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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
アヅィール聖法国編

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第69話 続・仮面の集団

 仮面の男はシルフィードと頭目の隙間に入る様にしてシルフィードと対峙する。

 男が振るう武器は大太刀。シルフィードが使っているものよりも刀身が長く、三日月のように反っているものであった。長い刀身を自身の肩に当てて大盾を構えるかのような体勢でシルフィードの刀を受け止める。


「なぁ、とりあえずその俺ごと真っ二つにしちまいそうな力を弱めちゃくれんかね。」


 シルフィードは無言で力を強める。ここにくるまでにシルフィードは『アクティブ』を唱えている。にも拘わらず男と良い力勝負をしていることがシルフィードには許せなかった。


「ぐぬぬぬ…。」


 シルフィード渾身の力を込めても男は耐え抜く。そしてこれ以上は時間の無駄と判断したシルフィードは仕方なく後方へ飛び下がる。


「またその仮面か。いい加減もう見飽きたぞ。大人しくその少女をこちらへ渡せ。」


「馬鹿か、てめぇは!こっちは最強の用心棒がいんのにてめぇの言うことを聞くはずねぇだろうが!てめぇこそ泣き叫んでももう遅い。おい、あの女は殺すなよ。その男を狂わせるような容姿は高く売れるだろうなぁ。えぇ!?おい!!」


『土竜の十爪』の頭目はここぞとばかりに煽り立てる。目の前にいる大太刀を持った男は仮面集団の中でも特に名高い剣士である。その男が自分を助けに現れたことで頭目は自身の安全を確信していた。


「おい、お前さんは立場っていうものを理解してないようだ。俺のおかげで拾った命を俺に消されたくなけりゃ黙ってろ。」


 しかし、頭目の言葉を聞いた仮面の男は表情が見えないというのに凄まじい殺気を迸らせる。それは頭目へ向けた完全なる殺意。脅しや恫喝と言う言葉では生温く感じるほどの冷徹な意志が空間を包み込んでいた。


「おい、子供がいるんだぞ。少しは考えたらどうなんだ。」


 それはシルフィードだった。彼が剥き出しにした殺意に平然としていられるのはこの空間では彼女だけである。シルフィードの言葉を聞いた仮面の男は一瞬天井を見上げてからシルフィードのほうへと向く。すると先ほどまで充満していた寒気がする殺意は綺麗になくなっていた。


「こいつはすまねぇな、頭に血が上っちまってよ。それよりもあんた強いな。俺の殺気を当てられると大概が後ろの腑抜けホビットのように腰を抜かすもんだが。」


「そんなことはどうでもいい。早く少女を開放しろ、さもないと…。」


 言いかけたところで、いきなりシルフィードへ大太刀が振るわれる。しかし、シルフィードは焦りもせず対応しこれを受け流す。


「お姉ちゃん!?」


「ほう、同胞のくせに好かれてんだな。あんたエルフなんだろ?」


 シルフィードは返事の代わりに相手を睨みつける。


「ん?あぁ、その帽子で耳を隠してんのか。こりゃ悪いことしちまったな。だが、エルフと分かって態度を変える奴なんざ信用に値しねぇ。ここで後ろの嬢ちゃんに嫌われても俺を恨むのは筋違いだぜ。」


 そう言いながら男はフードを取る。そこからは白金髪と長い耳が現れた。


「え、エルフ…。ま、まさか、あ、あく、悪魔!?」


「はぁ…。な?この男みたいなのは一番信じられねぇ部類だ。エルフが悪魔だなんだという奴は自分の考えを持たない大馬鹿野郎どもだ。あんたもそう思うだろ?」


「何度も同じことを言わせるな。そんなことはどうでもいいからミラをこちらへ渡せ。」


「そいつはできねぇ。これが俺たちの仕事だ。」


「ならば死ね。」


 シルフィードは言うが早いか、前傾姿勢を取ってそのまま敵へと突っ込む。大太刀はその長さから小回りが利かないため接近戦に弱い。そこを突こうというのだ。

 シルフィードが横薙ぎに振るった刀は、男との間に移動してきた大太刀の刀身により阻まれる。男は大太刀の刀身を梃子の原理のようにしてシルフィードの刀を巻き込みながら持ち上げると、シルフィードの刀も一緒に持ち上がりシルフィードは胴を大きく空ける体勢となってしまった。そこに男の容赦ない蹴りを受けてシルフィードは壁まで飛ばされ打ち付けられる。その勢いは凄まじく、岩のように固めた壁に蜘蛛の巣状のヒビが入ってしまうほどである。


