第15話 いざバーグ村へ
冒険者パーティ『蒼天の牙』とシュウの一行はバーグ村へ向かうために獣道を歩いていた。
しばらくは草しかない平野を歩いていたが徐々に背の高い木々が現れ始め、今はすっかり林の中に入っている。地面は舗装されていないのでデコボコではあるが、獣が踏み慣らしているため森の中よりも歩きやすい。
森ではほとんど動物に出会さなかったシュウであるが、この辺りを住処にしている動物がそれなりにいるようであった。もっとも、これはシュウの気配察知によるものなので実際に目にしたわけではない。動物たちも警戒してシュウたちに姿を見られないように一定の距離を取りつつ移動しているようだった。
そのため順調に歩を進めているわけだが、四人は必ずしも平和な雰囲気とは言えなかった。
「リーダー。本気であいつをバーグ村へ連れて行く気か?明らかに怪しすぎるぜ。」
「そうですよ。この陽の傾きようなら今日は林の中で野宿です。見張りは持ち回りが基本ですが、あいつはみんなが寝てる隙を狙って寝首を掻こうとしてるかもしれませんよ。」
「そうだ。そんなんじゃオチオチ寝てもいられねぇ。なぁ、まだ間に合う。この林に置いていこう。」
シュウに聞かれないように小声でコソコソと話す二人に深い溜め息を吐いてダラスは答える。
「お前らも意外としつこいんだな。さっきから何度も言ってるだろう、大丈夫だって。つーか、お前らの主張通りならあいつを置いていくほうが不味いだろう。後を付けてきて油断したところを狙って寝首を掻いてくるんじゃないか?
まぁとにかく、あいつは問題ない。俺が保証する。」
「保証ったって。その自信はどこから来るだよ。」
「そりゃお前、俺の勘だ。」
「リーダーの勘なんてあっしは信じませんからね!賭け事で勝った試しもないのになんでそんなに言い切れるのやら。」
「賭け事だったらお前のほうが散々だろうに…。
とにかく!大丈夫なもんは大丈夫なんだ!わかったら離れろよ。これ以上話してたらシュウが余計な心配をするだろうが。」
それとなく三人はシュウの様子を見てみるが、シュウは気にする素振りなど見せず黙々と歩いていた。いずれにしても話は平行線のままなのでガジとチョボは諦めて黙って歩くことにしたのだった。
その間、シュウは何をしていたかというとこっそり〈ルックアップ〉を唱えて三人のステータスを確認していた。
(へぇ、思ったよりも実力があるんだな。これは結構高ランクな冒険者なのかも。)
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名称:ダラス
称号:『蒼天の牙』リーダー
能力値:
身体 80
技能 40
幸運 10
才能:
金剛Ⅳ
闘気Ⅲ
剣技Ⅴ
豪腕Ⅲ
挑発Ⅰ
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名称:ガジ
称号:『蒼天の牙』剣士
能力値:
身体 60
技能 22
幸運 3
才能:
闘気Ⅰ
剣技Ⅲ
危機回避Ⅱ
不屈Ⅲ
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名称:チョボ
称号:『蒼天の牙』野盗あがり
能力値:
身体 53
技能 37
幸運 7
才能:
俊足Ⅲ
隠遁Ⅰ
投擲Ⅳ
危機察知Ⅱ
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帰着の里の住人は皆ガジ以上の能力値を持っているがこれは種族的な意味合いも強いので、この世界でいう混血種の身体の一般平均値が二十五程度と考えれば同種族の中では三人の能力は高い方だと言える。
特にダラスは飛びぬけて数値が高い。身体の数値だけでいえばシュウに近いものがある。ただし、この世界では技能と才能がかなり影響するので必ずしも数値がすべてではないのだが。それでも技術系の才能が高い数値を持っているところを見ても実力は期待できるものとみていいだろう。
(ん?)
