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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
ナインフォセア王国編

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第42話 王家の会話

【ナインフォセア王国 ナインフォート】


 王国の首都である王都イヴンは三つの城壁により、住む者の身分が明確に分かれている。これは中継都市レガートのような住民税の問題ではなく、その傾斜が原因であった。


 山を切り拓き拡張された街は最奥に城を望み、住むには不向きな角度の傾斜が侵略者を阻む造りをしている。そのため城付近に市政を司る貴族が多く住み着き、必然的に身分の低い者たちが外側へ追いやられていった。

 しかし、都市が肥大化するうちに平民達の居住区が離れていくことで城への届け出や役所仕事に支障を来すようになった。その立地条件で不落を貫いてきた城塞都市も平時では暮らしの足枷となっていたのである。

 この状況を打開するために城にあった役所機能を平民街の近くへ移していったことで、現在の街の形が確立されたのだった。


 現在、ナインフォートと呼ばれるイヴンの城には国王と二人の王妃、五人の子供とその家族が使用人たちとともに暮らしている。

 五人の子供とは王位継承権を認められた者のことを指し、平民の子供であるアルスカインや自分から地位を返上したルストはその中には入っていない。だが、ルストは正室の子であり成人後も二十年ほどは王子として暮らしていたため、臣下からは未だに第二王子殿下として認識されていた。


 ルストは三男であるが、正室の子として長兄である王太子の次に位が高い。そのため、次男を差し置いて第二王子殿下という認識で臣下たちは接しているのだが、当の本人はいい迷惑としか考えていない。これはルスト自身王座にまったく興味がないばかりでなく、最高位を目指すよりも市民を豊かにすることに尽力したいと考えていることが大きかった。


 そんなルストを除く四人の男子と末っ子の娘一人がナインフォセア王国王家としてナインフォートに暮らしており、例外としてルストは王位継承権がないものの、王命もありナインフォートに滞在していた。


「お兄様も相変わらず先物買いがお好きですこと。」


 ルストは自身の部屋で手紙の整理をしていた。


 この世界で手紙はあまり普及しておらず、富裕層以上の嗜みという認識である。これは手紙を書いたところで運ぶ人間がいないためであった。メールなどがないこの世界では手紙は重要な情報源である。情報漏洩を危惧した貴族は郵便局のような役所は立てず、使用人が責任をもって直接相手に渡すことを基本としていた。

 近年では段々と危機感も意識も薄れていき、富裕層以上の人間はその潤沢な資金でメッセンジャーを雇い大陸内であれば問題なく目的の人物まで手紙を運ぶことができる。しかし、平民ではまだまだ手紙を出せるようなコストにまで落ちていないのが現状であった。


 それでもルストへ手紙が頻繁にくる理由は一概にルストがカルカス国において重要な人物で在るが故に他ならない。人望だけでいえばアルスカインを大きく上回るのだ。ことカルカス国南部で言えばルストへ下知を求める手紙が集まることも不思議ではなかった。


 そのためルストの元へは手紙が日常的に届き、ルストは優先順位を見定めて日々手紙を返しているのである。その執務を気にすることなくルストの部屋にいる人物は部屋の主へと声を掛けるのだった。


「はて、いったい何のことかな?」


 ルストは質問に答えつつも手を休めることはしない。器用に手紙の返事を書きつつも目の前の人物、第二王女イーヴリンの問いに答えるのだった。


「あら、お兄様はワタクシにまでお惚けになるのかしら。もちろんカルカス国国主、アルスカイン特別侯爵が申請したプラチナランク相当の冒険者のことですわよ。

 つい最近ブロンズ登録したばかりの青年をいきなりプラチナにするなんて言い出すんですもの。お兄様のお眼鏡に叶った青年がどんな人物なのか気になるわ。」


「イヴ、お前は相変わらず好奇心旺盛なのだな。彼はなんてことのない、どこにでもいるような青年だ。」


「そんなことをおっしゃって、アッガスのときはお兄様の言葉を真に受けた役人たちが愕然としていたではありませんか。式の真っ只中に叙爵拒否など前代未聞ですもの。

 今回だってどんな傾奇者が現れるかと大臣が戦々恐々としておりましたよ。」


 アッガスの昇格式を思い出し、ルストは苦々しい表情を浮かべる。アッガスが昇格式当日に『爵位はいらん!』などと大声で言い出すものだから大臣たちが騒ぎ出してしまったのだ。

 式を中断させるような発言だけでも不敬罪なのに叙爵拒否まで添えられてしまっては、大臣たちが極刑だ、打首だと騒ぐのも無理はなかった。


 この騒ぎのせいで昇格式は一カ月先送りされ、その間にルストが各所を説得して何とかプラチナランク昇格を果たせたのであった。


「あれが特別なだけだ。まさか当日に爵位を放棄したいなどと言うとは思わなんだ。シュウはその辺の常識を持ち合わせているので問題なかろう。」


「うふふ、心配なさらずともプラチナランクになるような人間はどこかネジが外れていることが当たり前ですもの。きっとお父様も寛容に考えてくださいますわよ。

 それよりもそのシュウという青年をプラチナランクにして何を狙っているのかしら。」


 イーヴリンは片手を頬に当てながら悩ましげな表情を見せる。容姿端麗で知られるイーヴリンの仕草を見ながらルストは『我が妹ながら己の魅せ方を熟知しているものだ』と感心する。


