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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
カルカス国編

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第20話 冒険者の仕事

【エクロキア大陸 カルカス国南部 ルスト】


 ルストの城壁から外に出て穀倉地帯を少し行くと、見渡す限り草原が続く。その草原の一角で僕は今、泥まみれになっていた。なぜかって?それには海よりも深い訳が存在する。



 ルスト周辺の草原はほとんどが牧草地帯になっている。牛や羊、豚などの家畜を飼っていて、ここで採れた牛乳や食肉、羊毛などはルストへ、ここで生まれた子牛や子羊などは周辺の町村へと行き渡るように流通が整備されていた。その流通を一手に取り仕切っているのが『ボガード伯爵』だ。


 伯爵は例にもれずナインフォセア王国の貴族で、ルスト辺境伯が拝領した際にルスト元公爵を慕って付いてきた貴族の一人だ。カルカス国南部のほとんどはルスト辺境伯の所領となっていて、ボガード伯爵のようにルスト元公爵を慕って入領してきた貴族を中心に統治されていた。これはカルカス国北部を治めるアルスカイン特別侯爵にしても同様なのだが、団結力や影響力については南部のほうが圧倒的に勝っている。それもそうだろう。元公爵と特別侯爵では発言力が違う。

 ちなみに、ルスト元公爵が辺境伯に降格した理由は公爵家が統治者でもないのにあるのはおかしい、とルスト辺境伯自身がナインフォセア王国の国王陛下に懇願したのだとか。

 と、まぁそんなわけで、カルカス国の所領問題は現在に落ち着くわけだが、南部はアルスカイン派には手出しできない場所となっている。


 話を戻すが、僕が泥まみれになっている理由。それは、そのボガード伯爵からの依頼を熟しているためだ。なんの依頼かって?それは……。



 気配察知で知ってはいたものの、近づく馬車が視界に入って少し憂鬱になる。

 馬車は僕のいる場所で止まり、中から見たところ十歳前後の金髪の少女が現れた。


「シュウ!あなた、サボってるんじゃないでしょうね!」


 元気よく登場した少女、メアリーはボガード伯爵の愛娘だ。ボガード伯爵が年老いてから生まれた念願の子宝なもので、頗る娘に甘い。そのため作業中だろうとなんだろうと、構ってほしくて我が物顔でちょっかいを出してくるというわけだ。


「そんなわけないでしょう、お嬢様。泥まみれになったこの体と後ろに山積みになっている雑草をご覧ください。」


「あら、やだ。汚いわ。体は常に清潔にしなさいな。」


 ……こんな理不尽あります?思えば元の世界で上司に叱られた時以来だな、この感覚。


「シュウ、あなた目つきが悪くてよ。ちゃんと栄養を取って寝ているの?」


 馬車から降りて早々に嫌疑をかけられれば誰でもそうなるでしょうが。まぁ、子供の言うことだと思って流しておこう…。落ち着いて大人の余裕を見せるんだ、僕。


「しかし、お嬢様も自ら毎日視察に来られる必要はございませんのに。取り仕切っているカッツさんの立つ瀬がなくなってしまいます。」


「カッツはよくやっています。それは知っていますわ。だからこそ、部下の重荷を軽くしてやるのが上に立つ者の責務ですわよ。」


 それっぽいこと言ってるけど、要するに構ってほしいのね…。


「それよりも、シュウ。ワイバーンを追い払った時の話をしなさいな。」


「お嬢様。それは再三に渡り申し上げておりますが、根も葉もない噂でございます。まさか伯爵令嬢様に嘘をお伝えするわけにも参りませんので、平にご容赦ください。」


「そんなこと言ってまた誤魔化すつもりね。ソーイースの商人もみんな言っていることよ。ワタクシ、吟遊詩人から聞くようなワクワクする冒険譚って大好きなの。ねぇ、教えてよ、ねぇったら。」


 何でメアリーちゃんに目をつけられるようになったかと言うと、僕がワイバーン二匹を追い払ったという噂を耳にしたからだという。おそらく、バーグ村で時期外れの収穫祭をしたことがきっかけでソーイースの商人に話が渡ったのだろう。だが、ここでその自慢をしても何にもならないし、変に目を付けられるのは避けたい。だから、頑なに噂話だということで断っているのだ。まさか、実はトドメまで刺しましたなんて言えるわけもないし。


 しかし、この『ボガード邸の草むしり』という依頼がこんな過酷なものだったとは…!


