第28話 真相
「ユキセ、シュウ…。」
バレた!!盛大にバレた!!
僕が今までどれほど苦労して転生者であることを隠してきたと思ってるんだ、この人!
そりゃ、まぁ疑惑的な感じには度々なってはいたけど?それでも有耶無耶にはしてきましたけど?それがどうですか、この筋肉だるまさんは!自分の知ってる知識をひけらかすのは勝手だけど人目というのを気にしてほしいものですよ、本当に!脳が筋肉でできてるんですかね、筋肉すごいですもんね!胸板なんてダラスの五倍はありますもんね!こんな人がギルドマスターだなんて信じられない!幸瀬柊なんて名前、転生者ですって言ってるようなものじゃないか!このバカバカバカ……。
だけどなんでこの人、僕のフルネーム知ってるんだ?知ってるのは里の皆と…。あぁ、なるほど。
「そう睨むなよ。今どいてやるから。」
アッガスは立ち上がり僕を起こしてくれた。引っ張る勢いが凄すぎてそのまま吹っ飛ばされそうになったけど…。
「アッガス、シュウとは知り合いだったのかい?」
「その話こそ司教と一緒のほうがいいだろう。あいつの執務室まで行こう。」
アッガスはそう言って僕らを二階へと案内していく。二階は扉が並んでいるエリアで居住区なのか子供が走り回っている。
「こいつらは孤児院のガキどもだ。今は外が物騒だからな。隣の施設からこっちに一時避難してるってわけだ。」
アッガスの説明を聞きながら進んでいき、ある扉の前で止まる。そして、アッガスはノックもせずに扉を開けてヅカヅカと中へ入って行った。
「よう!邪魔するぞ。」
「アッガスさん、いつも言っていますけどノックぐらいはしてください。そんな粗暴だから今回だって……。おや?後ろにいるのはクリスチャーノ坊ちゃんじゃありませんか?これはお久しぶりでございます。」
中で執務を熟していた司教は机の前まで出ていくとクリスの前で恭しくお辞儀をする。作法は教会のものだが、明らかに貴族に対する礼儀だった。
「司教も変わりなく安心したよ。僕の隣にいるのはシュウと言う。暫しの間厄介になるけれど構わないかい?」
「もちろんでございます。粗末なところではございますが、ご自身の物だと思って何なりとお使いください。」
司教は四十歳前後の見た目をしており、柔らかい物腰と笑顔を絶やさない。どこかの筋肉とは正反対の印象だ。爪の垢を煎じて飲ませてやりたいもんですよ、まったく。
「そうですか。道中でそのようなことがありましたか。」
それから僕たちは執務室にある椅子に腰を掛けて、ボールドンに着くまでのことを話していた。
ちなみに椅子は木製の背もたれが気持ち程度についているもので、クッションのようなものはない。そのため座り心地はとても硬い。
「あぁ。それから僕らは城に向かったんだが、ジェリオという人物が城を掌握しているようだった。特別侯爵の様子も明らかにおかしかったが、そこを言及する者もいない。仕舞いには僕らが城を出たところに父上投獄の号外が出回っていてここまで来たというわけさ。
アッガス、いったい何があったというんだい?まさか本当に父上と共謀して特別侯爵を暗殺しようとしたわけではないだろう?」
クリスがアッガスの目をジッと見つめながら問い詰める。アッガスはその目をそらすことなく堂々と質問に答えた。
「当たり前だ。俺だけならまだしも、ルスト様までそのようなことをするはずがない。
俺たちは二日前の夜、特別侯爵に城の私室へと呼ばれた。確か、今後の国政について相談したいと言っていたな。そんなわけで私室に着くと特別侯爵自ら俺たちに酒を振舞ったんだが、特別侯爵が自身で注いだグラスを煽ると突然苦しみ出したんだ。そして、そこに計ったかのようにして現れたのがジェリオって奴とその側近どもだ。」
アッガスは当時のことを思い出したのか悔しそうな表情を浮かべる。
「ジェリオはまるで何の毒か知っていたかのように手際よく解毒剤を飲ませると側近どもを俺たちに嗾けてきやがった。
ルスト様と俺は側近どもを蹴散らして逃げたんだが、部屋の外にも野盗どもがうじゃうじゃといやがって群がってくるもんだから、とてもじゃないが二人で城を抜け出すことができなかった。
俺はルスト様を逃すために殿を務めようとしたんだが、ルスト様は俺を教会に行かせると言って聞かなかった。俺だったらその場で殺されるところだが、辺境伯であるルスト様を審議にかけず殺すことは今後の統治に大きく関わってくるからな。
