶりだ。オレッちの見立てではミラっていうお嬢ちゃんは男爵と一緒にいるんじゃねぇかと睨んでる。」


「そうですね、敵の位置は凡そ合っています。ただ、ミラの位置はっっってぅをおおぉぉいぃぃ!?」


「なんだ、小僧。シマリスが喋るのを見るのは初めてか?」


 当たり前でしょうが!!常識によ?常識的に考えてよ?小動物が人語を喋るなんてメルヘン設定普通はあり得ないでしょうが!え?これがこの世界の常識なわけ?猫も喋るんだからリスだって喋って当たり前なの?っていうかリスってこんなダンディな声で話すの!?


 ……。いやいやいや!僕は騙されないぞ、今回の僕は自分の常識を信じるんだ!


「シュウ。気づいているだろうが、テルという少年の肩に乗っているリスからは人間の魂魄のような波動を感じる。恐らくシーのように憑依しているか、無理やり魂をリスに定着させたのだろう。」


「お、さすがはテル達を翻弄した強者どもだな。オレッちの場合は後者だ。死んで成仏するはずだったところをオレッちの知識を求めてシマリスに転生させやがった奴がいんのさ。奴が言うにはオレッちはテルを導くガイド役になれってんだぜ?まったく頼れる漢は死んでも引っ張りだこなもんだから困るぜ。」


 ……。いや?全然そんなの分かりませんでしたけど?それって常識だったんですか?


「おい、先生。少し脱線してるんで話を戻すぞ。お嬢さんが男爵と一緒となると奪取は後回しにするしかない。先に裏帳簿と証拠となる手紙やらを見つけたいわけだが、めぼしい場所はあるか?」


「いや、そこまでは分かってねぇな。男爵の野郎、隠蔽魔法がかかった錬金道具でも使ってんのかもしれねぇ。」


「そうなると手辺り次第に探っていくしかねぇな。お二人さん、そんなわけだからあんまり勇み足で男爵の部屋まで行かないでくれよ?」


「…………。は!…。あ、は、はい。それは大丈夫です。」


 おっと、シマリスの衝撃が強すぎで思考が停止していたようだ。いかんいかん。


「リッチー、さん?が隠蔽魔法と言いましたが、男爵がいる部屋から地下へ続く通路があります。その奥に何かの魔法が掛けられた場所があるのでそこが怪しいでしょう。地下にはミラもいますから、やはり男爵の元まで向かうのが最適解な気がします。」


「おい、何故疑問形だ?」


「何?それはどうやって分かった?」


 ロージたちが疑いの目でこちらを見てくる。言っちゃ悪いが、索敵や探索において気配察知を使える状態の僕に勝てる者などそうはいない。


「僕の気配察知は動くものの場所だけでなく、魔法が掛けられた個所や地形も何となく把握することができます。」


「おい、何で『さん』付けするのを躊躇ったんだ?」


「気配察知ってそんなこともできるのか?にわかには信じられねぇな。」


「場所さえ近ければ小声での会話も何となくですが掴むことができますよ。あなた方が僕と戦っているときにしていた絵本の話でもしましょうか?」


「……。おい、お前ら。オレッちが必死にジャンの元まで走ってたときに何してんの?」


 僕が洞窟内で戦っているときに穴から覗いていたリスが何を隠そうこのリッチーさんだった。

 リッチーさんは僕の罠にかかって足止めを喰らった五人の代わりに出口で待っていたジャンの所まで駆け抜けていたのである。一々構っていると話が進まないのでここまでフルシカトだったが、この場所を見つけたのと言い、窮地を知らせに行ったのと言い、『仮面の七人』からしたら影の功労者がこのリッチーさんなわけだ。


 そんなリッチーさんに洞窟内でのことがバレてあらぬ方向を向きながら何とか誤魔化そうとする五人。コニーなど吹けない口笛を吹く真似までしているが、まったく誤魔化せていない。


「ま、まぁ今は時間がない。テル、どうする。」


「僕はシュウさんの言うことを信じていいと思う。」


「俺も同じ意見だ。よし、それじゃあシュウさん、案内を頼めるか?男爵の元に行くまでは極力戦闘を避ける方向で頼む。」


 ロージが役割を次々に決めていくと『仮面の七人』は仮面とフードを被り行動に移していく。

 崖は反り立っているので奇襲や強襲には向かない。そのため見張りが極端に手薄となっていた。だが、僕たちは館の影から飛び降りるとテルの土魔法で簡易的な滑り台を作り、館の裏側へ降り立つことに成功したのである。


