第41話 覚悟
全ては乙女心に気づけない鈍感主人公が悪いのです。
「誠に、申し訳ございません!!」
僕たちは一旦、蒼天の牙と僕が泊まっている宿に移動することにした。シル達がイヴンにいる理由など聞きたいことはいっぱいあるけど、道のど真ん中でひと騒動起こした後なのでいつの間にか野次馬が出来ていたのである。
他の三人もタイミングよく?戻ってきたところだったので、広いとは言えない宿の部屋に全員で集まることにした。
そして、不用意に目立つような騒動を起こしてしまったことについて謝っているのである。ジルが。
「まさか帰ってくる途中で聞いた噂の主が自分たちの知り合いとはね…。はぁ…街中じゃ逢引と禁断の恋の狭間で縺れたジレンマなんて言われているよ。」
「……ごめんなさい……。」
「シュウが謝ることはありません。私が付いていながら止めることができず、申し訳ありませんでした。
シル様は里を出てからというもの、時よりこのような暴走をされるのです…。里を一度も出たことがなかったための緊張からとは思うのですが、それもここ最近は落ち着いていたので油断いたしました。」
要するに都会の空気に当てられてお上りさんになっちゃったってことね。
「それで?そこのお二人さんは何なんですかね?シュウとはどういう関係なんですかね?何で抱きついたりしたんですかね?きっちり説明してもらいましょうか。ねぇ、シュウ?」
「エ…チョボ、ちょっと落ち着こう。」
「はぁ!?私は落ち着いてますけど、何かぁ?」
あぁ、火に油を注ぐ結果になりましたね、これは…。
「私はシルフィードと言う。シュウとはある里で共に暮らしていた家族だ。」
シルフィードさん、その言い方は語弊を生むのでは?
「か、かか…家族ぅ?シルフィードさんは見るからにエルフですが、シュウのお姉さんか何かと言いたいんですかね?」
「いや、私とシュウはそういった関係ではない。ただ想いが通じ合っているだけだ。」
シルフィードさん!?それは完全に誤解を生んでますよ!?
「はぁぁあああ!?どういうことなのか説明してもらえるかしら、シュウさん!?」
「い、いや、だから落ち着いて…。」
エリーの顔が夜叉のようになっている…。正直ここまで怒る理由は分からないが、このままでは要らぬ疑いで亀裂を生んでしまう可能性もある。何とか軌道修正しなくては。
「チョボ殿とおっしゃられましたか。誤解があるようですので、私から補足させて頂きます。
我が里は同種族しか暮らすことのない小さな集落のため暮らす人間は全て顔馴染みとなります。シュウは森を彷徨っているところを我が族長が里へと案内し、落ち着くまでの間ともに暮らしてきたのです。
先ほども言ったように里に住む人間は全て顔馴染み、もはや家族も同然の付き合いとなります。かく言う私もシュウが暮らしていた頃はよく我が家へ招いて子供たちや妻とともに食事をしたものですよ。」
さすがはジル!言葉足らずなシルフィードを補佐しながら誤解を解きつつこの場を収めてくれた。
「おい、その森とは不帰の森のことじゃないのか。」
ここでダラスが思わぬことを言い始める。
「あなたは確かダラスさんとおっしゃいましたね。何故そう思われるのですか?」
「理由はいくつかある。
俺たちがシュウと初めて会ったのは不帰の森付近だった。あそこは旅人が来るにはやはり不自然な場所だ。森からやってきたと言われたほうが納得できちまう程にな。
次に、バーグ村では時折エルフが物資を交換に訪れることがあると聞いた。村の奴らは誰一人どこから来たのか知らなかったが、これも森に里があれば合点がいく。
そして、シュウの特異性。世間知らずなくせに知識はある。そのうえ桁違いの実力とくれば、不帰の森でお前たちと住んでいたとしても可笑しくはないと想像しただけだ。」
ダラスの推理を聞いて納得してしまった。ここまで状況証拠があればその結論にたどり着くのは容易いだろう。ただ、ここで本当の事を明かして良いかは迷っていた。
僕個人としては皆に本当の事を話したいけど、不用意に話せば危険に巻き込み兼ねない。
「ダラスと言ったな。お前の言うことは正しい。我々は不帰の森にある里からやってきた。」
「え!?ちょ、シル!?」
「シュウ、お前の気持ちも分かるが、この男はすでに確信を持って話をしている。ここで無駄に隠しても仕方ないだろう。
これは族長の娘である私の判断だ。
それにそこの男はダラス同様に平静だったからな。こいつも何か知っているのだろう?」
そう言いながらシルはクリスのほうを見る。
「僕は父であるルスト辺境伯を通じてシュウを補佐するように頼まれているからね。シュウがどこで暮らしていたとしても、今となっては些末なことだと思っているだけだよ。」
クリスがそう言うとシルは少しだけ遠い目をして頷いた。
「そうか、なるほどな。
…シュウはお前達を巻き込みたくないと考えて何も言わないが、私はお前たちにもシュウの補佐を頼みたいと考えている。