「がはっ!?」


「お前さんに恨みはないが、邪魔されたくねぇんだ!悪いが大人しくやられてくれや!」


 男が大太刀を振り上げて上段の構えを取るとそのままシルフィードに向けて振り下ろした。


「お姉ちゃん!!」


 思わず叫んだミラの声は激しい金属音によってかき消されることとなる。


 シルフィードは男が渾身の力を込めた一撃を己の刀で受け切ったのである。


「そんな、まさか…。」


 男が思わず呟いてしまったのはシルフィードの体から迸る金色の光を目の当たりにしたためである。

 武道の頂点に至ったものでも生涯をかけてさえ習得できないものがほとんどであるとされる闘気。伝説級のそれが自身の目の前に現れたのだ。


「貴様らにミラは渡さん。」


 シルフィードは受けた大太刀の刃を流すようにして脇へ落とすと大太刀の刀身を辿る様に自身の刀を仮面の男へと振り抜く。思わず後退った男であったが、刀を持っていた右腕に深い傷を負ってしまう。


「ぐっ!?」


 男は何とか体勢を立て直そうとするが、そんな隙を与えるシルフィードではない。シルフィードは一瞬で詰め寄ると大太刀の刃先を踏みつけて刀身の腹を上にさせると、そのまま自身の刀を振り下ろして大太刀の刀身を折ってみせる。


「んなぁ!?」


 そして、男が怯んだところに男の腹へ強烈な蹴りを一撃喰らわせ男を後方へ吹き飛ばした。


 しかし、実際はシルフィードが渋い顔をしていた。なぜなら本来シルフィードは蹴りではなく逆袈裟斬りを繰り出そうとしていたのだ。だが、得も言われぬ不安がシルフィードに襲い掛かりとっさに蹴りへ方向転換をした。そして、その不安は的中することになったため思わず渋い顔となってしまっていたのである。


 男は吹き飛ぶ直前に懐から何かを取り出して落とした。それは赤く光る石。エリスが多用している魔法を入れ込んだ魔石がシルフィードの前に転がり………爆発した。


 洞窟内を爆発音と土煙が包み込んでいく。鼓膜が破けてしまうかと思うほどの爆音は耳の機能を鈍らせ自律神経を麻痺させる。さすがのシルフィードも爆発の衝撃を耐えられても目の前で喰らえば回復に時間がかかってしまう。


 そして、土煙が収まるとそこに三人の姿はなかった。


 ◇◇◇


「がぁ、やばかった!本当にやばかったぜ、ありゃ!」


 仮面の男はミラを大事に抱えて全力で走っていた。彼らの仕事は『土竜の十爪』がミラを連れて地上へ出る手助けをすることである。だからこそミラを連れた頭目を庇っていたわけだが、彼は好き嫌いが激しい性格をしているため己の怪我を顧みずに頭目を運んでやる気にはなれなかった。

 しかし、頭目は仕事におけるキーパーソンであるため、仕方なく土煙に乗じて出口のほうへ投げ飛ばすとミラを丁寧に持ち上げて走り出したのである。


 ここは一直線となっているうえ洞窟の出口もすぐそこである。渾身の力で投げた頭目はすでに出口へ着いているだろう。到着先で生きていればの話ではあるが。


「お嬢ちゃん。すまねぇな、怖い思いばっかりさせちまって。俺の命に代えてもお嬢ちゃんのことは守ると誓うからもう少しだけ我慢してくれ。」


 仮面の男は走りながらミラへ話しかける。ただし、ミラもあの爆音を聞いているのでこの言葉は聞こえていないだろうと男は考えてた。


 そして、洞窟に点在する魔石の光よりも明るい光が目の前に現れる。ついに出口に到着したのだ。

 男が外に出ると豪華な馬車と小綺麗な身なりをした男たちが立っていた。中でも見るからに上等とわかる絹で作られた服を着ている者を中心に取り巻きたちが囲っている。全員が帯剣しているため知らない者が傍から見ても貴族の男と、その貴族を護る従者であるとわかったことだろう。


