第68話 仮面の集団
[2026.05.08]一部キャラクター名を修正しました。食べ合わせが悪かったんです…。
僕らの戦闘に吃驚したのだろう。洞窟の上にある林では小動物たちが右往左往している。
一刻も早く逃げるために飛び立つ鳥たちやどうして良いか分からず木の根の間に身を隠すウサギ。自分たちに被害がないか確認するために僕が空けた穴の中を確かめるリスまでいる始末である。ただし、リスは自分の身の安全を考えてか、すぐに走り去っていった。
そのリスが見下ろした穴の中では現在、囚われの子供たちを背にした仮面の集団と道の先へ行かせないために立ち塞がった僕が対峙している。
「おいおい、参ったな、おい。どっから現れたんだ、あんた?」
リーダー格の男が僕へ話しかけてくる。何だかさっきまでとは口調が違う気がするが、それはさておき、僕も彼らの情報が欲しかった。
多対一とはいえ、ここまで苦戦させられるとは思ってもみなかった。個々の実力も高いがそれ以上にあの連携が厄介だ。今後また敵として現れるようであれば、出来る限りの情報を集めておく必要がある。
「それは企業秘密です。それよりも皆さんの練度と実力はすごいですね。闘気まで使いこなすとは思ってませんでした。ただ、あなた方の戦い方は何か隠しているようにも見えます。特に女性のお二人は前衛職にしては体裁きに違和感がありました。それぞれ技術はあるのに踏み込みが甘いというか。まるで本来は後衛職を務めているような動きです。もしかして本職は魔導師ですか?」
僕が思ったことを伝えると、仮面越しでもわかるほどにざわついた空気が前方から返ってくる。どうやら僕の予想は当たったようだ。
「この短い時間でそこまで見抜くのかよ。しかも俺とテルがタッグを組んでやり合ってたのに相棒のほうへ気を回せるとか、いよいよ以て何者なんだ?」
「そうですね、それにお答えしてもいいんですが…。僕はあなた方に興味を持ちました。どうでしょう、ここは折角ですしお互い自己紹介しませんか?」
これに応えてくれるかは分からない。だが、シルが遠ざかるまで時間稼ぎをしたい僕は思いつく限りの話題で会話をしていく。
「ロージ、時間がない。」
「分かってる。…あんた、うちのエースがあんたとの会話は飽きたってよ。あんたの相棒も相当な速さだったからな、そろそろ戦闘を再開させてもらおうか。」
少年の一言で仮面の集団は殺気立ち始める。もっと会話で引き延ばしたかったが、こうなっては仕方がない。あとは戦闘から離脱できないように出来る限り僕のほうへ引き付ける外ないだろう。
「しかし、この結界をどうするか。テル、これ破れるか?」
「…無理。」
「だよねー。私なんか当たったら八つ裂きにされちゃうかも、だもん。」
「コニー、あなたは目の前に集中しなさい。あの男、魔導師のくせにかなりの体術よ。私たちじゃ相手にならないわ。」
「それだけじゃない。アイツは恐らく複合魔法を使ってるぞ。何がどう混ざってるのかまでは分からんが水魔法といい、風魔法といい、子供の頃に読み聞かせられた魔導王のような奴だ。」
「へっ、本当にその魔導王だったりしてな。」
「…魔導王は仕込み刀なんて使ってなかった。」
何となくだけど、これだけ近ければ気配察知で敵がどんな話をしているかは分かる。作戦会議をしている風だったけど、幼少の児童文学のことで盛り上がっているようだ。こちらとしては好都合だけど、何だか大丈夫なのか心配になってしまう。
「とまぁ、現実逃避はこのくらいにして、行きますか!〈エンチャント・オーラ〉!」
リーダー格の男が呪文を唱えると女性二人と少年から桃色の闘気が浮かび上がる。
通常、身体能力を上げる補助魔法や闘気は一部の魔法を除いて他人に付与することができない。これは魔力を魔法によって無理やり疑似闘気へ変換していることに起因しており、闘気は精神面に影響を受けやすいためである。
簡単に説明すると闘気は同じ色に見えても実際は十人十色であり、まったく同じ色を与えなければ対象が操作できないということだ。
だが、稀に補助魔法や闘気を他人に付与できる者が存在する。その者のために編み出された呪文が『エンチャント』であり、『エンチャント』を操る者のことを附与師と呼んだ。先ほどの説明に補足を加えると、この附与師は自身の生命エネルギーを誰もが使える状態で渡すことができる特殊能力を有しているため、『エンチャント』の呪文によって例外的に周囲の人間へ己が操作できる魔法や闘気を分配できるのである。ちなみに、これももちろんオーベロン師匠から教えて貰ったことだ。
「ずいぶんと珍しいことができるんですね。」
「何、あんたほどじゃないさ!」
