第106話 実力審査
バルバトスを治療し、調査という本来の目的を遂げた僕はワイバーンたちに村を襲わせないことをカーンに約束させて下山することにした。
悪魔がいたなどと分かれば大事になってしまうのでベンにも口止めが必要かと思っていたが、 騎竜が吠えたときに泡を吹いて気絶したことで前後の記憶が曖昧になっているようだったため放っておくことにする。
そんなわけで村へ戻ると村人たちが総出で出迎えてくれた。
討伐隊も僕たちが戻るまで帰るのを引き延ばしてくれたらしい。隊長は僕のことをさらに敬うようになり、この武勇を国王陛下へお伝えするのだと意気込みながら討伐隊を連れて帰っていった。
村長は村の食料は大丈夫なのかと心配になるほどの饗しをしてくれる。こちらも三日三晩続けるだ、酒池肉林だと騒いでいたので、話がややこしくなる前にさっさと王都へ戻ることにした。
後日談ではあるが、この事件をきっかけに村では山の麓に祭壇を作って収穫した作物を供える風習が生まれる。それ以来、ドラゴンが悪さをするのを止めたため、勇敢な青年の説得がドラゴンの心を動かしたとして広く語り継がれるのだとかなんとか。
◇◇◇
「悪魔たちにエドガー枢機卿…。これは思いの外面倒なことになっているのかもしれません。」
依頼達成から三日後、僕は王都へ帰ると宿屋にいたルナと二人で『竜の巣』であったことを話していた。
「面倒なことって例えば?」
「そうですね。考えられるのは悪魔たちが結託して混乱を引き起こそうとしている、悪魔が悪魔崇拝者を使って裏から社会を操っている。もしくは認識外にある別の何かが暗躍しているなどでしょうか。
挙げればきりがありませんが、兎にも角にもエドガー枢機卿を捜し出すことは急務ですね。」
「例の『あの方』の手掛かりもこのジルダートにあるんだったね。アイリスさんたちの国の事もあるし、不安要素が山積みで気が滅入ってくるな。」
僕は額に手を当てながら俯き呟く。
「その二つなら少し進展があります。アイリスが聞き出したスラム街にある酒場に探りを入れました。
店主のセダールは買い取った人間たちを地下牢で管理していたようです。寝静まった頃、奴隷商が使用する馬車が定期的に訪れどこかへ運んでいると証言が取れました。」
王都のスラム街とは言うが、実際には王都の城壁から少し離れた場所にある。
丁度クージル国の貧民街のような形だが、貧民街と異なるのは金に余裕がある者も住み着いている点だ。裏組織に身を置く者は、取り締まりが厳しい王都内よりもスラム街で暗躍するほうが活動しやすいのである。
「そうか。じゃあ捕まってる人たちを助けに行かないと…。」
「その酒場、もうありませんよ。」
「…え?」
「何者かが酒場に火を放ったようです。店主も地下牢の人々も行方知れずで手掛かりも残っていないのだとか。」
「そうなるとその店主が自ら店を燃やしたとも取れるのか。店主の名前はセダールだったんでしょ?『あの方』の頭文字も『セ』から始まるはずだから、店主が『あの方』ってこともあるか。」
「今は憶測の域は超えません。とりあえずは解決する問題に優先順位を付けることが肝要でしょう。」
「そうだね。この中でいくと最優先はやっぱりアイリスさんを祖国に連れて行くことかな。って、そのアイリスさんたちは?」
帰って早々にルナとあったため僕の部屋で話し込んでいたが、まだ四人にあっていないことに気がつく。
「何やら知り合いを見つけたそうで出掛けて行かれましたよ。」
「出掛けてって、ルナは一緒に行かなかったの?」
「私はシュウ様のお帰りをお待ちするという任務がございましたから。それに監視役なら付けているので問題ありません。」
僕を待つのが任務って、ただ付いて行くのが面倒だっただけじゃないよね…。
などと考えていたからか、顔に出てしまったようだ。ルナが白い目で僕を見てくる。
「シュウ様、そんなに私のことが信用なりませんか。」
「い、いや、そんなことは…。」
「シュウ様も成長されたかと思いましたが、まだまだ思慮が足りない様ですね。これからは厳しく指導しなくてはならないようです。」
うっ…。最近は口悪いことを言わなかったのに、厳しくなんてしたら会話が悪態ばかりになってしまう。ここは素直に謝って許してもらおう。
と、思っていたら扉の外から声がかかる。
「お客様、冒険者ギルドより使いの者が来ております。ギルドマスターがお会いになりたいのだとか。」
「この展開もお馴染みになってるけど、呼ばれたんじゃ行かないわけにもいかないか。」
「えぇ、私も同行いたしましょう。」
こうして僕とルナは二人でマスターに会うため冒険者ギルドへ向かうのだった。
◇◇◇
