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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
カルカス国編

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第30話 全身全霊

 ボールドンの城壁には四つの門が存在する。


 それぞれ東西南北に分かれており、門から城までの直線上を大通りが走っている構造となっていた。大通りの突き当りには場所により異なった建造物があり、それぞれの特色を示す形となっている。


 北の大通りの先にはボールドン城の城門があり、ボールドンの玄関口として知られている。

 南には教会があり、時報替わりの鐘と時計が備わっている。

 西には兵舎があり、治安の要となっている。


 そして、東には広場があり、広場には禍々しいまでの存在感を放つ断頭台があった。断頭台は広場の中でも城に近い場所に建っており、城から断頭台へと続く道が舗装されている。

 普段であれば待ち合わせの場所として賑わっているこの広場であるが、今日に限っては別の意味で人が屯していた。


「断頭台が修復されるなんて、いつ以来の話だ?」


「あの辺境伯様が処刑されるなんて嘘よ。何かの間違いだわ。」


「例え、どんなお貴族様であっても誠実さを怠れば容赦しない。これこそボールドンがボールドンたる所以じゃ。」


 民衆の会話は様々であるが、皆の目的は掲示板に貼られた真相を確かめるためであった。


 アルスカイン特別侯爵暗殺未遂。これがルスト辺境伯に課せられた罪状である。清廉潔白たる人物であっても権力への欲求には抗えないということなのか、本当に辺境伯は断頭台へ上がってくるのか。集まる市民は膨らむ妄想を肴に噂しながらその時がくるのを待っていた。





「ルスト辺境伯、残念です。」


 ルスト辺境伯を断頭台まで連れていく役目を担った衛兵がポツリと呟く。

 彼らは今、城の東側にある連絡通路にいる。四つの鐘が鳴るとともに断頭台へ向かえるように扉の前で待機しているのだ。

 処刑の時を待つルスト辺境伯はどことなく意識がはっきりしないような表情を浮かべている。アルスカイン特別侯爵と違いルスト辺境伯の意志は強く、黒魔術の効きが甘くなるため幻惑草を使い一時的に思考能力を低下させているのだった。


「ふん!こいつはアルスカイン特別侯爵様の信頼を裏切った卑怯者だぞ。そんな奴に慈悲なんて要らねぇだろうが!」


 横にいた傭兵が嘲笑まじりに言いながらルスト辺境伯の頭を小突く。


「貴様!何も知らんくせに無礼を働くか!この方がどれほど人民のために苦心されてきたか…。」


「はっ!どんだけ想ってようと貴族どもは大した苦労もせずに甘い汁を吸ってやがる。こいつも、お前も一緒だ。この守銭奴どもが!本当に想ってるんだったら私財全部売り払って肥溜めでも食ってやがれ!」