「これはこれは、ご自分からいらっしゃる必要はございませんでしたのに。」


 貴族の男はあからさまに嫌悪感を示している。そこで、自分がフードを取ったままだったことに気付いた仮面の男はフードを被りなおして平謝りをする。


「もう良い。それよりも、その幼女が例の計画か?」


「はい、テルトーダ出身の行商人の娘です。」


「ふむ、そうか。中々に可愛らしい顔つきじゃないか。ここまで来るのはさぞ怖かっただろう。」


 貴族の男はミラを憐れむような顔で見やる。だが、ミラにはその顔が薄気味悪く映ってしまう。それは思わず敵であるはずの仮面の男へしがみ付いてしまうほどであった。


「くっふっふ…。おい、役立たずのモグラ!この女をさっさと馬車の中へ運ばんか!」


貴族の男が叫ぶと馬車の脇から頭目が現れる。頭目は運良く障害物に当たることなく何とか一命を取り留めていた。

頭目は暴れるミラを担いで馬車へと乗り込んでいく。


「これで俺たちの仕事は終わりだ。報酬を貰ったら俺たちもさっさと退散しますよ。」


「ふん、身の程は弁えているようだな。私が馬車へ乗ったらその者たちから受け取るとよい。」


「ありがとうございます。」


 そう言いながら貴族の男はミラの乗った馬車に乗り、馬車にいた頭目を蹴落としてその場を離れていく。


「…。こりゃ何の真似だ?」


 残った従者たちが抜剣すると林の中から完全武装した騎士が次々と現れる。


「もちろん今回の報酬だ。安心しろ、仲間たちにもこの後すぐに支払ってやる。」


「はぁ、そんなこったろうとは思っちゃいたがな。これだから、あのクソ男爵は…。」


 仮面の男は頭を振りながら深い溜め息を吐く。


「がははは、てめぇらが信用されてるわけねぇだろうが!ハナッからこうなる様に仕向けられてたんだよ!」


 頭目は自尊心を取り戻したかのように再び威勢を取り戻す。


「この者の言う通りというのも癪だが、これはご当主様が決められたことだ。せめてもの情け、一思いに終わらせてやろう。」


「…。だとよ、どうするお前ら。」


「な!?」


 仮面の男を取り囲んでいた一部の騎士たちがドサッという音とともに崩れ落ちる。そして代わりに現れたのは同じ仮面とフードを被った五人組であった。ただし、内二人は巨漢の肩に担がれているわけだが。


「おいおい、参ったな、おい。まさか報酬を踏み倒す気かよ。この業界じゃ一番のタブーだぜ?」


「で?なんで気絶してるの、ソイツ等。」


 ソイツ等とはシュウに気絶させられた女性陣のことを指す。


「恐ろしく強いのに出くわしてな。そっちにも行かなかったか?」


「ん?あぁ…。」


「おい!今の状況分かってんのか、てめぇら!こんだけ囲まれてて二人は気絶、一人は武器なしだ。いくらてめぇらだって逃げられねぇだろうが!」


 頭目は窮地に追い込まれたはずの彼らの落ち着きようが気に喰わなかった。そのため自分の杖を取り出して脅しのように構えながら、ここに至るまでに受けた屈辱の捌け口にしようとしていた。


「逃げられない、か。そうだな、逃げる必要もないな。」


「な!?頭でも可笑しくなったか、て」


「おう、金色じゃなくなったのか?」


 頭目の憤りは解消されぬまま、一筋の閃きによって言葉は遮られてしまった。洞窟の出口から現れたシルフィードによって頭目は痛みを感じる間もなくその生涯を終えたのである。