「別に含みなどない。シュウの実力と人間性を見て、プラチナランクが妥当だと判断した。それだけのことだ。」


「あらあら、それだけのためにお父様と三日三晩お話になられていたの?ずいぶんとシュウという青年に惚れ込んでいらっしゃるのですね。」


 ルストは動かしていた手を止めて、イーヴリンへと顔を向ける。


「イヴ、探り合いは止めよう。何が言いたい。」


「せっかちね。もう少し兄妹の会話を楽しみたかったのに。」


「私もお前が幼少の頃の純粋さを持ち合わせていたら、もっと楽しみたかったところだがな。」


「あら、失礼しちゃうわ。ワタクシもまだまだ童心を忘れてはいません。」


 イーヴリンは、今度は頬を膨らませて不貞腐れた顔をする。


「とはいえ、そろそろ時間もないことですし、本題に入りましょうか。

 …お父様に話しているカルカス国独立の話、ワタクシからお父様へお願いしてもよろしくてよ。」


「……何が狙いだ。」


「簡単なことですわ。次期国王の推薦をお兄様からしていただきたいんですの。」


 現国王が七十歳を迎える今年、王位継承問題は水面下で激しさを増していた。これは第一王子であるラウノよりも第二王女であるイーヴリンのほうが国王に適しているという意見が強いためだ。


 ナインフォセア王国では初代国王が女王だったこともあり、娘にも王位継承権を持たせている。

 イーヴリンは利発的で明朗快活な性格のため大臣たちから気に入られているだけでなく、緩やかなウェーブがかかった黒髪が豊穣の姫と同じことから美しい容姿と合わせて国民から絶大な人気があった。


 王太子として扱われているラウノ王子に問題があるわけではない。ただ、イーヴリンの才能がそれを上回っていたというだけのことである。しかし、現在においてはそれが致命的な溝を作っていた。

 現国王はこのことを重く受け止め、ルストが帰郷したタイミングで家族会議を行い穏便に決着を付けようとしたのだった。


 ルストは現国王からどの子供たちよりも信頼されている。そのため家族会議でも大きな発言力を有していた。


「ほう、私の推薦があれば勝てるような言い方だな。しかし、兄上も堅実な政治で割り当てられた区画をしっかりと治めている。私があえて個人を推す理由が明確でなければ父上に見透かされるぞ。」


「そこは問題ありません。

 ワタクシが担当する区画はラウノ兄様の区画よりも劣悪な環境でしたが今では総人口も生産量も収益も、すべて上回っておりますもの。

 この事実を考慮してもワタクシの統治能力に問題ないことは明白ですし、国民の人気も十分にあります。

 それにワタクシもお兄様ほどではございませんがお父様からの信頼を受けていますから、きっとお兄様の手助けができると思いますよ。」


 ナインフォセア王国の王室は成人を迎えると直轄地から何かしらの問題を抱えた地域を割り当てられ、問題解決を課題として与えられる。

 これは豊穣の姫の逸話が元となっているが、十五歳が成人のこの世界で二十六歳となるイーヴリンの区画が五十代半ばに差し掛かるラウノ王子の治める区画よりも上回っていることはイーヴリンとその側近が高い能力を持っていることを示していた。


「なるほどな。その功績を私に認めさせることで父上の背中を押したいわけか。それで、この見返りは具体的に何をしてくれるのかな?」


「お兄様の公爵位復活と公国設立をお約束します。」


「それはアルが国主を辞めることが条件ということか。」


「えぇ、そうですわね。アルお兄様のことはワタクシも嫌いではございませんが現実的に考えて王族と認めることは難しいでしょう。

 それよりもお兄様が公爵に戻り国主となるほうがお父様だけでなく大臣たちの説得も容易となります。

 もちろん、お兄様がこの手を避けてらっしゃるのは分かっていますが、ここまでの交渉の成果は芳しくなかったのでしょう?」


「うむ。それはそうなのだが、カルカス国にはアルを慕う貴族もいる。彼らのことを考えるとアルを国主から引きずり落としたと騒ぐ輩が出てくるのは必然だ。

 それなりの落とし所を見つけねば私が国主になることはできん。」


「お兄様は強引な粛清が嫌いですものね。

 ですからワタクシがお父様へお願いするのは、アルお兄様の永続的な爵位の叙爵です。」


「それができれば確かに周りを抑える材料となる。だが、アルを侯爵に引き上げることは難しいのではないか。」


「アルお兄様に与えるのは侯爵位ではございません。

 アルお兄様個人は特別侯爵としたまま辺境伯位を叙爵させ、お兄様の補佐として宰相の地位に就いてもらうのです。」


「特別侯爵自体は辺境伯位と同列扱いだから子供たちに辺境伯位を残してやれる、という意味合いに近いな。その話は、イヴが推せば辺境伯位を勝ち取ることができると捉えて良いのか。」


 ルストとイーヴリンは無言で見つめ合う。兄妹といえど王家の人間は腹の探り合いが当たり前の世界である。互いの瞳の奥に映る損得を図っているのだった。


 そこに、この張り詰めた空気を打ち消すようにドアの外から声がかかる。


「ルスト辺境伯閣下、冒険者シュウ一行が城門まで到着致しました。」


「わかった。すぐに行くので応接室まで通してくれ。」


 ルストが返事をすると『承知しました』の声とともに廊下を駆けていく音が聞こえる。


「イヴの申し出は感謝する。だが、この後のこともある。この話は諸々が無事済んだ際に結論を決めよう。」


「そうですわね。色よい返事をお待ちすることにしておきますわ。」


 二人はこれ以上の会話をすることなく、それぞれ必要な場所へと移動していくのだった。

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