第45話 続・翼竜討伐戦
街から近すぎるため気配察知をそこまで広げられなかったので気付くのが遅れてしまったが、ワイバーンが来るまでに待ち構えるだけの時間は残っている。
僕は急いで最前列まで向かうとワイバーンのいる方向に意識を集中させて気配察知を広げる。
「こら、危なかろう!最前列などお前さんのような若者が来る場所ではないぞ。」
「班長さん、前線指揮を執っている人に伝えてください。ワイバーンの数は三、その二キロ後方にもう二体います。後方二体はそれぞれに距離を置いた形で陣取っているので、何かあった際の支援か急襲を狙っているのでしょう。
まずは僕が三体を留めますので、その間に二体への対策をお願いします。」
「ん?何?一人じゃと!?お前さん、よせ!戻ってこい!」
班長が止めようと声をかけてくるが僕が止まるはずもない。それに、もうワイバーンはすぐそこまで来ているのだ。
「〈エアーリジェクト〉」
『ギァアオゥ!?』
勢いよく山から飛び出してきたワイバーンは僕の頭上を通り過ぎて密集地に襲いかかろうとする。
しかし、僕の魔法の障壁により遮られ、三体は僕の目の前まで吹き飛ばされてきた。
「〈ウィンドカッター〉」
風の刃を三つ放つと横を向いていた一体は首を落とし、もう一体は翼に傷が付く。これではもう飛ぶことはできないだろう。
残る無傷の一体はいち早く空に舞い上がって攻撃を躱す。だが、このパターンはすでに経験済みである。
「〈エアプレッシャー〉〈アイスバインド〉」
飛べないほうは一旦放っておき、無傷の一体を風の壁で地面に打ち付けると即座に拘束する。ワイバーンの力では簡単に抜け出せないことも分かっているが、まだ残っている個体も多い。ここで時間を使っている暇はなかった。
「さぁ魔石に帰ってもらうよ。〈ウィン…〉ん?〈ストームサークル〉」
トドメを刺そうとしたところで翼をやられた一体がブレスを噴き出してきた。だが、これも体験済みだ。僕は周囲に竜巻を発生させて炎を上に逃がす。
そして、この炎では僕の氷を溶かすこともできない。地に伏している以上、相手に勝ち目はなかった。
「〈アイシクルピラー〉」
ブレスが弱まってきたところで地面から逆立ちさせた氷柱を突き出すと、二体は串刺しになり灰となっていった。
さて、後方にいた二体だが、すでに陽動の意味を失くしたことに気付いたか一体は何処かへ戻っていく。
もう一体はそれを追わせないために混乱を狙っているのか、僕から遠い側面を狙い始めた。
「盾、構え!」
「魔導師部隊、撃てー!」
「騎馬隊の撹乱はどうした!?」
「弓兵、近付いてきたところを狙え!」
うん、現場は上手く対処できているみたいだ。騎馬隊は確か団長が率いているはずだけど…。あ、こっち見て呆けてる。
僕もあちらの加勢に行きたいが、ワイバーンの巣が見つかるまでは我慢だ。しかし、結構遠くまで飛んでいくんだな。
「騎馬隊、行くぞ!」
漸く我に返った団長は味方の窮地を救うべく騎馬を走らせる。だが、飛び道具を碌に持っていない騎馬隊ではワイバーンの意識を散漫にさせることが精一杯だった。
「ぬぅぅうう、一閃!!」
さっきまで僕の横にいた班長はというとワイバーンと戦っていた。ダラスよりも弱々しいが銀色の闘気を纏って時折斬撃を飛ばしている。致命傷にはなっていないが、仲間が危なくなるタイミングで放つため、騎馬隊よりもよほど良い働きをしていた。
「おっと、やっと着地した。結構ギリギリだったな。もうちょっとで気配察知の範囲外に行っちゃうところだったよ。
けど、遠すぎて正確なことがわからないや。まぁ、索敵範囲を絞れただけ良しとするか。街の近くだとこれが限界だしね。」
僕はワイバーンの巣の所在をある程度把握できたことで納得し、騎士団の加勢に向かう。
だが、さすがにこれまでワイバーンと対峙してきただけ有り皆熟れている。これなら空から落としてやるだけで倒せそうだ。
「ん……。ここ!〈エアプレッシャー〉〈アイスバインド〉」
僕はワイバーンが下に誰もいない場所を飛んだところを見計らい地面に叩き付けると氷の鎖で拘束する。
