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転生したら冒険者1年目で国最強になってました~社会人1年目の一般人が世界を救うまでの話~  作者: 秋枝葉
カルカス国編

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幕間 シルフィードの憂鬱

シュウが去った後のエルフの里のお話です。

 シュウが旅立ってから二週間。ここ、帰着の里では変わらぬ平和な日々が続いている。


 それだというのにシルフィードはとても憂鬱な顔をしていた。いや、憂鬱というよりは何かに思い悩んだ顔と言ったほうがよいかもしれない。


「はぁ…。」


 シルフィードは本日、三十回目となる溜め息を吐いてぼんやりと空を眺めながら、この一年間を思い出していた。


 シュウとの出会いは良く言っても最悪だった。本気で殺そうとしたこともある。

 だが、シュウの修行に付き合っていくうちにその人柄や自分の知らない知識などを聞いて次第に気を許すようになっていた。

 元々エルフは閉鎖的な価値観が強い種族だ。それが里全体をあげてシュウに心を許すなど考えられないことだった。ジルに至っては男のくせにシュウに会いたいなどと女々しく呟いては妻に叱られている。

 そんなシュウのことを皆、里の家族として受け入れている。もちろんシルフィードも含めて。


 とは言ってもシュウが旅立って数日ほどは何も問題なかった。いるはずのない人間がいなくなっただけのことだと割り切れもしていた。

 なのに、時が経つに連れて不安のような、焦燥感のような、得も言われぬ感情がシルフィードの心の中で大きくなっていく。それ以来、何をするにしても身が入らなくなった。清めの儀式の最中には溺れかけたこともある。

 シルフィード自身、こんなことは初めてなので訳も分からずに、空を眺めながら溜め息を吐くことが多くなっていたのである。


「まったく、なんなのだ。この体たらくは。これではシュウに誂われてしまうな。」


 ふっと優しく微笑みながら呟いている自分に気づいて、また訳も分からず悩み出す。それがシルフィードにはとても憂鬱だった。


「巫女さま。」


 そうしていると侍女がシルフィードを呼びにくる。父であるオーベロンが呼んでいるので大聖堂まで来てほしいのだという。


 シルフィードは侍女に礼を言うと重い腰を上げて大聖堂へと向かっていった。


 ◇◇◇


 大聖堂ではオーベロンの他に里の主だった者たちが集まっていた。


「お呼びでしょうか、族長。」


 シルフィードは公の場では父のことを『族長』と呼ぶ。それ以外のときは『父さま』と呼ぶが、より真剣になると『父上』と呼ぶ癖があった。


「急に呼んですまないな。実は神の使い様からご神託を賜ったのだが、シルフィードと直接話されたいと神の使い様たってのご希望だ。謁見の間へ来なさい。」


 そう言うとシルフィードを待たずにオーベロンはさっさと謁見の間に入っていく。状況についていけないながらも少し遅れてシルフィードもオーベロンに続いた。


 謁見の間は青銅の鏡が祭壇に置いてあるだけの簡素な作りをしている。謁見の間を清潔に保つことも巫女の務めなので普段の様子は良く知っているが、普段とは違い今は青銅の鏡が神々しく光っていた。噂程度にしか聞いたことがなかったが、まさしく神の使いが降臨されているに相応しい輝きであった。


「精霊の巫女、シルフィード。参りました。」


 オーベロンに促されて名乗ると鏡から優しい声が返ってくる。


「久しいですね、シルフィード。最後に会ったのはあなたが三つの頃でしょうか。あなたは覚えていないでしょうが、私はあなたと一度会っているのですよ。」


 シルフィードには寝耳に水な話であった。まさか自分が神の使いと邂逅していたなど記憶の片隅にもなかったためである。


「大変申し訳ございません!私が至らぬばかりに神の使い様との貴重なお時間を喪失してしまうなど!この償いは、どんな厳罰も受け入れる覚悟です!」


 シルフィードは土下座の格好になり、自身の失態を恥じた。よりにもよって自身が信仰している対象とのひとときを忘れてしまうなどあり得ないことだった。


「頭をお上げなさい。別に怒っているわけではありません。それに覚えていないのは仕方のないことです。私がそう仕向けたのだから。それよりも今日あなたに来てもらったのはお願いがあるためです。」


 神の使いからの願いと聞いて、頭を上げたシルフィードは居住まいを正す。


「さて、どこから話しましょうか…。シュウ様は順調に旅を続けておいでです。」


 シルフィードは唐突にシュウの話をされて内心、胸が弾けるほどの衝撃を受ける。そして自身の信仰対象がシュウのことを『様』付けで呼んでいることに驚愕した。


「ルストの町に着くのも時間の問題でしょう。ただ、ルストでこの後のことを任せるはずだったアッガスとはしばらくの間、会えそうにありません。これは世界が変革のときを迎え始めているためです。

