第108話 特殊能力
「それで?これはどういうことか教えてくれるかな、ルナさん?」
僕たちは冒険者ギルドに戻り今後の話し合いをすることになった。ジルダート王国の協力を取り付けることに成功したアイリスたちであるが、直ぐ様挙兵してアルテディズ国を攻めるわけにもいかないのでダリアを含めて擦り合わせをやっておくことにしたのだ。
だが、僕としては先に何故このような流れとなったのか知っておかねばならない。
「シュウ様、いくら私が優秀なガイドとはいえ、知らないこともございます。アイリスたちが城にいた事は私も存じませんでしたし、バーバルとそのような話をしているとも思いませんでした。
何でもかんでも私に頼るのはよくありません。お子様ですか?シュウ様は乳離れできない赤ちゃんですか?」
「うっ…。けど、アイリスたちが知り合いに会いに行くって知ってたんだから城に向かうのも予想ついてたんじゃないの?
ということは、僕がわざわざ依頼主のことを伏せる必要もなかったわけで、国王陛下に不敬を問われることもなかったじゃないか。」
「私が知っていたのはアイリスが知り合いを見つけた、ということだけです。それともシュウ様はアイリスの知り合いというだけで国王に繋げることができるのですか?」
「ぐっ…。そ、それは…。」
「それに仮にアイリスたちが城にいることを知っていたとしてもシュウ様がバーバルと闘うことに変わりありませんでした。
もう終わった話をいつまでもグチグチと言っているとモテませんよ。シュウ様はもっと広い心を持つべきです。」
「…はい、すいません…。」
問い詰めようとしたらボコボコに言い負かされてしまった…。
「あ、あの…。そもそもは私が詳しく説明しなかったことが原因ですし、お二人が言い争う必要はないんです。どうか、その辺で仲直りしてもらうことはできませんか…?」
「アイリス、シュウ様はこのくらい言わないと反省しません。いえ、まだヌルいくらいです。」
こ、これ以上は心がポッキリと折れてしまうので全力で止めてください!
「姫様、この娘と親しいようですがこの娘は何者ですか。お優しい姫様のことですから多少のことはお許しになっているかもしれませんが、姫様は疎か、陛下のことさえ呼び捨てなど不敬極まりないことです。」
僕が心の中で叫んでいるとダリアがアイリスへ問いかける。
「ダリア、この方はエクロキア大陸にあるアヅィール聖法国出身で高位の白魔導師である聖女ルナーリア様です。
少し話し方に癖のある方ですが、シュウさんとともに私たちをここまで連れてきてくださった恩人です。
陛下の無礼は私から謝りますから、どうかそのように剣呑な顔をしないでください。」
「姫様がそこまで仰るならここは引きましょう。ですが、今後はもっと周囲に気を配られるよう気をつけていただきたい。場合によってはエクロキア大陸の客人を処断せねばなりませんから。」
「努々気をつけましょう。」
珍しくルナがしおらしくなる。アヅィール聖法国の癖が強い神官たちと渡り合ってきたからか、そういう初施術も持っていたのかと感心してしまった。
「アイリスさんとダリアさんの会話を聞いていると二人も知り合いって感じですね。もしかしてアイリスさんが見つけた知り合いって…。」
「えぇ、シュウさんの仰る通りダリアはわが祖国の民だった者です。
街中で偶然ダリアを見かけて話しかけたらバーバル様の元へ案内してくれたのです。」
「私は元々姫様のお父君であられる国王陛下にお使えしていた。国を第二王妃に乗っ取られたあと出奔して、路頭に迷っていたところをバーバル陛下に拾われたのだ。
姫様とお会いし、これまでのご苦難と旅の目的を聞いた私は姫様をお助けしたいと陛下に直談判しに行ったが、話の流れで今回の実力審査が行われることとなった。面倒を押し付けてしまってすまなかったな、シュウ。」
ダリアさんはそう言う頭を下げてくる。何だかんだと誠実で忠義心に篤い人のようだ。
「バーバル陛下の攻撃は凄いものでしたけど、向こうも本気でなかったようですし結果として問題になることもなかったので大丈夫です。」