「今のうちにトドメを!」
僕が叫ぶと兵士たちは気合いの声を上げて突っ込んでいく。
「ぬぅぅああ!」
最後は班長が銀色の闘気を纏った槍が目玉を突き刺したことで攻撃が脳にまで至ったようだ。ワイバーンはそのまま灰となっていった。
「お疲れ様でした、班長さん。」
「おう、お前さんのおかげで命拾いしたぞ。」
「いえ、最後の班長さんの攻撃だって大したものでしたよ。」
「あぁ、『穿通』のことか。あれをやるのは二十年ぶりじゃったんでな、成功してよかったわぃ。」
「使者殿、ここにいたのか。」
僕と班長が話していると団長が馬を駆って現れた。
そして、団長は馬から降りると頭を下げはじめる。
「使者殿のおかげで我々は忌々しい翼竜を倒すことができた。礼を言う。そしてこれまでの非礼を詫びたい。」
「お礼には早いですよ、団長。ワイバーンの巣がある場所が分かりました。これから討伐に向かいます。」
「何?いったいどうやって…。いや、それよりも早く討伐隊を編成せねば。数はわかっているのか?」
「いえ、そこまでは分かりませんでした。」
「ならば、まずは斥候隊を向かわせよう。凡その数さえ分かれば王都からの増援も期待できる。」
「でしたら、その斥候隊に僕も入れてください。方角と場所が分かるのは僕だけですし、先ほどの数であればその場で終わらせることもできます。」
「何?だが、それは…しかし……。」
「何を悩むことがある。先ほどの戦いを見れば言葉に説得力もあろう。そんな疑わしい顔をするなら儂が証人として同行してやるわぃ。」
「う…む。ボンズ殿がそこまで言うのなら仕方なかろう。だが、斥候隊には私も同行する。それで文句はないな、使者殿。」
「はい、問題ありません。それじゃあ準備を整えたら出発しましょうか。」
団長は再び馬を駆って陣内に号令をかけていく。ボンズ班長も自身の班員と上官にこのことを伝えると斥候隊の集合場所に現れた。
「では皆さん、行きましょうか。先頭は僕が立ちます。皆さんは周囲の警戒をお願いします。」
そう言うと僕はヅカヅカ山へ入っていく。ここで同意を得ようと思っても時間を無駄にするだけなので強引に進めることにしたのだ。
少し歩いて行くとともに気配察知の範囲を徐々に戻していく。
「右のほうからリトルボアが来ます。気をつけてください。」
気配察知に引っ掛かった魔物の情報を後ろに伝えつつ目的地を目指す。初めは疑っていた斥候も本当に魔物が出てきたとなれば、従わざるを得なかった。
そうしてさらに山の中へと進んで行くと気配察知でワイバーンの巣の全容が見えた。
「どうやらワイバーンの巣は山と山との谷間にあるようです。拓けた場所なのでこちらも行動はしやすいですが、隠れる場所がないので気を付けてください。
ワイバーンの数は五体。その周辺も探っていますが、それらしい気配はないのでこれで全部でしょう。」
僕と同行したメンバーは一様に呆けた顔で僕を見つめる。もう一キロも歩けば目的地なので、そろそろシャッキリとしてほしいものだ。
「いた…。本当にワイバーンだ。」
「ここからでは正確な数は見えんが複数体いることは間違いないな。」
「ここまで的確な索敵を行えるなど聞いたことがない…。」
団長の命令で前方を探りに行った斥候がざわついている。まだ距離があるとはいえ、あまり大きな声を出されては困るので落ち着かせようとするとボンズ班長が浮ついた兵士たちを叱責する。
「落ち着かんか。まだ敵を倒したわけでもないんじゃ。そんなことでは本番で命を落とすぞ。」
大きくはないが腹に響く声で言われた兵士たちは、次第に集中力を取り戻し目元の迷いも薄れていった。
「さて、ここからどうするかのぅ。団長、儂はこのシュウという青年に預けても良いと思うがどうじゃ?」
団長は目を閉じて暫く考え込むと重々しく口を開いた。
「いいだろう。使者殿はこれまでの指示も的確だったからな。今更『飛竜狩り』の二つ名が偽りだとも思わん。
使者殿、この後の方針があれば教えてくれ。」