 これから世界は動乱の時代に入るでしょう。そのため、今後シュウ様にはより多くの支えが必要です。

 あなたには、このエクロキアを旅して世界の有り様をその身で感じ、シュウ様の元でその知識と能力を活かしてほしいのです。」


 シルフィードはまたも驚きを隠せなかった。森の守り人である自分たちは滅多なことがない限り外界との接触を絶っている。それは元々内向的な種族というのもあるが神の使いからの教えでもあったからだ。

 それがまさか森の外に出て学んでこいなど、よりにもよって巫女である自分に言ってくるとは予想外だったのである。


「神の使い様。その…私は精霊の巫女です。父オーベロンとともに我が一族を導きこの森を守護する責務がございます。

 もちろん兄上のように森を去ったものも存じていますが、これはあなた様の教えにも反すること。そこまでして学ぶ価値が外界にあるというのでしょうか。」


「そうですね。あなたの言う通りこれは私が与えた教えとは相反するものです。しかし、時代は変わりました。もう守るだけでは抗い切れないうねりがすぐそこまで来ているのです。

 だから一族の中でも最も才気あるあなたにこの使命を託したいのです。

 おそらくこれは危険な旅になるでしょう。命の保証もありません。なので、これは拒否しても咎めは一切無いお願いです。シル、それでも引き受けてくれますか?」


「シル。この里のことは気にすることはない。ケットも十分に育った。巫女としてうまく働くこともできよう。

 だから、お前はお前の思うままに決断しなさい。里のことも使命のことも教示のことも、何もかも捨て去ってあるがままの自身と見つめ合ってみるといい。」


「父さま……。」


 シルフィードは、オーベロンの父としての嘘偽りのない言葉、神の使いからの話を聞いてしばらく黙っていたが、意を決して口を開いた。


「私は…神の使い様が絶対の存在です。今もそれは変わりません。ですが、それと同じように里の家族を愛しています。家族のためならこの身が朽ちても後悔はありません。」


 そこまで語って暫し間ができる。上手く話せない自分がもどかしいと感じつつ、なんとか続きを始めた。


「シュウは…家族なのです…。

 私は…シュウの力になりたい。

 シュウの宿り木になりたい。

 そして、……そして!

 私は、シュウに会いたい!」


 これまで抱えていたモヤが晴れていくような心持ちであった。ようやく自分の気持ちに気づき、言葉にできた。今までの陰鬱とした顔が嘘のようにシルフィードの目は強い光を宿していた。


「……。あなたの想いは確かに受け取りました。詳しくはオーベロンから説明してあげてください。それでは頼みましたよ、シル。」


 そう言って鏡の光は消えていった。


 ◇◇◇


 ―――――――旅立ちの日


「それでは族長、行ってまいります。」


「うむ。くれぐれも気をつけるのだぞ。」


 シルフィードはこの世界の旅人が一般的にしている格好で最後の挨拶をしている。里の服は目立つ。巫女の服を鞄に入れて、愛刀は布で包み、出来るだけ周囲に溶け込めるようにしていた。

 旅立つ前の親子の会話としては素っ気ないものだが、二人の絆はこれだけでも十分に伝わるものであった。


「里の皆も。この森のこと、頼んだぞ。」


 そう言って踵を返して旅立とうとすると後ろから声がかかった。


「待ってください!」


「どうした、ジル。」


 振り向くとジルがシルフィードと同じように旅人の格好をして駆け寄ってきていた。


「私も。私も連れて行ってください!」


「何を馬鹿なことを!お前には妻も子もいるだろう。」


「妻とは夜通し話し合いました。そのうえでお願いします!本当に世界が変革のときだというなら私はここに居ちゃいけない気がするんです!私もシュウや巫女様の手伝いをさせてください!」


「シル、お前が決めなさい。」


 オーベロンからそう言われ、しばらく悩んでしまう。

 妻と子のことを考えれば突き放してやるほうが良いだろう。森のことを考えてもジルは貴重な戦力だ。しかし、この決意の堅さは自分にも引けを取らないものを感じていた。

 そうしてシルフィードは決断するのだった。


「死んでも知らないぞ。自分の身は自分で守らねばならん。それでもシュウのため、世界のために働きたいというのなら付いてこい。」


 素っ気ない言葉のようだが、これで決意が揺らぐようなら付いてこないほうがよっぽど良かった。


 だが、ジルは躊躇うことなくシルフィードの後を追っていく。


 こうして初めて世界へ出ていくエルフ二人の旅が始まった。

次から本編に戻ります。

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