「何だと、貴様!愚弄するか!!」


 傭兵の挑発に乗ってしまった衛兵は抜剣して傭兵を睨む。傭兵も応じてダガーを構えると二人は同時にその手にある武器を振った。


 しかし、その瞬間に城のどこからか爆発音が響き渡り、城にいる全員が動きを止める。それは二人も同じであった。


「な、何が起きた…?」


 二人は武器を持ったままではあるが、状況を把握するために様子を窺うことにした。暫くすると新たな傭兵がこちらに走ってくる。


「おい!とっくに四つの鐘が鳴る時刻は過ぎてるぞ!何をしてるんだテメェらは!」


「頭、こいつが邪魔すんだよ。」


 頭と呼ばれる男は衛兵を睨みつける。


「何を言う!まだ四つの鐘は鳴っておらんではないか!それにこの騒ぎは何だ。城で何が起きている!」


「ちっ。面倒くせえな。」


 傭兵頭はそう呟いたときには自身のダガーを衛兵の喉元へ刺していた。


「がっ…。ぐっ……。」


 そのまま衛兵は力尽きていく。


「よし!さっさとこの茶番劇を片付けて奪えるもん奪ったらずらかるぞ!急げ!」


 そう言うと傭兵頭はルスト辺境伯の首根っこを掴んで半ば引き摺るように東の鉄扉をくぐっていく。


「何だ?城のほうが騒がしいが…。」


「おい、来たぞ!…ん?衛兵じゃないな。城の人間か?」


「ルスト辺境伯だ。あのような無礼な格好で連れ出されるとは、何とお労しい…。」


 民衆は断頭台に群がるように集まりざわめき立つ。城の様子やルスト辺境伯を連れている者の異変を感じ取ってはいるものの、そんなことはお構いなしにルスト辺境伯は断頭台へ上げられた。


「これより、ルスト辺境伯の公開処刑を始める!この男はあろうことか国主であるアルスカイン特別侯爵様の毒殺を計画し、国家転覆を狙った!ジェリオ執政顧問のおかげで特別侯爵は一命を取り留めたが、この罪は消えるものではない。よって、斬首に処すものである!」


 傭兵頭は適当に口上を垂れるとさっさと首を固定するように仲間へ促す。

 断頭台へ固定するために傭兵頭の手がルスト辺境伯から離れた瞬間、何かが転がってくる音がした。


「…。石?」


 断頭台へ転がった魔石は青い光を放つと辺り一面を濃霧で包んでしまう。一寸先も碌に見えない状態で断頭台にいる全員が呆気に取られている隙を突くように人影が霧の中に入っていった。


「ぐぁっ!?」


「〈リカバリー〉」


 傭兵頭は自身の横から部下の叫び声と呪文を確かに聞いた。見えてはいなくとも何が起きているかは分かる。傭兵頭は今までルスト辺境伯がいた場所目掛けてダガーを投げつける。すると金属がぶつかり合う音が聞こえ、次第に霧が晴れていった。


 そして、そこに見えたのはルスト辺境伯を抱えながら剣を握る一人の男。ルスト辺境伯の嫡男にして要注意人物であるクリスチャーノであった。


「てめぇ!良くもやってくれたな!」


 そばにいた部下はやられ、ルスト辺境伯はすでに自我を取り戻しているのが分かる。一刻も早く殺さねば自分たちの立ち場が危うくなってくると悟った傭兵頭は直ぐ様号令を掛ける。


「父上、少々お待ちください。」


 クリスは小声で伝えると剣を構える。

 城ではオルレアとともに鍛え、外ではダラスたちの技を見ては盗んできたのだ。そんなクリスに野盗どもが敵う道理はなかった。

 次から次へと湧いて出る敵を舞でも踊っているかの如く見事に斬り伏せていくが、次第に敵は無闇に襲い掛かってくることを止める。敵は遠巻きに囲い込みながら逃さない作戦に出たようだった。


「クリスチャーノ。すまん、私も身体が動けば戦えたものを…。」


「意識を回復させただけで、まだ毒が消え去ったわけではありません。父上は無理をなさらなくて結構。私が必ずや父上を救ってみせます。」


 クリスはそう言ったものの、内心は状況が悪化したことに落ち込んでいた。

 敵が何も考えずに突っ込んでくるだけならばよかったのだ。場が混乱に陥ったところでルスト辺境伯を連れて人混みに紛れて離脱することもできたのだから。

 しかし、予定外だったのはルスト辺境伯が思いの外、衰弱していることだった。まさか、走ることもできないほどに衰弱しているとは考えていなかったため、霧が出ている間にこの場を離脱するつもりがここまで先延ばしになっていた。


「はっ!貴族のお坊ちゃんがあんまり調子に乗るんじゃねぇよ。この数相手に逃げられるとでも思ってんのか。諦めて大人しく死にな!」


 傭兵頭、もとい、野盗の頭目は自分たちの優位性を悟り、したり顔でクリスを煽る。クリスとしては何とか打開の一手を打ちたいのだが、良い手を考えられずにいる。それでも諦めることはなかった。