「分かりました。それではこのまま真っ直ぐに進んでワイバーンたちと相対しましょう。」
「な、策などはないのか?」
「違います。真っ直ぐに進む事こそが策の一つなんですよ。堂々と姿を見せれば相手は無策だとは思わず警戒するでしょう。そうすれば簡単に空を飛ぼうとは思わないはずです。
その後は僕が指示するまでその場で待機していてください。」
「なんとも、どうして如何がしたもんか。そんな上手くいくもんなのかのぅ。じゃが、儂はお前さんを信じると決めた。その案に乗ろう。団長、どうじゃ?」
「ぐぐ…。本来ならそんな無謀は承知できんが……。仕方ない、使者殿の言う通りにしよう。」
「ありがとうございます。それじゃあ行きましょう。」
僕はペースを上げて真っ直ぐに進んでいく。少ししてワイバーンがいる広場まで辿り着くとすぐにワイバーンたちは僕へと気付いた。遮るものがないので向こうから丸分かりではあるが、意図していることなので構わず詠唱を始める。
「〈フレイムバースト〉」
僕が魔法を唱えるとワイバーンたちの足元に赤い魔法陣がいくつも浮かび上がり、そこからワイバーンを丸ごと飲み込めるほどの火柱が立ち上がっていく。
いきなりのことで混乱したワイバーンは四散するように逃げ惑いだす。
結果、三体は空へと逃れて一体は何とか耐え忍ぶが、もう一体はその場で力尽きていた。
『ゴキャアァァオオゥゥ!』
「おぉ、怒ってるね。そのままこっちに突っ込んできてくれれば話は早いんだけど。」
しかし、僕の要望は通らなかったようだ。空に飛んだ三体は口の中に光るものを蓄えて一気に噴き出した。
三体同時ブレスが迫ってくるので後ろにいるメンバーは戦々恐々とするが、僕は冷静に『アトモスフィア』でこれを防ぐ。やはり火竜の本気ブレスを見ているせいか、三体のブレスも重なり合うことで勢いが増しているが余り脅威には感じなかった。
三体のブレスが収まり始めたところで〈ウィンドカッター〉で地面にいた一体を先に仕留める。
空にいる三体は怒り狂い一斉に突進し出した。
「〈ウィンドソード〉」
僕は短刀を抜くとともに刀身を魔法で伸ばして正面から突進してきた一体を真っ二つにする。その勢いで横にいた一体にも攻撃を加えるが、翼を一つ斬り落とすだけに留まる。
「〈アクティブ〉」
僕は翼を失くした一体に向けて駆け出すと頭を斬り落とし、そのまま少し遅れてやってきた最後の一体も二つに斬り裂いた。
「ふぅ、これで終わりかな。皆さん、周囲に魔物はいないのでこちらに来ても大丈夫ですよ。」
「信じられん。本当に一人で倒してしまった。あれだけ苦しめられた敵がまるで赤子のようにあしらわれるとは。」
「こりゃ冥土の土産に良い話ができたわぃ。弟のホラスにも自慢してやろう。手紙を見たらアイツぶっ飛ぶじゃろうの。」
「そんなことより団長、ここに依頼達成のサインをしてください。僕は急いで戻らなければならないんです。」
驚いた話は僕が去ってからたっぷりして貰っていいので今は早くサインが欲しかった。依頼達成の証拠を手にしたらすぐにイヴンへ戻り皆の下へ向かいたいのである。
「あ、あぁ。そのことだが、使者殿は勘違いをされているようだ。
国王陛下からの依頼となれば達成の証はその土地を治めている人間のサインが必要だ。この場所であれば第三王子殿下のご承諾が必要となる。」
「えぇ!?それじゃあ今向かっている殿下を待たなきゃいけないってことですか!?」
「そ、そう突っかかれても困る。こればかりは私の一存でどうにかできる問題ではないのだ。」
「若いもんはすぐ痺れを切らしてしまうのが、よくないところじゃ。待つことができんと獲物を仕留めるときも撃ち損じるぞ。
とりあえずここでは話にならんことでもあるし、一度町へ戻ろうではないか。殿下を待つまでの面倒は儂が見てやるわぃ。」
というわけで、僕は最速で依頼達成したものの、王子を待つために足止めを食らう。
王子が到着して僕がイヴンへ向かうのはそれから三日後のことだった。
ワイバーン程度ではシュウの相手にならなくなって来ました。主人公補正…。




