第57話 チームプレイ
僕は古龍が空けた穴から飛び出ると〈ホバー〉を唱えて空中に留まる。
「改めて見てもやっぱり大きいな。太古にはこれが我が物顔で飛んでたなんて信じられないや。」
目の前のドラゴンは今までに見たどのドラゴンよりも巨大だ。ジキアスが変化した火竜が子供だったのかと思えるほどに大きい。
僕なんかまるっと一飲みで食べられてしまえるほどの口からは、先ほどのような極太のブレスが放たれる。
爪も牙も、何から何まで規格外なドラゴンである。
「うーん、どうやって攻めればいいか。そういえば師匠から古龍は会話ができるって聞いたことあるな。
あの感じだとダメそうだけど一応やってみるか。」
僕はタタッと空中散歩のように空を走っていく。
『ソアー』は推進力を得て空中を飛ぶが、『ホバー』は足元に空気の層を固めて足場を作る。空気を固めるだけで人が立てる足場ができる事自体がファンタジーなわけだが、そういう魔法なのでツッコミは無しだ。
そんなわけで、『ホバー』を応用すれば空を駆けることも出来るため近場であれば一々魔法の切り替えをしなくて済むのである。
「すいませーん!聞こえますかー?あなたに暴れられると困るんで、洞穴に戻ってもらいたいんですけどー!」
僕が大声で叫ぶがまったく以て見向きもしない。相手にする気がないのか、本当に聞こえていないだけなのか。
「無駄だ。宝竜は最早言葉を失った。」
後ろから声をかけられたので振り返る。カーンは力を無くした目をしながら龍を見つめていた。
「あの封印は本来なら純粋な生命エネルギーを入れ込まねばならなかった。そのために無機質な魔力の塊である黒魔石を集めていたのだ。
それがいつの間にか錬金術の上書きがされていた。あれが復活する直前に魔法陣が浮かんだのだろう。あの魔法陣は呪術を組み込んだものだ。
それにより邪なエネルギーを入れられた宝竜は呪い竜となってしまった。あそこまでの邪気を入れられては自我を保てるのは邪竜くらいのものであろうよ。」
「呪術…。」
「貴様も見たことがあるはずだ。ヴィクターはあの魔法陣でドラゴンを召喚したがっていたからな。
ジキアスも興味を持ち呪術用の魔法陣を作る特別な方陣粉を受け取っていた。」
ボールドンで見たあれのことか。確かに龍が復活する前に浮かんだ魔法陣はボールドンのものに似ていた。僕たちが解読できなかった魔法文字が呪術というものだとするなら似ていて然るべきだろう。
「呪術は生贄が必ず必要となる。ドラゴン一匹程度であればそこまでの魂は要らないだろうが、あの宝竜を呪い竜にするほど強力なものともなるとその命は百か二百か。
生贄にはマーキングが必要である故、恐らく今までに集めていた傭兵どもや兵士たちは全てその糧にされているだろう。今頃ハマンは死体の山となっているはずだ。」
「それで復活したあの龍を使って何がしたかったんですか?不本意な復活とはいえ、復活させて操りたかったのは本当なのでしょう?」
「あぁ、操りたかったというのは少々語弊があるが、確かに利用しようとしていたのは事実だ。
今にして思えばこの計画が始まった頃にはすでにヴィクターの奴に上手く転がされていたのだろうな。」
カーンは遠い目をするように顔を空高く見上げる。
「ドラゴノイド種は龍王が絶対の存在だ。だが、今の龍王は自分で決断することも出来ず、我が兄弟たちから良いように使われる存在となっている。
俺はそれが許せない。だから龍王になりたいのだ。
人間のお前には理解できんかもしれんが、龍種は誇りを何よりも尊ぶ。だからこそ、永きに渡り龍王を支え龍化しても尚、自我を持つ龍を我々は古龍と呼びその言葉を重んじる。
その中でも宝竜は最古の龍だった。宝竜が味方になれば俺が龍王になるなど造作もない。確かに最悪の場合は力尽くで従えるつもりではあったが、呪い竜となってしまっては最早無意味だろう。仮にあれが言葉を話しても聞く耳を持つ同胞はいやしない。」
今の治世に不満があるから古龍を使ってクーデターでも起こしたかったということだろうか。ドラゴノイド種が何処に住んでいるか知らないが、その失敗の皺寄せがこっちにきているわけなのでそんな投げ遣りな言い方をされては困る。
「それで?もし力尽くとなった場合はどうやって抑え込もうとしたんです?