獣道を抜けて少し拓けた場所に出たときシュウは何かを感じ取り左方向を見ながら立ち止まる。それに気づいたダラスがシュウに話しかけた。
「おい、どうした。何か見えたのか?」
「いえ、まだ見えません。ただ、こっちの方角からすごい勢いでこちらへ向かってくる魔物がいまして。」
「なに?…チョボ。」
ダラスは確認をとるようにチョボへ顔を向けた。
「いえ、何も感じません。」
「なあ、あんた。チョボは『危機察知』っていう希少なスキルを持ってる。そのチョボが危険はないと判断しているわけだが、あんたは本当に何かが向かってきているっていうのか?」
(しまったな。察知系のスキルは希少と聞いてたから油断した。まさかこんなすぐにスキル持ちと遭遇するなんて……。)
「『危機察知』は危険が迫った際に発動するのでまだ何も感じないのは無理ありません。僕が持っているスキルは『気配察知』なので危機察知よりも広範囲を対象としていますから。その証拠に魔物たちの現在地は一キロほど先になります。」
「一キロ?法螺を吹くにもほどがありますよ。『気配察知』が広範囲索敵に適していてもそんな遠くまで確認できるなんて話聞いたことがない。
あっしはこれでも自分の能力に自信を持っているし、今までもパーティの危機をこいつで回避してきました。そこを否定するのなら信用に足る情報ってのがほしいですね。」
「信用に足るかはわかりませんが、移動しているのは四体。
三体は形状からウェアウルフでしょう。もう一体は巨体に四足歩行、真っ直ぐに突進してくるところをみるとボア系だと思います。速度からしてもうすぐこの林に入るので音ですぐにわかるはずです。」
シュウが伝えるや否や、何かがものすごい勢いで倒壊していくような凄まじい音が聞こえてきた。
その音は段々と大きくなっていきこちらへ近づいてくる。
その頃にはチョボの『危機察知』も緊急警報を鳴らしていた。
「きた!本当にきた!!リーダー!」
「戦闘態勢!!」
危険が迫っていることが分かるとダラスの一声で三人が即座に臨戦態勢に入る。判断の素早さや対処が機敏であるところは、さすが熟練の冒険者だと言えた。
ダラス達が構えるとほどなくして魔物が現れる。シュウが言っていたようにウェアウルフが三体、林の中から飛び出してきたのだ。
しかし、ウェアウルフたちはダラス達には目もくれずに全力で駆け抜けていく。ダラス達は肩透かしを食らった形だが、油断はできなかった。なぜなら騒音の主がすぐそこまで迫っていたからである。
「……でかい。」
姿を現したのは三メートル程の巨体に鋭い牙を持ち、興奮しているせいで息荒く目を血走らせた状態のグレートボアであった。
グレートボアは先ほどのウェアウルフを追ってきていたのか木々をなぎ倒し、ときには根から引っこ抜くように吹き飛ばしながらこちらへ迫ってきていたが、ダラス達に気づくと目の前で立ち止まり狙いを定めるように低い体勢を取っていた。
「チョボ。これは逃げ切れるか?」
「無理ですね。奴さん完全にあっしらを標的に変えやがった。」
「チッ。仕方ねぇ!ガジ、俺らで引き付けるぞ!チョボたちは後方支援。
特にあんた、シュウだったな。俺らと連携は初めてになるからデカい魔法は俺の合図があるまで控えてくれ!」
「わかりました。」
パーティメンバーへ指示すると即座に行動開始となった。
ダラスとガジはグレートボアの直線上に入らないように横へ逸れながら接近戦を仕掛けに行く。チョボとシュウはダラス達と一定の距離を置きながら仲間が危機に陥った際に備える。
「おりゃあ!」
『ンゴォァアア!!!!』
いち早くグレートボアへ接近したダラスは大剣を振り上げグレートボアの左前足に斬りかかろうとする。
しかし、その攻撃は寸でのところでグレートボアの咆哮により不発に終わってしまう。グレートボアの咆哮は風魔法を帯びており、ダラスとガジを後方へと吹き飛ばす。そのまま突進しようとするグレートボアを止めるためにチョボとシュウがそれぞれ遠距離攻撃を繰り出した。
「〈ロックバレット〉」
