第55話 エンシェントドラゴン
シュウはカーンが逃げ込んだ洞穴の中へと入って行く。
洞穴の中は入り組んでおり迷路のようになっていた。層が重なり、その全てに空間があるため階層が出来ている。さながらダンジョンのようだが、特段危惧すべき魔物の姿はない。シュウは気配察知で内部を調べるとカーンの気配を見つける。カーンは迷うことなく移動しており、その先には禍々しい気配を感じるものが存在した。
「奥に進んでる。それに最深部にあるあれって…卵?」
気配察知で内部の構造も凡そ把握できたため、シュウはとりあえずカーンを追いかけることにする。いずれにしても最深部にあるものは放っては置けなかった。
シュウが最深部に辿り着いた頃にはカーンもある程度回復しており、機械のようなものの前に立っていた。
「ずいぶんとでっかいですね。なんですか、これ?」
シュウが目の前のものを見上げながら話しかけるとカーンは機械を触っていた手を止めてシュウのほうへと振り返る。
シュウが指すこれとは巨大な空洞の中に鎮座する卵とも繭とも取れる不思議な物体のことである。
「これは封印だ。この中には古の世界に生きた最古の龍が眠っている。」
機械から伸びるコードは卵に絡まり付いており、何かを流し込んでいるのかエネルギーのような光の奔流が見て取れる。
「その話しぶりだとその機械は封印を解くためのものですか。古って、中の龍は生きているんですか?」
「封印の中はこの世界とは時間軸が異なる。生命の鼓動も感じる。中の古龍は確実に生きている。」
「なるほど。それで、その古龍を復活させてどうするつもりですか。まさか、あなたのおじいちゃんっていうわけじゃありませんよね?」
「ふん、先祖といえば強ち間違いでもないかもしれんがな。だが、親戚に会うために俺がわざわざこんな面倒なマネをすると思うか。
俺は龍王の血筋なのだ。その血が濃ければ濃いほどに龍を従わせる力が強くなる。ジキアスのように遠隔で命令を出すことは無理だが、龍王であればどんなドラゴンでも自身の支配下に置くことができると言われている。俺の言っている意味は、もう分かるな。」
カーンは含みを持たせた言い方をするが、シュウにもその意図ははっきりと伝わった。カーンは復活した古龍を自身の支配下に置き操ろうとしているのだ。
カーンは多少回復したとはいえ、シュウの重たい一撃が未だ効いている。説明しながらも肩で息をしていた。
「そうですか。では早速ですがその機械は廃棄させてもらいます。」
シュウは短刀を機械に向けると魔法を唱えようとする。カーンはその直線上に体を入れシュウから機械を隠すようしして立つ。
「俺がそれを許すはずがなかろう。それにここは洞穴の中でも何層も重なる空間の最深部だ。貴様の馬鹿げた威力の魔法ではすぐに崩壊することになる。そうなれば貴様自身が生き埋めになるぞ。」
「そこはご心配なく。力の加減はこう見えて得意な方ですから。」
三度、二人は睨み合う。先ほどとの違いはカーンが満身創痍で在ることだろう。
「〈ピアッシングファイア〉」
シュウは機械へ向けたままの短刀から細長い炎を作り出しカーンへと放つ。
「ぬうぁあ!」
カーンは気合を込めて剣を振り上げ巨大な火針を斬り裂く。その剣には黒い靄が纏わりついてる。恐らく黒い靄が闘気のような働きをして剣を強化したのだろうとシュウは予測する。
遠距離魔法はあの剣によって弾かれる。であれば、直接叩くまでであった。
「〈ウィンドソード〉〈ウィンドカッター〉」
シュウはカーンの側面を狙う形で駆け出し、伸ばした刀身と切れ味を上げるために重ねた魔法で襲い掛かる。
「はぁ!!」
カーンはシュウの攻撃を受け流すことはせず真っ向から受けて立つ。ここまでの戦闘でカーンの腕力のほうがシュウよりも上回っていることはすでに分かっている。そのため力押しで攻めきる作戦に出たのである。
しかし、この判断はカーンにとって致命的なミスとなる。
「〈アクセラレーション〉」
いきなり速度を上げたシュウをカーンは完全に見失ってしまう。カーンの背後を取ったシュウはそのまま魔法の刃を袈裟懸けに振り下ろす。