 と、いうことで、ここまで引っ張ってしまったがお察しの通り、僕の今の仕事は『草むしり』だ。

 冒険者に成り立ての僕が受けられる依頼は少ない。その中で一番楽そうなものを選んだのに、蓋を開けてみれば一番厄介な依頼だった。一口にボガード邸というが、その範囲は実に広大で、元の世界を基準に考えると野球場十五個分はあるんじゃないか、と思えるほどのものだった。内容は雑草や毒草を家畜が食べないようにむしり取る、という単純明快なものだったが、この広さは一人で受注できる範囲を優に超えている。

 しかも、雑草どものその生命力たるや!毟った次の日には新芽が生えているので謎の永久機関と化している。そのため、同様の依頼を受けたブロンズ冒険者たちが集まって草をむしり続けているいうわけである。

 先ほど、名前だけ登場した『カッツ』さんは、そんな駆け出し冒険者たちを統括するシルバー冒険者だ。


 牧畜業も南部の発展にとても重要なため国にもしっかりと貢献しているのだが、正直初日は挫折して一人、部屋で落ち込んだものだ…。そのうえ地味な作業に加えて、このお嬢様の相手までしなければならないのだから、今も受注したことを後悔している。唯一の救いは、報酬が日当の出来高制でいつでも辞められるという点だったが、実は他の二つの依頼よりも報酬額はよかった。

『ミルズ奥様の猫探し』は猫が見つからないと報酬が貰えないうえに下手をすると一週間は探しっぱなしになるのだという。『薬草採取』は比較的簡単なものの、最低賃金しか貰えないことで有名だった。

 それに比べると『草むしり』は真面目に働いていれば日当で銅貨八枚、多いもので銀板一枚は貰える。だが、僕においてはメアリーお嬢様のお相手が時間内に入ってくるので、銅貨五枚程度しか稼ぐことができなかった。宿屋一泊が銅貨四枚なので何とか食事代は賄えているが、もう少し割りの良い仕事をしたいというのが本音でもある。

 なおこれは余談だが、ルストで一泊、銅貨四枚は破格の値段で『蒼天の牙』のお友達価格だ。一泊、銅貨六枚がルストの相場なので、普通に泊まっていたら今頃赤字である。ダラス、ありがとう!


「まったく、そんなに冷たくするとシュウには教えてあげませんことよ。せっかく美味しい話を持ってきたというのに。」


「へ?美味しい話?」


「そうよ。ワタクシは毎日こんな泥まみれになって草むしりばかりしているところを見たいんじゃありませんの。だからシュウ、私の護衛をやりなさいな。」


「護衛ですか?というか、お嬢様がここに来られるのは部下であるカッツさんの負担を減らすためだったのでは…?」


 その言い方が草むしりしている姿など見ていてもつまらない、と言っているようだったので、つい口がすべってしまった。


「そ、それは……じい!ワタクシはこんなことしている場合ではなかったのよね?晩餐に向けて準備が必要。違う?」


「おっしゃる通りです、お嬢様。」


「ほら!そういうことよ、シュウ。明日の晩、ボガード邸で近隣の地主を集めた集会を開くの。そこでは美味しいケーキや甘いお菓子も振舞われるのよ。あなたもワタクシの護衛として参加できる権利をあげる。」


 あぁ、美味しい話ってそういうこと。これじゃお金にならないな、とお断りを入れようとしたところでメアリーの執事から補足説明が入る。


「シュウ殿。ボガード伯爵家はナインフォセア王国でも名門の出となります。そのご令嬢であるお嬢様からの指名であれば、今後の活動にも箔が付くでしょう。また、明日の依頼を無事全うできれば銀貨三枚お渡しいたします。どうでしょう、悪い話ではないと思いますが。」


「やりましょう!任せてください!」


 報酬の話をされて思考よりも先に口が動いていた。だって銀貨ですよ?これでこんな地味な草むしりとはおさらばだ!はっはっは!