あなたが操られていたことは知っています。強力な幻惑草でも使われたのでしょう。そのために舵取りが上手くいかなかったこともわかります。
それでも目の前の脅威を操れないからと放置されちゃ困るんです。対処方法があるなら教えてくれませんか。」
僕は語気を強めて言い放つ。要は『投げ出すな』ということである。
「対処方法がないわけではない。だが、中々に過酷ではある。
一つは再び封印する方法。そして、もう一つは完全なる抹殺だ。
封印をするためには宝竜が人間に贈ったとされる宝剣が必要だ。だが、今はどこにあるか知るものはいない。俺がこの国を乗っ取った意味も宝剣を手元に置きたかったからだ。しかし、剣どころか宝物庫はもぬけの殻だった。先代の国家元首は国を立て直すために宝物を売り払い多大な資金を投資したという。そのとき宝剣も一緒に売られてしまったのかもしれんな。なんせ、宝剣の行方はこの国の人間でさえも誰一人言い伝え一つ残っておらんのだ。」
「そうなると残るは完全なる抹殺。……できるんですか?こんな巨大なドラゴン相手に。」
「さてな。復活が失敗することはあっても呪い竜になるなどとは思わなんだ。正直に言えば俺には手の打ちようがない。」
なんて無責任な!このアホ竜人はもっと社会人としての自覚を持つべきだと説教してやりたい!と、心の中で悪態を付くが、これ以上の情報は得られそうにもないのでやめて置く。そもそも社会人ってなんだ?って言われそうだしね。
さて、首を落とすにも相当な手間がいる相手だが、そもそもこの龍に攻撃が通じるのだろうか。
そんな事を考えていると古龍のほうが先に動き出そうとしていた。
龍は翼を広げて今にも飛び立とうという格好になる。翼を広げただけでも相当な風が巻き起こり立っているのがやっとなほどだ。
「ん?これは、ヤバい!」
龍が飛び立とうと顔を向けている方角はハマン。皆がいる街だ。
「そうはさせない!〈ソアー〉」
僕は速さ重視して、推進力を得る魔法を唱えて一足先にハマンへと飛んでいく。だが、体積の大きさというのはかなりのアドバンテージとなる。
相当距離を稼いだはずなのに古龍が一歩踏み出すだけですぐに追い付かれてしまった。
「くっ!?〈エアプレッシャー〉!」
僕は風の壁を作ると龍の顔に押し付ける。古龍の飛び立つ速力とがぶつかり合いかなりの衝撃で仕掛けたこちらも反動を受けるが、何とか留めることに成功する。僕は反動に身を委ねてハマン近くまで飛んで行くことにした。
だが、顔面を強打して腹が立ったのか、龍は恐ろしいことをし始める。なんと口の中に黒い炎を溜め込み始めたのだ。
「げっ!この感じは本気のやつだよね!?」
僕は急遽〈ホバー〉で止まり、空中で龍と対峙する。こうなれば何が何でも受け止めきるしかない!