「生憎とここでは死なないと友に誓ったものでね。お前たちに命をやるわけにはいかないのさ。」


 クリスは自身の脳をフル稼働させてこの窮地を脱する手立てを考え続ける。が、それよりも野盗どもの決断が早かった。


「野郎ども!一斉に投げつけろ!」


 野盗は集団でクリス達を取り囲みダガーを片手に投げる素振りをみせる。いくらクリスでも四方八方から投げつけられればひとたまりもなかった。だが、その窮地の中、クリスは断頭台を覆うように何かが光り出していることに気づく。


「…。なんだ?」


 クリスが呟くのと同時に断頭台に立っていた頭目も足元に異変に気付いた。それは魔法陣。何かの粉で描かれてた方陣が輝いていたのだ。

 何かしらの現象が起きることは明らかであった。そして、クリスはこの魔法陣に見覚えがあった。


「もしかして、これは……。」


 クリスが気づくのと同時に魔法陣の光は頂点に達して目を眩ませるほどの光を放つ。


『グガゴゴゴオゥ!!』


 断頭台を壊し、頭目を外に押し退けるようにして目の前に現れたのはアースドラゴンであった。


「な、なんだぁ!?こいつは!?」


 頭目が叫ぶとアースドラゴンは頭目に気づき…。次の瞬間には頭目はアースドラゴンに喰われていた。


「う…うわぁぁぁぁ!!」


 断頭台に群がっていた民衆は一斉に叫び声を上げながら散り散りに逃げていく。それと同時に頭を失った野盗どもも逃げ出していった。

 そうして、その場に取り残されたのはクリスとルスト辺境伯のみである。そうなると次にアースドラゴンが目を付けるのは二人になることも必然であった。


『グガァア!!』


「くっ!?〈ホーリーシェル〉!」


 クリスは自身とルスト辺境伯を覆う半円状の盾を構築するとアースドラゴンの尻尾による攻撃を何とか跳ね返す。しかし、アースドラゴンは怯まず攻撃の手を休めない。


「!!?くそっ!このままでは魔法が破られる…!」


 数度となく耐え忍んでいたものの、結局はアースドラゴンの度重なる攻撃には耐えきれなかった。クリス達は魔法の盾を割られ、無防備な姿を曝け出してしまう。


『ゴルルァァア!』


 クリス達がアースドラゴンの餌食になる、その瞬間……橙色の光が一直線に流れた。


『グゴァオオゥ!?』


 自身の命さえ諦めかけていたクリスは、アースドラゴンの苦しむ姿を目の当たりして光の本流に気づく。振り返るとそこには見知った顔が立っていた。


「ルスト正規軍が騎士、オルレア!我が主君の命はお前なぞにはやらん!!」






 オルレアは駆けに駆けた。自身の限界が来ていることは理解していた。それでも緩めることなく走る。比喩でもなく肺が破けるほど全力で走り抜けた。

 城壁の守衛のことも無視して、遮るものは殴りつけて、それでも速度を緩めることなく走り抜けたのだ。

 これで自身の寿命が縮もうが、関係がなかった。すべては主のため。クリス、そしてルスト辺境伯を守るためならばこの身が壊れても構わない。まさに騎士の道を貫くが如く駆け抜けたのだ。


 そして、ようやく主へ辿り着いた。


 しかし、その目に映ったものはあの忌まわしい記憶。ボールドンへ向かう途中に出会ったアースドラゴンであった。その脅威が今、主君へと向いている。


 あのときは掠り傷がやっとだったのだ。できるのか?自分に、あいつを討つことが。


 瞬間、オルレアの頭の中で自問自答が起きるが、すぐに考えを放棄した。

 意図して頭を真っ白にさせたと言ってもいい。やれるか、やれないかでは、ない。やらなければならない!オルレアは自身の存在価値を賭けて闘気を硬く練りこませた一撃を放つ。