「とりあえず潜入は成功だな。シュウさん、男爵は今どこにいる。」


「変わらずに一階リビングにいます。リビングの書棚から地下通路が伸びているので、そこに仕掛けがあるんでしょう。」


「よし、それじゃあリッチー先生、頼んだ。」


「任せておけ。」


 そう言うとリッチーさんはテテテと応接室と思われる場所に入っていくと調度品を壊し始める。派手に音を立てながら見るからに高そうな壺や花瓶などが割れていくと次々に人が集まっていき、ついには男爵までものがその部屋へと入ってきた。


「なんだ、この騒ぎは!」


「は!リスが迷い込んだようです!」


「物の価値もわからん馬鹿者どもが!早くそれを駆除せんか!お前たちよりもよっぽど価値ある品々なのだぞ!?」


 男爵が何か叫んでいるが、僕たちはリッチーさんの心意気を無駄にしないために急いでリビングへ向かうと本棚の前に立つ。少し調べると本と本の間に魔石の付いた動かせない本を見つけたので魔力を込めてみると本棚が横にスライドし始めて地下通路が現れた。


「リッチー先生の陽動の限界も近い。早い所見つけるもん見つけるぞ。」


 僕たちは転がる様に地下への階段を下りていくと牢屋と変わらぬ見た目の空間が広がる。僕は最奥に位置する牢屋へ向かうと直ぐに声をかける。


「ミラ、無事かい?」


「…!?お兄ちゃん、お姉ちゃん!」


「危ないから下がっていろ、ミラ。」


 シルはそう言うと刀を高速で繰り出して直ぐに鞘へと納める。納刀されるとともに鉄格子は簡単に崩れ落ちてミラが通れる隙間が出来上がった。

 僕とシルは牢からミラを連れ出すとロージ達の所まで行く。彼らも彼らで無事、裏帳簿を見つけたようだ。どうやったかは不明だが隠蔽魔法のかかった金庫を開けて中の書面を漁っていた。


「あの男爵、ご丁寧に暗号文が書かれた手紙まで取っておいてやがった。これを解読すれば本当の黒幕まで一気に辿り着けるかもしれねぇ。大きな前進だ。」


「お互いに目的を達成したのなら直ぐにこの場を離れましょう。リッチーさんのことも気になりますし、袋小路のこの場所は出入り口を抑えられると面倒です。」


 僕がそう言うと四人は互いに頷き合い出口へと向かう。しかし、見つからずに退避するには少し遅かったようだ。


「やはり貴様らか。私の元まで接触してきたときから怪しいと思っていたが、ようやく尻尾を見せたな。しかし、あの従者どもはあれだけ人数がいて物の役にも立たんとは。あとでしっかりと始末しておかねば。…まぁ丁度よい、その胡散臭い仮面を今この場で剥ぎ取ってくれる。」


 男爵が手を上げると完全武装した護衛騎士たちが僕たちを取り囲む。


「いやはやリード男爵閣下ともあろうお方が、状況が見えておいでではないようだ。あれだけの人数を嗾けられ未だ五体満足である我々を見れば、この館の護衛では相手にならないということもお分かり頂けるだろうに。」


「ふん、どうやったかは知らんが上手く逃げられただけで大きく出おって。大方仲間でも犠牲にしてきたのであろう?後ろの二人は新たな仲間か?仮面が間に合わなかったとは残念であったな。」


 男爵は自身の優位性を確信しているようだった。不敵に笑いながら僕の顔を見つめる。


「はぁ、まったく。あんたは本当におめでたい奴だよ。こっちはその憎たらしい首を落としたくて落としたくてウズウズしてたってのによぉ。」


 ロージの口調が変わるとともに殺気が徐々に滲み出てくる。これには男爵も怯んだようで無意識のうちに後退りをしていた。


「な、なんと不敬な!?もういい、お前たち!コイツ等を殺せ!」


 男爵が命令するとともに騎士たちが一斉に襲い掛かる。しかし、外から聞こえた爆音により戦闘が起こる前に一同はその場に固まることとなった。


「今度はなんだ!?」


「くっふっふ。あんたが言っていた俺たちが置き去りにした仲間が化けて出たのかもなぁ。」


 ◇◇◇


「もういっちょ、行っくよー!〈ファイアーボール〉」


 コニーが魔法を唱えると複数の火の玉が一斉に館の前に降り注がれる。地上付近まで落ちた火の玉は地面に当たる寸前で一気に炸裂して爆発を起こしていた。これには林にいた護衛たちが館前に集まってしまうのも無理はない。