「〈我が聖域なる極光よ〉!」
僕は最大級の光のカーテンを出してハマン全体を覆う。護る範囲が拡がればその分防御壁が薄くなるが、あの極太光線を受けるにはこうする他にない。
僕が護りの壁を築き上げきる一歩手前で古龍はその邪悪な炎を噴き出し始めた。
◇◇◇
「だぁ、何なんだ!?次はよぉ!」
シルフィードがヴィクターを討ったすぐ後のこと。街を出てシュウと合流しようと話していた矢先に、山のような龍が飛んできて何かにぶつかる素振りを見せたかと思うと、いきなり黒い炎を噴き出したのである。
「皆、あれ!豆粒みたいに小さいけど、あれ、シュウだよ!」
チョボが大声で皆に言うと他のメンバーも黒い炎を遮っている壁のほうを注視する。遠くにいるため分かりづらくはあるが本当にシュウのようである。本人の顔をしっかりと見れたわけではないが、このような芸当が可能な魔導師など一行は他に知らなかった。
「この間に避難したいところだけれど、範囲が広すぎる。これじゃあシュウの負担が増える一方だ。」
「とはいえ、あのような巨大なもの。地上にいるならまだしも、空を飛ばれては我々では何もできません。」
「とりあえず俺たちは被害を受けにくそうな場所に移動しよう。だだっ広い場所にいるよりかは幾分かマシなはずだ。」
ダラスの提案で皆は出来るだけ光とは逆の方向へと移動しようとする。しかし、聞き慣れた不快な声が一行の足を止めた。
「いやぁ、壮観だね。君たちもよくご覧よ、まるで終末みたいじゃない?」
その声の主は余裕の笑みを浮かべながら頭上の攻防を見ている。
「まさか、ヴィクター!?」
「ん?あぁ、いやそれは違うよ。ヴィクターは兄さんの名前。僕たちは双子なんだ。
お互い表ではヴィクターとして動いて、裏では暗躍したりして交互に入れ替わっていたってわけ。まぁ、僕は兄さんと違って精神魔法とか小賢しいことが得意じゃないから専ら戦闘担当か兄さんが動けないときの代役でしかなかったけどね。
けど、そこのお姉さんが兄さんの首をアッサリと斬っちゃったのには吃驚しちゃった。
あ、気にしないでいいよ。僕がいうのも何だけど、兄さんは性格の悪さもピカイチだったから。兄さんのために怒る悪魔はいないよ。
兄さん風に言うなら『くく、役にも立たない塵屑でしたね。塵は棄てられて当然でしょう』かな!
どう?似てた?」
笑いながら話しかけてくる見た目はヴィクターの男は戦う意志はないようだった。
しかし、シルフィードは直感する。フィフス城奪還戦線で会ったヴィクターは目の前の男である、と。
ここに来たときから違和感はあった。演説台に現れた男からは戦場で見たときのような威圧感がなかったのである。
あのときはすぐにバルバドスの相手をしなければならなかったし油断し切っていたためかとも思ったが、首を刎ねた瞬間も違和感は消えなかった。あれほどの威圧感を放っていた相手にしてはあまりにも呆気なさすぎたのだ。
それが目の前の男を見て確信を得ていた。この男は強い。
「僕もさっきの綺麗な光のお姉さんと戦ってみたいな。けど、今日は帰らなきゃいけないからまた今度ね。ちょっと帰る前に挨拶だけしておきたくてさ。」
男は一方的に言って去ろうとする。だがそれを許さない者がいた。
「貴様は逃がさん!」
カーンは空から現れ風属性を帯びた剣を力一杯に振るう。カーン本来の全力であれば地は裂け、岩は粉砕するほどの力であるが今は本調子ではない。それでも細首を飛ばすことなどは造作もないはずだった。
「あらら、お怒りですね。カーンさま。」
「貴様には聞きたいことが山のようにある。何故ダークエルフが我が同胞を偽装して俺に近づいた。宝竜を呪い竜にした理由はなんだ。これは妖王の差し金か。答えよ!」