シュウは魔法でけん制する。
チョボはポーチから取り出したものを握りしめると何かが赤く光り、そのままグレートボアへ投擲していく。投げられたのは石のようで赤く光った石はグレートボア付近で爆発した。
「魔石ですか?」
「そう、これだけデカいと生半可な攻撃は意味ありませんからね。そら、もういっちょ!」
そう言いながら爆弾石を投げつけグレートボアの意識をこちらへ移していく。
その隙をつきダラスとガジは体制を立て直しグレートボアへ再度攻撃を仕掛ける。ダラスは横薙ぎに斬り裂き、ガジは突きで確実なダメージを与えていく。
反撃を加えたいグレートボアであったが、四人の見事な連携により上手く立ち回ることができずにいた。
しかし、グレートボアも黙ってやられるほど簡単な敵ではない。交互に攻撃を繰り返していたダラスとガジが直線上に並んだところを見計らい瞬時に魔法攻撃を仕掛けた。
『ッゴゴァア!!』
咆哮とともに攻撃を仕掛けようと迫っていたダラスの前に魔法陣が現れ、その魔法陣から大岩の礫が放たれたのである。
さすがに魔法陣との位置が近すぎた。ダラスは回避することができずに大岩とともに吹き飛ばされていく。そのまま後方にいるガジも飲み込まれるかと思われたが、ガジのスキル『危機回避』で間一髪これを逃れる。
前衛が崩れたところを逃さず、グレートボアは厄介な爆発を巻き起こす後衛のほうへと振り返り……突進してきた。
「やばい!!」
その勢いはすさまじく、気づいたときにはすぐ目の前まで迫っている。いくら機敏さに自信があるチョボでもこの速さと図体では避けることは難しかった。さすがに死を覚悟したが、いきなり目の前に立ちふさがる人物が現れた。シュウである。
「バカ!!逃げろ!!」
とっさにチョボはそう叫んだが、グレートボアのあの勢いではもう逃げることは叶わない。無駄に死人が増えることに憤りを感じるが、すでに諦めに似た気持ちにもなっていた。
だが、チョボの前にいる本人は諦める様子がなく、魔導杖をグレートボアへ向ける。
「〈ピアッシングファイア〉」
小声であったが、たしかにチョボはその魔法名を聞いた。聞きはしたが、自分の知っているその魔法の事象とは似て非なるものがそこにはあった。
『ピアッシングファイア』は火魔法の中でも極小の事象を引き起こす魔法だ。
火魔法は炎を小さくまとめることが難しいため取得難易度は高めであるが、針ほどに細く尖らせ固めた火を放つ魔法のため巨体を倒すには向いていない。いくら物量を増やしたところで最長で十センチほどが限度と言われている火の針では細かい穴しか空けることができないからだ。
しかし、チョボは自身の目を疑っていた。チョボは三人の中でも常識人である。もちろん『ピアッシングファイア』の効果を知らないはずがない。だが、自分の目の前にあるそれは全長一メートルはある炎の塊だったのである。
炎の塊は収束するように鋭く尖りながら細い線を作り上げていき、そして……放たれた。
『ゴッ!!??』
凄まじい勢いで迫り、あと一歩で二人を抉り飛ばす寸前だったグレートボアは短い声を出し、そのまま二人から逸れて転がり倒れていった。
チョボは何が起きたかわからず放心状態にあったが、魔法を放った張本人はチョボのほうを振り向き笑顔で話しかけてきた。
「ケガはありませんでしたか?」
「……え?あ、あぁ。大丈夫です。しかし、何が起きたんですか?」
チョボは改めてグレートボアのほうを振り返るが、グレートボアはすでに灰になっておりその場にあるのは特大の魔石のみであった。
「グレートボアの眉間に細く収束させた火魔法を放ちました。風魔法で切り裂く方法もありましたが、風と土には耐性があるようでしたので。それに、こちらのほうが林に被害が少ないと判断しました。」
あの命の危機にあった場面で林の被害まで考えていたことに愕然とするチョボ。いよいよもって訳が分からなくなっていたが、大事なことを思い出す。
「そうだ!リーダー!」
チョボとシュウはダラスが吹き飛ばされたほうへ駆け寄っていくとガジがすでに大岩からダラスを運んでいるところだった。