「ミラをどこへやった!」


 そのままシルフィードはエルフの男へ向かっていくが、さすがの男もここまでの全力疾走で疲れていたらしい。直ぐ様仲間たちの元へと駆け寄って防御の態勢に入る。


「お嬢さん、そんなに怒ると綺麗な顔が台無しだ。どうだろう、ここは一度落ち着いて話し合わないか?」


「落ち着くだと?貴様らがミラを、ナッシュを…。子供たちを傷つけたのではないか!貴様らを許すとすればそれは貴様らの首が全て吹き飛んだ時だ!」


 激昂するシルフィードを抑えることはシュウでも困難を極める。リーダー格の男もそのことを悟り早々に説得を諦めることにした。


「お前たち、何を話している!仲間割れか!?」


 半ば忘れ去られていた貴族の従者が思わず声を張り上げる。


「あぁ…。本当にややこしいことになったもんだ。よりにもよって主犯格も殺されちまうし…。」


「ロージ、仕方ないよ。それよりも今はここを何とかしなきゃ。」


「はぁ…。テルの言う通りだな。…よし!ダグは二人を安全な場所へ、ジャンはそのべっぴんさんの相手を頼む!テルは俺とこの可哀そうな騎士たちを片付けるぞ!」


「うん、わかった。」


「アリアナとコニーのことは任せておけ!」


「お、おい!俺、武器ないんだが!?」


「もういい、ミラは自力で探す。貴様らは死ね!」


「自惚れるなよ!この数相手に何ができる!者ども、かかれ!!」


 火蓋が切られたように各勢力が一斉に攻めかかろうとする。が、これに待ったをかけた者がいた。その者は轟音とともに空から稲光を称えて雷を落としていく。


「うげぇ!?もう出てきたのかよ!?」


「こ、これは…魔導王の……。」


「……。雷魔法。」


 それはシュウであった。シュウは空を飛んで仮面の集団に追いつくと、三つ巴となった状況をみてシルフィード以外を狙って『サンダーボルト』を炸裂させたのである。仮面の集団には悉く避けられてしまったが、これによって騎士たちは全滅、辛うじて従者が一人生き残っただけとなった。


 シュウは空から降りてシルフィードの元へと着地する。


「シル、怪我はない?ミラはどうなった?」


「すまない、ミラは連れ去られてしまった。他の子供たちは?」


「それなら大丈夫。怪我も直したし、食べ物もあげたから当分は持つと思う。シーちゃんが様子を見にきてくれて、途中で会えたからあとのことは任せてある。」


「そうか、それならよかった。ミラは貴族が乗るような馬車に乗せられていた。車輪の跡も残っているから、後でシーに頼んで追跡してもらおう。」


「なぁ、いちゃツイてるところ悪いんだが、ちょっといいか?」


 リーダー格の男が横から申し訳なさそうに話しかけてくる。二人の距離感がいつの間にか近くにあったので、仮面の男には愛でも囁き合っているように見えたのかもしれない。尤もこの状況でそれはないことなど十分に承知しているので、早々に話題を切り替える。


「あんたら、あのお嬢さんを助けたいんだろ?どうだ、俺たちと組まないか?」


 シュウとシルフィードからすれば、青天の霹靂である。先ほどまでそのミラのことで争っていた人物から発せられた言葉だとは到底思えない提案であった。


「組むというのはどういう意味ですか?ミラを攫う手伝いをしていたのは他でもない、あなた方じゃありませんか。その非道集団と組んでメリットがあるとは思えません。」


「まぁ、そう思われても仕方ねぇわな。そうだな、何から話すか…。俺たちは傭兵団『仮面の七人』というものだ。あんたたちの連れを襲ってあのお嬢さんを攫った連中を雇った貴族を追ってる。」


「よく話が掴めません。あなたたちだって野盗たちに雇われていたじゃありませんか。」


「ソイツは誤解だ。俺たちの雇い主は他にいてな。盗賊団『土竜の十爪』を裏で使ってる男爵の悪事を暴く依頼を受けて潜入してたってわけなんだ。」


「潜入…?」


「そう、野盗どもは今回の……。」


 そこでリーダー格の男が話を止める。少年が前に出てきて話し始めたからだ。少年の肩には一匹のリスが乗っていた。


「リッチーが奴らのアジトを見つけた。あの女の子もそこにいる。是非君たちにも来てほしい。」


「おぉ、テルが俺たち以外と長文を話すとはな!」


「すまねぇ、そんなわけだから順番が逆転しちまうが、言い訳は道中に話す。どうだろう、一緒にきてくれないか?」


 シュウとシルフィードは互いの顔を見ながら、この不思議な集団のことを考えては頭を傾げ合うのだった。

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