「そんな早口で聞かれてもなぁ。僕から言えるのは、カーン様は騙しやすく扱いやすいって兄さんが言ってたことくらいかな。」
「ふん、あくまでもはぐらかす気か。ならば貴様を拘束したうえでじっくりと拷問してやろう。」
「拘束、僕を?このレイピアを折ることもできないほど疲弊してるのに?」
「舐めるなよ!」
カーンは剣を大きく振り後ろへ下がると剣先を向ける。剣先からは赤い魔法陣が浮かび上がっていた。
「燃え尽きるがいい!!」
魔法陣から噴き出したのは圧縮された炎。ジキアスか火竜となり初めて使うことができた本気のブレスのそれであった。
「ばきゅーん。」
対する男はレイピアの切っ先を相手へ向けると黒い靄が槍のように放たれた。闘気を操るものであれば馴染みがある技の一つ『穿通』とよく似たものであったが、黒い槍はカーン渾身のブレスを呆気なく裂き硬い鱗を持つカーンに一撃を加えてしまう。
「がっ!?」
「どぉ、まだやる?まぁ時間の無駄だし、止めておこうか。そろそろ本当に行くね。みんな、じゃあねー♪」
男は嬉々として手を振りながら去っていく。物陰に入ったと同時に物陰から光が起こりその場は静かになる。
「誰もいない。」
シルフィードが物陰を確認するが、男は跡形もなく消えていた。
「おい、カーンって国家元首のことだよな。」
「あぁ、僕の記憶が正常ならその通りだね。そしてやはり悪魔だった。」
「それだけではありません。部下と思っていたものの裏切り。そして頭上の状況。よくもまぁこんなに次から次へと問題が舞い込むものです。」
ダラスとクリスが目の前で項垂れる悪魔を見つめながら現状を把握し、イヴがこの街に来てから休みなく動き続ける状況に深い溜め息を吐く。イヴたちが『さて、どうしたものか』と頭上を見上げると黒い炎は止むところだった。
「ぐぎゃあ!!」
炎の嵐が止んだと思った瞬間、空から物凄い勢いで何かが落ちてきた。それだけではない。その物体は声を発していたのである。
「…シュウ!大丈夫か!?」
落ちてきたのはシュウであった。シュウは民家の壁にめり込み尻もちをついたような態勢になっている。
「いたた…。あ、シル。大丈夫だよ、このくらい。ちょっと思ったよりも尻尾が長かっただけ。」
「あ、あぁ。何を言っているのかはさっぱりだが、無事ならそれでいいんだ。
しかし、あの龍はなんだ?私たちが戦っていた場所の近くから出てきたように見えたが。」
「うん、あの場所にあった洞穴にいたんだ。そこのカーンって人が封印を解いて自分の野望のために協力してもらおうとしたらしいんだけど、失敗しちゃったみたいでさ。何だっけな。何とかっていう賢い龍だったのが封印を解く過程で自我をなくしちゃったんだって。」
「おいおい、全くもって迷惑な話だな、そりゃ。止める方法はねぇのか?」
「あの龍が持ってた宝剣?っていうのがあれば再封印できるらしいんだけど、その宝剣は前の国家元首が売り飛ばしちゃったみたいでさ。今は倒せないか模索中。」
「模索中って…。シュウはあれ倒せるの?」
「いやぁ…。今のままじゃ無理かな。せめて空から降ろしたいんだけど。エリーならどうやって降ろす?」
いきなり話を振られたエリーは驚きの顔をする。
「え、私?っていうか……まぁ、いい、か。私ならお構いなしに逃げる。攻城兵器でもなきゃあんなのに当てようないもん。真上から爆発石が降り注ぎでもすれば違うかもだけど。」
「はは、チョボ。それはいくら何でも突飛すぎるよ。あの巨体を地面に叩き付けるなんてどんな威力の爆発がいると思って……。」
そこまで言ってクリスは固まる。あるではないか。巨体を吹き飛ばすほどの爆発を起こせるもの。いや、人間が。
「なるほど、それならばあの巨体でも落とすことができるかもしれません。」