しかし、容体は決して安心できるものではない。胸から上は何とか腕で防げたものの、両腕の骨折と腹部のダメージが深刻であった。時折せき込んで吐血しているところを見ると内蔵もいくつかやられているようである。
『金剛』のスキルは身体の物理耐性強化であるが、今回は使用する間もなく大岩に吹き飛ばされ大木とに挟まれてしまった。そのため魔法の威力を直に受ける結果となっていたのである。
早く対処せねば危険な状態であったがガジもチョボもここまでの重傷者を治癒する手段をもっていない。もう一人のパーティメンバーが同行していれば治癒できる手段もあったのだが、生憎と今回の依頼には参加していなかった。仕方がないこととはいえ無理やり連れてこなかったことを二人は心の底から悔やんでいた。今対処ができない、ということはダラスのことは諦めるしかないことと同義だったからだ。
「僕に診させてください。」
シュウは現状を把握すると素早くダラスの横に座り込み状態を改めていく。すでに諦めかけていた二人はシュウが何をするかなどもはや興味がなかった。白魔導師でもないものがこの重傷を治すことなどできないことを常識として知っていたからである。
項垂れる二人には構わずシュウは続ける。
「これは危険な状態です。すぐに対処しないと……。」
『そんなことはわかってる!』
そう叫びたい気持ちはあったが憔悴が勝っている二人はただ黙るのみだった。
「…………仕方がない。〈彼の者に聖なる癒しを〉」
暫し悩んでいたシュウであったが、意を決して呪文を唱えるとダラスの体を優しい光が包み込み、骨折していた腕やわき腹を治していく。内臓も修復されているようで、顔色が正常な状態に戻っていき、みるみるうちにダラスから生気が蘇っていく。あれだけ苦しそうにしていたダラスであったが、数秒後には話せるまでに回復していた。
「うぅ……。助かったのか、俺は……。」
「「リーダー!!?」」
ダラスの命は助からないと考えていた二人はダラスの声を聞いて、頭を跳ね上げてその顔を近づけてくる。
「本当に大丈夫なのか!?どこも痛い場所はないか!?」
「奇跡だ……。神に感謝してもしきれない。リーダー、よかった。リーダー。」
ガジはダラスの容体を心配して何度も確認し、チョボに至っては泣きながら神に祈りを捧げている。
それを笑いながら見ていたシュウにダラスは話しかける。
「シュウ、危ないところを助けてくれて感謝する。」
「いえ、まずは助かってよかった。動けるようになるまでは安静にしていた方が良いですよ。」
「あぁそうだな。リーダーはこんなだし、今日はここで野営にしよう。英気を養ってから移動したほうが事故も少ない。」
「そうだ。グレートボアのバカでかい魔石があるんです。シュウが魔法で倒したはいいけど、荷物になりますし、持ち回りで運びますか。」
まだ鼻を啜りつつ現実に戻ってきたチョボはグレートボアのことを思い出す。
「そうか、あのグレートボアをシュウが。何から何まですまない。」
ダラスはシュウに頭を下げて自身とパーティメンバーの危機を救ってくれたことに感謝する。
「気にしないでください。僕は僕のできることをしたまでですから。とにかく全員無事でよかったです。」
「あぁ、そうだな。」
ダラスはそう返事をしながらシュウという謎の男が本当はどこから来たのかを考えていた。死の淵で聞いたあの呪文は転生者特有のものだったはずである。それを使えるということは……。
そこまで考えを巡らせてダラスは考えることをやめた。
嘘を吐いてまで自分が転生者であることを隠す理由が何かなどダラスは興味のないことであったし、彼は自分を救ってくれた命の恩人である。その事実だけがダラスには大事なことだった。
切りが良いところまで書けたので、週一から毎日更新に切り替えようと思います。
ストックが無くなったらまたゆるゆる更新になると思いますが…。
中途半端なところで更新が途切れることがないように頑張ります!