 ただし、集まってきた者から順に一迅の風が吹き、血飛沫を上げて護衛たちは倒れていく。ジャンが林を駆けて油断した敵をテルに作ってもらった岩の刀で切り倒しているのだ。


「ぅおりゃあ!」


 それだけではない。コニーが次々に降り注ぐ火の玉に乗じてダグも崖から飛び降りると館から出てくる敵へ突進していく。ときに殴り、ときに圧し潰し、敵からは怪物と呼ばれるほどにその戦い方は荒々しいものだった。


 敵もまずは厄介な赤魔導師をどうにかしようと弓や魔法で応戦するが、その悉くがリッチーを肩に乗せたアリアナの魔法障壁により防がれてしまう。シュウをも苦戦させる連携はこの局面においても確かに機能していた。


 やがて館の窓が割られるとそこから数名が飛び出てくる。

 それは攻撃を仕掛けている四人には疑う余地のない者たちの帰還であった。潜入した四人はそれぞれに得たものを両手で大事に抱えてこの場を離脱していく。それを見た陽動組も潜入組の退路を作るとともに戦線を離脱していった。



 ――――――――――――――――――――――――――


 しばらく林の中を走っていた僕たちは予め決めていた地点まで着くと陽動組と合流する。


「お帰りー!首尾はどうだったぁ?」


「上々だ。このまま国境を越えてカルカスの町まで行こう。お嬢さんを早く安心させてやりたい。」


 ミラはシルの胸に顔を埋めるとしがみ付いて離れない。やはりここまで怖い思いをさせてしまったのと敵であった仮面の集団が目の前にいることが大きいのだろう。大丈夫だと言ってもトラウマというものは中々消えないものだ。


「ミラ、シュウも私も付いている。決して離さないから安心するんだ。」


「おね、お姉ちゃん…。ぜったいだよ…?」


 ミラが泣きながらシルを見て確かめる。


「あぁ、約束だ。お前のことは私が命に代えても家族の元まで届けると誓おう。」


「お嬢ちゃん、オレッちもいるからには大船に乗ったつもりで居れば、いいぜ!」


「へ?リスが……喋ってる。」


流石にリスが喋っていること自体不思議なのに、無駄にドヤ顔で恰好付けた仕草を見ればそちらに興味がいく。ミラの表情はまだ硬いもののリッチーさんの愛嬌で少し笑顔が出るようになる。シルの言葉とリッチーさんのおかげで少しは緊張を解すことができたようだった。






 その後、僕たちはカルカス公国の国境へ向けて林を駆け抜けていく。ミラや荷物があるため普段よりも少し足並みは遅いが、それでも常人よりもよほど速く移動できている。これならば敵に追いつかれることはないだろう。


「もうすぐ林の切れ目だ!林を抜ければカルカス公国の領地になる。ここが踏ん張り時だぞ、小僧ども!」


 リッチーさんの激励とともに僕たちは速度を緩めずに駆ける。が、ここで後方から物凄い音が聞こえてくる。


『グオォォオオ!』


 それは獰猛な獣よりも巨大な何か、まるで魔物の叫び声。


「この辺に魔物はいないはずだが…。これは完全に俺たちを狙ってるよな?」


「あぁ!オレッちの危機察知がビンビンに反応しやがる!小僧ども、急げ!」


 立ち塞がる木々などお構いなしに直線距離を詰めてくるそれは僕たちを凌駕するスピードで迫ってくる。

 気配察知で感じるその魔物を形容するならば『異形』。蛇の頭のような尻尾に頭が二つ。右は獅子のような顔で左がヤギのような見た目である。


「よし、林を抜けたぞ!」


 魔物は僕たちが林を抜ける直前で一気に距離を詰めてきて、僕たちへと飛び掛かってくる。

 木々は勢いよく飛び散っていき辛うじて避けた僕たちは平原へと転がり出る。


「クソったれ!なんだってんだよ!」


「あのクソ男爵…。とんでもねぇもん出してきやがったぁ!?」


 それは体長三メートルほどあろうかという巨体の化け物。僕も知識としては知っていたが見るのは初めてだ。人工的に生み出されたその魔物の名は…。


「キマイラ。」

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