「あれ?というか、あなた王女様ですよね?何でこんな場所にいるんですか?」
「うふふ。シュウ、今の私は冒険者イヴですよ。あなたもイヴって呼んでくださいね。」
「いや、シュウ。これは海よりも深い理由が…。はぁ、後で話すよ。
それよりも問題は落とした後だ。シルとシュウの力があるとはいえ、簡単に倒せる相手ではない。ある程度罠は必要だよ。」
「拘束だったら丁度いい魔法がある。ほら、ボールドンのときの。」
クリスとオルレアは顔を見合わせて当時のことを思い出すと大きく頷いた。
「それなら拘束はいけそうだ。となると、やはり最大の問題はトドメの火力か…。」
「オレ様たちも協力してやる!」
上から声がかかりそちらを見ると一匹のドラゴンが舞い降りてきた。その背にはバルバドスが乗っている。
「オレ様と相棒の火力ならいくらか足しになるはずだ。元々は俺たちが騙されていたことが原因だからな。龍種の誇りに賭けて止めてみせる。」
「それならば俺も協力しよう。」
今度は地面から声が聞こえる。カーンが立ち上がり様に話し出したのだ。
「この計画は俺が発案したものだ。宝竜は俺の計画の犠牲者とも言える。ジキアスや沢山の者を犠牲にした責任もある。
せめて賢龍であった宝竜の名誉のため、呪いに負けて世界の全てを灼き尽くそうと暴れ出す前に決着をつけてやろう。」
悪魔の提案に一同は考え込むがシュウがここで口を開く。
「皆、今は時間がない。猫の手ならぬ竜の手も借りたいところな訳だし、ここは共闘しよう。」
「シュウがそう言うなら俺は異論ねぇよ。」
「この調査隊のリーダーであるダラスが了承するなら決まりだ。けれど、自分の命優先に動くこと。いいね。」
全員の意思はその目を見ればわかる。それほどまでに一行のチームワークは出来上がっていた。
「よし、それじゃあ行こうか!」
シュウは飛び上がると龍の真上に付こうとする。
しかし、シュウに気付いた龍は標的をシュウに定めて襲ってくる。
「くっ、あれではシュウがまともに戦えない。どうにかあの龍の意識を違う方向へ向けないと。」
「ならば俺が飛んで奴の代わりを務めよう。奴ほどの脅威にはならんだろうが、囮役をこなせる程度には宝竜も見るはずだ。」
「オレ様も行くぞ!空なら相棒のテリトリーだからな。危ねぇときは助けてやるよ。」
ドラゴノイドの二人は軽く視線を合わせてから飛び立とうとする。そこに待ったを掛ける人物がいた。
「国家元首カーン、あなたに確認したいことがあります。あなたは先ほどからあの龍を『宝竜』と呼んでいるようでしたけど、間違いなくあれは宝竜なのですか?」
「イーヴリン王女か。確かにあれは宝竜だ。ここの宝竜伝説で語られるように今までモンドムール山脈に封印されていた。」
「…そうですか。ならば私から提案があります。先ほどの作戦を少々修正させてください。」
◇◇◇
呪い竜は僕が幾ら撒こうとしてもすぐに見つけて追いかけてくる。その巨体からしたら僕など蠅程度の小ささだろうに気配察知でも持っているのか。
僕は『ルックアップ』を使う暇もなく空を逃げ回っていると、しばらくして下から何かがこちらへ来るのがわかった。
「おい!ここはオレ様たちに任せな!」
飛んできたのはカーンと…。確か裏切られて落ち込んでいた人だ。今は僕の周りを仲良く飛び回っているので仲直りでもしたのだろうか。
「おい、何をやっている!貴様は早く作戦通り真上に行け!俺たちが囮役として来た意味がないではないか!」
あ、はい。そういうことね。確かにこれでもか、というほどドラゴンがブレスを噴いたり、斧からブレスみたいな炎をまき散らしたり、剣から光線みたいな炎を噴出したり忙しなく立ち回っているわけだ。