 その一撃、『一閃』は己の限界を超えた威力を放ち、アースドラゴンに深い傷をつける。


「…ぁぁぁあああああああ!!!」


 オルレアは驕ることなく、そして、休むことなくアースドラゴンへ斬りかかる。その一撃一撃が重く、アースドラゴンの固い皮膚を確実に削っていく。そして、身命を賭した攻撃が実ったのか、オルレアは千載一遇のチャンスを得る。


 アースドラゴンが怯み、あろうことか喉元をオルレアの前に突き出したのだ。

 このチャンスを逃すオルレアではない。この瞬間を的確に捉えて…………首元へ剣を振り抜いた。


「なっ……!?」


 なんという不運であろうか。あろうことかオルレアの振るった剣はこれまでの激戦に耐えることができずアースドラゴンの首を斬ることなく折れてしまう。愛剣は儚くも砕け散り、それとともにオルレアのか細くも繋ぎ止めていた闘志をも砕き折ってしまった。


「オルレア!?」


 クリスが声を荒らげるが、オルレアの意識は朦朧としていた。ここまでの無理が顕現してしまったのだ。


 アースドラゴンは己の優位性を理解して、オルレア目掛けて口を開くとそのまま走り出す。





「させるかよぁ!!」


 しかし、寸でのところでオルレアが喰われることはなかった。なんと、アッガスが素手でアースドラゴンを殴りつけたのだ。

 殴られたアースドラゴンはそのまま後方へと後退る。


「よぉ、お前ら。生きてるか?」


 アッガスは何てことないと言わんばかりに元気よく現状を確認する。クリスに目立った傷はないものの、ルスト辺境伯もオルレアも満身創痍であることは明らかであった。


「アッガス…ど、の?」


「英雄オルレアだな。よくぞこの場を耐えてくれた。おかげでルスト辺境伯もクリスチャーノ様も無事だ。

 後のことは俺に任せてお前は休んでいてくれ。」


 そう言うとアッガスは普段見せることがない鬼神の如き怒りの表情を浮かべる。これほどまでに苦しい思いをしてまで主君を守る騎士。どうしようもないほど衰弱してしまった我が領主。そして、何よりもその状況を作ってしまった自分自身が恨めしかった。


「……。〈目覚めろ、トール〉」


 アッガスが静かに唱えるとアッガスの手に収まる鎚が激しい閃光とともに、その真の姿を現す。






『魔道具』

 魔が冠せられたこの道具は古の時代に作られた錬金道具の一種である。

 今では扱うことができない高度な技術や魔法文字を用いて作られており、魔道具自身が使用者を選ぶため道具で在ると同時に意思が宿っていると言われている。

 魔道具は己の名前を聞き、始めて真の力を発揮する。そのため、魔道具所持者は滅多なことでは真の名前を口にすることはない。

 しかし、真の名前を唱えられた魔道具は一国を揺るがすほどの威力をその身に宿すとされていた。






 アッガスがトリガーを唱えると手に持っていた魔鎚は巨大化するとともに稲妻を迸らせる。

 その鎚を大きく振りかぶったアッガスは、アースドラゴンへと全力で駆け抜けて大きく跳躍すると全身全霊を込めて魔鎚を振り抜く。


『ゴッガァ…!?』


 アースドラゴンへ魔鎚が当たると、天の怒りが具現化したかのように魔鎚から雷鳴が如く破裂音が炸裂する。それと同時にアースドラゴンは、魔鎚を振るうアッガスの全力の攻撃と魔鎚本来の力に屈して丸焦げになった挙句、灰になっていった。


「アッガス、助かった。それに、オルレアもよくぞ駆けつけてくれた。二人の働きがなかったら父上も僕もここで終わっていただろう。本当に良くやってくれた。感謝する。」


「何、これもシュウのおかげってもんさ。」


「そういえば、城のほうはどうなっているんだ?シュウは無事なのか?」


「あぁ。アイツはおそらく無事だ。それにアイツ以上にあの化け物と戦える奴はこの国にはいねぇよ。」


「…?一体、城で何が起きているんだ…。」


 クリス達が見上げる城は依然として不穏な静けさを纏っていた。

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