俺がもう一つ使命を受けていたことも知っていたルスト様は結局折れずにご自身が殿として俺を逃がしてくれたんだ。」
アッガスはドンッと自分の膝を握り拳で叩く。これが机だったら今頃バラバラになっていただろう。
「そうか。アッガス、話してくれてありがとう。
もう一つ聞きたい。その夜、特別侯爵の様子はどうだった?例えば意識が朦朧としているような感じはしなかったかな。」
「あぁ、それなら俺たちがボールドンに着いた頃にはそんな兆候はあった。
ルスト様と会話していても、どことなく上の空というか生気がないというか、な。しかし、ジェリオが現れると急に元気を取り戻す。そして、ジェリオの言うことが神の言葉かのようにすべて了承してしまう。
だからシュウへ召集命令を出したと言い始めたときに、異変を察したルスト様が念のためクリスとオルレアを同行させるように早馬を走らせたってわけだ。」
「やはりな。司教、これは黒魔法だと見て良いだろうか。」
アッガスと話していたクリスは司教へ確認を取るように話を促す。
「そうですな。確証までは持てませんが、幻惑の呪いを受けている可能性は高いと思います。古い文献に載っている症状とも合致しますし、ジェリオという商人が現れる前日まではアルスカイン様は聡明そのものでしたから。」
「ふむ。僕らが道中で襲ってきたシシセッツは黒の魔法陣を仕掛けていた。これらを考えるとモルドー男爵が何かに関わっているとも考えられるが、どうだろうか。」
「モルドー男爵が関わっている可能性は大いにあります。ですが、真実を聞き出すことはできないでしょう。」
「何故だ?」
「モルドー男爵は昨晩、野盗に襲われて命を落としましたので。屋敷にも火を放ったようで全て焼けてしまっています。」
「シシセッツが襲撃に失敗したのは一週間前。馬を使えば四日でボールドンに着く距離だった。
もし僕らが林に置いていった死体を野盗の仲間が見つけてボルドー男爵を殺害したとすれば、時間的にも辻褄が会う。やられたな。こんなことならば、あの場に埋めてしまうべきだった。」
「証拠隠滅をしたところで帰りが遅いとなれば同じことになっていたでしょう。クリスチャーノ坊ちゃんが気に病む必要はございません。」
「あぁ。…しかし、これではジェリオが怪しいとはいえ問い詰めることができないな。
黒魔法で人を操っていたとすれば、保安局に勤めていたモルドー男爵が書類を偽造してジェリオを城に招き入れることもできるし、僕の出自を知っている理由にも頷ける。その繋がりが分かれば芋づる式にジェリオに辿り着くと思っていたのだが。」
「あの…それについてなんですが、もしかしたら問い詰める材料を僕、知っているかもしれません。」
「何?さすがは神の使い様が選んだ男だな!」
アッガスさん…。あんた本当に僕を困らせたくて言ってますよね?
「アッガスさん。今、何と言いましたか…?」
ここまで温厚な雰囲気を崩さなかった司教がいきなり真剣な顔でアッガスを睨みだす。
「おぉ、忘れてた。こいつ、幸瀬柊は神の使い様が選んだ使徒だ。」
「なんですって!?なぜ今まで黙っていたのですか!!これは最重要事項ですよ!?
……あぁ、使徒が我が家を訪れるなど、これは奇跡か…。シュウ様、数々のご無礼申し訳ありませんでした。よろしければ、我が信仰を捧げる神の使い様が選ばれたそのお体に付いた傷を癒すお許しをいただけませんでしょうか。」
「あ、え?は、はい?」
「ありがとうございます。〈ヒーリング〉」
司教が僕の頬に手を翳して魔法を唱えると頬にあった掠り傷が瞬時に消えていく。
「…。ありがとうございました。」
「いえ、こんなものはあなた様には子供の真似事と同義でございましょうが、我が信仰の一端をお見せできて光栄でございます。」
「………。なぁ、アッガス。これを説明してくれるかい?」
「あぁ、そうだな。月下聖教の教徒であるお前にも関係のある話だ。平べったく言えば、こいつは転生者なのさ。」
「それはシュウの規格外な魔法を見てきたし、これまでの君の言動を見てもそうだろうとは思っていた。だが、転生者が月下聖教と何の関わりがあるんだ。転生者を信奉するのはイシュタル信徒だろう。」
「まぁ、そうなるわな。だが、ルスト城には神写鏡があるのは知っているだろう?三か月前にその鏡が光って神託が降りたんだ。」
「何?父上からもそんな話聞いていないが?」
「そりゃそうさ。何でも使徒は転生者とバレない様に振舞っているから、限られた人間以外は神託のことも話すなってことだったからな。………。あ。」