それでは遠慮なく、ということで僕は二人と一匹が古龍の気を引いている隙に真上と昇っていく。
十分に距離が取れたところで一旦止まると一度深呼吸をしてから僕は魔力をこれでもかというほど練りこませる。ここは絶対にしくじれない場面。万が一にも失敗しないように大量の生命エネルギーを魔力へ変換してから僕は古龍の背中へと突撃する。
「〈ソアー〉!」
僕が重力に任せて落ちていくのに対して、竜人たちの相手をしていた古龍はすぐに僕に気づいた。やはり気配察知を持っていたようなので、僕は魔法で勢いを増して古龍の背中にへばりつく。
「さぁ、始めようか!……。〈ファイアーボール〉!」
僕はタイミングを見計らって古龍の背中を蹴ると十分に間隔を空けてから呪文を唱える。
位置もタイミングもばっちり!僕の練りに練った魔法が大爆発を起こして古龍の体は真下へ落ちていく。
「来たぞ!ありったけを投げつけろ!!!」
ダラスの掛け声で皆が魔石を古龍の真下に投げつける。これは僕が作戦前に渡したある魔法を溜めた魔石だ。だけど、これだけでは足りないので僕が魔法で補完しつつ有効範囲を広げる。
「〈クアッグマイア〉」
僕が呪文を唱えると古龍の体を覆うほどの底なし沼が出来上がる。僕たちの作戦通り、古龍は地面に叩きつけられるとともに底なし沼にハマってしまった。
「よし!行こう、オルレア!」
あれ?何か様子が変だな。などと考えながら僕も下降していく。
クリスとオルレアさんだけが前に駆け出し、他のメンバーは遠巻きで見守っているようだった。話していた作戦と違うため僕は急いで戻ろうとするが、古龍の近くにきた二人は立ち止まるとクリスが援護するような位置を取りオルレアさんが剣を掲げる。その剣は何故か鞘に収まっていた。
「ふぅ…。お願い、私に力を貸して……。応えよ、アスカロン!」
オルレアさんがトリガーを唱えると手にした剣は光り輝き、鞘と剣が一つになっていく。
光が収まりそこに現れたのは大剣。ダラスの大剣とそう変わらない大きさにも関わらず、オルレアさんは軽々と振り回し、古龍に向かって駆け出していく。
すぐに援護できるように空中に留まり様子を窺っていた僕はオルレアさんが剣を振り上げる寸前にその剣が鈍く光るのを感じた。その光はどこか卵の内から発していた光に似ている。
「はぁぁぁああああ!」
オルレアさんは大きく跳躍すると手にした剣を振り下ろす。オルレアさんが振った剣は古龍の眉間に届き、古龍に当たった瞬間に再び光に包まれた。
その光は眩いはずなのにどこか優しい。
光の奔流が古龍を駆け巡り、やがて包み込んでいくと古龍の血走っていた目はどこか穏やかなものになっていくのが見えた。そして、古龍はオルレアさんと手に持つ剣を交互に見ながら納得したような顔をする。それはやけに穏やかな顔つきのように感じた。
「娘、礼を言う…。」
古龍はそれだけ言うと光の奔流に抗うこともせずに体を同じ光へと変化させていく。やがて優しい光が消え去るとそこには初めから何もなかったかのようにすべてが消え去っていた。
「これは……。」
「オルレア、何かわかりますか。」
「…。はい、この聖剣が教えてくれています。宝竜は聖剣の光を受け入れて天に昇った、と。」
「信じられん。あれほどの邪気を打ち消すだけでなく宝竜に自我を取り戻させたのか。これが宝竜が愛でた宝剣の力か…。」
僕が地面に降り立つと皆がオルレアさんのところに集まって話している。どうやら一部作戦変更があったのはこのためだったようだ。皆はそれぞれに思いの丈を述べながら先ほどの聖なる光ともいうべき光景にうっとりしている。
「はは、結果オーライ、かな。」
何にしても僕としては皆が無事であることが嬉しかった。
すいません、長くなってしまいました…。




