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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
アヅィール聖法国編

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第65話 狙われた商人

世間はGW中日になりますが、本編は真冬となっております…。

 アンナとともに僕たちはマシューさんが運ばれた教会へと向かう。教会の門前にいた信徒に事情を伝えるとマシューさんがいる部屋へと案内してくれた。


 マシューさんはベッドに上半身裸で寝かされており、荒い息を吐きながら懸命に抗うようにして呻いていた。傍らにはこの教会の人だろうか、白い法衣を着てその様子をつぶさに観察している。さながら元の世界で見る執刀医のようであった。


 その人は僕たちに気付くとそっと話しかけようとするが、アンナは居ても立ってもいられず直ぐにマシューさんの側へと寄っていく。


「お父さん!?お父さん!?」


「ひどい…。何故こんなことに?」


 マシューさんは肩から袈裟懸けに斬りつけられたような傷を負っていた。その傷は肥満気味の体型であるマシューさんの体を腰元まで一気に傷つけている。この斬り方でいくと相当に深い傷を負っているだろうが、処置は甘く御座なりに傷を縫合しただけでまだ血が滴っていた。


「アンナさん。お気持ちはわかりますが、まずは彼の話を聞きましょう。」


 ジルがそう言いながらアンナを宥める。そこで漸く他に人がいることに気付いたアンナは執刀医と思しき法衣姿の男の話を聞く態勢になる。


「私はこの教会で治癒師をしているものです。この方は我々のところへ運ばれてきたとき、すでに満身創痍の状態でした。出来る限りの処置は施しましたが、御覧のように傷が深く最早尽くせる手がございません。これをお伝えすることは大変心苦しいですが、もって半日でしょう。」


「そんな…!?」


「アンナさん、気を確かに。ゆっくりと息を吸って。」


 あまりの衝撃にアンナが倒れそうになるところをジルが受け止める。戦争でこういった死に直面してきた僕たちでもこの状況は大変つらいものがあった。


「マシューの他に子供が二人いたはずだが、どこへいったのだ?」


 シルが聞くと治癒師はかぶりを振る。


「存じ上げません。こちらに来られたのはこの方のみでした。」


「となると、街中にいる可能性もある。急いで探す方がよいな。」


 シルはそっとケーシーを見るとケーシーは何も言わずに部屋を出ていった。


「それで、この状況でお話することは憚られますが…。この方の治療費を頂かなくてはなりません。荷馬車と一緒に来られたところを見ると行商人のようですから、まとまった貨幣をお持ちでなければ荷馬車の商品を全ていただくことで治療費の代わりとすることもできます。」


「な!?全てって荷馬車には彼女たちの生活用品も含まれるんですよ?」


「その程度でしたらお返しできますが、我々も慈善団体というわけではありません。命を救うためにはそれ相応の代償が必要なのです。」


「父は助かってないじゃありませんか…。」


 意識を取り直したアンナが治癒師へ噛みつく。


「父は今も苦しんでいるのに!あなたはイシュタルの教えを受けた高潔な方ではないのですか!?父をどうにかしてください…。父はイシュタル信徒なんですよ…。イシュタルの教えは父を救ってくれないのですか……。」


 最後の言葉は消え行ってしまうような、小さくか細く絞り出すような声だった。アンナは手で顔を覆いながらその場に崩れて落ちて咽び泣いてしまった。


「……。皆さん、すいませんがこの場からご退出いただけますか。僕たち身内の人間だけで話があります。」


「それは出来かねます。彼は曲がりなりにも私の患者。患者を放置して下がる治癒師などいましょうか。」


 随分とご立派なことを言っているが、僕はこの治癒師を信じていない。こんな素人目でも手抜きとわかる処置をされて金をよこせなどと言い出す輩を信用しろというほうがそもそも難しい。

 僕は首に掛けていたプラチナランクの登録証を取り出して治癒師に見せつつ言い放つ。


「私はナインフォセア王国のヌル・アダムズ国王陛下より準男爵位を賜った貴族です。さらに言えばルスト公爵からは英雄の証たるバッジを受け取っております。貴族たる私の言うことが聞けない、というのはどういう意味を成しているか。賢明なあなたならお分かりになるのでは?」


 この一言で治癒師の男は顔面蒼白になる。権威を見せびらかすことは好きではないが、今は一刻を争うのだ。早いところ話を進めるにはこのやり方が一番であった。


「わかりました……。五分だけ許しましょう…。」


 そう言って治癒師は渋々部屋を出ていく。


「…シュウ、やるのか?」


「うん。アンナさん、これから僕が言うことを約束できますか。例えそれがどんなに理不尽なことでも。」


「約束……?ハハ…。そんなものしてどうするんですか…。父が助かるわけでもないのに。」


「アンナさん!」


 僕が急に声を張り上げたためアンナは跳ね起きるように顔を上げる。


「アンナさん、時間がないんです。どうしますか?約束しますか、約束しませんか。すぐに答えてください。」


「……。父が助かるならどんなことにだって耐えてみせると約束します。」


 アンナは神に祈る様に両手を胸の前で組みながら考え込んだ後、シュウの目を見て答える。その覚悟は本物のように感じた。


「ありがとう。試すようなことを言ってごめん。これから僕がすることは他言無用だ、約束だよ。〈彼の者に聖なる癒しを〉」


 僕が魔法を唱えるとマシューさんの体が輝き出し光に包まれる。光が収まるとそこには傷が見事に塞がったマシューさんの姿があった。それまで苦しそうにしていた息遣いも普段通りに戻っている。

