第19話 冒険者登録
チョボは女の子でした。作者もビックリ!
「チョボ、本当にごめん!」
僕たちは当初の予定通り、蒼天の牙行きつけの店『味の精霊亭』に来ている。
チョボが泣いてしまったので宿まで戻ろうとしたのだが、大丈夫だとチョボが譲らないので泣き止むまで待ってから食事をすることにしたのだった。そして注文がすべて揃うのを待ってから僕は頭を下げている。
「ううん、シュウは悪くないよ。隠してたのは私だし。」
「シュウ、俺たちも悪かった。チョボの意志を尊重していたが、シュウには教えておくべきだった。」
「いや、タラればの話なら僕がもっと気を配っていれば防げた事故だったかもしれない。今後は気を付けるよ。」
しかし、驚いた。まさかチョボが女の子だったとは。普段はポンチョのようなマントを着ているし、ターバンを巻いているので髪もほとんど見えないから男の子だとばかり思っていた。
「私、貧民街の出身で、幼い頃に両親が病気で亡くなってすぐ野盗に拐われたの。生きるために技を研いて、女子だとバレるとひどい扱いを受けるから男装して名前も口調も変えて身を守ってた。
今も怖くなるから外ではできるだけ男として振る舞ってるの。だからこの事を知ってるのは蒼天の牙の皆とギルドの一部の職員だけ。
普段はサラシをしてるんだけど今日は動転して巻いてくるを忘れちゃって…。」
「冒険者ってのは、誰でも多かれ少なかれ秘密を抱えてるもんだ。だから俺たちはチョボに黙って秘密を喋るようなマネはしない。
だが、チョボがシュウと対等に話そうって言ったとき、シュウになら心を許せるんだって気づいた。だからこうなる前にちゃんと話しておくべきだったんだ。
リーダーのくせしてメンバーの気持ちを汲んでやれずにすまなかった。」
ダラスはそう言って頭を下げる。
あのとき、チョボが敬語を止めて話そうって言った裏にはそんな秘密があったなんて。チョボからしたら意を決して伝えたのに、それを間の抜けた返事で返されれば落ち込むのは当然だ。僕は違和感を感じたときに、もっと違和感の正体について向き合うべきだった。
「リーダーも止してよ。こんな空気になっちゃったけど、いずれ自分から話すつもりだったんだし。
だからこの話はおしまい。せっかくの料理が冷めちゃうし、温かいうちに食べよ。」
チョボは笑いながら皆に大丈夫だと語りかける。これで湿ったらしく話を掘り返しては、それこそチョボの心意気を蔑ろにすることになる。僕たちは気を取り直して注文した料理に手をつけることにした。
味の精霊亭の料理はダラス達の行きつけだけあってとても美味しかった。街の中心部にいくと有名なお店はもっとあるのだが、この時間は揃って混んでいるのでこの店は穴場なんだとか。
その後は気まずい空気になることもなく美味しい料理を堪能して帰路についた。
「シュウ、今日は気を使わせちゃってごめんね。こうして仲間だけの時以外はまた口調を変えると思うけど、シュウの事を嫌ってるわけじゃないからね。」
帰り際にチョボがそっと話しかけてくる。
「うん。僕もチョボの意志は尊重するよ。今日は驚きっぱなしだったけどね。
一番驚いたのは、チョボが長い髪も似合ってたことかな。」
僕が笑いながら言うとチョボは顔を赤らめる。
あれ?これマズいこと言った?