「そう言っていただけてお嬢様も肩を撫で下ろされておられるでしょう。では、お嬢様そろそろ。」


 執事がそう言うとメアリーは頷いて馬車へ戻っていく。


「それじゃあシュウ、明日は草むしりの仕事は休んで体を洗っておくのよ。晩餐会用の服もこちらで用意するから五つの鐘が鳴る頃に館へいらっしゃいな。」


 そう言って馬車は遠ざかっていった。そこまで約束して、僕はある問題に気づく。


「そういえば、ブロンズ冒険者が護衛依頼なんて受けて大丈夫なのかな…。」


 ◇◇◇


「だっはっは!そいつは気に入られたもんだな、シュウ。モテモテじゃねぇか。わはははは!」


 その日の夜、僕はダラスとともに『味の精霊亭』で食事をしていた。チョボとガジは用事があるらしく今回は二人で来たのだ。


「そんな意地悪はやめてくれ…。僕だってあのお嬢様がそこまで気に入る理由がわからないんだから。」


「はっはは。いやぁ、悪かった悪かった。しかし、これはチャンスだぞ。その執事の言っていた通りボガード伯爵といえばカルカス国でも無視できない存在だ。そんな大貴族から指名をもらえる冒険者となればブロンズにしておくわけにもいかなくなる。そうなれば、したくもない労役や雑草集めなんかとはおさらばだ。」


 ダラスが言う『労役』とはボガード邸の草むしり、『雑草集め』とは薬草採取のことを指している。『労役』は草むしりに集まる冒険者たちが、まるで受刑者のそれに似ているために付けられた冒険者だけに通じる通称だ。

 冒険者の世界は縦社会のため、ブロンズを見下す傾向が強い。そのためダラスが言うような通称を付けられることが多いのだ。


「だけど、ブロンズの僕が護衛依頼なんて勝手に受けちゃって大丈夫なのかな。依頼書だってまだ貰ってないし、セルマさんに一度相談したほうがいいかな。」


「いや、その必要はない。厳密にいえば今回の件はグレーではあるが、指名ならばブロンズでも受けられない依頼じゃない。それにボガード伯爵はギルドへの出資者だ。要するにお財布の機嫌を損ねるようなマネはギルド側も望んじゃいないのさ。

 護衛依頼とはいえ、内容は子守りと同じだろ?それで名誉と金が入ってくるなら儲けもんじゃねぇか。」


「そんなもんかね。」


「まぁ、楽しんで来いよ。ボガード伯爵のことだから明日にはギルドに依頼書が届いているはずだ。一応ギルドに寄ってセルマに確認してみるといい。俺は明日から討伐依頼に出かけるから、何かあればガジとチョボを頼りな。」


「パーティを組んでるのに単独依頼もすることがあるの?」


「時と場合によるな。今回はそれこそ指名依頼なうえに大した内容じゃなかったから一人で片づけることにしただけだ。それにルストから近いから二、三日もあれば戻ってこれる。」


「依頼の受け方も色々あるんだな。」


「絶対にパーティ単位でしか動かない奴らもいるし、一人を好む奴もいる。冒険者なんてそんなもんだ。

 あぁ、そうそう。明日の晩餐会、ギルドからも代表が参加することになってるはずだ。マスターのアッガスはルストにいないから、今回は別の奴が代わりに行くことになる。見つけたら話してみるといい。無理に馴れ合う必要はないが、冒険者業は味方が多い方が何かと便利だからな。」


 その後もダラスから色々と教えて貰って、その日はゆっくりと休むことにした。

本日2:00amに次回【第21話 晩餐会】を投稿します。

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