 少しするとマシューさんは閉じていた目を開いて周囲を確認する。


「こ、ここは……?」


「お父さん!?」


「おぉ、アンナ……。そうだ、私は!アンナ、お前が無事でよかった…。」


 そう言いつつ抱き合う親子。その真意は若干異なるものの、互いを心配する親子愛が見せる一面であった。


「マシューさん、何があったのですか?」


「おぉ、シュウ様。実は馬車で商業ギルドへ向かおうとしていたところで、ガラの悪い連中に絡まれまして。最初は難癖をつけて金銭を要求するものだと思っていたのですが、馬車を停めると御者席から私を引きずり落として荷台にいるミラとナッシュを攫って行ったのです。

 私は必至に引き留めようとしたのですが、抵抗空しく斬りつけられて倒れてしまいました。荷馬車と一人取り残された私は意識が朦朧とする中、教会へ連れていく指示を出している方の声を聞いて意識を手放しました。」


「じゃあミラとナッシュは攫われたまま!?」


「アンナさん、落ち着いて。ミラとナッシュが人攫いにあったことは間違いありませんが、まずは情報を整理しましょう。マシューさん、襲った奴らの特徴と何か話していなかったか教えてくれますか。」


「はい…。彼らの風貌はどことなく冒険者のように見えました。装備はどれも手入れが行き届いておらず、粗悪品ばかり。なのに私を斬りつけた剣は業物のような素晴らしい刃で、柄には身分不相応な宝石がいくつもはめ込まれていました。」


「ずいぶんとチグハグですね。野盗に詳しい知人がいるのですが、その特徴は野盗のものとよく似ています。ともすれば、最近現れる野盗とも繋がりがあるのかもしれません。」


「それに違和感はまだあるな。私たちは宿に着いてからそこまで時間が経っていなかった。にも関わらず知らせが届いたときにはマシューはすでに教会まで運ばれている。確かに大通りからここまでの距離は近いものの、流石に手際が良すぎるのではないか?」


「えぇ、それに先ほど治癒師殿が言っていた荷馬車の件。まるで中身を改めた後のように話していました。治療費を取るにしても金額も告げず、荷馬車に何があるか聞かずに治療費代わりにするなどあるでしょうか。少なくとも荷馬車の中身を確認したうえでその金額に見合うものか確認したくなるはずです。

 それをしなかったということは彼にはマシューさんが運ばれた時点で中身が分かっていた、ということなのではないでしょうか。」


「そういえば、ミラとナッシュ連れ去られる直前、もう一人いるはずだ、とか書状が見当たらない、とか言っていたような…。」


「それってもしかして、城壁の衛兵も一枚噛んでるってこと?」


「その推測は正解よ。」


 いきなり部屋の窓際から声がして全員が振り向く。するとそこには猫が一匹いるだけだった。


「ね、猫?この猫って確かシュウ様と一緒にいた…。」


「えぇ、ケーシーよ。」


 マシューさんとアンナが目玉を飛び出すのかというほど大きく見開きながら驚いている。無理もない、喋る猫などそうお目にかかれないのだ。というか、いつの間にか戻ってきてたのね、シーちゃん。


「シー、どうだった?」


「はい、姉さま。城壁近くの猫に確かめました。門を通るとき見た班長に金を渡して通行者の情報を得る者がいたわ。その者は今、扉の向こうでここにいた治癒師と楽しくお話し中よ。」


「これで繋がったな。そうなると賊が二人を攫ったことも計画の一つとみたほうがいいだろう。」


「私たちがこの町に入る時に見せた身分証はルスト公爵から受け取った書状です。これは憶測ですが、テルトーダ出身のマシューさんたちがカルカス公国で襲われるという筋書きが重要だったのではないでしょうか。テルトーダとカルカスは条約締結を控えている大事な時期。その条約を良く思わない者が仕組んだとすればその行為も頷けます。」


「そうか。なら、書状を探していたのはルスト公爵が企てに加担していると偽装するためだったのかもしれない。理由はどうあれ、まずは二人の安全だ。すぐに助け出しに行こう。」


「大通りに住む猫が二人を攫った賊が城壁に設置された隠し扉から出ていくところを見ているわ。」


「城壁の外なら僕の気配察知が使えるな。よし、ジルはマシューとアンナを連れて宿屋まで戻っていてくれ。ケーシーは城壁の隠し扉の場所に案内したあと、ジルと一緒に二人の安全確保をお願いしたい。シーちゃんの能力なら未然に危機を防げるだろうから。」