そこまで言ってアッガスは自身の過ちに気づく。もう遅いよ、とほほ………。
「あなたは粗暴にも程があります。クリスチャーノ坊ちゃん、私からも補足説明しましょう。
ルスト辺境伯とアッガスさんは神託を賜ってから私のところまで来ました。首都視察が急に決まったのはそのためです。
ルスト辺境伯はアッガスさんがシュウ様を導くので、その手伝いを私とルスト辺境伯で担うことになったとおっしゃいました。我々月下聖教は代々神の使い様に守っていただいている身。私はもちろん身命を以てこの使命を達成することを誓いました。」
そう言って司教は僕のほうを見てくる。そろそろやめてほしいな、その何とも言えない眼差し…。
「しかし、神の使い様はどのようにアッガスさんがシュウ様を導けばよいか具体的には告げられていません。それに加えて今の状況ですので、ぜひクリスチャーノ坊ちゃんにもシュウ様のお手伝いをしていただきたいのです。」
クリスは黙って聞いていたが、目を閉じて熟考を始めると僕の方を見て決意に満ちた目を浮かべる。
「シュウはすでに僕や僕の友人たちを助けてくれている大切な仲間だ。君にどんな秘密があろうと僕やオルレア、それに蒼天の牙の三人だって、君の味方であると誓うよ。」
「ありがとう、クリス。」
「それではそろそろ話を戻しましょうか。シュウ様、先ほどおっしゃっていたジェリオを問い詰める材料とはどのようなものでしょうか。」
「それについてなんですが、実は………。」
「司教!大変です!」
僕が言いかけるといきなり司祭が部屋へ飛び込んできた。
「なんですか。今は大事な話をしているところなのですよ。」
「すいません、ですが…。先ほど城より布告が出され、四つの鐘とともにルスト辺境伯を処刑すると!」
部屋にいる人間は皆、想定外の出来事の連続に息を呑むばかりであった。
◇◇◇
一方、オルレアたちはボールドンへ戻るため平原を止まることなく駆けていた。林から全力疾走しているのでおそらくはこの馬たちは潰れてしまうだろう。それでもルスト辺境伯が死刑となる前にボールドン城へ着く必要があった。
オルレアたちがいた林からボールドンまでは十数キロの距離となるため、早駆けをしている今ならば二十分ほどで着くはずである。だが、ここでも野盗が道を塞いでくるのだった。
「ヤッド、セズ!突破する、遅れるなよ!」
オルレアは叫ぶと騎乗で剣を抜き放つ。オルレアが持つ剣が鈍く光り威圧的な色を帯びていた。
「野郎ども、殺せ!」
弓に矢をかけていた野盗が一斉に矢を射る。空を埋め尽くすほどの矢の雨が降ってくるがオルレアたちは怯むことなく、剣で落ちてくる矢を振り落としながら野盗の密集が甘いところを狙って突っ込んでいく。
馬の勢いで陣形を崩された野盗の頭は上手く統制が取れなくなってしまったようだ。自陣は混乱して逃げ出すものや意を決してオルレアたちに襲い掛かる者などバラバラな動きをしている。
馬を駆けながら襲ってくる敵を討ち取っていくうちに野盗の集団は次第に散らばっていった。
「よし、このまま城まで真っ直ぐに向かうぞ!」
だが、ここでヤッドの馬が悲鳴を上げる。ここまで休むことなく駆けてきたことと尻に矢が刺さったことで動けなくなったのである。
「隊長!私のことは構わずに向かってください!」
「ヤッド、セズの馬に乗れ!私はこのまま進む。二人は直線を避けて迂回しつつボールドンに迎え。」
三つの鐘がなったのはオルレアたちが出発したあとのため正確な時間はわからなかったが、日の沈み具合を見るに四つの鐘が鳴るまであまり時間がないことは確かだった。
作戦の成功率を上げるには三人揃っている方が良いが、今は一刻も早く城へ戻って時間を稼ぐ必要がある。
「それから、もしシュウとクリス様を見つけたら救援をお願いしろ!すでにご存知である可能性も高いが、この後何が起こるか予想がつかん!特にシュウの力は必要となる!」
そう言い放ってオルレアは再び馬を走らせる。護衛対象であるはずの二人に助力を頼むなど騎士として恥ずべきことであったが、シュウの実力を知る三人にとってシュウに縋ることは至極当然であった。
それから少し経ち、ついに城壁が視界に入ってくる。しかし、ここでオルレアの馬も力尽きてしまう。
「…。ここまで我慢してくれてありがとう。」
オルレアは倒れた馬の首筋をそっと撫でながら呟くと手綱を切って鞘に括り付ける。腰に佩いていた剣を背負うと一人城壁へ向けて走り始めた。