ジルと私は見ての通りエルフで、世間の風当たりは冷たい。お前たちがいれば色々と融通が利くからな。
それに族長の娘として里の事は秘匿しなければならない。監視と考えても一緒にいるほうが都合が良い。もしも他言すればその首がどうなるか…。これもしっかりと想像してから口を開くのだな。」
シルは刀をグッと握り殺気を放つ。
シルの殺気は部屋中を包み込み、歴戦の猛者であるダラスさえも固唾を飲んでしまうほどだった。
「シル、蒼天の牙は大丈夫。初対面の僕に対しても信用して助けてくれた恩人だ。
だからシルたちもダラスたちのことを信用してあげてほしい。」
僕がそう言うとシルは殺気を解く。どうやら初めから威嚇で収めるつもりだったらしい。
「…ふう。こんな圧迫感のある殺気を受けたのは久しぶりだ。さすがはシュウの同行者だな。」
「それで、お前たちはこれからどうする?そこの男はシュウを補佐すると言ったが、お前たち全員がシュウと共に行くのか?」
シルは蒼天の牙を一人一人見ながら話す。
個人の意志とその覚悟を見定めているようだった。
「私は行くよ!シュウは私の恩人だもん、恩を返さないうちに別れるなんて嫌だ!」
「おう、チョボ!良い啖呵切るじゃねぇか!俺も同意見だぜ、お姉ちゃん!」
「はは、やっぱりそうくるよね。
シルフィードさん、ジルベスターさん。僕たちはエクロキア大陸を拠点としている冒険者で、僕はナインフォセア王国王家の血筋でもある。必ずやシュウの役に立つとお約束するよ。そうだろ、ダラス?」
「あぁ。正直どこまで付いていけるかは分からねぇがこの身を盾にすることくらいはできる。
それにうちのメンバーがシュウを気に入っちまった。俺も含めてな。
そんな中、リーダーの俺が逃げを選択すればあんたに殺される前にこいつらに殺されちまうだろうよ。
そんなわけだから、シュウ。旅は道連れ、俺たちも一行として加わらせて貰うぞ。」
「ダラス、みんな…。」
「シュウ、こいつらの覚悟は本物だ。いくらシュウが拒絶しても無駄なことだろう。
ここはこいつらの気持ちを汲んでやるほうが良いのではないか?」
シルとジルが優しい目で僕を見つめてくる。
そして、蒼天の牙は笑顔の中に決意を向けている。
皆の覚悟が僕に注がれるような、そんな視線であった。
「僕はペリシェで自分がいかに自惚れていたかを教えられた。それとともに、一人じゃ守れる限界があることも痛感したよ。
シルの言う通りだ。
僕は皆のことが大事だから守れなかったときのことを考えただけで恐ろしくなる。できれば危ない目には遭ってほしくない。
それでも皆が差し伸べてくれるならその手を取りたい。守る、守られるじゃない。対等な友達としてもっと一緒にいたいんだ。
僕といれば、もっと危険なことが増えていくと思う。それでも僕に手を差し伸べてくれる?」
「シュウ、俺たちはお前に恩がある身だ。だが、お前と一緒にいるのは依頼だからでも義理でもなく、単純にお前の人間性を気に入っているからだ。
答えなんか決まっているだろう、答えは『当たり前』だ。」
「ふふ。よし、決まったようだな。それでは改めて、シルフィードとジルベスターだ。よろしく頼む。」
「俺たちは冒険者パーティ『蒼天の牙』だ。名前は追々覚えてくれればいい。こちらこそよろしく頼む。」
ダラスとシルが握手を交わす。友達の輪が広がったみたいで何だか嬉しくもこそばゆい気持ちになる。
「ところでこの少年は何故あんなに怒っていたのだ?」
シルのひと言で鎮火しつつあったエリーの怒りが再燃し始めた。
全員で身構えるが、炎上しきる前にドアをノックする音が聞こえて、エリーの気を紛らすことに成功する。ドアを開けると立っていたのは宿屋の店主だった。
「この部屋にお泊りのクリス様へ貴族の使用人の方が訪ねて来ておりますが、お通ししてもよろしいでしょうか。」
店主はそう言うとクリスへ手紙を渡す。双頭の鷲の紋章、王家の血筋である者のみが使うことのできる特別な封蠟印だ。
「ふむ。どうやら叔父上が屋敷へ招待してくれているようだ。全員で荷物を持って来るようにと書かれている。」
貴族社会の風潮として、平民を屋敷に泊めることは滅多にないため何かと悪目立ちすることが多い。そのためクリスはアルスカイン特別侯爵の申し出を断ったわけだが、それでも招待してきたとなれば城で何かあったのだろう。
「分かった。すぐに行くからお待ち頂くように伝えてくれ。同行者が二名増えることも一緒に言っておいてくれると助かる。それから僕らの借りた部屋を引き払うので精算の準備を頼む。」
クリスがテキパキと指示を出し店主を下がらせるとダラスがクリスへ質問する。
「クリス、本当は何が書いてあったんだ?」
「あぁ、父上が僕らを城へ呼んでいる。何か役目を与えたいらしい。文末に書かれていた内容を読み解くに、この国はどこかから宣戦布告を受けたようだ。」
それは、早くも僕たちの覚悟が試されるときが来たのかもしれなかった。