「がっ!?」
カーンは白目を剥きその場に倒れ伏した。
シュウはここまでの戦いで身体強化となる補助魔法を一切使用していなかった。そのことを知らずに戦っていたカーンが見誤ってしまうのも無理はなかった。まさか、龍人化した自分よりも余力を十分に残した状態であったなどとは考えられなかったのである。
シュウは倒れた相手を見据えながら一瞬哀れみに似た表情を浮かべ、すぐに頭を切り替える。
「あとはこの機械だ。」
シュウは改めて機械に短刀を向けると魔法を放つ。
「〈ピアッシングファイア〉」
先ほどよりも太い火針で機械を貫くと、それまで淡い光を放ち蠢くような音を立てて稼働していた機械が光を失い音を止めてその動きを完全に停止させた。残ったのは溶けた痕がついた大穴の空いた機械と巨大な繭のような卵のみである。卵は未だに淡い光を放っているが、その光の力は完全ではないようで殻を破る様子は窺えない。
「さぁ、後は街の皆のことだけだ。急いで行かなくちゃ。」
そう言いながらシュウは踵を返そうとするが、その瞬間、卵の下に巨大な魔法陣が現れた。
「これは?…まさか、ドラゴンを呼ぶ魔法陣!?」
シュウが見た魔法陣はボールドンで見た魔法陣によく似ていた。似てはいるが、よくよく見ると所々違う箇所があり、わかるのはこの魔法陣がものすごい速さで卵に力を与えていることだけだった。
「マズい!」
シュウは魔法で卵ごとこの空間を吹き飛ばそうとするが、一足遅かった。卵はそれまで淡かった光を煌々と輝かせて眼も眩むほどの光と変化していく。そして、視界が白一色に染まったかと思った瞬間に巨大な何かが割れた音が聞こえた。それは鏡をハンマーで殴りつけた様な、極めて不快な音であった。
『グゴォガァアアオオウゥ!!』
光の先に現れた物体は目覚めの咆哮を上げる。洞穴内ということもあり、その声は木霊し鼓膜が裂けてしまいそうになるほどの大音量である。
「うっ……。お、おぉ…。ついに、ついに目覚めた…。最古の龍、我がドラゴンよ。」
巨大な龍の咆哮で意識を取り戻したカーンはその姿を見て歓喜する。だが、それも束の間。次の瞬間にはその歓喜は怒りの声に変わっていた。
「ち、違う…。これは、違う!賢龍とも歌われた宝竜がこのような姿になるなど…。これでは呪い竜ではないか!……おのれ、ヴィクター…ヴィクターぁぁぁ!!」
カーンが怒り狂う姿と宝竜と呼ばれた巨大なドラゴンを見比べながらシュウは考える。
元の姿を知らないため何が違うのかは分からないが、確かに目の前の龍からは生気のようなものが感じられない。そればかりか、邪な何かが体に染みついてしまっているようであった。
ただ、一つだけ確かなことはこの龍を野放しにしておくとどんな厄災を巻き起こすのかわからない、ということだった。
龍は産声代わりの咆哮を上げると頭上を見上げる。そして、何かを貯める仕草をし始めた。
「ま、まさか!?」
そのまさかであった。シュウの不安は見事に的中し、宝竜は洞穴の天井目掛けてブレスを放つ。
黒い炎が圧縮され太い幹のように真上に伸びたその威力は、あっさりと天井を破壊して何層もあるフロアを貫き空まで届いてしまう。
シュウにとって幸いであったのは天井のほとんどをブレスで破壊したことにより、思ったよりも崩壊が激しくなかったことである。
『ゴァアオオゥ!』
宝竜は再び咆哮を上げて翼を広げ………地面を蹴った。
跳躍するとともに巨大な翼で真上と昇るとそのまま外へ出ていく。シュウの位置からではよく見えないものの、遠くにある宝竜は外に出たところで着地して再び咆哮を上げているようだ。
「あ、あぁ…。賢龍が……。尊ぶべき龍種の誇りが……。」
カーンは一点を見つめて途方に暮れている。シュウはカーンと頭上の龍を天秤にかけてカーンのことを放っておくことに決めた。決断すると直ぐ様、行動へと移す。シュウは〈ソアー〉を唱えて最高速度で頭上へと昇っていった。
今回短いので2:00amに次回【第56話 秘めたる力】を投稿します。