「あれでバーバル陛下は本気でなかったのか?俺には二人とも命懸けの殺し合いをしているように見えたが。」
ここで口を開くのはマクマク。彼らも途中からではあるが僕の闘いを見ている。
「あれで殺意剥き出しの全力だったら二人とも無傷ではなかったよ。下手したら片腕くらいは覚悟しなきゃいけなかったかもしれない。
悪魔たちは力押しの中に魔法を入れ込むけど、陛下の攻撃はもっとシンプルで速さと強さを追究したような闘い方だから接近戦に持ち込まれるとどうしてもコチラが不利になってしまうんだ。
そう言った意味じゃ僕が戦った悪魔たちよりもよっぽど厄介な相手だったよ。」
「そうか。アイリス様が止めていなければ危ないところかと思っていたが、高次元の戦闘とは中々見定めることが難しいんだな。」
「まぁ、あのまま続けていたらバーバル陛下が本気になっていた確率のほうが高そうだったから、アイリスが止めてくれたのは大変助かったんだけどね。」
僕はアイリスに視線を向けて感謝の気持ちを伝える。アイリスはそれに肯いて答えると話を戻す。
「さて、そろそろ今後の流れを話しましょう。私たちはこれからアルテディズ国へ入り首都から離れた郊外にある集合場所へと向かいます。
そこには父が信頼を寄せる臣下たちがいます。ダリアは立場上今までそちらへ向かうことが叶いませんでしたが、バーバル様の許しも降りたので我々に同行して集合場所へ行き司令塔としての役割を担ってもらう予定です。
ただし、アルテディズ国は第二王妃に乗っ取られた祖国の傀儡となっています。入国は慎重に行きましょう。」
「ダリアさんが王都を離れている間はギルド運営は大丈夫なんですか?確か陛下がギルドマスターとしての職務も兼任だと言っていたような気がするんですが。」
「大丈夫だ。マスターとして普段は王都にいるが、私も外回りをしないわけではない。そういうときは代理の者を立てるし、連絡方法も確立している。
基本は鳥を使うが、緊急の場合は私の特殊能力で用件を伝えている。」
「特殊能力ってなんですか?」
僕が不思議に思うとアイリスがそれに答えてくれる。
「シュウさん、私やダリアは同じ一族に当たります。そして、私たち一族の中には稀に特殊能力が開眼するものが現れます。
ダリアもその一人で、彼女は『念話』を使うことができるのです。」
あまり聞き慣れない言葉なので僕は訝しんだ顔をしてしまう。それに気付いたダリアは補足説明を加える。
「『念話』とは離れた場所でも相互で会話ができる特殊能力だ。私の魔力を使って繋げたい相手とリンクしているときにのみ会話できるが、私がマーキングした相手とならマーキングに使った魔力が消えない限りお互いに通話し合える。」
「なるほど、だから司令塔としての役割をダリアさんが担うということですね。」
「その通りです。そして特殊能力を持つ者は他にもいます。彼らがコチラの陣営に加わってくれればかなり優位に事を進められるのですが、こればかりは集合場所まで向かわねば分かりません。」
「アイリス様、俺から一つ質問がある。その集合場所は敵に知られてはいないのか?幾らシュウやマニマニたち側近が一緒でも敵に待ち伏せされれば一溜まりもないぞ。」
マクマクはアイリスへ現実を突きつける。今までの話を聞いていればマクマクの指摘は尤もなもので、隠れ館も見つけ出した敵が集合場所を知らないはずないと考えるほうが自然だ。
「マクマク、あなたの指摘は尤もです。ですが、心配には及びません。集合場所もまた特殊能力で作られた空間を利用するので、敵が見つけることはできませんから。」
「兄さま、その空間を作り出す者は姫様が信頼を寄せる忠臣です。」
「それにその空間へ入るには通行証が必要で、通行証は国王陛下が認めた限られた者にのみ渡されています。陛下はかなり慎重を期して事に当たられていたと執事長から聞いているので、万が一にも裏切りはないでしょう。」
アイリスが答えるとマニマニとヤンヤンがそれぞれ補足していく。誰も現場を確かめたわけではないので完全に安心だとは言えないだろうが、ここでタラレバを話していても解決しないので、とにかくは計画通りアルテディズ国へと向かうことになったのだった。