冒険者ギルドの無駄に広いロビーを通り、受付で用件を伝えると直ぐに受付嬢が先に立ちマスターの執務室まで案内してくれる。
ドアの前で止まりノックして声をかけると、中から女性の声が聞こえた。
促されるままに僕たちは執務室へ入っていくと、そこには眼帯を着けた女性が頬杖をついて待っていた。その目はどこか鋭くまるで僕たちを値踏みしているかのようである。
「お前がプラチナ冒険者のシュウだな。お前はパーティを組んでいないと報告を受けているが、後ろの女はお前の連れか?」
「はじめまして。僕がシュウで、彼女はルナーリア。僕の仲間で一緒に旅をしているんです。」
「そうか。では翼竜も二人で討伐したのか?」
ギルドマスターがそう言いながら出したのは魔石であった。そこそこの大きさだが別に目新しいとも思えない。
「これはお前が討伐依頼達成の報告をした際に提示したワイバーンの魔石だ。案内役、兼、監視役を任せていたベンによると三体のワイバーンをお前一人で討伐したというじゃないか。
正直ここまでの大きさの魔石を出されて鵜呑みにするほど私は人間が出来ていなくてな。直接話が聞きたかったというわけだ。
直接会ってもやはり納得はできなかったがな。女と二人で戦ったと言われてもまだ信じられん。ベンに嘘の報告をするように金でも渡したか?」
なるほど。この世界を旅するようになって大型の魔物しか相手にしてこなかったから気付かなかったけど、ワイバーンの魔石はそれほど珍しいものだったのか。それが三つもあれば疑いたくなるのも分かる。
というか、ベンは監視役でもあったのか。通りで『竜の巣』も同行したがったわけだ。
「村を襲ったワイバーンは僕一人で倒しました。その魔石もワイバーンにしては小さいほうですよ。どうしたらあなたに信じて貰えるか分かりませんが、ベンさんにお金なんて渡してませんし、僕が言っていることが事実です。」
ギルドマスターは長い前髪を指で持て余しながら思案顔になる。
「冒険者シュウ、お前の言い分は分かった。だが、このまま何も確かめず国に報告するわけにもいかん。この国の奴らはプラチナランクと聞いただけで崇め奉るが、本当に見合った実力があるのかを見極めるのも私の仕事なんでな。何故そんなことが必要かは今も恩恵を受けているお前たちには分かって貰えるだろう?」
宿屋を無償で借りれたり、馬車を出してくれたりとプラチナランクへの特典は凄まじいものである。この費用が国から出ているのであれば、審査が厳しくなるのは当然だ。本来はその審査が討伐依頼だったのだろう。
だが、今回は三体もワイバーンが討伐されたことで虚偽を疑われてしまったということか。
「そこで、だ。私がお前の実力を直接確認したいと思うがどうだ?」
「どうだ、と言われてもコチラに拒否権はないのですよね。早く終わらせたいのでさっさと始めましょう。僕は何をすればいいんですか?」
「簡単な話だ。このギルドの地下に修練場がある。そこで私と戦ってもらう。」
ギルドマスター直々に戦って実力の程を確かめるのか。これなら言い逃れもできないし、何よりも手間がない。僕としても願ってもないことだった。
「分かりました。では、そちらへ行きましょう。…えっと、マスター……。」
「あぁ、コイツはすまないな。つい名乗るのが遅れてしまった。私はギルドマスターのダリアだ。それでは案内しよう。」
ダリアは立ち上がり部屋の出口へと向かう。扉を開けようと戸口に手を掛けようとしたところで、外から扉が開いた。そこには受付嬢が青ざめた様子で立っている。
「どうした、そんなに慌てて。」
「マスター、至急の報告が…。王城から使いの者が見えられまして、コチラをマスターに、と。」
そう言って差し出されたのは手紙であった。封蝋の印を確かめるとダリアは中身を改める。読むにつれてダリアの顔はあからさまに不機嫌な表情へと変化していった。
「はぁ…。冒険者シュウ、先ほどの実力審査だが、ここではなく王城で行うこととなった。」
「王城?試験官が変わるということですか?」
「まぁ、そうとも言える。正直どのようにして審査するつもりかは…あまり想像したくないのだが…行けば分かるだろう。案内するから二人とも私に付いてこい。」
そう言ってダリアは受付嬢に指示を出す。最後のほうは何やら頼み事をしているようであったが、詮索しても得はないので放っておくことにする。
こうして僕たちは王城へと向かう。どんな審査だろうが、さっさと片付けてアイリスたちを探しに行かなければ。
「あ、王城に着いてから無礼が無いように先に審査をする者のことを教えておく。
お前の実力を測るのは『騎士王』の二つ名が付いたこの国最強の男、バーバル。この国の国王だ。」
これもド定番の流れ過ぎて良い予感がしない僕なのでした…。