仮面の集団は一斉に僕へと襲い掛かってきた。予想通り、まずはレイピア使いと槍使いが突っ込んできて攻撃を仕掛けてくる。これを躱すと女性陣に隙ができたところで男性陣が横やりを入れてくる。そのあとは男性陣三人が連携してこちらに攻撃の隙を与えず攻め立てると、女性陣が攻防に隙間ができたタイミングで再び突っ込みこちらに休息を与えない。
この女性陣のヒットアンドアウェイからの男性陣の猛攻が連携の基本形となっているようだ。
僕は短刀を引き抜いて魔法障壁を使いながら耐え忍ぶ。彼らは常に一定のリズムで攻めているように見せてこちらが合わせようとするとテンポをずらして攻撃してくるため実にやりづらい。
特にやりづらいのは少年の攻撃である。少年の攻撃自体も重いものであるが、それに加えて彼は隙を突くことが上手い。僕が無理な態勢で避けようものならそこを必ず突いてくるので、精神的にも休まらないのである。
「まったく以て実に嫌らしい連携ですね……。」
「はっ!それを全て受け流すあんたが言うのかよ!そら、そろそろ降参してくれてもいいんだぜ?」
やはりこの集団はまだ何かを隠している。魔法が使えるのに使わない、というようなレベルの話ではない。何というか、根本をひっくり返せるものを忍ばせているような感覚だ。まだ時間を稼いでおきたいが、この引っかかりも解消しておいたほうが良いだろう。
ここは少し本気になりますか。
「〈アクティブ〉」
「コニー!!」
僕は丁度女性陣が突進してきたタイミングで自身の筋力を増加させ攻勢へ切り替える。先ほどまで上手く抑え込んできたため油断があったのだろう。いきなり速度を増した僕に追いつけず、コニーと呼ばれていた槍使いは僕を見失ってしまう。その隙を突いて僕は槍使いを峰打ちで気絶させる。
槍使いを助けようと焦ったアリアナと呼ばれるレイピア使いはつい直線的な行動に出てしまう。僕はその隙を見逃さずレイピア使いの鳩尾へ拳を入れ込み、レイピア使いもそのまま気絶していく。
槍使いと違った点はそのレイピア使いに向けて僕が短刀を突き刺す素振りを見せたことだ。他の男性陣も駆けつけようと必死だったが、僕がいきなり速度を増したことで一瞬固まってしまったのが大きくとても間に合う距離にはなかった。
そう、ただ一人を除いては。
「仲間は殺らせない。」
「これは……。」
僕の短刀を仲間へ届く前に防いだ少年の背中からは、天使と見紛う神々しい翼が片翼だけ生えていた。
◇◇◇
シルフィードは全力で駆けていた。
ミラはボールドンからここまで本当に良くしてくれた家族の一員である。マシューにアンナ、ナッシュとともに冒険者たる自分たちへ悪感情の一つも抱かずに優しく接してくれた。
エルフは混血種から厳しい目を向けられることはこれまでジルベスターとの二人旅で嫌と言うほど思い知らされている。耳を隠し、本来の種族を隠してきたが、それでもこちらが心配になってしまうほどお人好しの彼らのことは嫌いになれなかった。まだ八歳の幼い子供であれば尚更である。
そのミラが泣いていた。シルフィードが全力を出す理由などこれだけで充分であった。
暫く進んで行くと声が聞こえてくる。どうやらミラが泣き叫んでいるようで次第にその声ははっきりとしてく。
「お兄ちゃん!助けて、お兄ちゃん!嫌だ!放して、嫌!!」
「うるせぇ!静かにしやがれ、このクソガキが!こんな状況じゃなけりゃ鞭の一つでも売ってやったものを。」
この声は先ほどのホビットの声だろうとシルフィードは結論付ける。
(もしもミラに傷をつけていたらその首を刎ねるだけでは済まさん。)
シルフィードは心の底から沸き起こる怒りを糧にしてさらにスピードを上げていく。そして、ついに主犯の元へと追いつくのだった。
「貴様ら!ミラを開放しろ!」
「う、うげぇ!?追いついてきやがった!てめぇら、盾になれ!」
頭目は付いてきた数少ない部下を身代わりにさせて自身はミラを担いで走り去る。しかし、シルフィードにとって彼らは壁役にもならない。一瞬で立ち塞がる敵を蹴散らすと頭目に向かって刀を引き抜き有無を言わさず斬りかかっていく。
「あ、ああああぁぁぁ!?待て、待ってくれぇ!!このガキは手放すから、どうか許してくれぇ!!」
頭目が泣き叫ぼうが最早すでに遅い。これまでの所業を目の当たりにしたシルフィードは我慢の限界が来ていた。シュウであれば子供のトラウマになるような真似はしなかっただろう。だが、シルフィードにとって目の前の男は許し難い存在であり、虫けらとしか映っていなかった。
そのため、引き抜いた刀を振り上げることもシルフィードからすれば極自然なことである。シルフィードは頭目まで追いつくと振り上げた刀をそのまま首へ向けて………振り下ろした。
「ふう、もしやと思い全力疾走した甲斐があったな。コイツはここで死んでもらっちゃ困るんでね。お嬢さん、その怒りは少しの間、納めちゃくれねぇかな。」
あと少しのところで防いだのは仮面の男。現在シュウと対峙している集団と同じ仮面を付けた男であった。