「ん?なんでシュウがチョボの髪が長いこと知ってるんだ?」
「兄貴!うるさい!」
あぁ、これはもう余計なことは喋らないようにしよう…。
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翌日、ダラスがギルドに行くというので付いていくことにした。昨日のうちに依頼達成と追加依頼の報告は済ませているが、そのときに提出した魔石の鑑定が終わる頃だという。
依頼などで手に入れた魔石はその場にいた者たちで取り分を話し合うことになっているが、貢献度によって配分が決まるのが冒険者たちの暗黙のルールなのだそうだ。今回の鑑定には依頼内容であるリトルボアの他にグレートボアの魔石も含まれている。その分のお金を渡したいというのでダラス案内のもと冒険者ギルドへ足を運ぶ。
ちなみに、この世界の通貨は各国で形は異なるものの共通の重さの金、銀、銅で取引されている。
銅板一枚でリンゴが一つ買える。これが通貨の最小単位だ。銅板十枚で銅貨一枚になる。銅貨十枚は銀板一枚、それ以降は銀から金の順に価値が高くなるという寸法である。つまり、金貨一枚は銅板十万枚になる計算だ。
なお、貨幣の管理は取引時に重さを量ることで保たれている。仮に不純物を多く混ぜて通貨を発行しても国により形が異なるため発行元の国の信頼が損なわれることになる。そのため、現在では安定した貨幣流通が出来上がっているのだそうだ。
まぁこれらは例に洩れず、オーベロン先生の授業で習ったことだが。
ということで、着いた場所は三階建てで周辺の建物よりも一回り大きな建物だった。
外見は他とさほど変わらないが、中は天井が高く広々としている。
細長いカウンターの他にテーブルとベンチが規則正しく並んでいて、冒険者たちが思い思いに屯していた。なかには食事をしている者や酒らしきものを飲む者もいるので、奥に厨房があるのかもしれない。
ダラスはカウンターにある窓口の一つへ向かい受付嬢に用件を伝えると、内容を聞いた受付嬢は案内係に声をかけて二階へ通してくれた。
待合室のような場所にダラスと二人で入ると少しばかり背丈の低い中年男性が待っていた。宿に戻ったあとでダラスから教えてもらったが、彼はホビットという種族なのだとか。
ホビットはエルフと同じく純血種と呼ばれる種族で、頭の回転が早いことが特徴と言われている。そのためデスクワークや研究職に就く者が多い。
「ダラスさん、お待ちしておりました。どうぞお掛けください。」
「報告している通り、グレートボア討伐に協力してくれたシュウも立ち会う。問題ないよな。」
「…。えぇ、もちろんですとも。さ、シュウさんもお掛けください。」
男は少し疑いの目で僕を見ていたが、すぐに切り替えて僕にも席を勧める。
「さて、今回は二種の魔石鑑定でしたが、まずはリトルボアの魔石から。
こちらは大きさ、内包された魔力量ともに問題ないと判断して市場通りの金額で買い取らせて頂きます。お確かめください。」
男はそう言うと貨幣をダラスへ差し出す。見たところ銀貨二枚と銅貨五枚ほどだろうか。
「あぁ問題ない。」
「次にグレートボアの魔石ですが…。ダラスさん、かなりの大物を仕留めたようですね。
魔石の大きさもさることながら、内包された魔力量がとても高い。正直に申し上げて、ここまでの品質の魔石を買い取るには当ギルドの金庫では心許ない。
鑑定書をお渡ししますので商業ギルド、或いは財務局へ直接お持ち込みいただけますかな。」
「やはりか。わかった、そうしてくれ。」
ダラスが了承すると鑑定書と魔石を受け取り部屋を後にする。ギルドのロビーまで戻ったところでダラスが話しかけてきた。
「シュウ、見ての通りだ。やはりあのグレートボアは特別だったようだな。このあと商業ギルドで交渉してくるが、それがダメだと財務局に行くことになる。そうなると取引許可が降りるのに時間がかかるから、報酬を渡すのが最悪ひと月ほどはかかるかもしれない。それまで待てるか?」
「特に急いでるわけじゃないから大丈夫だよ。それにルストには人探しに来たんだ。その人が見つかるまではこの街にいるつもりだよ。」
「そういえば、その探してる人ってのは誰なんだ?もしかしたら力になれるかもしれない。」