「『ちゃん』付けしないでって言ってるでしょ?まぁ、姉さまも望んでいることでしょうから従ってあげるけど。」


「荷馬車はどうする?」


「それは…。」


「準男爵様、もういい加減よろしいでしょう?あとの弔いは我々イシュタル信徒にお任せくださ……って、え!?」


 治癒師が声もかけずに中へ入ってきた。強引に話を進めようとしたようだが、重傷だった患者がピンピンしている姿を見て目を丸くする。まるで漫画のように真ん丸になってるところを見るに相当驚いたようだ。


「治癒師さん、患者さんは僕の処置で動けるようになりました。もう帰っても良いですよね。どうもお世話になりました。」


 僕はさっさと終わらせるために早口で言いながら外へ出ていく。そのあとを付いて皆も教会の外へ出るとケーシーの案内で荷馬車の元まで辿り着く。荷馬車にはちょうど商品を降ろそうと強面の男たちが群がっているところだった。


「ま、待ちなさい!まさか奉納品を奪い去るつもりではないでしょうね!?」


 治癒師は我に返ってから走って追ってきたのだろう。肩で息をしつつ僕たちを咎めるように叫び出した。


「奉納品?僕たちは自分たちで治療して自分たちの荷物を取りにきただけですが?」


「な、ななな!?なんとこれは神への冒涜ですよ!?一度奉納すると言ったものを自分たちの物と言い張るなど断じてあってはならないことです!」


「私たちは一度もあなた方へ荷馬車の商品を譲ると言った覚えはありませんよ。」


 ジルが治癒師を睨みつける。いつも沈着冷静なジルにしては珍しく殺気立っているようだ。治癒師は完全に怯んでしまっている。


「し、ししし…しか、し……。そ、そうだ。マシューさんと言いましたか。彼が回復できたのは神の御業たる私の治癒技術の賜物に他なりません。その感謝を神へ捧げることは至極当然ではありませんか。」


「はぁ、もう時間の無駄だ。シュウ、さっさと荷馬車に群がるコイツ等を追い払って先を急いだほうが良いのではないか?」


「何事だ!!お前たち、この町での暴力行為は極刑であるぞ!」


「うっ!?町長……。」


 僕たちが言い争っているところに現れたのはこの町の町長であった。治癒師のリアクションを見るにどうやら町長はこの一件に関わってはいないようだ。


「町長、お初お目にかかります。私は冒険者シュウ、依頼人が面倒事に巻き込まれて困っていたのです。」


「冒険者、シュウ……。そうか、お前が噂の『飛竜狩り』か!」


「ひ、ひりゅう…がり?」


「カルカスの英雄にして、史上最速でプラチナ冒険者となった男。彼の者を知らんとは情報収集が足りなかったのではないか、治癒師殿?」


「ま、まさか。飛び回るドラゴンの群れを一瞬でなぎ払い、一吹きで街を灰燼に帰すブレスを受けてなお平然とその首を狩っていく狂乱者。ルストの『墓堀』に次ぎ、カルカスの最大戦力と名高い、あの冒険者シュウ!?」


 いや、どんな奴だよそれ!勝手に僕の噂が独り歩きしてあることないこと付け加えられているようだ。これには強く異議申し立てをしたい!僕は決して狂乱者ではありません!!


「それで、国を救ってくれた英雄が何にお困りなのかな?」


「彼が治療もしていないのに治療したと言い張り、僕の知人が所有している物を不法に奪い去ろうとしているのです。」


「い、いや。それは誤解です。私は確かにそこの商人を治療しました。そして回復したのですから治療費を受け取らねば生活が成り立ちません。」


「ほう、治療を。私は異国の商人が重傷でここへ運ばれたという報告を聞いて来たのだが、シュウ殿の知人がその方かな?」


「はい、私がシュウ様をテルトーダ首長国へお連れする役を仰せつかりました行商人マシューと申します。」


「ふむ、そうなると少し変だな。彼の者は重傷どころか傷一つないように見える。そんな彼が治癒師殿の治療を受けて回復するとはどういったことか?確かそなたらイシュタル教は月下聖教のように治癒魔法を使えるわけではなかったはずであろう?どのように治療したのだ?」


「そ、それは……。」


「町長、ご調整いただいているところ大変恐縮なのですが、僕たちは知人マシューの子供たちが人攫いに合っており、追いかけねばなりません。すぐにでも荷馬車を商業ギルドへ預けて捜索へ向かいたいのですがお下知をいただけないでしょうか。」


「はは、英雄殿にそう遜って言われるとは恐れ多いな。私は男爵家の次男だったから爵位もない。町長として立っている手前このような話し方をしているが、本来は準男爵閣下のほうが身分は上だ。しかし、そうだな。国への献身も十分認められるものであるし、そなたはそなたの好きに行動することを町長として許そう。」


「な!?町長!?」


「治癒師殿、そのほうにはこれとは別に聞きたかったこともある。庁舎へ来てもらうぞ。」


 町長が現れたことですんなりと話が進みその場を離れることができた僕たちは、先ほど話していた通りに別行動を取ってミラとナッシュを追いかけることにした。


 今も二人は不安にしているだろう。


 二人が危険な目に遭う前に探し出してみせると僕は一人心の中で誓うのだった。

この世界の治療技術については別の機会で解説予定です。

しかし、話が中々前進しない……。

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