「あぁ、言ってなかったっけ。僕が探してるのはアッガスという人でこの街にいるって聞いたんだ。」
探し人の名前を教えるとダラスは目を丸くする。そのあと大声で笑い始めた。
「だっははは!そうか、なんだそうか!まさかシュウが探しているのがアッガスとはな。」
「ダラスの知り合い?」
「知り合いも何も、アッガスってのはこの冒険者ギルドのギルドマスターのことさ!」
なんと!まさかの事実に今度は僕が目を丸くすることになった。こんなに早く見つかるとは思っても見なかった。
「しかし、アッガスは今、辺境伯の付き添いで首都まで行ってるはずだ。戻るのは随分先だと聞いたから気長に待つしかないな。」
なんと。これまた、まさかの事実である。それでは待つしかないが、そうなると問題がある。
「そうか…。だけど、それだと宿代が払えないな。」
「そうだな。グレートボアの魔石代が手に入れば解決したんだが。当面俺が立て替えてやってもいいが、それじゃシュウも不安だろう。
…そうだ!シュウもこの際、冒険者になるってのはどうだ?」
これは目から鱗な提案である。まさに灯台下暗し、金が無いなら稼げば良いのだ。他の就職先も当てがないし、そもそも一カ所に定住するつもりもないので僕はダラスの提案に乗ることにした。
そうと決まれば話は早い。目の前にはギルドのカウンターがあり、書類作成をしてくれる受付嬢がいる。僕たちは早速手続きをしてもらうために窓口へ向かった。
「冒険者登録ですね。それではこちらに必要事項とサインをご記入ください。」
受付のお姉さんが手渡してくれた書類は、出身地や性別、得意技能といった基本情報と名前を書く欄があるだけの簡素なものだった。
冒険者は訳ありな者が多いため、あまり厳選な審査みたいなものはしないのだという。裏取りもしないので嘘を書いてもバレることはない。
ただし、何かあってもギルドは後ろ盾にならないというのが基本スタンスだとお姉さんに教えてもらう。冒険者たるもの如何なる時も自分の身は自分で守れ、ということらしい。
そんなわけで、僕もオーベロン作の出身地を書いてサインをした。
「ありがとうございます。これより担当するのは私、セルマです。以後よろしくお願いします。それではシュウ様の会員証をお渡しします。シュウ様は初登録のためブロンズからのスタートとなります。」
「ブロンズ。階級みたいなものですか?」
「はい。冒険者は依頼達成や貢献度によりギルドに審査され昇級していきます。ブロンズから始まり、シルバー、ゴールド、プラチナとなり、プラチナクラスでは名誉貴族の地位が約束されています。
受けられる依頼も階級により異なり、上位になるほど難易度の高いものが割り当てられます。」
「報酬はその分上がるが命の危険も比例して高くなるってわけだ。だからこそプラチナになるような奴らは化け物だらけなんだがな。」
「なるほど。じゃあ今の僕が受けられる依頼って…。」
「シュウ様が受注できる依頼は以下になります。
【ボガード邸の草むしり】
【ミルズ奥様の猫探し】
【薬草採取、十種を五十グラムずつ】
どうです?どれか受けられますか?」
正直どれもあんまり魅力的じゃないな。しかし、受けなきゃお金は貰えないしランクも上がらない。仕方がないので今回は一番楽そうな草むしりを選ぶことにした。
「それでは頑張ってきてくださいね。」
セルマさんの優しい声と笑顔に癒されながら依頼受注の際に渡される受注書を受け取りギルドを後にする。
「しかし、ボガード邸を選んだか…。」
「え?何か問題でもあった?」
「いやいや、問題はねぇよ。まぁシュウなら大丈夫だろう。それじゃ俺は商業ギルドに行ってくるから、せいぜい頑張れよ。」
ダラスは不安なことを言い残しつつ、そそくさと歩いていった。
「何だか知らないけど、とにかく初依頼!しっかり熟して早くランクを上げなくちゃ。」
このあと冒険者一日目にして挫折を経験することになるが、この時の僕はまだ希望に満ち溢れていて大事な事が抜け落ちていることに気づいていなかった。
わざと違う国の形で偽金を作れば、その国の市場を揺るがすことができるとかは考えてはいけません。
明日0:00amに次回【幕間 シルフィードの憂鬱】を投稿します。




